水色デイズ   作:パントマイム

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聞こえちゃうから、やめて。

薬品の匂いが漂う白一色で統一された無機質な部屋。

 

群衆で溢れ返った体育館からの来訪者2名を出迎えたのは保健室という施設、ただそれだけだった。

 

 

「保健室の先生、居ないのかな...」

 

 

その問いに彼女は応えることもなく僕の手を引くと保健室の敷居を跨がせた。

 

 

 

「川崎さん。」

 

 

 

『...』

 

 

 

「ねぇってば。」

 

 

 

『......』

 

 

 

「おーいっ、川崎さんって。」

 

 

 

『.........』

 

 

 

「.......かわ.......沙希さん。」

 

 

 

『ん?』

 

 

 

 

 

僕の入学式、さっき終わった。でも...内容が全く思い出せなくて...はぁ...

 

 

皆は″入学式″に来てたんだよね。

 

 

僕は何してたんだろ...

 

 

.....

 

 

 

 

 

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館内の照明は壇上の演台に浴びせられ滞りなく式が進行する。

 

C組最後尾、身長差のある男女の影が重なりあっている様は多分誰にも気付かれる事もなく...

 

だからってなんでずっと耳元で...

 

 

 

『このまま舐めたら...怒る?』

 

 

 

「...怒る。」

 

 

 

『なんで...?』

 

 

 

吐息でパンクしちゃう...何...今何してるの川崎さんは...

 

 

 

「なんでって...くすぐったいってさっきから言ってるでしょ...っ」

 

 

 

そう答え少し間が開くと耳元で瞑っていた柔らかい弾力が上下に擦れだす。

 

 

 

「っ.....ねぇってば...だめだょ...」

 

 

 

『気持ちいかもよ...?』

 

 

 

「し...知らないっ...そんなの...」

 

 

 

悪戯に開いた彼女の唇は一旦閉じる。

呼吸、わざと耳元で漏らす。聴かせる為の甘い呼吸。

 

 

「っ...もぅ......だめだょ...」

 

 

否定と拒否が届かない、彼女の耳には。

翻弄され熱を帯び紅く染めきった僕の耳を味わいながら更に奥へ潜らせてくる。

 

 

 

『さっき声出ちゃってたでしょ...』

 

 

 

「.........言わないでっ...」

 

 

 

『恥ずかしい...?』

 

 

 

「...うん。」

 

 

 

『″ココ″じゃなかったら、舐めちゃってたかも....』

 

 

 

「な...なんでょ...」

 

 

 

『声聞いちゃったから...』

 

 

 

「恥ずかしいから...もう言わないで...」

 

 

 

『また聞かせてくれる...?』

 

 

 

「だめ...」

 

 

 

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...何度も何度も頭の中にフラッシュバックしてくる...恥ずかしいょぉ...

 

 

そんな時間が過ぎ去り、今は川崎さんに連れられて保健室の丸い黒革の椅子に座らされている。

 

二人が保健室に居ることは担任から了承済み。

 

式のあと、再び列の最後尾に現れた平塚先生に川崎さんが今朝の出来事の詳細を説明してくれた。が、

 

平塚先生″へ″伝えられた川崎さんの説明は前列の二人の耳にも拾われちゃったけど...

 

 

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戸「そんな出会いアルわー♪テンプレ青春的なー?○○くんには持ってかれっパだわ~♪」

 

 

三『ちゃんと帰ってくるしっ♪川崎さん、次あーしの番だからねっ!』

 

 

「もぉ、そんなんじゃないってばっ戸部くん。三浦さんも順番とか言わないでっ」

 

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と、お見舞いされた横槍を全力で返しクスクスと笑みを溢す二人に見送られ今に至るのだ。

 

 

 

 

そして現段階で川崎さんとの一方通行な会話が終わった瞬間だった。

 

 

なんか下の名前で呼ばないと返事してくれなくなっちゃってるし...

 

 

 

『膝見せてっ?』

 

 

 

「...はぃ。」

 

 

 

今朝のクラッシュ事故の後、負傷した僕の膝。ってちょっと大げさかな...

 

制服のズボンを膝上まで捲り差し出す。

 

少し血が固まっている患部に消毒液を含ませた脱脂綿が添えられる。

 

 

 

「んっ...」

 

 

 

『しみる?』

 

 

 

前屈みになり上目遣いでそう聞くと優しく添え直し患部を治癒してくれる。

 

 

 

「その...ぁりがと、川崎さん。」

 

 

 

『沙希、でしょ?』

 

 

 

「沙希さん...」

 

 

 

『さん、いらない。』

 

 

 

「恥ずかしぃょ...」

 

 

 

『だーめっ。』

 

 

 

「......沙希ぁりがと。」

 

 

 

『いーよ、痛いの我慢したね。偉いよ○○。』

 

 

 

薄手の包帯一巻きして患部への処置が終ると前屈みの体勢を直し視点を合わせ寝癖頭をクシュっと一撫して笑ってみせる。

 

 

 

「またそれ...」

 

 

 

『いいじゃん。』

 

 

 

「むぅ...」

 

 

 

整った容姿、至近距離のソレに目を奪われ飲み込まれてしまう。

 

 

 

『そろそろ戻ろっか。』

 

 

「そうだね、HR始まっちゃう。」

 

 

 

二人は立ち上がり真新しい制服のシワを伸ばす。

 

 

膝から伝わる彼女の優しさを受け止め僕の高校生活がやっと、やっと始まる。

 

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