私は存在を奪われた。
本来在るべき居場所は消え去り、『私』という存在意義さえも、真っ黒に塗り潰されて。
在るべき、至るべき未来は、違うものへと変貌した。そこに、私の居場所はどこにもない。
『私』は確かにそこにある。
だけど、私はそこには居ない。本当なら、月の聖杯戦争に参加するのは『私』と彼女ではなかったはずだ。
なのに、彼女が存在してしまった事で、因果が狂ってしまった。
異世界───平行世界からの来訪者。それが、彼女の正体だ。
本来なら、この世界に存在し得ないはずの彼女が、月の聖杯戦争に介入するという、同じく本来なら有り得ないイレギュラーの発生。
それは同時に、私というバグの発生を引き起こした。
『私』はそのまま覚醒したが、バグにより私という狂った概念が誕生してしまったのだ。
だからこそ。
だからこそ、私は『私』を許してはならない。
私は彼女を許せない。その所業を赦せない。
私という概念が、彼女という存在の為に産み落とされ、彼女が『私』と手を取り合ったが故に私の価値が奪われた。抹消された。
私が歩むべき道は、彼女によって閉ざされたのだから───
───許せるはずがない。
だが、私が生まれたのは彼女のおかげでもある。こんなバグとして生まれたくはなかったが、でも、それも少しはありがたいかもしれない。
彼女というイレギュラーによって生まれた私は、『私』とはその体を構成するものが異なったからだ。
『私』を構成するのは、他のマスターやAI、NPCと何ら遜色ないありきたりのデータに過ぎない。
しかし、私を構成するのは、月の裏側に封じられし悪性情報によって汚染された霊子。
体の芯まで黒く染め上げられた私に、『私』のような優しさや甘さは一切残されてなどいない。
まっさらだった『私』というキャンバスは、濃厚に醸造された悪性情報によって真っ黒になったのだ。
それこそが私。
イレギュラーによって生まれ、
イレギュラーによって汚染され、
イレギュラーによって邪悪への成長を運命付けられ、
私は復讐を決意した。
あなた達のせいで私は生まれた。
お前達のせいで私は汚染された。
貴様等のせいで私は悪になった!!
ああ…確かに、正当なる復讐ではないだろう。
けれど、私は復讐しよう。
生まれるべきではなかった、芽生えるべきではなかった、この私という穢れた存在を、『私』と彼女に清算させるのだ。
凄惨に、残酷に、無慈悲に、冷血に。
お前達という存在を、私という概念が蹂躙する事で、私の最初で最期の『私』への復讐と為そう。
ふふ……。それこそ、彼女には相応しい結末だろう。
アヴェンジャーたる彼女には、復讐を以て我が誕生の礼とするべきだ。
だが、まだ足りない。
奴らを殺し尽くすには、力が足りない。手駒が足りない。なにより、憎悪が足りない。
今はまだ、その時ではないのだ。
今はただ、『私』が勝ち進むのを待つとしよう。
『私』が育てば、私も育つ。
『私』が対戦相手に勝てば、私が対戦相手を喰らえる。
聖杯戦争、その終結の暁には───私手ずから『私』と彼女を殺せるだろう。
ああ……楽しみだ。
この世全ての悪に染まった私が、
あなた達に復讐する、その時が。