奥へ、奥へ、奥へ。私達はアリーナを突き進む。
何度かのエネミーとの戦闘もあったが、未だ慎二に鉢合わせる事はなく、今のところは入り組んでもいないアリーナを、下へ下へと降りていく。
どんどん海の底へと下っていくようで、心は寒さを感じ始めていた。元々、深海なんて人間が生きる世界ではないのだから、そう感じるのも当然の事かもしれない。
だけど、孤独ではない。私には、アヴェンジャーが居る。
私の隣で、共に歩いてくれている。だから、私は深海へ降りて行っても平気だ。一人じゃないという事が、こんなにも心強いなんて、なんだか不思議な気分ではあるが。
「うーん……それにしても、何故に?」
進んでいるうちに、私達はレアアイテムフォルダを見つけたのだが、その中身というのが───
「みかん、ね」
アヴェンジャーはアイテムフォルダから出て来たみかんを、片手で頭上に翳して眺め回している。
そう、何の変哲もないみかん。漢字で書くと『蜜柑』。ジャパニーズ・コタツの相棒としても海外に広く知られているであろう、その冬のおこた仲間が、何故か、こんなアリーナで、しかも海底で現れたのである。
それを疑問に思わないのは、人としてズレているに違いない。
「みかん。果てしなくみかん。どこからどう見てもみかん。もしや、と思うもやっぱりみかん。……焼いて食べたら美味しいかしら?」
いや、串焼きの準備は止めてねアヴェンジャー?
確か、タイガーがみかんがどうのこうの言っていた気がするし、多分これの事だろう。
それにしても、分からない。何故、アリーナのこんな奥地でみかん? まさかタイガー、アリーナに何か良からぬ事でもして、みかんを発生させたのだろうか。
……それはないか。だって、あのタイガーだし。だって彼女はどうしようもない善人だもの。周囲を巻き込む台風のような人物ではあるが、それと同じくらい他人の為に動けるのが、藤村大河という
たとえ、悪性の神に取り憑かれようとも、その根本が塗り替えられる事はないだろう。
まあ、多少は人格に今以上に更なる
私の勘は三割当たる!! …………多分。
「またおバカなコトを言って……。はい、コレ。さっさと仕舞いなさいな」
アヴェンジャーが手に持ったみかんを投げて寄越す。
おっと、危ない危ない。上手くキャッチ出来た。
私はポケットから端末を取り出して、受け取ったみかんを端末へと転送する。
むぅ…タイガーがどうしても必要としているという事は、このみかん……もしかして、何か特別な代物だったり?
そう思い、アイテムの項目から確認してみるが、どうという事はない、『ごく普通の温州みかん』でした、ハイ。
いや、温州のみかんという辺り、こだわりがあるのかもしれないが……何故、こんな月の、それも電子の海に……?
全くもって、謎は尽きぬ限りである。
更に奥へ進み、またしてもレアアイテムフォルダを発見した私達。私は早速、そこへと駆け寄ると、アイテムフォルダへと手を伸ばす。
すると、中から出て来たのは、小振りの短刀だった。少し古ぼけており、それがより味を出しているように見受けられる。
「あら、今度は礼装ですか。私のマスターにしては、案外ツイてるわね」
グイッと私の肩から顔を覗かせるアヴェンジャー。あの…色々と当たってます……。
そんな事は気にも留めず、アヴェンジャーは私の手から短刀をヒョイと奪い取ると、ジロジロと品定めするように眺め回し始める。
「……………、ふーん」
あらかた見終えたのか、途端に興味を無くした彼女は、短刀を元の私の手の中へと返却すると、溜め息混じりに言う。
「コードキャストは、まあいいでしょう。それなりに有用なものだと思うわ。でも、私の好みじゃないわね、ソレ。見た目もボロッちぃし。ま、そのくらいがマスターにはお似合いかもだけど」
……。ハッ! 今、そこはかとなくバカにされた!? いや、むしろおおっぴらにバカにしたよね!?
なんて失礼なサーヴァントなの! マスターの顔が見てみたいわ!!
……私だった。
「ともかくとして、あのモノクルで端末越しに装備しなくても、マスターが直接身に付けても礼装は使えると分かったのだし、それは護身用にでも腰に提げておきなさい」
それは確かに、一理ある。エネミーはともかく、敵マスターやサーヴァントと遭遇した時、私の身が必ずしも安全とは言い切れない。
不意打ちや騙し討ち、マスターを狙った攻撃が可能性として無いと否定しきれないのもまた事実。
無いと断定出来ない以上は、少しでも身を守れる手段は持っておいて損はない。
「見たところ、それには破魔の効果も少しは見られるようですし、サーヴァントはともかく、敵マスターからのスキルには対抗手段として申し分ないはず。ホント、良い拾い物したわよ」
うん。と肯定を返し、私は短刀──『守り刀』を腰に提げようとする。
しかし、ここで重要な欠陥に気がつく。
「腰から提げられない…だと……!?」
そうなのだ。私はSAMURAIでもなければ、NOUMINでもない。どこにでもいる普通の可愛い女子高生なのである。
故に、腰帯なんてスカートに付いてないし、ベルトを通す箇所さえない。だってそういう制服だもの!
どうしよう……まさかパンtゲフンゴホン! 下着に仕込んで「仕込み刀です。なんちて☆」などとふざけた真似も出来るはずもなく……。
どうしたものかと頭を抱える私の耳に、ジャラリ、という金属音が聞こえてくる。というか、これは──鎖の音?
「そんな事だろうと思ったわよ、まったく……。ほら、コレあげるから使いなさい」
振り返ると、アヴェンジャーが自らの甲冑に付いていた鎖の一部を引きちぎり、私へと差し出していた。
「え……いい、の?」
「いいわよ、別に。減るもんでもなし、どうせマイルームに戻れば再生出来るんだし。ほら、ちょっとジッとしてなさい? 付けてあげるから」
と言って、アヴェンジャーは私から短刀をひったくると、鎖と短刀の鞘を外れないように固定し、余った鎖の部分で私の腰に一周させる形で装着させる。
「どう? 密着させすぎると肌を傷つけるから、少し余裕を持たせて尚且つ腰からずり落ちない程度にしたけど」
えっと、地肌に直接じゃない分、そこまで痛くないし問題ないです。長時間だと流石に擦れて痛いかもだけど……。アリーナの探索くらいなら問題ないかな?
「あっそ。ならいいわ。今は即席だけど、今度からは自分で装着出来るように。後で加工しといてあげましょう」
なんだかんだと、優しいところのあるアヴェンジャーさん。やだ、すごく姉御肌……!
「ッ!!? な、なんかすごい鳥肌が立ったんですけど!! アンタ、今何か変な事を考えたんじゃないでしょうね?」
思ってませんとも。ええ、これっぽっちも、そんな変な事なんて考えてませんよ?
私を疑いの目で見ていたアヴェンジャーだったが、再び溜め息をつくと、私から顔を反らしてしまう。ちょっと機嫌が悪くなったみたいだ。
そうこうしているうちに、彼女は私を置いて先へ進んで行こうとする。私も、慌ててその後を追って走り出す。
いやぁ、それにしてもアヴェンジャーをからかうのって、後が怖いけど面白いな~。
そして、ゴールは案外あっさりと到着した。
礼装を入手して僅かな距離に、帰還用のポータルが設置されていたのだ。
無論、ポータルの前には道を塞ぐようにあの鎌の生えたエネミーが配置されていたのだが、アヴェンジャーに掛かれば何のその。
彼らは仲間の鎌で作られた、アヴェンジャーお手製の煉獄の鎌で、瞬く間にその
「ふう……辺りにエネミーの気配は無し。一息つけますね」
鎌を消し、旗を杖代わりに体重を掛けて休むアヴェンジャー。一休みする彼女を横目に、私はポータルへと続く通路、更にそこへと至るまでに存在する分かれ道へと足を運ぶ。
その先には、緑色をしたアイテムフォルダが鎮座している。そう───
「二つ目の、
昨日は取り損ねたが、ようやく決戦へと赴く鍵が手に入る。これさえ取ってしまえば、ひとまずは安心だ。
これで、問答無用で決戦当日に不戦敗、なんて事はなくなったのだから。
「……」
私は自然と唾を飲み、手に汗を握っていた。
アレを取れば、私は決戦の地へと誘われる。マスターとマスター。そのサーヴァントとサーヴァントが雌雄を決し、命を奪い合う、正真正銘の戦場へと。
否、言葉を濁すまでもない。間違いなく、そこは死地であろう。そう、私は、殺し合いに向かおうとしているのだ。
それは自分の意思とは関係無く、否応無く、参加を余儀無くされた私に残された一方通行の道。
私が生き残るために示された、たった一筋の道だ。
私は、この道を歩むしかない。そうしなければ、生き残る事は出来ない。そうでなければ、生きると決めた私に手を差し伸べてくれたアヴェンジャーに申し訳が立たないから。
意を決し、私は足を踏み出す。トリガーが全て揃えば、もう後戻りは出来ないだろう。戦いへと向けて進むしかない。
それでも、私はトリガーを手に入れよう。前へと進もう。
まだ、この先に何が、その果てに何があるのかは分からない。けれど、ただ“生きる”為に歩き続けよう。
それしか、ないのだから。
そして、私はアイテムフォルダに手を触れた。光と共に、中から現れたのは『トリガーコードベータ』。
トリガーは私の手に触れると同時、端末へとデータの波となって吸い込まれていった。
これでトリガーは揃った。後は、決戦の日に向けて、少しでもアヴェンジャーの力を取り戻す。それと、ライダーの真名を突き止めねば……。
「あら、どうやらトリガーは揃ったようね」
私が戻ると、なんとも呑気に座って出迎えるアヴェンジャーの姿が。
私の先程の決意の時間を返してくれ、と言いたくなるのを何とか堪え、彼女の元へと歩み寄る。
彼女がこうして呑気に座れているという事は、この辺り一帯は今、彼女視点では安全地帯という事になる。
「ライダーの気配は?」
「無い。というか、ここに来るまでに一切の気配を感じなかったわ。多分、私達がここまで来る前に帰還しているでしょう」
舌打ちと共に、吐き捨てるように述べるアヴェンジャー。彼女からしてみれば、ライダーへの雪辱はまだ晴らし切っていないのだろう。
だからこそ、今回慎二達に遭遇出来なかった事に苛立ち、同時にやる気も失せて座り込んでいたらしい。
「トリガーも揃った事だし、これだけは言っておきます」
と、だらしなく座ったままの姿勢で、気怠げに言葉を紡ぐアヴェンジャー。一体何を……?
「いい?
「……、」
「そして、それは相手にとっても同じ事。だから、死に物狂いで抗いなさい、マスター。あなたはこの月の聖杯戦争において、最弱のマスター。故にこそ、誰よりも醜く、生き汚く、足掻きなさい。それはあなただけに赦された特権です。最初から何も持たざるあなただからこそ、誰よりも油断なく、慢心なく、生にしがみつけるのだから」
それは、私を肯定する言葉だった。
持っていないからこそ/醜く抗っていい。
弱いからこそ/生き汚くもがいていい。
私はどんなに無様であっても、足掻いてもいい、と。そう、彼女は告げていたのである。
───だからこそ。そんなあなただったからこそ、
「さて、と。エネミーもほとんど刈り尽くしてしまったようだし、あのワカメと海賊の海鮮主従も居ないようだし、そろそろ帰りましょうか。帰ってから一仕事ある訳だしね、ソレの」
顎で私の腰辺りを指すアヴェンジャー。ああ、鎖の簡易ベルトの事か。
意外にも器用な一面もあるアヴェンジャー。本当に復讐者なのかと疑いたくなる職人スキルだが、あえてツッコまないぞ、私は。
ただでさえ悪い機嫌を、ここで更に悪化させれば、へそを曲げてベルトの加工をしてくれないかもだし。
なんとなく、アヴェンジャーの扱いにも慣れてきた私、偉い。多分このサーヴァントと上手く付き合えるマスターは、世界中を探してもそうそう居ないと思うし。
彼女の性質からして、一流のマスターはまず彼女の在り方を受け付けない。だって、彼女はあまりにも不確定要素で満ちている。
気まぐれで気分屋。負けず嫌いな上に短気。マスターにすら喧嘩腰で、アヴェンジャーという謎多き特殊クラスときた。
一流のマスターなら、契約の時点で拒絶を示すだろう。彼女はそれだけ、異質な存在なのだ。それはきっと、サーヴァントとして、英霊としても同じ事が言えるはず。
彼女と契約出来るとするなら、それは普通のマスターではないに違いない。それこそ、人並み外れた寛容さを持っているか、私のように生きる為には手段を問えなかった者……みたいな。
いや、別にアヴェンジャーと契約したのが失敗だったとは思わない。だってああ見えて、年相応の女の子らしさも持ってるし、一緒に居て何より飽きないし楽しい。
……ああ、どうやら私も
ポータルから帰還を果たした私達は、購買で夕食を買ってからマイルームへと戻ってきた。
アヴェンジャーは何やら、購買で私からせしめたお小遣いを使い買っていた。手元がゴチャゴチャしていたので、加工に必要な素材だろうか。
「帰ってきたわね。さて……」
これまた、ポポポーイ、という音でも聞こえそうな気がするくらい、甲冑やガントレットを華麗に脱ぎ捨てていくアヴェンジャー。
いや、いくらなんでも早すぎだろう。
「腹ごしらえ前に、ちゃちゃっと済ませるから、ちょっとこっちに来てくれる?」
「あ、うん」
ちょいちょい、と私を手招きするアヴェンジャーに、私は二つ返事で了解すると、彼女の側まで近寄る。
「あのワカメも、あなたを警戒し始めたようね」
ガチャガチャという鎖の音を鳴らせて、世間話でもするような気軽さで語りかけてくるアヴェンジャー。
作業しながらでも、会話くらいは普通にこなせるらしい。
「トリガーは解決したとして、あとは私達自身のレベルアップね。泣いても笑っても、後一日しか猶予期間は残っていません。明日は悔いの無いように、準備を怠らない事ね」
そうか……。もう、明日が最後の一日なんだ。
明日を過ぎれば、後はもう慎二と戦うだけ。逆を言えば、明日が過ぎてしまえば、慎二と戦わなくてはならない。そして、私達は決定的に情報に欠けている。
クラスは分かった。世界的に有名な海賊であるという事も分かっている。
だけど、その真名が分からない。彼女がどこの誰で、いつの時代を生きた英雄なのか。どんな逸話を持っていて、どんな伝説が語られているのか。
それが、解らない。解明出来ないでいた。
明日が最後というなら、それがラストチャンス。明日、彼女の真名に至る情報を得られなければ、万全とは言えないままに決戦へ臨む事となる。
それだけは避けたい。聖杯戦争での情報が如何に重要か、昨日の戦闘で嫌という程に思い知っていたのだから。
少しのデータ開示だけで、あの効果だ。決戦へと挑むに当たり、最弱のマスターである私には敵サーヴァントの真名を掴むのは勝利への最低絶対条件だろう。
私個人のスキルで補える程、慎二は弱くないし、これから先の聖杯戦争でも、それは変わらない事実。
「そうだね……。
「分かっているなら、それでいいわ。…もうちょいで……」
私が考え事をしている間にも、作業は進んでいたようで、
「ん……行けた!」
ガチャリ、と一際大きな金属音がして、私の腰から鎖のベルトが取り外される。それにより、少し開放感を得た私は、軽く体を伸ばす。
「これは私が加工しておきますから。まあ明日には出来上がってるでしょう。ありがたく思うコトね?」
そう言うや、アヴェンジャーは私から取り外した簡易ベルトと、購買で買ったカップラーメン片手に、いつの間にか彼女の専用スペースとなっていた窓際で、作業と食事の両方を器用に開始した。
ちなみに、ポットなんて便利なモノはマイルームにはないので、保健室で桜に湯沸かし器を借りました。
便利だよね、保健室。むしろ、あそこに住みたいレベルで色々揃っているので、保健室をマイルームにしてしまいたい程である。そうすれば、桜も喜んでくれそうな気もするが、それは出来ない話なので諦めるとするか。
私も夕食に買った焼きそばパンにかぶりつく。そこ、「いつも焼きそばパン食べてない?」とか言わない。
今日は他にもカレーパンを買ったのだ!
種類が一つ増えただけで、ちょっと豪勢になった気がする私って、貧乏性なのだろうか……。
まあ、とにもかくにも、明日だ。明日次第で、私達の運命は大きく左右される事は間違いないだろう。
明日、どんなに小さな情報でもいいから、少しでも
そんな事を思いながら、私は焼きそばパンを食べ進めるのだった。
あ、タイガーにもみかんを渡さないと。
☆4サーヴァントの宝具レベルがカンストしていく我がカルデア事情……。
知ってるかい? うちの☆4ロリ鯖代表ナーサリーといばらぎん、宝具レベル5なんだぜ……?
まあ、エミヤ(殺)やヴラド(槍)とか、エレナ様とか他にもまだ色々カンストしてる鯖が居るのですが。
それはともかく、オリジナル鯖を考えるのって楽しいよね。
実は出せたら良いな程度で一つ、案が固まってるのがあったり。ちょっとご紹介。
???(クラス・ランサー)
自称、『人類最古の中二病』。男性。
自身を聖なる者とし、真の聖者の遣いであると自負するイタい人。設定ではなく、その逸話からガチの邪気眼もとい魔眼持ち。
といっても本人は魔とか嫌いなので魔眼の呼称は嫌っているが。
さて、この少ない情報で私が考えている英霊が誰なのか、分かる人は居るでしょうか?
別に感想の催促ではないので、ご自由にご想像下さいね。そして当たっていれば、おめでとうと祝福しましょう!
まあ、その程度のオマケという事で。