オーバードッグ 名犬ポチ《完結》   作:のぶ八

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前回までのあらすじ!

フォーサイト助かる!

※すみません、再び予告詐欺です。アウラパートが長くなってしまったのでルベドの話は次回に…


偉大なるエルフの祖

ナザリックから無事脱出に成功したフォーサイト。

 

しかし食料も尽き、野宿するための道具等も全てナザリックに置いてきてしまった。

とはいえもちろん戻る気になどなるはずがない。

なぜか付いてくることになったルベドという少女が墳墓内での安全を約束してくれたが安心など出来る筈も無く、逃げるようにナザリックから慌てて出てきたのだ。

実際、逃げてきたのだが。

なので帝国に帰る為には一旦どこかで準備を整えなければならず、最寄りの都市であるエ・ランテルへと向かうことになった。

 

しかしフォーサイトの空気は最悪だ。

ヘッケランとイミーナはルベドへの恐怖を拭えず未だに震えている。

アルシェはこの二人よりはマシだがそれでもルベドという存在の未知さにどう接していいのかわからずにいる。

だがこれまで経緯からわずかながらルベドという存在がどういうものかアルシェは感じていた。

一言で言うならば子供だ。

思考が幼いということでは無く、何も知らないという意味で。

真っ白なキャンバスのように。

悪も善も何もない。

彼女はそういう基準で行動していない。

接し方さえ間違わなければ害は無いということが薄々分かってきた。

その証拠にロバーデイクだけは上手くやっている。

 

 

「どうですー、高いでしょう?」

 

 

肩車をしたり高い高いをしてルベドの相手をしているロバーデイク。

 

 

「低い」

 

「おやおや手厳しいですね、近所の子供はこれで喜んでくれたのですが…」

 

「普通は喜ぶの?」

 

「ええ、子供達は大変喜んでくれてましたよ」

 

「理解不能。もう一度やって」

 

「なんだかんだ言いながら実は楽しんでたんですね? いいですよ、それ~」

 

 

ルベドは全くもって楽しんでおらず、これの何が楽しいのかを学習中なだけなのだがロバーデイクには分からない。

むしろ本当は楽しいのに楽しいと素直に言えない可愛い年頃なのだな、と思っていた。

何気に噛み合ってしまっている二人であった。

 

それを見ながらアルシェは思う。

ルベドはあの地獄のような場所にいたから何も知らなかっただけでキチンと教育をすればまともになるのではと。

ただやはり不安はある。

ルベドを二人の妹に合わせていいものなのかどうか。

あの時見たものをアルシェは未だに信じられない。

なぜならルベドは…。

 

 

 

 

 

 

「分かった、返してあげる」

 

 

ロバーデイク、ヘッケラン、イミーナを殺したルベドは泣きじゃくるアルシェにそう言った。

そして連れてきたのは、体は人間の女性なのだが頭部が犬のそれになっているメイドであった。

彼女はペストーニャ・S・ワンコと名乗った。

アルシェは〝看破の魔眼〟とも呼ばれる、相手の魔力をオーラのように見ることによって使う位階を知ることが出来るタレントを持っていた。

それで見た事実が信じられず、またあまりの魔力に吐きそうになってしまうが目の前の女性からは恐ろしい気配がそこまで感じられないこともあり何とか耐えた。

それは自身の師でもあり、人類最高の魔法詠唱者(マジックキャスター)フールーダ・パラダインを凌駕していた。

それだけでも信じられないのにこの墳墓では珍しくないらしい。

それどころか恐ろしいことに第10位階まで使える者もいるらしい。

神話の領域すら超える第10位階を使うことのできる存在。

だがそれよりもこのルベドという少女は強いらしい。

もうアルシェの頭はパニック状態であった。

何か悪い冗談のようだと思えたが目の前の存在がそれを真実だと告げていた。

 

しかしアルシェのタレントで、このルベドという少女が一切魔法を使えないという事実は理解していた。

つまりこの少女は魔法を使わず、第10位階を使える存在を凌駕するということになる。

もう想像もつかない上に意味もわからない。

ここで強さに関してはアルシェは考えることをやめた。

 

目の前ではペストーニャが3人に蘇生の魔法らしきものをかけている。

だがアルシェはここで気づく。

これは第5位階にある《死者復活/レイズデッド》ではない。

詳しくは知らないが恐らくそれよりも上位。

人があずかり知らぬ領域の魔法だ。

もしここにフールーダ先生がいたら喜んでいただろうなと思った。

 

 

「はい、3人共生き返ったよ。これでいい?」

 

 

そうして傷一つなく綺麗な体で横たわる3人を前にルベドが言う。

未だアルシェは信じられない。

これはもはや奇跡と呼んでもいいような出来事だ。

 

 

「うん…! ありがどう…!」

 

 

気づけばお礼と共に大量の涙が流れてきていた。

元通りの3人を目にしてやっと現実感が沸いてきた。

皆が生きている。

また皆の声が聞ける。

また冒険ができる。

そう思うと感情が溢れ出てアルシェはその場で泣き叫んだ。

 

少し時を置いてやっと気持ちが落ち着くとアルシェはペストーニャに深々と頭を下げた。

 

 

「ペストーニャさん、ありがとうございます…! 本当にありがとうございます…!」

 

「ルベドはアルベド様の命令で動いているようなので別に構わないです…わん」

 

 

それを横で見ていたルベドはアルシェに言う。

 

 

「なんでアルシェはペストーニャに頭を下げてるの?」

 

「え…? 何かお世話になった時は感謝の気持ちを表すのは当然でしょう?」

 

「そうなの?」

 

 

ポカンとした顔でルベドは言う。

ルベドがペストーニャにそのことを問うとペストーニャもその通りだと首を縦に振る。

 

 

「そっか。ペストーニャありがとう」

 

 

そしてルベドもペストーニャに頭を下げて礼を言う。

よくは分からないがペストーニャにお願いをしたのは自分なのでアルシェと同じように感謝を示したほうがいいのだな、となんとなく判断したためである。

 

 

「ぐ…ぁ…」

 

「う…ん」

 

 

その時、ヘッケランとイミーナが目を覚ました。

 

 

「ヘッケラン! イミーナ!」

 

 

アルシェは目が覚めた二人に駆け寄ると、勢いよく抱き着いた。

 

 

「良かった…! 良かった! 本当に良かった!」

 

 

突如泣きながら抱き着いてくるアルシェに困惑しながらも二人は何が起きたのか理解できずにいた。

だが近くにいたあの恐ろしい少女の姿が目に入ると自分達の身に何が起きたのかを思い出す。

 

 

「お、お前は…!? い、いや俺は殺されたんじゃ…」

 

「ア、アルシェ何してるの! 早く逃げるのよ!」

 

 

取り乱すヘッケランとイミーナにアルシェは説明する。

最初は全く聞く耳持たない二人だったが次第に状況を飲み込んでいく。

そして事情を説明し終えたアルシェ。

だが二人は状況を理解しつつもまだ気持ちが追い付いていなかった。

 

 

「そんな…、じゃあ俺たちは生き返ったのか…」

 

「信じられない…」

 

 

そして生き返して貰った見返りとして今後はフォーサイトにルベドが同行することを説明するアルシェ。

もちろん猛反対する二人。

 

 

「だ、だめに決まっているだろう!? こんな危険な奴と一緒に行けるかっ!」

 

「そ、そうよ! 私達にあんなことをした奴と一緒になんて行ける訳ないじゃない!」

 

 

だが猛反対する二人に注意を促したのはペストーニャであった。

 

 

「横から失礼します、わん。ハッキリ申し上げますとこの墳墓に侵入してきたのは貴方達です。何よりも偉大なる至高の御方の居城に無断で侵入し、その宝にも手を出した薄汚い盗人。本来ならば全員ここでどうなろうとも文句は言えない立場です。貴方方にどのような事情があろうとも私達からすれば侵入者を撃退するのは当然です。ルベドはここを守る者として当然のことをしたまで。客観的に見ても貴方達が文句を言う筋合いは無いかと。どうか自分達の身の程を弁えて下さい……わん」

 

 

ペストーニャの言葉とその態度からは怒りを抑えているのが容易に見てとれた。

そしてアルシェ及び、ヘッケランとイミーナもその言葉で客観的に見れば自分達に非があることは理解できた。

人間達の思想ではモンスターなど排除するべき存在でその宝を奪うことに躊躇は無いが、それが正しいかそうでないかくらいは分かる。

それに目の前にいる少女は自分達の手に負える存在ではない。

ここは素直に従うしか道は無かった。

 

 

「わ、分かった。俺たちが悪かった、すまない、このとおりだ…」

 

 

頭を下げて謝罪を告げるヘッケラン。

だがそれと同時にヘッケランは一つの疑問をルベドにぶつけざるを得なかった。

 

 

「意図は分からないが助けて貰ったのは事実だしそのお嬢ちゃんの提案は飲むよ、でもよ一つ教えてくれないか? お嬢ちゃんは何者なんだ? アンデッドなのか? それとも悪魔か…。あの強さはとてもじゃないけど人間のものじゃなかった…」

 

 

恐る恐るヘッケランが口にする。

それを聞いたルベドがなぜか服をはだけ、上半身を露出させる。

 

 

「じょ、嬢ちゃん何を!」

 

「ちょっとヘッケラン! 何見てるのよ! こんな小さい子が好みなの!?」

 

「別に見てねーよ! いや見たけどさ! 視界に入っちゃったものはしょうがないだろ!」

 

「今ちょっと嬉しそうな顔したでしょ!? 分かるんだから!」

 

「はぁ!? お前急に何を!?」

 

 

急に痴話喧嘩を始めた二人。

未成熟な胸を晒したルベドは構わず告げる。

 

 

「見た方が早い」

 

 

そしてルベドは両手の指を自分の胸付近に突き刺す。

肌の中に指が食い込んでいく。

そのまま勢いよく両手を広げ、皮膚を、肉を引きちぎる。

 

 

「な、何を…!」

 

「ひっ…!」

 

「え…!」

 

 

中から内臓が飛び出るのではないかと思った3人の予想は外れた。

ルベドの体の中にあったのは機械の体。

裂けた胸部や腹部から見えたのは金属の輝きと大小入り乱れる精巧なパーツ。

だが3人にそれを理解できるはずがない。

それでも3人は近いところまで事情を呑み込むことが出来た。

 

 

「に、人間、いや生き物じゃないのか…?」

 

「からくり…? 自動で動く仕掛けを見たことがあるけどそのようなものかしら…」

 

「こ、こんなの学校でも教わったことない…! 魔法か何かで構成されてるの…?」

 

 

三者三様の感想を抱く。

目の前のものは常識を遥かに凌駕するものだったからだ。

 

 

「私は自動人形(オートマトン)、そのように創造された」

 

 

3人はただただ驚くばかり。

ギミックを駆使して自動で動く仕掛けは知っているがそれで人のように動く物を作れるなど信じられない。

そんな技術力を持つ者がこの世界に存在するのか、と。

 

驚愕する3人を他所にペストーニャは回復魔法をルベドに唱え胸の傷を治す。

そのままはだけた服を元に戻してやる。

 

 

「あまり女の子が肌をさらすのはよくありません、今後気を付けるように…、わん」

 

「うん、分かった」

 

 

そしてアルシェ達に向き直るペストーニャ。

 

 

「補足させて頂きますが、ルベドを創造されたのはこの墳墓の主である至高の41人の1人です。その驚きようからこの御方達がどれだけ素晴らしいのかはご理解頂けたと思います。貴方達に分かり易く言うならばここは神の住まう地、その無礼を理解したならば早々に立ち去ることをお勧めします……わん」

 

 

ペストーニャの言葉に3人はブンブンと首を縦に振る。

そして寝ているロバーデイクを叩き起こすとすぐにその場を後にする。

ここにいる者達の気が変わらないうちに早く出なければと。

そして外へ向かいながらもアルシェはルベドに問う。

 

 

「ねぇ、ルベド。あなた創造されたって言ったけれど貴方みたいな者は何人かいるの?」

 

「いる。ナザリックにいる者は全員そう。私と同じような存在という意味なら、詳しくは知らないけれどプレアデスと呼ばれる戦闘メイドの中にも同じく自動人形(オートマトン)がいるとインプットされている」

 

 

その言葉にアルシェは意識を失うかと思った。

この化け物のような存在がまだ他にもいるという事実は恐怖でしかなかった。

その恐怖の前には戦闘メイドなる意味不明な言葉に疑問を抱く余地が無いほどに。

 

 

 

 

 

 

3人のエルフを連れ、アウラはエイヴァーシャー大森林を駆けていた。

シモベに乗って疾走するその速度は凄まじく、エルフ達の案内によって迷うことなく最短距離を行くことにより予定よりも大幅に早く目的地に着くことができた。

そこはエルフの国。

アウラの指揮下にある魔獣は総数100にも上る。

数だけで言えば大したことが無い様に思えるがアウラのスキルによって強化されたこの魔獣達の強さはナザリックでもトップクラス。

個としてでは無く群として動くならばアウラに勝てる者は存在しない。

他の守護者がシモベを動員し戦っても集団戦においてはこの100匹からなる魔獣を打ち破ることはできない。

それほどの軍団である。

 

アウラはその魔獣へ命令を出し先行させる。

見張りのエルフであろう者が制止しようとするが魔獣達の姿を見るとその場にへたり込んでしまい何もできない。

他の様々なエルフ達も突如訪れた侵入者に驚愕し恐怖するがあまりの存在感にただ見ているだけだ。

アウラの命令を受けた魔獣達は何の障害も無く国の中に入りそのまま進んでいく。

誰もが道を開け、魔獣達の邪魔にならぬようにと脇へ逃げる。

これは自分達が手を出していい存在ではないと誰もが瞬時に理解したからだ。

 

魔獣達は王城を発見するとそれを取り囲む。

この地を支配する王をここから逃がさぬために。

 

やがてアウラも3人のエルフと共に城に到着する。

 

 

「ありがとー、皆。じゃ私は王様に挨拶してくるからここで待っててね」

 

 

そう言って乗っていたシモベから降りると3人のエルフの案内の元、城の中へと入る。

警備の者が止めようとするがアウラの眼光と周囲に控える魔獣に恐れおののき何もできない。

 

何人ものエルフの兵士達がアウラの姿を目にするが最後まで止めに入るものは誰一人いなかった。

 

そして玉座の間に着いたアウラ。

勢いよく扉を開け入室する。

 

 

「何奴だ!?」

 

 

玉座に座るエルフの王が叫ぶ。

 

 

「私はナザリック地下大墳墓、第6階層守護者アウラ」

 

「ナザリック? なんだそれは? ん!?」

 

 

アウラの言葉に首をかしげるエルフの王だがアウラの瞳を見ると表情が歪む。

 

 

「その瞳…! それは王族の証…! もしやお前は…!」

 

 

エルフの王は目の前の存在が何者か思い当たった。

かつて法国の切り札である女を騙して捕えたことがあった。

鎖で縛り犯して孕ませるところまではいったが漆黒聖典に奪われてしまったのだ。

あの女は強かった。

その女と自分の子供であればきっと強い。

 

今も軍の強化の為に国内にいる女を片っ端から孕ませているがやはり母親が弱いせいなのか大した強さにはならない。

だからその子供を取り返す為に自らが法国へ出向き奪い返すことも考えていた。

だがその矢先、法国滅亡の報が届き悲しみに暮れていた。

戦争の相手がいなくなったことは純粋に喜ばしいが、今後、他の国に攻め入り支配することを考えるとあの女との子を失ったのは痛かった、そう思っていたのだが。

 

その子供が生きており、自分の元へと帰ってきた。

見るだけで分かる。

圧倒的強者の気配。

これほどの強さ、間違いなくあの女との子供だ。

そして男装をしているものの女であることをエルフの王は看破していた。

自分と同等、いやそれ以上の強さを持つ娘。

この娘と交われば強い子供を沢山作ることができる。

 

そうなれば世界を支配することも夢ではない。

 

 

「えーと、あんたが王様だよね。恨みはないんだけど命令だから」

 

「おお! よくぞ帰ってきた我が娘よ!」

 

「は?」

 

 

アウラの言葉を遮りエルフの王が立ち上がる。

 

 

「法国滅亡の報を聞いた時は死んだのでは心配したが無事だったのだな! いやあの女と私の子だ、考えれば当然か…。しかし法国を滅ぼした者がいる以上、ただ指を咥えているわけにはいかぬ! すぐさま戦力の補強が必要だ! その為にはお前にはこれから多くの子供を作ってもらうぞ! ふはは! これで我が国も安泰よ!」

 

 

高らかに宣言するエルフの王。

そもそも目の前にいるのはダークエルフなので自分の子供ではないという思考にはたどり着かない。

王族の証を持ち、これほどの強さを持つならば自分の娘に違いないと謎の確信を得ていた。

 

 

「はぁ!? 子供!? アンタ何言ってんの!? なんで私がそんなこと!」

 

「何を言っている? お前は私の娘だ、娘が父に従い奉仕するのは当然のことだ」

 

「ていうか誰が娘よ! 私は至高の41人が1人、ぶくぶく茶釜様に創造された階層守護者よ!」

 

 

エルフの王にそう言い放つアウラ。

目の前の男にイライラしつつも、自身の創造主の名前と創造された事実を口にしただけでその誇らしさと優越感がその身を支配する。

ああ、なんと素晴らしく光栄なことか。

そうだ。

自分はあの偉大なるぶくぶく茶釜様に創造されたのだ。

 

 

「ぶくぶく茶釜? なんだそのバカみたいな名前は」

 

 

エルフの王が鼻で笑う。

その瞬間、アウラの顔から一切の表情が抜け落ちた。

 

 

「もしかして本か何かにそのような奴がいたのかな? いや法国でそう教えられてきたのか? まぁいい、お前の親はこの私だ。そんなわけの分からぬ奴ではなく、この偉大なる私こそがお前の父親だ。誇りに思うがいい! エルフの国を支配する王の血を引いているのだから!」

 

 

そう言いながらエルフの王は固まるアウラへと近づく。

 

 

「しかしぶくぶく茶釜? はっはっは、法国もセンスが無い。嘘でももっとマシな名前があるだろうに。いやこれほど笑える名前もないか、クハハハハ!」

 

「黙れ」

 

「ひぎゃっ!」

 

 

アウラの拳がエルフの王の腹部へ突き刺さる。

 

 

「な、何を我が娘よ…」

 

「黙れ、口を開くな」

 

 

顔を蹴り上げ、吹き飛んだエルフの王へムチで追撃するアウラ。

 

 

「ぎゃああああ!!」

 

 

かなりのダメージを負い吹き飛んだものの、未だ致命傷とはならないエルフの王。

レベル的にはアウラには及ばないが、漆黒聖典の隊長に匹敵する強さを持つエルフの王。

個としての強さを誇るわけではないアウラの攻撃ではわずかに命には届かない。

 

 

「く、な、なんという強さよ…! この私をここまで…! だがいいぞ…! ふふふ、これだけの強さならば私達の子供はどれほどの強さになるのか期待が止まらぬわっ!」

 

 

時間をかければアウラでも倒せるがもはや一秒でも生かしておく気になれない。

 

 

「フェン! クアドラシル!」

 

 

アウラが叫ぶと二体の魔獣が壁を突き破り玉座の間へ侵入してきた。

それは巨大な狼と、巨大なカメレオンのような魔獣だった。

その姿を見たエルフの王は固まる。

それ一匹が自分よりも明らかに強いことが理解できたからだ。

 

 

「ひっ…! なんだこいつらは…!」

 

「やっちゃって」

 

 

アウラの合図と共に二匹がエルフの王へ飛び掛かる。

 

 

「ひぎっ! みぎゃあぁぁああ!」

 

 

牙や爪が容易くその身体に突き刺さる。

 

 

「む、娘よっ! こ、これはお前のペットか! やめさせろっ! 私は王だぞ! お前の父親だぞっ! やめっ、がぁああああ! 助けぇぴぎぃえぇぇ!」

 

 

そしてエルフの王は二匹の魔獣によって無残に体を引きちぎられあっけなく絶命した。

後に残ったのはバラバラになり、ゴミのように散らかされた肉片だけだった。

 

しばらくして気分が落ち着いたアウラは目的を思い出す。

そして後ろを振り向くと。

 

 

「あ、新たなる王、いや女王に絶対の忠誠を!」

 

「ぜ、絶対の忠誠を!」

 

「絶対の忠誠をっ…!」

 

 

周囲にいた文官、警備の者など複数のエルフ達が跪いていた。

 

 

「い、いや何してんの?」

 

 

アウラが近くにいたエルフの1人に問いかける。

 

 

「ひっ! お、お許しください! 何でもご命令に従います! 忠誠を捧げます! だからどうか命だけは…!」

 

 

周囲を見るとそのエルフの言葉に同意するかのように多くのエルフが涙目で頷いていた。

それも当然だ。

あの残虐な王の血を継ぎ、そしてあの強大な王を容易く殺すだけの力を持つのだ。

従わねば何をされるかわからない。

恐怖に怯え、少しでも情けに縋り助かろうとするエルフ達。

 

 

「いや別に殺しはしないって。それにちょっと頼みたいことがあるだけで別に王様とかなるつもりは」

 

「皆、聞いて下さい!」

 

 

突如、アウラが連れてきていたエルフの3人のうちの1人が声を上げる。

 

 

「まずこの御方はこのエルフの王の血族ではありません! 私達3人は見ました! 神々が住まう世界の一端を!」

 

 

急に何を言い出すんだと目を見開き固まるアウラ。

 

 

「私達は奴隷として連れられ、無礼にも神の住まう土地へ土足で踏み入ってしまいました! 命令されたとはいえ、知らなかったとはいえ私達は殺されても文句を言えない無礼を働いてしまったのです! ですがこの御方はそんな私達を許して下さった! それどころか優しい言葉をかけ慰めてくれたのです!」

 

 

周囲から、おぉ、という感嘆の声が聞こえてくる。

 

 

「そしてこれを見て下さい! 奴隷の証として切られた耳を! そうです! この御方はその偉大なるお力で私達3人の耳を治して下さったのです!」

 

 

この世界の基準ではこの耳を治せる魔法は普通は使えない。

これを治せるという点だけでどれだけ逸脱した者なのか理解できる。

なんという力、なんという慈悲。

王の圧政の下で苦しんだエルフ達は感動の渦に巻き込まれはじめていた。

 

 

「さらに信じられないことにこの御方は神が直接御作りになられた存在らしいのです! 分かりますか!? つまり! この御方はエルフの原点にして頂点! エルフの祖に当たる人物なのです!」

 

 

大きな歓声が周囲から上がる。

 

 

「い、いやちょっと待って。私子供とかいないけど…」

 

 

アウラが途中で断りを入れる、が。

 

 

「ええ大丈夫です! 全て察しております! 生物は一人では子供を為せぬもの…。きっと神が、あるいは他の神々が他に作られたエルフの末裔が我々なのでしょう! しかし貴方が神から作られた最初のエルフの1人であることに間違いはありません! 我々が忠誠を誓うのにこれほど素晴らしい存在は他にいないのです!」

 

 

何か想像や憶測で物事がおかしな方向に進んでいるような気がするアウラ。

しかし種がどうのなど全く知らないのでもしかして本当にそうなのかな?と流されそうになる。

 

 

「そしてこの御方は約束して下さったのです! この愚王を排除し自らがエルフを率いると!」

 

「いや言ってない」

 

 

だがアウラの言葉をかき消すように周囲から歓声が上がる。

しかもいつの間にか人が増えている。

どうやら城中の者が集まってきているようだ。

 

 

「エルフの不遇の時代は終わりを告げる! 今日からはこの偉大なるアウラ様が女王として君臨なさるのだから! 神の使いであるアウラ様に敬意を! そして忠誠を!」

 

 

この世界に舞い降りた、神の使いでありエルフの祖。

それがエルフ達を救う為にこの地に現れたという話はあっという間に国中へ広まった。

そして人々は希望に満ちた将来に胸を躍らせる。

まだ特に何もしていないアウラ。

だがそれでも前王の圧政に苦しんだ人々からすればその存在だけで救いになった。

 

 

「誰か助けて」

 

 

訳も分からず、自分が理解できる領域を超えて話が広がる。

もはやアウラは理解しようとすることを諦めた。

何はともあれ行方が知れない至高の御方である名犬ポチ様を探す駒になればそれでいいや、と。

そしてエルフ達に命令を下す。

神の1人を探すという大役にとてつもない名誉と喜びを感じるエルフ達。

誰もがアウラの命令に喜々として従った。

 

そしてわずか半日にしてアウラはエルフの国を完全に手中に収めたのである。

 

命令を下したアウラは巨大な狼であるフェンリルに跨り、この地から逃げた。

もうアウラがいなくてもエルフの国が機能するのと、現実逃避という意味合いもあった。

だがアウラにはどうしても確認したいことが一つだけあったのだ。

 

シャルティアの死。

 

それは未だアウラには受け入れられない事実だった。

だからシャルティアが死んだという場所をどうしても訪れたかった。

幸いにも出発から数え、予定の期間のわずか5分の1程の時間でエルフの国を掌握するところまでいったので時間はあった。

本来ならばすぐにアルベドに次の指示を仰がねばならないのだが、あの異常なエルフ達の熱気とシャルティアの死への疑問がそれを後回しにした。

至高の41人の命令ならば私情など決して挟まないがあくまで今回はアルベドの命令だ。

余った時間を少し使うぐらいならばいいだろうと判断したのだ。

それにフェンリルの最大速度で駆ければ目的地まで1日、往復でも2日だ。

それでもまだ予定よりは早い。

他の魔獣達は国に置いていき、フェンリルに跨り目的地へと駆けるアウラ。

とても憎たらしく、そして大事な仲間が死んだ地へと。

 

 

 

 

 

 

見渡す限りの更地。

大地が抉れ、何キロにも及び土の茶色一色に染まっている不毛の大地。

 

そこはかつてアーグランド評議国と呼ばれた国があった場所。

 

わずか1日でエイヴァーシャー大森林からリエスティーゼ王国を横断しここまで来た。

乗っていたフェンリルから降りると大地の状態を確認するアウラ。

 

 

「これが始原の魔法(ワイルドマジック)ってやつの痕か…。アルベドから聞いていた通りこれはヤバそうだね…。私なら間違いなく一発で吹き飛ぶ…」

 

 

そのまま周囲を確認していくアウラ。

そしてここで決定的な事実に気付く。

 

 

「いや…、これで終わりじゃない…。わずかに吹き飛び方が甘い場所が二カ所ある…!」

 

 

他の誰でもこのわずかな痕跡に気付ける者はいないだろう。

レベル100のレンジャーであるアウラだからこそ見つけることが出来た本当にわずかな痕跡。

そのまま地面に顔を近づけわずかな大地の質の違いを見極める。

 

 

始原の魔法(ワイルドマジック)の爆発では敵とシャルティアはまだ死んでいない…? それに爆発後に行われたであろう周囲を含めた範囲攻撃を思わせる痕がある…。そうか、これでその敵とシャルティアがやられたのか…!」

 

 

そしてアウラは思考する。

ならばその敵とシャルティアにトドメを刺したのは誰なのか。

両者を同時に攻撃していることから敵側の仲間ではない。

とすると別の第三者。

デミウルゴスではシャルティアが死んだ時期とは合わない。

となるとこの地にまだ知らぬ強者がいるのだろうか。

しかしアルベドの報告からは爆発でケリがついたことになっている。

 

 

「いや、アルベドじゃこれは見落とすか…。参ったな、ニグレドならもしかして何か知っていたかもしれないのに…」

 

 

この件はアルベドに報告すべきだろうか?

だがそうすると独自で動いたことも報告せざるを得ない。

それに何より今は名犬ポチ様やデミウルゴスの件が最優先だ。

謎の強者が存在する可能性は考えられるものの、爆発後の弱った二人なら強者でなくとも倒せるかもしれない。

謎の強者の可能性は憶測に過ぎないのだ。

少なくとも今はこの件は優先すべきではない。

アウラはそう結論づける。

 

だが、シャルティアを殺した犯人は絶対に見つけ出す。

 

名犬ポチ様とデミウルゴスの件が片付いたら何をしてでも犯人を探し当てる。

そうアウラは心に決める。

だから今はこの件は自分の中に仕舞っておこう。

余計な情報で皆を混乱させる必要もないからだ。

ふと、シャルティアのことを思い出し空を見上げるアウラ。

思い出したのはシャルティアがナザリックを出る前に自分へメッセージの魔法を送ってきた時のこと。

 

 

『シャルティア? 何よ急に』

 

『へっへーん、聞いて驚くなでありんす。この私にモモンガ様直々の勅命が下ったでありんす!』

 

『な、なんですって!?』

 

『この大陸最強の国を滅ぼせとの命令でありんす。あぁ、これほどの大役…。きっと成し遂げた暁には沢山お褒めの言葉を頂けるでありんす…!』

 

『く、くぅ~! わ、私だって命令さえあればそんな国滅ぼせるもん!』

 

『ですが命令が下ったのは私でありんす。守護者最強であるこのわ、た、し、が! ああ、これは最も信頼されている証拠なんでありんしょうかぇ…! シモベとしてこれ程喜ばしいことはないでありんす。ちび助はそこで私の活躍を楽しみに待っているのがいいでありんしょう』

 

『な、なんだとー! この偽乳!』

 

『なっ…! だ、黙りなさいこのちび! あんたなんか無いでしょ! 私は少しは…、いや結構あるもの!』

 

『私はまだ76歳、いまだ来てない時間があるの。それに比べてアンデッドって未来が無いから大変よねー、成長しないもん。今あるもので満足したら、ぷっ!』

 

『おんどりゃー! 吐いた唾は飲めんぞー!』

 

『うっさいこの男胸!』

 

『な!? 帰ってきたら絶対ぶつ!』

 

『ふーんだ!』

 

 

そんな軽口を叩き合っていたはずなのにシャルティアは帰ってこなかった。

 

 

「バカ…、何やられてんのよ…。私をぶつんじゃなかったの…?」

 

 

強く握りしめられた掌からはわずかに血が滴っている。

すぐにシャルティアの為に動けないことが悔しくてしょうがなかった。

憎たらしくて生意気な奴だが、大事な仲間なのだ。

 

 

「ねぇ、シャルティア…。あんた誰に殺されたの…?」

 

 

アウラはただシャルティアを想う。

 




次回こそ『ルベドのだいぼうけん』今回はエ・ランテルに着けなかったよ…。


フォーサイト「さっさととんずら」
ペストーニャ「乳出しNG」
ルベド「イエーイ」
エルフ王「娘強すぎンゴw」
エルフ達「エルフの祖とか偉大すぎw」
アウラ「犯人絶対探すマン」


ごめんなさい、次回でエ・ランテル行きますので…。

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