Angel Beats! ~expressionless boy~   作:ヘビガラス

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六話~困惑~

コツ……コツ……コツ……コツ……

 

暗くなった男子寮の廊下に、少し間延びした音が響く。

天城はやっとの思いで自室に戻り、ドアの鍵を開ける。

と…

 

「やぁ、お帰りー。遅かったじゃない。」

 

不意に部屋の奥から間延びした声が聞こえ、天城は声の主に気づいた。

少し茶色がかった黒髪のイガグリ頭で、背丈は自分と同じ位か。

一見軽そうな性格に見えるが、顔には一昔前の学者が掛けていそうなゴツい丸眼鏡があり、そのギャップが何となく不思議な雰囲気を醸し出している。

 

あぁ、そういえば同室の人が居たのだったな。

結局今まで挨拶出来なかったわけだし、丁度良いか。

 

「あぁ、自己紹介がまだだったね。

蒔田 空(まきた・そら)、それが僕の名前さ。」

 

「天城 諭支です。宜しくお願いします。」

 

「な、何か堅苦しいなぁ…。もしかして、人見知り激しかったり?」

 

「……?別にそういうわけではないですが…。」

 

天城は直感的に、この男は苦手だな、と感じた。

別に嫌いなわけではないが、いきなり馴れ馴れし過ぎる気がする。

それにさっきから、ゴツい眼鏡の奥から覗き込む様な眼が見えて、何とも居心地が悪い。

まるで自分の心の中を覗かれている様な錯覚に陥る。

 

そんな天城の感情を知ってか否か、蒔田はかまわず話し続ける。

 

「これからずっと一緒なんだし、楽しくやってこうよ?」

 

「はぁ…。自分は普通のつもりなのですが…。」

 

「あ、そう?んじゃ良かった良かった。…でさ!

ちょーっと聞きたいんだけど!」

 

「…はい?」

 

「取り敢えず立ち話もなんだし、座って話そうか。」

 

…何だろうか、この男は。

こちらは疲れているし、適当に自己紹介して早く寝たかったのだが、他に質問があるようだ。

もうかなり遅い時間だというのに、何故この男はこれ程までに元気なのか。

 

どんなに大人しい人間でも、心に余裕が無い時は理性的には行動しにくいものである。

半ば強引にベッドに座らされた天城は、珍しく苛立ちを覚えていた。

 

「で、聞きたい事についてなんだけどねー。」

 

「……。」

 

「僕、写真部員なんだけど、うちでは撮った写真で校内新聞とかも作ってたりするんだ。

そうでもしてないと、いつも暇で暇で…はは。

でね、僕もその担当してて、面白そうな事はないかなー、なんて感じでそこら辺をいつもほっつき歩いているのね。」

 

「……はい。」

 

「今日はガルデモのライブがあったから、いつも通り自慢のマイカメラで写真をバッチリ撮って、意気揚々と帰ろうとしてたんだけど。」

 

ガルデモ?知らない名前だな。いや、そんなことよりも。

…今日…ライブ…?

…嫌な予感がしてきた。

 

「生徒会長さんと〈戦線〉の皆さんがいつも通り外でドンパチしててさ。僕はついでにソレを観戦するのがいつもの楽しみなんだ。…で、ここからが聞きたい事なんだけどー。」

 

……あぁ、やはり…。

 

「生徒会長さんと一緒にいたのって…君だよねぇ?」

 

「……。」

 

「綺麗な銀髪でさぁ、遠目に見たらまるで生徒会長さんが二人に増えたみたいに見えてビックリしたんだけど…。

銀髪の人なんてそうそういない、というか、今までで生徒会長さんしかいなかったからさ、ね?」

 

「……。」

 

「僕はちょっと早めにここに帰ってきたからさ、帰ってきた時間的にも君じゃないかなぁ、なんて思うんだけど…?」

 

…面倒だな。

これは、正直に返答して良いのだろうか?

あまり言いふらしても、言いふらされても良い事ではないとは思うのだが…。

一般生徒は巻き込むなとの事だが、それは戦闘に巻き込むな、という事だろうし…。

 

天城は悩んだ末、蒔田に少しだけ話すことにした。

いい加減に話を終わらせて、さっさと休む事を優先したのである。

それ程までに天城は疲弊していたのだ。

 

「…確かにあの時、私は立華さんと一緒にいました。」

 

「やっぱり、そうじゃないかなと思ってたよ!

ねぇねぇ、あの時君は何であんな所にいたの?

もしかして君、生徒会役員だったりするの?」

 

「え、えぇ、まぁそういう事になります。」

 

「じゃあさじゃあさ、君ってまだここに来てそんな経ってないよね?

君みたいな目立つ人をこの僕が見逃す筈がないし、部屋に来たのも昨日だからさ。

でさ、どうやって生徒会役員になったの?

ずいぶん急な選抜だなぁ、と思うんだけど?」

 

…不味い。話が深くなってきている。

このままでは早く休むどころか、むしろ更に遅くなってしまう。

 

「まぁ…色々あったのですが要約すると、立華さんが生徒会役員にして下さったのです。

それで、私が生徒会活動は当然ですが、立華さんのお手伝いもさせて頂いているのですよ。」

 

「へぇ、じゃあ会長権限でもって特別に役員になったんだ。

そこまでして役員にするなんて、君、一体何者だい?

その要約したところについて詳しく教えてくれな」

 

「はい、今日はここまでです。

もう夜も遅いですし、明日もありますから寝ましょう。」

 

天城は少々語気を強めて、蒔田の話を遮った。

もう午前1時を過ぎようとしていて、さすがに集中力も限界だ。

 

何で、もっとと駄々をこねる蒔田を無視して、天城は頭まで布団を被った。

目を開ける事もままならない天城は、それはもうあっという間に眠りについた。

 

「おーい、おーーーい…。

…ちぇー、仕方ないか。」

 

天城の熟睡を確認した蒔田は、渋々自分の寝床へ戻った。

 

「…ふふ。また一つお楽しみが増えたなぁ~。

明日から面白くなりそうだね♪」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「…ぉい。………ってば。……ろぉー。」

 

……………?

何だ……鬱陶しい……

 

「ぬ…よし、これならどうだッ!」

 

ボスッ!!

 

「ッ!?…ッカハッ、ゴホッ、ゲホッ…。」

 

「おー、起きた起きた、朝だよー。」

 

「ゲホッ、ゲホッ……。あ、朝から突然殴るとは、あなたどうかしてませんか?」

 

気持ち良く寝ていた天城は突然みぞおちに重い一撃を受け、少々不機嫌である。

それに対して蒔田は、まるで私に罪はないと言わんばかりに満面の笑みを浮かべている。

 

「まぁまぁ、そう怒らないで。

そろそろ起きとかないと朝ごはんを食べる時間が無くなっちゃうからね。

それはそうと、昨日はずいぶん早起きだったのに今日は普通なんだね。

よほど疲れていたと見た!」

 

「えぇ…まぁ、そうですね、否めないです。」

 

「あちゃー、やっぱりかぁ。

道理で昨日はあんまり話してくれなかったんだ。

んじゃ、今日はごはん食べるついでに色々教えてよ。」

 

…今日も朝から質問攻めか…。

 

「…正直に言うと、昨日のお話の続きはあまりしたくないのですが。」

 

「あ、いやいや、あの話はもういいよ。

誰しも話したくない事はあるしね。無理には聞かないよ。

今日は君自身を知りたいんだ。」

 

「私を、ですか?」

 

「そうそう、まぁ、要はただの雑談だよ。」

 

…何だ、大した事はなかったな。

 

「んじゃ、待ってるから、適当に準備出来たら行こうか。」

 

「えぇ、わかりました。」

 

天城は顔を洗い、制服に着替えようとしたところで、昨日体を洗っていないことに気付いた。

蒔田に少し遅くなると断りをいれて、サッとシャワーだけ浴びていく。

長い銀髪をきつめに結び、今日も頑張ろうと気を引き締める。

 

「すいません、お待たせして。」

 

「え、いやいや、僕が勝手に待ってるだけだから。」

 

「では、行きましょうか。」

 

天城と蒔田は男子寮を出て、食堂へと向かう。

蒔田の話に依れば、朝も軽食程度なら食堂で買えるらしい。

 

食堂に向かう途中、昨夜死闘を繰り広げた場所を通った。

今も何となく夢だったように感じられるが、微かに残る火薬や血の臭いが、それを否定する。

ここで、私は殺し合いをしたのだ。

死なないから、戦争の様なもので仕方ないから、と言うのは簡単だが、やはり思い出すと恐怖が甦る。

…まぁ、慣れの問題だ。

 

そう言い聞かせる事しか、今の自分には出来ない。

…まだまだ弱いな、私も。

 

「おーい、早くー。」

 

「…あぁ、すいません、今行きます。」

 

 

天城達はサンドイッチやらおにぎりやらをお腹に詰め込みながら、他愛もない会話をした。

髪の色綺麗だねー、その眼鏡目立ちますねお気に入りなんですか、ここには慣れたー?、等々。

 

一つだけ重要な会話の内容を挙げるとするならば。

 

「いやー、まぁ、僕もここに来てから長いけど、まだまだ分からない事が一杯でさ。

不安な事もあるだろうけど、その分ワクワクするような事も一杯だからさ。

肩の力抜いて、気楽ーにやってこー。」

 

昨日も似たような内容の会話をした気が…。

 

「私はいたって普通に振る舞っているつもりなのですが…。

それより、蒔田さんはここに来て長いと仰りましたが、実際どれくらいいるんですか?」

 

「うーん…。ここは時間の流れが曖昧だからなぁ…。

多分、3~4年位かな?忘れちゃったよ、はは。」

 

時間の流れが「曖昧」…?

どういう事だ。それに、ここは見たところ高等学校。

私の名前が書かれていた生徒手帳に書いてあったのだ、ほぼ間違いないであろう。

…何故、生徒が3年以上在校しているのか?

それもこの世界のルールだというのか?

 

「すいません、この学校は卒業や進級の概念が無いんですか?」

 

「ん?…あぁ、そういえば無いねぇ、ここは。

そんなこと考えてもみなかったよ。

まぁ…多分それは、この世界が」

 

「死後の世界だから…ですか?」

 

「あれま、知ってたか。

それもそうか、普通は死んだ時の記憶あるもんね。

何となくそこから予想は出来るか。」

 

…普通どころか、生きていた時の記憶も、更には名前すらも覚えていない私は一体。

…考えるだけ虚しくなって、寂しくなってきた。

それはさておき。

 

「では、ここにいる教師達や生徒達は、ずっとここにいるんですか?

それに対して、皆さん何も思わないのですか?」

 

「うーん。ずっといる人もいれば、いつの間にかいなくなってたり、突然出現する人もいたりするんだよ。

まぁ今のところ教師達はずっと変わっていないんだけど。

皆もあまり気にしてないみたいなんだよね。

正直、それについては僕自身もよくわかってないんだ。」

 

…あ、これはあれだろうか。

以前立華さんがお話ししていた、この世界には元々の住人と、来てしまった人がいる、という事なのだろうか。

今の話から察するに教師達は、ほぼ全員ここの住人ということで間違いないだろう。

だが生徒達の中には、それ以外の、私や蒔田さんの様な人も紛れている、というわけか。

…それと、いつの間にかいなくなる、というのはどういうことだろう。

時間が経っても卒業出来ないにも拘わらず、いなくなる?

来た時の様に、何か条件を満たせばここから出られる、ということか?

しかし、ここでは死ぬことは出来ない。

では、一体何が条件となっているのだろうか?

 

「おっと、もうあと5分ちょっとで授業だなぁ。

ま、疑問は尽きないと思うけど、その答えを探すのもここでの楽しみの一つだと思うよ。

なにせ、ここでは自分から何かしないとずーっと同じことの繰り返しで、つまらないったらありゃしない。」

 

ははは、と軽く笑い、蒔田は歩き去って行った。

 

…さて、私も行かなければ。

 

結局、蒔田さんもよくはわかっていないようだ。

だが、わかったことも少しある。まず、教師はアテにならない。

次に、この世界の住人でないのは、とりあえず立華さんと蒔田さんの二人だ。

何かあった時は、この二人を頼りにしよう。

最後に、何らかの条件を満たせばここから出られる。

これについてはまだ確信はないが、恐らくそういう事だろう。

もしかしたら、その条件を満たす過程、あるいはその後に私の記憶も戻るかもしれない

どうせ制限時間は存在しない。

蒔田さんの言うとおり、気長にやらせて頂くとしよう。

 

天城は考えを整理すると、思い出したかの様に少々慌てて教室へ向かった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

―旧校長室・現〈戦線〉作戦本部―

 

天城が丁度1限目の授業を受けている頃。

〈戦線〉の主要メンバー、つまり、戦闘を主な活動として行っている者達が、おおむね集合していた。

〈戦線〉は基本的に自由行動なので、起床時間もバラバラである。

そのため、よほどの事がないとお昼過ぎ位に人が集まるのが普段の光景である。

つまり、この集合はその「よほどの事」が起こっている事を意味していた。

 

そんな中、中央の校長の椅子に深く座り何か思案していた様子の〈戦線〉のリーダー、仲村ゆりが口を開く。

 

仲村

「朝から叩き起こされて機嫌も悪いでしょうけど、そうも言ってられない緊急事態が発生したわ。

まぁ、何人かは分かっていると思うけど…。

TKと松下五段が揃ってないのはどうしようもないから、取り敢えずこれまでの経緯を簡単に説明します。」

 

日向

「お、珍しくゆりっぺが真面目ー。」

 

仲村

「はいそこのバカ、少し黙る。」

 

日向

「一瞬で切り捨てられた!?」

 

野田

「がはは、いきなりバカ呼ばわりされてやがる。」

 

日向

「なにぃ!?お前だけには言われたくないぞ!」

 

野田

「俺だけにはってのは何だ、俺だけにはって!」

 

日向

「そりゃお前の方が」

 

大山

「あ、あの!ゆりっぺが怖いからそろそろ始めない?」

 

仲村

「人が珍しくちゃんと話をしようとしてるそばから…。」

 

日向

「あ、珍しいの認めた。」

 

仲村

「お前ら3人ともふっとばしてやろうか!?」ダンッ

 

大山

「何で僕も含まれてるの!?」

 

藤巻

「相変わらずだなー。」

 

高松

「えぇ、相変わらずですね。」

 

藤巻

「叩き起こされて一番機嫌悪いの、ゆりっぺじゃね?」

 

高松

「でしょうね。あの様子だと、相当ご機嫌斜めですよ。」

 

遊佐

「…緊急の集会を明日の朝に開くから、どんな手を使ってでも全員を起こして集めるようにと言ったのは、ゆりっぺさんです。

…TKさんは部屋に不在で連絡もつきませんでしたし、松下さんはどうやっても起きませんでしたが。」

 

藤巻

「まじかよ、あれをされて何ともないとか、流石は松下五段だぜ。」

 

高松

「遊佐さんは悪くないですよ。

まぁ、もう少し優しい起こし方もあったでしょうが…。」

 

音無

「俺は早く起きてたから何も無かったが…。

お前ら一体何をされたんだよ…。」

 

椎名

「………浅はかなり。」

 

音無

「いや、浅はかというかむしろ」

 

椎名

「傍ら痛し。」

 

音無

「え?」

 

仲村

「さぁ、椎名さんがかなり珍しくいつもと違う発言をしたところで、話を戻すわよ。」

 

日向

「どんなところだよ…。」ボソッ

 

仲村

「んー?何か言ったかしら。」

 

日向

「(´・ω・`)」

 

仲村

「事の発端は音無君がノコノコ天使のとこまで行って、綺麗な赤色に染まって帰ってきた夜のことです。」

 

音無

「酷いカットだな…。」ボソッ

 

仲村

「コホン!」

 

音無

「(;・ω・)」

 

仲村

「音無君を回収して解散した直後、私は単独でアレに遭遇したの。

私はてっきりこの世界に来たばかりだと思って、懇切丁寧、広辞苑よりも分かりやすくこの世界について説明してあげました。」

 

大山

「アレっていうのは、その…何ですか?」

 

仲村

「で、そのあと〈戦線〉に勧誘してみたんだけど、『天使の居場所は?』なんて聞いてきたもんだから、面倒くさくなったので、適当に教えてあげてその日はおしまい。」

 

大山

「…ですよね。」

 

日向

「どっかで聞いた事があるような展開だな。

ちょっと扱いが雑だけど。」

 

音無

「………。」

 

仲村

「そして昨夜のオペレーション・トルネードよ。

どーせ音無君みたいになって、放っておいてもそのうち〈戦線〉に来るだろうと思ってたアレが、事もあろうに私たちの敵となって現れたってわけ。」

 

大山

「あ!アレっていうのは、天使と一緒にいたあの人のことですか。」

 

仲村

「やっと分かったの?

大山君がアレを狙撃して音無君の窮地を救ったって聞いてたんだけど。

昨日撃った相手も覚えてないの?しかもたった一人なのに。」

 

大山

「い、いや、その…。」

 

日向

「ま、まぁまぁ、話の流れが分かんなかっただけだよ。

オペレーション以前の話は俺たちも初耳だし。

お互いそんな気にすんなって。」

 

野田

「ん?何でお前らは分かってるんだ?

俺はまだ誰の事かさっぱりなんだが?」

 

日向

「こいつのは本物だな…。」

 

野田

「ん?俺が本物だって?当たり前だろ、ワハハ!」

 

仲村

「はぁ…。はいはい!ここからは本当に真剣な話よ。

アレは一体何なのか?

私たちはアレを、今後どのように対処するべきなのかを議題にします。」

 

高松

「そのアレというのは、天使と同じような装備をしていたと聞きました。

そうですよね、音無さん?」

 

音無

「あぁ、そうだった。

俺が天使を撃った後に、アレは腕から剣を生やして突っ込んできたんだ。

恐怖なんてちっとも感じていないみたいで、それはもう、凄い速さだったさ。」

 

大山

「剣を生やす事もそうですけど、いくら死なない世界だからって、来てすぐ恐怖を感じないで戦える人間なんているんですかね?」

 

仲村

「それは、生前にそういう事に慣れていた、と考えれば不思議ではないわ。

うちにだってそういうのはいるじゃない。」

 

大山

「あ」

 

椎名

「…ふん。」

 

高松

「ですがそれでは、剣を生やす事が出来る理由にはなりませんね。

現に、椎名さんは剣を生やせませんから。」

 

藤巻

「…ってぇことはよ、アレは天使と同じようなモンじゃねえのか?

そうとしか言いようがねぇだろ。

そもそもこの世界に来てすぐに天使と手を結べる時点で不自然だ。」

 

仲村

「それもそうね。

一昨日は全く無抵抗だった音無君はほぼ会話する間も無くやられちゃったのに、アレはやられなかったとは考えにくい。

もし仮に、もともとアレが椎名さんみたいに人外級に強かったとしても、自分を襲ってきた存在とすぐに和解するのも考えにくい。

初対面の存在なら尚更ね。では、何がおかしいのか。

藤巻君の考えを考慮に入れて、手から剣を生やすという事実と重ね合わせれば…。

…それは多分、アレは人間である、という前提かしら。」

 

日向

「…っていうことはよ、天使が二人に増えた、ってことだよな?

おー、怖い怖い。」

 

仲村

「あくまで仮説だからそこまで言及は出来ないけどね。

それにアレが天使だと仮定するなら、天使は元々この世界に存在しているわけではなく、何らかの原因でこの世界に来たことになるわ。

まぁ原因は私たちで、送った張本人は〈神〉でしょうけど。」

 

高松

「だとすれば、厄介な事になりましたね…。

ただでさえ天使一人に手を焼いているところに、もう一人ですか。

元々いた天使の増援となると、今までの天使よりも強い存在だったりするのでしょうか?」

 

仲村

「アレの戦闘力や思考回路はまだ未知数だから、油断は出来ないわね。」

 

音無

「もしそうだとすれば、これからはオペレーション以外の時でも一定の対策が必用になるな。」

 

仲村

「そうね。でも、そのためにはまだ情報が少ないのも否めないわ。

とりあえず、普段は必ず二人以上で行動して警戒にあたる、位の対策しか無いわね。

…それと、戦闘メンバー以外の人が襲撃された時の救援要員として、ここに日替わりで2~3人待機させましょう。

良いわね?」

 

日向

「はぁ…。俺たちの時間を奪いやがって…。

ま、しゃーないか。」

 

野田

「なぁ、対策はそれで良いにしてもよ。

これからずっとアレの事を『アレ』って言うのか?

ちょっとわかりづらくねぇか?」

 

仲村

「ん?…そういえばそうね。

アレは男子の制服着てるから見た目ですぐに判別出来るけど、さすがに会話の中では面倒ね…。

何か良い名前の案ない?」

 

日向

「その辺は適当で良いんじゃないか?

あまり難しくしても余計に面倒だし。

…例えば『天使Mk.2』とか。」

 

仲村

「何その中二並のゴミみたいなネーミングセンス。」

 

日向

「酷ッ!即答かよ!?」

 

大山

「何か特徴があればつけやすいんですが…。」

 

藤巻

「『天使男』。」

 

仲村

「…どっかの公共交通機関オタクっぽいから却下。」

 

音無

「(きっと〈戦線〉の名前もこんな感じでテキトーなんだな)」

 

大山

「『天使モドキ』なんてどうですか?

何か響きが可愛らしくて、天使と断定出来ていないのを端的に」

 

仲村

「はぁ…。どうやったらそんなふざけた名前が出てくるの?

そんなに『私はバカですよ』アピールがしたいわけ?

ここにいるのが全員バカなのは分かってるから、そんなアピール必用無し。」

 

大山

「やっぱり今日は僕の扱い酷くなってませんか!?」

 

日向

「いや…お前だけじゃないから。」

 

音無

「あー、もう!お前らこんなどうでもいいことに時間くいすぎだろ!」

 

仲村

「何よ、じゃあ音無君には何か良い案があるのかしら。

言ってごらんなさいよ。」

 

音無

「男子の制服着てるから、見た目は分かりやすいんだろ?

だったらそのまま名前にすれば良いじゃないか。

『黒天使』、とかさ。」

 

仲村

「何かどっかで似たような名前を聞いた事があるような…。」

 

高松

「でしたら、天使と対称的にして、『堕天使』なんていうのは?

これで黒っぽいイメージは出来ますし。」

 

仲村

「どこか中二臭いけど、パクりっぽさは無くなったから一番マシか。

じゃ、暫くは『堕天使』でいきましょ。

遊佐、皆に連絡よろしく。」

 

遊佐

「…分かりました。」

 

仲村

「では、これにて解散!

今日はとりあえず椎名さんと音無君がここで待機するように。」

 

音無

「…え?」

 

仲村

「当たり前でしょ?

音無君は一番新人で、したっぱなんだから最初に残る。

でも救援要員だから、強い人も入れなきゃいけないので椎名さんをつける。

はい説明終了、じゃね♪」

 

日向

「お疲れさん、お先~。」

 

大山

「音無さん、ありがとうございます。」

 

藤巻

「悪ぃな音無。」

 

高松

「何事も経験ですよ。」

 

野田

「ま、当然だな!」

 

キィ…バタン……………

 

音無

「……。」

 

椎名

「……。」

 

遊佐

「……。」

 

音無

「あ、あの、遊佐も残るのか?」

 

遊佐

「…連絡役ですから、当然。」

 

音無

「あ、そうだよな、そうだった、はは、ははは、はは…。」

 

椎名

「……。」

 

音無

「(気まず過ぎるだろ!?

何でよりにもよってこんな無口な人間の組合せなんだ!?)」

 

椎名

「………音無。」

 

音無

「え、あぁ。どうした?」

 

椎名

「お、お前は犬派か?…それとも猫派…なのか?」

 

音無

「………へ?」

 

遊佐

「(椎名さん、あれでも人を気遣う心があったのですね…。

自分から話題を振るとは…。

照れ隠しか、顔が少々ひきつってますが…。)」

 

音無

「(突然何だ…?

あの椎名が、といってもまだ少ししか姿を見ていないわけだが、話し掛けてくるなんて…?

こ、コレはまさか、試されている?何かされるのか!?)」ガクガク

 

遊佐

「(かえって逆効果だったようですね。)」

 

 

以後椎名は、より無口に、音無は椎名に極力近づかないようになってしまったそうな。

 

…第一印象というモノは、やはり大切である。

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