Angel Beats! ~expressionless boy~   作:ヘビガラス

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七話~偵察~

「失礼しました。」

 

職員室から出た天城は、大量の書類が入った箱を抱えていた。

放課後の生徒会活動で処理するものだ。

学校自体の規模が巨大なだけあって、やることも山積みである。

 

…もう少し役員を増やしても良いのではないだろうか。

立華さんに尋ねると

 

「立候補してくれる人がそんなにいないから…仕方ないわ。」

 

と、なんとも悲しい実情を語ってくれた。

本人は何とも思っていないようだが、他の役員は相当お疲れの様である。

それゆえに、天城を飛び入り参加させた立華の決定に異を唱える者はいなかった。

むしろ歓迎される形となり、早速書類の整理を任されている。

やや肩透かしを受けた気分だが、結果的には良かったのだろう。

これで堂々と生徒会の活動、ひいては立華さんのお手伝いに専念出来るのだから。

と…

 

「ん?…楽器…歌も聞こえるな。」

 

上の階からだろうか。少々聞き取りづらい。

女性の声、かな。部活か何かだろう。

歌か…興味があるな。誰が歌っているのだろうか。

一段落ついたら、ちょっと寄ってみよう。

 

そういえば…一人だけ変わった人物がいたな。

直井…文人、だったか。

あの人も別に私の参加に反対していたわけではないし、普通に笑顔で接してくれた。

だが、明らかに目が笑っていなかった。

何というか…何かを見極めようとしているような雰囲気だった。

蒔田の、単なる好奇心から人の中を覗き込むような目とは少し異なっていた。

アレが何を意味しているかは分からないが、怪しまれていることには違いない。

…とりあえずは要注意、といったところか。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「えーと、飲み物は…よし、ちゃんと4つあるあるー♪」

 

夕暮れ時。

自販機の前で自分の買ったものを確認して、上の階の教室へと急ぐ一人の少女がいた。

〈戦線〉の服装で、赤毛の長い髪と小悪魔のような尾を揺らしながら急ぐ彼女は…

 

「ふぅ、ふぅ…えーと、あれ?」

 

目的地である教室の前に、一人の少年がいることに気づいた。

その少年は踵を揃えてまっすぐ立っていて、教室の中を眺めているようだった。

見ているだけで態度を改めねばと感じさせるような雰囲気を醸し出していたが、それ以上に目についたのは括ってある長い銀髪。

制服を見なければ、女子生徒かと見間違うような美しさであった。

 

「…あ、えと、あのー、どちら様ですかぁ?」

 

思わず少し見とれていた彼女は、その少年に慌てて話しかけた。

 

「………。」

 

「おーい、聞こえてます?」

 

「…え、あ、すいません。」

 

少年は考え事でもしていたのだろうか、少し驚いた様子でこちらに顔を向けた。

 

「何かご用ですかーって聞いてるんですけど。」

 

「いえ、特には…ただ、彼女達の曲が聞こえて、少し気になったので。」

 

「ふぅん…少し、ねぇ…まぁ、今はガルデモの皆さん練習中ですから、部外者はちょっと。」

 

「いえ、ちょっと見てみたかっただけですので。

どんな方が演奏しているのかなと。

…ガルデモ、というバンドなんですか、彼女らは?」

 

何気無い少年の質問は少女を驚愕させ、同時に呆れさせた。

 

「えぇぇ…ガルデモ知らないんですか?

学校の中で知らない人はいない、あの〈Girls Dead Monster〉をですかぁ!?」

 

「え、いやその、えーと…まぁ、そうなります。」

 

「はぁ…何なんですかこの人は…。

そんな事も知らないなんて、今まで何してきたんですかッ!?

アホですか、アホですね?今までで人生の半分以上を損してますよッ!?」

 

「は、はぁ、すいません。」

 

この世界の人間は既に死んでいるのだから人生と言われましても…とは言えなかった。

そもそも趣味の違い程度で見知らぬ人にアホ呼ばわりされるのもいかがなものだが、少女の凄まじい剣幕に気圧されて、とりあえず謝罪の言葉しか出なかった。

随分と表情豊かな少女である。

 

「昨晩のライブをしていたのは、もしかして彼女達、ええと、ガルデモなんですか?」

 

「もっちろん!ガルデモ以外の理由であんなに人が集まるわけないですよ。

それだけ、ガルデモの皆さんが素晴らしいって事なのです!」

 

「そうなんですか…。」

 

そこまで言われて、少年は納得した。

目の前の教室にいるガルデモのメンバーは全員〈戦線〉の服装をしていた。

彼女らが〈戦線〉の一員なのであれば、その活動を〈戦線〉が支援するのも最もなことだ。

道理で昨晩は、たかがライブのためだけにあんな派手な戦闘が展開されたのだろう。

…ふと気付くと、目の前の少女も〈戦線〉の服装をしていた。

 

「…ところで、沢山お飲み物を持っているようですが貴女はマネージャーか何かですか?」

 

「え?えーっと…マネージャーではないですが、ガルデモの皆さんに憧れている純粋な乙女です!

なんで、たまにお手伝いしてまーす。」

 

乙女…いや、何も言うまい。

とにかく、彼女がマネージャーでもないのに積極的にお手伝いするということは、ガルデモとはそれなりに親密な人間なのだろう。

失礼ではあるが、どうやらこの少女は少々口が軽そうだし、見た目も目立つ。

ガルデモについて調べる時には、彼女は利用出来そうだ。

ならば、何とかして名前を聞いておくべきだろう。

 

「そうでしたか。えーと、もしよろしければお名前を伺ってもいいですか?」

 

「え?何でですか?」

 

…誉めれば崩れるかな。

 

「いえ、それほど素晴らしいガルデモの皆さんとお知り合いの方とあらば、この機会にぜひ顔見知りの間柄になりたいなと思いまして。

あ、申し遅れました。私は天城といいます。」

 

「あ、やっぱり思います?やっぱガルデモの皆さんカッコいいですよね!

えへん、そこまで言うなら仕方ないですねぇ、私の名前はユイ!

ユイにゃんです!」

 

「…ゆ、ユイさんですね、分かりました。」

 

…思った以上にチョロかった。

というか、目の前で物凄い自信満々にポーズを決められたが、見ているこちらが恥ずかしくなりそうだ。

 

「おーい、そんな所で何してんだ?」

 

不意に教室の扉が開き、中から茶髪の女性が話しかけてきた。

 

「あっ、すいませーん。今行きます。」

 

ユイはとっさに隅に置いていた飲み物達を抱えながら女性に謝罪する。

このあと立華さんの部屋に行く予定もあるので、今日はこの辺が潮時か。

 

「お時間を取ってしまってすいません。

私はこの辺で失礼させて頂きますね。」

 

「え?いえいえー。」

 

天城は軽く頭を下げると、ユイに背を向けて歩き去っていった。

 

「変わった雰囲気の人ですねぇー。」

 

「なぁ、さっきのは何だ?ウチらに用があったんじゃないの?」

 

「いえ、何かガルデモの皆さんを見てみたかっただけーとか言ってましたよ?」

 

「ふーん…ま、ならいいけど。

ほれ、皆待ってんだから、入った入った!」

 

「はーい。」

 

二人が教室に入ると、廊下はいつもと変わらぬ人気の無い静かな空間へと戻ったのだった。

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