魔法絶対失敗するウーマン&圧政者絶対殺すマン   作:デトロイト

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反逆その3

「大変な事になったのぅ」

 

 オールド・オスマンは王宮からの書類に目を通しそう呟き、パイプを燻らした。書類にあるのはここ数日急増している土くれのフーケによる被害の数々だ。以前のフーケは宝物庫をぶち破り、手荒に物を盗んでいくような盗賊だったが積極的に人殺しはしなかった。しかし、最近のフーケはある人物と手を組み、人殺しも平気でやるようになった。しかし、そんな事をオスマンは危惧しているのではない。問題なのは、そのフーケと同行する人物だ。巨躯を駆り、全身を拘束具で束縛し、短剣を振り回す金髪の男。目撃談から見て間違いなくルイズの使い魔であるあの男に間違いはない。しかし、オスマンも心優しい男である。ルイズが、望むのであればオスマンは出来る限りの事をして庇うのだが、肝心なルイズの使い魔であるあの男がここ数日行方不明である為、庇い様もない。もし、その事が王宮に知られればルイズは貴族殺しの使い魔の責任を取られ、最悪処刑。なんてことにもなりかねない。

 

「オスマン学院長、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを呼んでもらおうか」

 

 ダンと机を叩いたのは短銃と剣を腰に携えた女性であった。彼女はアニエス、アンリエッタ王女の腹心であり、鋼の女なんて呼ばれる厳格な軍人である。

 

「それが、ミス・ヴァリエールは此度の事にひどく傷ついて人前に立てるような状況では」

 

「そちらの都合など関係ない、彼女には現在国家反逆罪、貴族殺しなどなど多くの容疑が掛けられている。それらの容疑を晴らすためにも、彼女の協力が必要だ」

 

「と、とはいってものぅ。中々そうはいかんて」

 

「オールド・オスマン。少し話が・・・」

 

 オスマンは右手で顔を覆い天を仰いだ。今まで生きてきた中でタイミングの悪い出来事は幾らでもあったが、今回のは特に酷い。まさか渦中のルイズが、このタイミングで院長室にやってくるのだから。アニエスは、同行した部下に命じルイズを部屋に入れた。そして唯一の出入口である扉を塞ぐ。

 

「これは僥倖。ではミス・ヴァリエール。此度の騒動について何か知っている事はあるか」

 

「そんなの!こっちが知りたいぐらいよ!朝起きるとアイツはいないし!土くれのフーケの相方にアイツがいるって話だし、もう何がなんやらよ!」

 

 鋭い眼光のアニエスに負けじとルイズも睨み返す。

 

「いいだろう。我々が現在掴んでいる情報を全て貴様に明かしてやる。その代わり、必ず協力してもらう。いいな」

 

 アニエスはそういうと乱暴に椅子に座り、右手を上げると扉を塞いでいた部下を退ける。相応にルイズを信頼しているという事なのだろう。

 

「ここ数日、土くれのフーケによる被害が急増しているのは知っているな。そして、フーケと行動を共にする男の存在も。奴の素性は分からないが、奴は大まかに数えても数十名の貴族及び関係者を殺害している。その中には私の部下も・・・いた」

 

 ダンと再び机を力任せに叩きつける。ギリと奥歯を噛み締め、アニエスの目は復讐に燃えていた。その顔にオスマンのパイプの煙が当たっても一切気にしていない。

 

「そして、その部下から死に際に送られて来た文書がある」

 

 そういいアニエスは血で染まった紙をルイズに手渡す。その紙にはスパルタクスによる一方的な殺戮の様子が事細かに描かれていた。ルイズは思わず手で口を押え、静かに文書をアニエスに返す。

 

「私はこれでも数多くのメイジや兵士と戦ってきたが、魔法も剣も銃すら効かない奴なんて私は知らない。教えてくれ、奴の弱点はなんだ。私は部下の無念を、晴らさなくてはならないんだ」

 

「そんなの、私が知りたいぐらいよ」

 

 ルイズはそうい言った所で少し考えた。そして、何かを閃いた様に口を開いた。

 

「アイツ、誰にでも牙を向く奴だけど私と対峙した時は違ったわ。私に掴みかかろうとした時アイツは途端に苦しみ出した。私と契約を結んでるアイツは私を傷つけられない」

 

「でかした!オスマン学院長!数日、ミス・ヴァリエールを借りる。正式な書類に関しては近日私の部下から渡すよう手配する」

 

 椅子から威勢よく立ち上がったアニエスはルイズの手を握り、部下を引き連れて院長室を出ていく。年頃の娘の様なアニエスの喜び様にオスマンは、苦虫を噛み潰したような笑顔でルイズ達を見送り部屋の隅で静かに立っていたミス・ロングビルに話しかける。

 

「うまくいくかの」

 

「さぁ?それこそ彼女次第では?私としては本学院の生徒を危険な目に合わせるような事は避けたいのですが」

 

「そうは言ってもアニエスら銃士隊はアンリエッタ王女の腹心。彼女らに反発することは国に反発するも同意なんじゃよ」

 

「何事もなければいいのですが」

 

「ま、そううまくは行かんじゃろ」

 

 オスマンは胸にそこはかとない不安を抱きながらパイプを加え、肩に乗った使い魔のネズミを指先で可愛がる。本片手に本棚の整理をするミス・ロングビルが不敵な笑みを浮かべたことを、この時オスマンは見逃していた。

 ルイズはアニエスの駆る馬に同伴し、いち早く王宮を目指す。アニエスの腰にしがみ付き、ルイズは彼女に話しかける。

 

「ねぇ、アイツをどうするつもり」

 

「愚問だな。奴には数十件の殺人容疑が掛かっている。王宮では既に男に対して処刑命令が出ている、審議の必要もない重罪人だ。主である貴様が関与していない事が唯一の救いだがな」

 

「もし、私がアイツを完全に抑える事が出来ても?」

 

「奴を学院の外に出るのを止められなかったのは、貴様の責任だ。本当なら今この場で貴様を撃ってやりたいが、奴を止められるかも知れないのも貴様だけだからな。処刑でないにしろ、貴様には相応に罰を受けてもらう」

 

「・・・そうよね。パートナーの事を何も知らないなんて、主失格よね」

 

「・・・あぁ、王宮に付くと忙しくなる。今の内にしっかりと悔いろ。それが死んでいった仲間の為の鎮魂になる。我々は只犬死する為に戦っているのではないのだ」

 

 ルイズはアニエスを抱きしめる手に力を込め、アニエスのマントで静かに涙を拭った。自分の失態で多くの人間が死んでいった。そして、その所為で新たな悲しみと憎しみが生まれてる。僅か十数歳のルイズにとってこの事実は重くのしかかる。アニエスは小さく嗚咽を漏らす、ルイズに気付きながらも手綱を大きく振る。今の彼女に慰めの言葉は不要と思った彼女なりの優しさだった。今はこの風が彼女の涙を飛ばしてくれることを願って。

 

「ああルイズ、元気、そうではありませんね。心中お察しします」

 

「姫様」

 

 王宮に付き、ルイズがまずしたことは王女への謁見だった。アニエスの部下が一足先に送った早文でおおよその事態を理解したアンリエッタ王女は、傷心の親友を抱きしめた。ルイズは王女の温かさに一先ず安心を覚え、落ち着くと片膝を付き恭しく礼をした。

 

「姫様、この度は私の不手際により多大なる国家への損害、このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ヴァリエール家に名を連ねる者として、如何なる処遇も受ける所存であります」

 

「あぁルイズ、顔を上げて。貴方は何も悪くはないわ。悪いのは貴方の使い魔、そうでしょう。親友を死地に送ることを止められない非力な私を許して下さい。でも、そうしないと貴方の使い魔は愚かな人殺しを続ける事になる、どうして皆争いを望むのでしょう」

 

 そう言いアンリエッタは目を伏し、ルイズの手を握り、親友の無事を祈った。

 

「フーケの犯行予測から見て、次狙われる所のおおよその検討は付いている!諸君、これは命の危険を伴う非常に危険な任務だ。しかし、我らは王女の剣!国家の盾となり、矛となる事を誓った者だ」

 

 王宮の外、銃士隊を集めアニエスは演説する。仲間の敵討ちを兼ねたこの任務に臨む、隊の士気は非常に高い。ルイズはアニエスの横に立ち血気に逸る銃士隊を眺める。

 

「既に知っているだろうが、今回はこのミス・ヴァリエールが同行することとなった。彼女は、あの男を止める為の最後の手段だ。だが、彼女の様な者を危険に晒すわけにもいかない、何としても我々だけの手で土くれのフーケを、そしてあの男を捕え、処刑する」

 

 アニエス率いる銃士隊とルイズは馬に跨り、フーケの襲うであろう者の邸宅へ行く。襲われる者の名はケーオルイス、貿易と類まれな商運で僅か一代で富を築き上げた所謂成金という奴だ。そして成金の例に漏れず、悪趣味な収集癖を持っており平民から搾り取った金で古今東西の珍品を集めていた。

 ケーオルイスの邸宅に付いた銃士隊は、ケーオルイス邸の警備隊に話を通し邸宅の周囲に銃士隊の包囲網を張った。ルイズはアニエスと近くの茂みに入り、その時を待つ。しかし、時刻はゆっくり刻一刻と過ぎていきお嬢様育ちなルイズはうつらうつらと船を漕ぎ始めた。

 

「ほら、起きろ。奴だ」

 

 口から涎をたらしていたルイズをアニエスは肘で突いて起こす。ルイズは急いで袖で涎を拭うとケーオルイス邸の正門を見る。多数の警備に固められたそこに立っていたのは紛れもない、スパルタクスだ。スパルタクスは、警備と二度三度言葉を交わすと突然襲い掛かった。

 

「奴で間違いない。全隊、掛かれ!」

 

 アニエスの号令と共に銃士隊の全員がスパルタクスを囲む。ルイズはアニエスに言われた通り、木の影に隠れいざという時まで待つ。

 

「貴様が、ここ最近の襲撃事件の犯人だな!貴様には処刑命令が出ている、大人しくするのなら痛みもなく殺してやろう」

 

「おぉ圧政者よ!新たな苦痛、歓迎する!」

 

「撃て!」

 

 銃士隊の短銃が放たれ、鉛玉がスパルタクスの全身を襲う。しっかりと訓練された銃士隊の短銃はスパルタクスの頭部や胸部を正確に狙い、一斉射撃の後、追い打ちとばかりに剣を抜き、スパルタクスへと切りかかった。スパルタクスは短剣で反撃するも、大ぶりな攻撃では銃士隊に届かず、スパルタクスの体に無数の切り込みが入る。そして後ろに下がった第一陣に代わり第二陣が再び彼を取り囲む。そして、アニエスの号令と共に再び短銃が放たれ、続けて剣による攻撃が入る。これこそがアニエスがスパルタクスを殺す為に考案した戦術だった。複数の輪で一人を囲んでの波状攻撃。一人を撃ち取る為にはあまりにも過剰な戦力だったが、魔法でも銃でも死なない奴を殺すためには死ぬまで攻撃を入れるしかない。急造の戦術だったが、日ごろから厳しい訓練を積んできたアニエスの部下達は、彼女の期待に完璧に答えていた。スパルタクスは全身を血で染め、初めの頃に比べると反撃のスピードも下がり、明らかに消耗していた。アニエスはこれを好機と捉え、波状攻撃を止め全隊での一斉射撃を命じる。スパルタクスを取り囲むように数十の銃口が狙いを付ける。

 

「撃て!」

 

 号令と共にスパルタクスの全身が血を吹き上げ、数度力なく短剣を振るうと前のめりに倒れこんだ。直ぐに死亡確認を取ろうと近づく隊員の一人をアニエスが諫める。念には念を入れ、アニエスは数人の部下から弾を装填した短銃を受け取り、彼の頭目がけ全ての鉛玉を撃ち込む。そして、スパルタクスが完全に動かない事を確認するとアニエスは短銃を腰のホルスターに戻し、首を切り落とす為ダガーを取りだす。例え不死だろうと首さえ落とせば無力化できる、その上この首を高慢な貴族共に付きつければ銃士隊の立場も多少は良くなるはずだ。

 この様子を見ていたルイズだったが、この時彼女は確信していた。スパルタクスは死んでいない。ただ反撃の機会を伺っているだけなのだ。ギーシュの時も、タバサやキュルケの時も、彼は全ての攻撃を受けてから反撃する。それこそが彼の美学なのだ。

 

「待って!彼はまだ!」

 

 ルイズがそう叫んだ時には遅かった。ダガーを手にしたアニエスの腕が折れる程の力で握りしめ、スパルタクスは起き上がる。彼はいつもの様に不気味な笑顔で自分を追い詰めたアニエスを見つめる。ダガーを握っていた右腕を折られた激痛に顔を歪めながら、アニエスは左手で短銃を抜きスパルタクスの顔に狙いを定める。が、彼女は短銃を落とした。決して手が滑った訳でも、力が入らなかった訳でもない。スパルタクスの体からポロポロと今まで撃ち込んだ鉛玉が筋肉に押し返され落ちていく様子を見てしまったからだ。

 

「素晴らしい戦術、素晴らしい痛みであった。感謝しよう!だからこそ!死ね」

 

 スパルタクスはアニエスの右腕を握ったまま大きく振りかぶり、アニエスを地面に叩きつけた。それでもアニエスは死なず、意識も失わなかったのは日頃の訓練の賜物だろう。しかし、それは只々これからの苦痛を受ける時間が増えるだけだった。2回目の衝撃、鎧は砕け既に機能をはたしていない。部下たちが、アニエスを助ける為スパルタクスへと切りかかる。

 

「何という忠義の騎士だろうか!女よ、良き部下を持ったな。あの世で互いを労うと良いだろう」

 

 3回目の投擲、これを受ければ確実に死ぬ。そう確信したアニエスは一つの賭けに出た。僅かな隙に剣を抜き自分の肘に当てる。

 

「あぁあああああ、がああああぁあああぁああ!」

 

 スパルタクスは思わず動きを止める程の絶叫。彼が、今まで感じていた重みが消えた事を不審に思い左手に握っていた女を見る。スパルタクスが握っていたのはアニエスの右腕 だけ だった。スパルタクスの足元には右腕を抑えずるずるとその場を去ろうと必死な彼女の姿が見える。

 

「なんと、何という素晴らしき精神、自己犠牲!ますます殺すのが惜しい女だ!」

 

 感動の声を上げながらアニエスに遅いかかろうとするが、スパルタクスは体勢を崩す。その直後、足元から痛みが届く。アニエスは右腕を切り落とした直後、手にした剣でスパルタクスの足を貫いたのだ。

 

「隊長!」

 

 満身創痍のアニエスを抱え隊員の一人がアニエスに代わり攻撃の指示を出す。アニエスに誤射しない様、彼女を守るように陣形を整える。

 

「や、奴に銃は効き目が薄い。奴の目を狙え」

 

 弱弱しい声ながらもアニエスは力強くそう指示する。足を貫く剣を引き抜き、それを手にしたスパルタクスはそれをアニエスへ向け投擲する。

 

「隊長!」

 

 アニエスを抱えていた隊員の一人が剣の投擲に気付き、自身の体を盾にした。剣は容易に彼女の体を貫き絶命させる。胸から剣を生やした彼女を右腕を失ったアニエスが抱える。何度も自身を庇った隊員の名前を叫ぶアニエスだったが、止まっていられない。こうしている間に、銃士隊は命がけでスパルタクスと戦っているのだ。しかし、こうなっては最早自力で彼を殺すのは不可能となってしまった。

 

「ヴァリエール!」

 

 アニエスはありったけの声を出し、ルイズを呼ぶ。もっと早く彼女を呼んでおけば、右腕を失うことも、優秀な部下を何人も失うこともなかったかもしれないという後悔の念に駆られるアニエスだった。アニエスの呼びかけを聞く前にルイズは身を隠していた茂みから飛び出し、既にスパルタクスの前に立っていた。すると今まで暴れ続けていたスパルタクスはその手を止める。全身を自身と銃士隊の血で染め、スパルタクスは朝の挨拶をする様にルイズに声を掛けた。

 

「おぉマスター。こんな所で奇遇である」

 

「スパルタクス、一度しか言わないわ、今すぐこんな事止めなさい」

 

「マスターよ、それは命令、で、あるか」

 

「えぇそうよ。アンタのマスターとして命じるわ、こんなことは止めなさい!」

 

 怒声交じりの命令を受けたスパルタクスは、口角を上げ今までで一番獰猛な笑顔を見せた。ルイズは思わず、一歩下がる。

 

「圧政!圧政!圧政!神よ!苦痛を!反逆を!悲劇を!感謝する!」

 

 スパルタクスは足元に落ちていた銃士隊の剣を取り、ルイズへ襲い掛かる。ルイズはキッとスパルタクスを睨み付ける。スパルタクスがルイズの眼前まで迫り、剣を振り上げた時、突如スパルタクスのルーンが輝き、苦しみ始める。

 

「苦しいでしょ!アンタが止めれば、これも終わるわ」

 

「おおぉおおお!あぁあ、圧政には・・屈しなどしない!圧政者よ、死すべし!」

 

 スパルタクスは全身を焼かれながら剣を杖の代わりにして立ち上がる。一歩進むごとにスパークは輝きを増していく。ルイズは半歩づつ下がりながらスパルタクスと距離を取る。全身を襲う痛みにスパルタクスは杖代わりの剣から手を離しその場に倒れる。しかし、彼は止まらず這いながらルイズに迫る。

 

「止めなさいよ!もう十分でしょ!アンタは十分戦った、もういいじゃない!」

 

「全ての圧政者を殺すまで私は止まらない!平等を!等価値なる死を!」

 

 妄念に取りつかれているスパルタクスを止める為、ルイズはスパルタクスをさらに睨み付ける。そしてそれに呼応するように、スパルタクスを包むスパークは更に強くなる。だんだんと彼の動きは少なくなり、そして最後には指一本すら動かさなくなる。ルイズの主としての直感は彼が死んでいない事を告げていたが、それでも彼を無力化したことをルイズは理解した。

 あたりに人間の肉が焼ける匂いが充満する。スパルタクスはスパークにより全身の筋繊維が破壊され、もはや自前の再生能力すら追いつかない程のダメージを受けていた。

 

「・・・圧政者よ、マスターよ。・・・死すべし」

 

 それでもスパルタクスは闘志を失わない。もはや体を動かすことも出来ず、ただただ恨みの声を上げるだけとなった彼を、ルイズとアニエスは見つめていた。ルイズは思わず彼に歩み寄り手を差し伸べる。しかし、その手にスパルタクスが噛みつく。大男の彼からは想像もつかない程弱弱しい力の噛みつきに、ルイズは彼に憐れみすら感じていた。彼をこうまで狂わせた者の存在、時代、世界にルイズは怒りを覚えた。アニエスは自身のマントで右腕を覆い、部下たちを集めた。この戦いで30名程居た銃士隊の数は20名を切り、周囲には目を覆いたくなるような凄惨な死体がいくつも転がる。アニエスは痛みと戦いながらそれらの死体を1か所に集める。例えどの様に死のうとも、彼女たちは王女の為に命を賭し、使命を果たした英雄なのだ。

 

「・・・どうやら、フーケは来なかったようだな。まぁいい、ミス・ヴァリエール協力感謝する。貴方がいなければ隊は全滅していた」

 

「いえ、トリステインの貴族として、彼のマスターとして当然の事をし・・

 

 ルイズがそう言った時だった。ゴゴゴと地鳴りが響き、周囲の丘から何かが起き上がる。全長20M程ある人型の土の塊、フーケの代名詞であるゴーレムだった。アニエスは舌打ちし、銃士隊を集める。フーケは初めからこの襲撃を予測していたのだ、初めから銃士隊とスパルタクスをぶつけさせ同士討ちとなった所を襲撃する算段だったのだ。既に満身創痍の銃士隊は、残り僅かな銃弾とボロボロの剣を手に、フーケの前に出る。それを援護するように、ケーオルイスの警備が出てくるが相手にならない。ゴーレムの手の一振りで数人が吹き飛び、踏みつぶされた人たちの断末魔があたりに響き渡る。

 その場にいる一人の魔法使いとしてルイズは杖を抜き、ゴーレムの前に立つ。そして何度も魔法を放っては失敗し、辺りに土煙が立ち上る。

 

「なーんだ、あの怪物を呼んだからもしかするとって思ったけど、簡単な魔法一つ使えないダメ魔法使いじゃないか」

 

 ゴーレムの頭に腰掛けたフーケは足元のルイズを一瞥するとそう言い残し、屋敷をゴーレムを使い破壊し始める。既に宝物庫の場所は検討が付いている。あとはそこまで破壊して中身をいただくだけ。フーケはこのシンプルな方法でいくつもの貴族たちの屋敷を襲い、宝をいただいて来た。両手では抱えきれない程の宝を袋に詰め、フーケはゴーレムに掴まりその場を立ち去ろうとする。生き残った銃士隊はそれを阻止しようと奮戦するが、只の土の塊であるゴーレム相手に銃は一切効かない。ルイズも何とかしようと杖を振るうが、ゴーレムの体の一部に小さな穴が出来るだけで即座に、その穴の土によって埋まっていく。ルイズは魔法の成功など二の次に何度も杖を降る。そして、その中の一発がフーケの足元を襲った。足元の土が吹き飛び、フーケは一瞬バランスを崩す。そして、フーケはルイズの方を向くとゴーレムを操作し、ルイズの方へ進路を変えた。

 

「大人しくしとけば、いいものを。余計なことして寿命を縮めたね」

 

「うるさい!ヴァリエール家の人間としてあんたみたいな奴を許しておけないわ!」

 

「いう事だけは一丁前ね。魔法一つ出来やしない癖に、アンタは貴族連中の恥さらしよ!まぁでも、魔法が出来なくても、私みたいな大盗賊と戦って死んだのなら語り草になるでしょうね!魔法が出来なくても、勇気だけはあったゼロのルイズってね!」

 

 心底ルイズを馬鹿にした様にフーケが笑うと、ゴーレムは足を上げルイズ目がけ足を下ろす。ルイズは目を瞑る。しかし、ゴーレムの足は空中で止まっていた。

 

「・・・なんていう馬鹿力よ」

 

 フーケはそう呟いた。

 ルイズが目を開けると、目の前には片膝を付きゴーレムの足を持ち上げるスパルタクスの姿があった。スパルタクスは咆哮し、ゴーレムをテーブルをひっくり返す様に投げた。スパルタクスの体はルーンのスパークにより焼かれ所々が炭化すらしていた。

 

「狂い過ぎてついに誰が味方かも分からなくなったかい!」

 

 フーケは叫び、ゴーレムの姿勢をコントロールしスパルタクスと対峙した。彼は肩で息をしながら、嬉しそうにフーケに向かって叫びかえす。

 

「今、この場では貴様こそが!圧政者!私は強いる者を絶対に許しはしない!謹んで死ぬといい!」

 

「ほざくなよ、狂人風情が!どうせ、後々殺すつもりだったんだ。今死んだって構やしないさ」

 

「マスターよ、少々この場を離れるといい。私の宝具は少しばかり荒っぽい」

 

 スパルタクスはそういうと、ルイズの肩を数度叩いた。ルイズは急いで、アニエスにその事を伝えその場を離れる。

 スパルタクスはゴーレムへ向け走り出す。そして彼は自らの宝具を発動する。「庇獣の咆哮」、自らに与えられたダメージを魔力に変換する宝具。ダメージが大きければ大きい程、その威力は飛躍的に上がる。銃士隊とルイズにより与えられたダメージは、彼を死の寸前にまで追いやり、変換された膨大な量の魔力はボロボロだった彼の体を瞬時に癒し、その力を数倍にも高めた。その力はゴーレムの一撃を正面から受け止め、逆にその腕を引きちぎるほどだった。瞬間的に、己の不利を悟ったフーケは今まで使っていたゴーレムを捨て、新たなゴーレムを作りだす。

 

「中に岩石も入れてある特別製さ!そのまま潰れな!」

 

 生み出されたゴーレムはそのままスパルタクスに覆いかぶさる様に倒れる。流石に岩石入りのゴーレムを持ち上げることは出来ず、ズズンとゴーレムに潰される。フーケは念の為、暫く様子を見ていたがスパルタクスからの反撃は来ず、己の勝利を確信していた。だが、フーケは忘れていたのだ、この男は逆転の勝利こそが最も得意であることを。

 地鳴り、そしてスパルタクスを覆っていたゴーレムの体の一部が光を放ちどろどろと融解し始める。そして、その中心に居たのはスパルタクスだった。彼の体を包むように光が放たれ、フーケはそれが可視化出来る程高密度の魔力であることを察する。あんなものが放たれでもしようものなら一瞬で消し炭になる。フーケは急いで、3体目のゴーレムと自身を守る土の壁を作りだす。3体目のゴーレムがフーケの盾となるように覆いかぶさった所でそれは放たれた。放たれた光は一瞬収縮し、解き放たれる。ドンと言う音の後に訪れるフーケが一度も感じたことのない衝撃。ゴーレムは一瞬でバラバラに吹き飛び、土の壁も敢え無く崩れ去った。しかし、それが衝撃を幾分和らげ、彼女を救う事となった。衝撃波により吹き飛ばされたフーケは地面に叩きつけられ、意識を失う。しかし、衝撃波の勢いは衰えず周囲の木々をなぎ倒し、彼の周囲の地面はまるで隕石が降って来たようにクレーターが出来ていた。

 全てが終わり、魔力の全てを使い果たしたスパルタクスはその場に倒れる。ルイズと銃士隊は直ぐにその場に集まり、気を失ったフーケとスパルタクスを捕縛する。特に再び暴れはじめる危険性のあるスパルタクスは、唯一止められるルイズが常に付く様になった。しかし、スパルタクスの図体を支える馬などおらず、近くの民家から馬車を借りることとなった。

 フーケを捕え、スパルタクスも捕え、使命以上の結果を果たしたというのにアニエスやルイズの顔に晴れやかさはない。当然だ、この戦闘で銃士隊は10人以上、ケーオルイスは自身を含め、警備隊が20名以上命を失うこととなった。今の彼女達にとって後の名誉よりも一刻も早くこの凄惨な夜を終えたいという望みの方が強かった。

 王宮に戻った彼女たちを第一に向かえたのはアンリエッタ王女であった。衛士達からアニエスとルイズの帰還を聞いていた王女は英雄の帰還を楽しみにし、労いの言葉を掛けようと待っていたのだった。だが、王女を待ち受けていたのはこれ以上ない程の殺し合いと言うものの現実だった。右腕を失ったアニエス、酷く消衰したルイズ、そして傷ついた銃士隊の面々。アンリエッタは言葉に詰まりながら、アニエスたちに労いの言葉を投げかけた。そして、直ぐに王宮の医師たちを呼び傷ついた者達を介抱するように指示する。そして、ルイズには上質な部屋を用意し、そこで休むように言った。

 ルイズは後で王女に謝らなければと思いながらも、アンリエッタに生返事をし亡霊の様に廊下を歩いて、部屋に入るなり糸の切れた人形の様にベットに倒れた。スパルタクスが目覚めたとしても、王宮のメイジが何人も集まり拘束するだろう。それなら、取りあえずは安心だ。とルイズは、思いながら意識を水の底に沈めた。

 しかし、この時ルイズは失念していたのだった。彼、スパルタクスには処刑命令が出ているという事を。

 

 翌日、正午よりスパルタクスの処刑は執行されることとなった。

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