??「心底イヤだけど貴方と契約してあげる。光栄に思いなさい?」
はくのん「え、桜……じゃない?」
邪ンヌ「ドSキャラ被りとか……!?」
保健室から出た私は、そういえばと思い出した事がある。
ライダーとの戦闘に勝利した際、私達は結構な量のリソースを賞品として獲得していたのだ。
「……うーん」
保健室のすぐ前の扉は、教会のある裏庭へと続く道に繋がっているので、ついでだし寄って行こうかと悩む。
夕方だし、時間の余裕はそこまで無いが、魂の改竄くらいなら大丈夫だろうと判断を下した私は、アリーナとは正反対の方向へと行き先をシフトチェンジした。
さて、どれくらい霊格を取り戻せるのだろうか……?
難なく、教会へと辿り着いた。
やはりというか、この時間は人が少ないようで、ここに来るまでにすれ違ったマスターもたったの二人だけ。
皆、今頃は休息に入ったか、それとも未だアリーナに潜っているかのどちらかだろう。
そして私も、改竄が済み次第アリーナに行く予定ではあるのだが。
教会の中は相変わらずの空気の重さで、その発生源はやはり教会の奥。そこに二人して左右に離れて腰掛けている蒼崎姉妹からだ。
「おっ! 最後の予選通過者ちゃんじゃん。どうにか一回戦は無事に切り抜けられたみたいね。いやぁ、お見事!」
入ってきたのが私だと気付いた青子が、重苦しい空気の中、我関せずとばかりに笑顔で手を振ってくる。
というか、今更だけど私の事を覚えてくれてるというのが意外なのだが。
「そりゃ覚えてるって。アヴェンジャーなんてエクストラクラスと契約してるのは、全マスター中でも君だけなんだからね。それに君、可愛い顔してるし、お姉さん覚えちゃった♪」
「そ、それはどうも……」
そう言って、ウインクしてくる青子。率直な感想としては、年甲斐もなくそんな仕草をするのはどうかと───
「───、へっ!?」
刹那、ギュオンという凄まじい轟音と共に、ジュッと肌が焼けるような音を立てて、私のほっぺを太くて光るビームのようなものが掠めていった。
「年が……なんだって?」
私は光線の軌跡を辿って後ろを向いていたが、恐る恐る声の方と振り返ると、そこにはとてもイイ笑顔をした蒼崎青子が、その手の平から白い煙を出しながら立っていた。
心なしか、未だにプスプスという嫌な音が聞こえている気がする。
「な、なんでもありませんです! はい!!」
「そう。いい子ね~。私も可愛い女の子を手に掛けるのは気が引けるし、以後、気を付けるよーに!」
怖い笑顔から一転、にこやかに朗らかな笑みへと変わる青子の笑顔。
誓おう。女性に年の話はしない、と。
私のすべすべぷにぷにほっぺがいくらあっても足りない。いや、命が幾つあっても足りない、の間違いか。
『ビーム! 今ビーム撃ってきたんだけどあの女!? 何? アイツまさかセイバーなの!? ビームとかセイバー共の専売特許でしょう!?』
アヴェンジャーがいつになく取り乱して、何やら訳の分からない絶叫を上げていた。
姿は消しているが、多分とんでもない顔になっているに違いない。
「バカはどこへ行ってもバカなのか? おい愚妹。ここでビームは撃つなと何度も言ってるだろうに。ムーンセルから追い出されても知らんからな。……いや、むしろ追い出されてくれた方が、目障りが居なくなるし好都合か?」
呆れた顔で青子に注意を呼びかける橙子だったが、途中からむしろ追い出されてくれた方が嬉しい的な感じに変わっている。
どうしてそんなに仲が悪いの二人共!?
「いや、しかしそうなると私に改竄の役目が回ってくるか。チッ。やはり愚妹でも居る方がまだマシか」
「うっさいわよ! 私はこの世界できな臭い事が起きそうだから居るってのもあるけど、今はアンタが妙なコトやらかさないかを見張る方が重要だっつの!」
姦しいとはまた違った意味での喧しさだな。これが仲の良い姉妹の可愛い口喧嘩だったなら、どんなに良かった事か……。
「さて、愚妹は無視するとしてだ。用件は……そうだな、魂の改竄にでも来たのだろう?」
隣で(距離は離れているが)喚く青子を余所に、橙子は軽く視線を私に向けてくる。
意識は私へも傾いているようだが、やはり手元は絶え間なく動いている辺り、もう流石としか言いようがない。
「どうかね? 改竄には慣れてきたか?」
「それは……もう何度か来てるから、はい」
私の返事に、橙子はさほど興味は無さそうにではあるが、少しだけ満足そうにしながら続けた。
「結構。君のサーヴァントは、本来ならもっと上位の霊格の筈だ。マスターの魔術階梯に合わせて劣化しているのだろう。早く、元の力に戻してやれ」
橙子のアヴェンジャーへの評価は、私が思っているよりも高いらしい。
確かに、アヴェンジャーはパラメータはまだ残念だが、スキルだけを見れば一流であると素人の私から見ても分かるくらいだし。
橙子の人を見る眼は確かなようだ。伊達に眼鏡を掛けてはいない、という事か。
今度、眼鏡談議を是非したいところだ。
「ふーん? 珍しいコトもあるもんね。橙子が凡人のマスターに声を掛けるなんて。なに、電気タバコばっかでイカれちゃった?」
さっきから無視され続けていた青子が、仕返しとばかりに嫌味を橙子にぶつけるが、橙子は橙子で、その嫌味に対して皮肉げに笑ってみせる。
「ああ、その通りだ。
……悪態をつく蒼崎橙子だが、彼女の言葉には少しだけ違和感があった。
『この体を廃棄したくてたまらない』、とはどういう意味だろうか?
「ん? なんだ、気になるのか? 言葉通りの意味だよ。セラフに侵入した魔術師は、聖杯を手に入れるまで帰れない。しかし、私はマスターではない。侵入した時点で永遠に出られない。であれば、結論は一つだろう?」
……結論は、一つ。
その言葉に、私は肝が冷えた気さえした。それはつまり───、
「死んでもいい自分を作って、セラフに侵入すればいい。用件を済ませば、後は自壊するだけさ」
……えーと……。
正直、意味は分かるのだが、それを実行する精神性が、分からない。
「あー、ほっとけほっとけ。その女、人形好きをこじらせ過ぎて、もうただの変質者だから」
少しばかり混乱する私に、橙子の横からビーム系お姉さんが口を挟んでくる。私へのフォローのつもりだろうが、さりげに橙子を罵倒する辺り、流石の仲の悪さだ。
「コピーと自分の区別とか、とっくにないのよ。天才となんとかは紙一重ってヤツね。なんで、まっとうな私や貴方は、話半分に聞いておけばいいんだって。ほら、そんなコトより改竄していかない?」
と、強引に話題を切り上げ、魂の改竄を勧めてくる青子。
まあ、もともとそのつもりで来たので、もちろん改竄していくけど。
「さて、ライダーとの戦闘経験値はどれほどのものだったか、確かめさせてもらおうじゃない?」
アヴェンジャーはいつの間にか現界しており、意気揚々と改竄を行う台座へと飛び乗っていた。
こう、何というか、本人は気付いていないのだろうが、楽しい事を前にした彼女はいつになく、少女らしさが全身から滲み出ている。
普段からその笑顔を見せてくれればいいのに……なんて、無理とは分かっていても望んでしまう私も、成長しないな。
はい。分かってはいましたとも。
相も変わらず、魂の改竄中は手持ち無沙汰なんだよね、私。
「…………」
あまりに暇で、私は天井をぼーっと見上げていた。
静けさに包まれた教会内。だけど、教会にはらしくない、カタカタというキーボードを叩くような、だけど電子音の混じったような、神聖さには不釣り合いな、青子と橙子のそれぞれ違った目的と意味を持つ作業の音色。
確かに場違いな感じはするが、不思議と嫌な感じはしない。むしろ、小気味良いその音は、聞いていて落ち着いてくる程だ。
「………………、ふう」
カタタン、と一区切りでもついたのか、橙子が軽く息を吐いて首を回す。
心なしか、その顔には疲労に隠れて、達成感のようなものが垣間見える気がする。
「……ん? なんだ、まだ何か用があるのか?」
私の視線に気付いたらしく、橙子がチラリと私に視線を送って、声を掛けてきた。
「えっと、別に用はないです……」
「そうか。……そうだな、私も休憩を入れようと思っていたところだ。何か聞きたい事でもあるのなら、休憩がてらに教えてやっても構わないよ」
いや、それでは休憩にならないのでは。そう思い、断ろうとするも、橙子は私が口を開く前に手で制し、
「どうせ休憩と言っても、特にする事も無いのでね。あっちのバカみたいに、暇だからといって無我の境地に達する程、私はバカじゃない。それに、たかがお勉強会のようなものだし、別段疲れなどしないのさ。むしろ、気分転換にはちょうどいい」
向こうから「聞こえてるっつーの! 誰がバカよ!!」という青子の反論はこの際聞き流すとして、そこまで言うのなら、そのお言葉に甘えるとしよう。
いざ、何か聞きたい事があるかと言われると、少し悩むが、そもそもの発端。私がこの命懸けの戦いに臨む羽目になった聖杯、そして聖杯戦争について。
凛やアヴェンジャーからも軽く説明はされたが、どうにも分からない部分が多すぎる。
「ふむ、聖杯と聖杯戦争について、か。そうだな、君は記憶に不備があるのだったか。それなら、知らなくても無理はないか」
電子タバコを口から離すと、橙子は脚を組み直し、説明の構えに入る。
私も自然と、“聴く”姿勢へと移行していた。
「まず、聖杯戦争への参加を望む全てのマスター候補へ向けて、ムーンセルからこのような謳い文句がある」
『聞け、数多の魔術師よ。
己が欲望で地上を照らさんと、諸君らは救世主たる罪人となった。
いかなる時代、いかなる歳月が流れようと、戦いを以て頂点を決するのは人の摂理。
月に招かれた電子の世界の魔術師達よ。
汝、自らを以て最強を証明せよ。
熾天の玉座は、最も強い願いのみを迎えよう───』
「───このような具合に、賞品である
そこまでは知っている。ここに集まった多くのマスターは、それが目的で参加しているという話だし。
「ところで、何故ムーンセルは自身を賞品にしてまで、そんな事をしているのか、君は分かるかね?」
「聖杯戦争を開催した、
言われてみれば、何故、ムーンセルはそんな事をする必要があったのか。そもそも、ムーンセルとは何なのか。
知らない事が多すぎる。
「全てが解明された訳ではないが、既に幾らかこの月の性能と意義については見識が存在している。さて、ここで問題だ。ムーンセルとは一体どういうものか、君は知っているか?」
ムーンセルとは何か。確か、月の内部に発見されたエネルギー蓄積体で、電脳構造的に第七層までで構成された、超巨大スーパーコンピューター……と、凛が言っていた気がする。
「まあ、大方正解だ。ムーンセル、正式名称『ムーンセル・オートマトン』。人類とは異なる知的生命体によって作られた世界最古の超古代アーティファクトが、その正体と言われている。一説では、紀元前より更に前、人類がこの地球に誕生した頃から存在しているとされている」
……とんでもないスケールの話だ。
人類史には数多くの英雄とその伝説があるが、残されたものでも、確か『ギルガメッシュ叙事詩』が人類最古の物語だと言われている。
その人類最古の英雄王を語った物語でさえ、紀元前のもの。つまり、ムーンセルは人類最古を軽く超越してしまう程に歴史が深い存在と言えるのだ。
「そのムーンセルを作った、人類とは異なる知的生命体の目的。それこそが、ムーンセルの存在意義でもある。そうだな、ムーンセルは、言うなれば『地球を観測する目』だ。地球上全ての生命を忠実にシミュレートし、確かな未来予測までも可能とする演算器。言わば───」
───言わば、人類のデータベース。その生態、歴史から思想、魂までを記録した莫大なメモリー。
人類がこれまで歩んできた、人類史の全てがそこにあると言っても過言ではない。
そういう、事か───。
「その通り。なるほど、君は察しがいい。教鞭の取り甲斐もあるというものだ。その通り。地球の生命の在り方を記録するだけのために、このムーンセルは設置された。だが、長い年月を経て、ムーンセルは現在の機能を持つまでに至ったのさ」
ムーンセルが地球を観測する観測機である以上、観測機としてその在り方はフェアでなくてはならない。
観測する以上は、見えない部分などあってはならない。それこそが、全てを記録するモノとしての絶対の条件であり、フェアであるからだ。
結果、ソレは地球の全てを知るために機能を必要とした。
全てを平等に、ありのままに記録するためには、単なる観測機以上の性能が必要となる。
「そうして、ムーンセルの機能は
……聞いていた以上に、このムーンセルとはとんでもない代物であったらしい。
とても、ヒト一人にどうにか出来るとは思えない規模とレベルに、私は思わず唾を呑む。
この聖杯戦争を勝ち抜いた者は、そんな怪物級の賞品を手にする事になるのだ、と。
「さて、ここで聖杯戦争だ。ムーンセルは地球を観測する。そして地球を実質的に支配している人間が、現在のその主な観測対象である事は明らかだろう。そこで、ムーンセルは“人間”というもの観測──理解するために、人間同士を自らの内に招いて争わせ合う事を選択した。それこそが、この『月の聖杯戦争』という訳だよ」
「観測するためだけに、自分を賞品にまでして、聖杯戦争を開催した……?」
理解出来ない。そんな事のためだけに、自らを賞品にまでして、人間を観測しようというその結果が。
いや、きっと私だけではない。人間に理解出来るはずがない。何せ相手は機械。コンピューターだ。
思考回路がそもそも異なるというのに、理解しろという方が無理な話。
「ムーンセルは“最強の一人”を求めているのではない。この生存競争そのものが観察対象であり、人間を知るための
あくまでも、観測するためだけに。何もかもが、ムーンセルにとっては観測の対象でしかない。
善悪の思想も、未来への欲求も、更には結末すらない。
ただそこにあるだけの器物。
神の残した
月に穿たれた観測レンズ───
「後に、この夢を映すだけの
タイプ・ムーン……。外より地球を見つめ続け、過去から現在、そして未来までも永劫、その在り方を観測し続ける、未知なるアーティファクト。
それが、ムーンセルの───私達人間が、月と呼ぶモノの正体。
「もう分かっただろう? 何故、ムーンセルが聖杯──『万能の願望機』と呼ばれるか」
深く考えなくとも、私のような素人でも、その理由、結論へ至る。
要は簡単な話だ。
ムーンセルは地球のありとあらゆる過去、現在を観測し、そして未来さえも恐ろしいまでの演算機能によって、あらゆる可能性の未来をも予測出来る。
膨大な地球のシミュレート記録を保管するムーンセルを閲覧すれば、そこには必ず『
ムーンセルが使える事になった『
『この、私にとって理想の未来を再現しろ』と。
ムーンセルは速やかに地球をその未来のカタチに運んでいくだろう。
そのための方法を、実行手段を、月は全て識っているのだから。
「つまるところ、その『誰か』が望んだ通りに、地球は運営されていくという事さ。例えば、『地球人類の全てを人形に変えて欲しい』と願えば、年月を掛けようと人間から人形へと置き換わり、そういった社会形式になるだろうな」
橙子の言葉は、全く冗談などではない。そのように望んだとしたら、人形が人間と同じような機能を持って、『人間』として振る舞う世界に作り替えられる。
橙子はそう言いたいのだろう。
「何にせよ、だ。人間は人間が想像する範囲において、実現出来ないものはない。それがどのような幻想、絵空事であっても、体験する手段は必ず存在するのさ」
それは、何となく分かる気がする。
人類はこれまで、幾度となく不可能と思われていた事を可能としてきた。
ニコラ・テスラによる雷電の解明、チャールズ・バベッジによる蒸気機関の開発などは歴史にも残っている程だ。
一回戦の対戦相手だったライダー──『フランシス・ドレイク』だって、当時は無理だと思われていた、人類で初めて航海にて世界一周を成し遂げた偉大な英雄であった。
ムーンセルは、それを簡単に再現出来てしまうチート級のツールと言えるだろう。
「ふう……。こんなところか。これで一通り、聖杯……まあムーンセルだな。それと聖杯戦争については理解出来ただろう」
「はい。でも、私が想像していたよりも遥かに壮大な内容過ぎて、その渦中に自分が居るのかと思うと……少し、いいえ。かなり自信が無いです」
「なに、気にする事はないさ。君は素人ではあるが、それ以前に記憶の欠如がある。そう感じてしまうのも、仕方ない事だよ」
橙子が珍しく、私を気遣うように労ってくれているのが分かる。
なんだか、暖かいものが胸の内に湧き起こってくるような、気持ちの良い感覚……。
人の暖かみとは、こういう事をいうのだろうか。
「そういえば、記憶が欠如しているのなら、君は決戦の細かなルールも把握出来ていないのではないか?」
……うん。指摘されてみて、確かにあまり分かっていない自分がいる。
「その様子では、忠告して正解だったか。別にそこまで多くはないから、しっかりと聞いておけ」
そう言って、橙子がルールについて説明を始めた。
1.決戦場以外でのマスター同士の戦いは禁止されている。
しかし、あくまで禁止されているだけで、破ればペナルティは与えられるが、それで失格になる訳ではない。
やろうと思えば、校舎内でもアリーナでも敵マスターを攻撃する事は可能である。
2.決戦場においては、
3.マスターは
つまり、決戦の際はサーヴァントはマスターへの攻撃は
マスターがマスターをコードキャストでダイレクトアタックをしても問題はないようだ。
ただし、マスターが死亡してもサーヴァントがすぐに消える訳でもなく、倒されたマスター側のサーヴァントが敵サーヴァントを倒せば晴れて“共倒れ”となる訳だ。
そういえば、一回戦での決戦の際、ライダーは私諸共アヴェンジャーを銃撃し、アヴェンジャーに防がれていたが、今になって思えばアレは私がルールを知らないと踏んでの搦め手だったのだろう。
多分あの時、私には何らダメージは入らなかったはずだ。でも、私もアヴェンジャーも、そのルールを把握出来ていなかったからこそ、まんまとライダーの策に嵌まってしまったという訳だ。
まあ、とっさの打開策で切り抜けたのだが。
「マスターがマスターを攻撃し、そして殺害するなんて事は滅多に無いんだが。まあ、この辺り、矛盾した話ではあるのだがね、戦いの勝敗基準は“どちらのサーヴァントが敵サーヴァントを倒したか?”なのだよ。そして、生きて次の戦いに移動出来るのは勝者のみ。敗者はファイヤーウォールによって生還の道を閉ざされ、空間ごと消滅する運命にある、という訳さ。心当たりはあるだろう?」
あの、赤い壁と、そこを仕切るように慎二が取り残された、全てが紅く染まったあの空間……。
あれが、ファイヤーウォールによる敗者の排除なのか。
私も負ければ、空間ごと消される運命にある───。
吐き気がする。
「世界を区切る
つまり、この聖杯戦争において“絶対”は無い、という事か。
だけど、マスターやサーヴァントによる性能の差は必ずしもそうとは限らない。
だからこそ、レオはその優秀さとサーヴァントの強さから、最強の一角、優勝候補筆頭などと言われているのだから。
「さて、長話になってしまったが、そろそろ改竄も終わる頃合いだろう。途中で飽きずに最後まで傾聴していた褒美だ。紙芝居ではないから、飴とはいかないが、代わりにこれを進呈しよう」
橙子はコンソールを操作し、何やらデータのようなものを現界させると、指で銃でも撃つかのように、私の方へとデータを飛ばした。正確には、私の端末へと。
「今のは……?」
「探し物の途中でたまたま
言われて端末からアイテム画面を開き、確認してみると、見慣れぬアイテムが保存されていた。
「えっと……虚影の……塵?」
「ああ。以前話しただろう? サーヴァントの霊基再臨に必要な素材の一種だよ」
「な!!?」
軽く言う橙子だが、確か入手困難な代物だったのではないか?
そんな貴重なものを私が貰ってしまって良いのだろうか……。しかも、二つも。
それに、私だけがそんな待遇というのも……。
「言っただろう、褒美だと。君以外のマスターは全員、私やそこのバカと深く会話しようとしないんでね。まあ、気分転換に付き合ってもらった礼でもあるから、何も言わずに受け取っておけ。なに、黙っておけば、誰にもバレまいよ。ムーンセルとて、この程度でペナルティーもクソも無いだろう」
この調子だと、こちらが断っても橙子は頑なに返却を拒否するだろう。
どうあっても押し問答だというのなら、ここはありがたく頂戴しておくとしよう。
もちろん、感謝の言葉は忘れずにネ!
「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます!」
「ふっ……。まあ、霊格が限界まで強化出来たら、の話ではあるのだがね」
それではな、と橙子は再び作業に戻っていった。
それにしても、思わぬ収穫もあったものだ。ムーンセルについてや、聖杯戦争の意義、そして細かなルール。
まさか霊基再臨の素材まで手に入るとは。
幸先良いが、逆にこの後で何か不運に見舞われそうな気がして、気が気でない。
何事も無ければ良いのだが……。
人類悪の顕現を、一体誰が予想出来ただろう。
いや、あのお方はエミヤ・オルタの絆レベルで解放の説明でもそれらしき記述が有ったから、無関係ではないし、CCCなら出てもおかしくはないけども。
流石に人類悪は予想外で想定外でしたね、ハイ。
ゲーティア涙目とは当にあの事でしょう。
もう少しで今のミッションも全部埋まるし、あと一息……!!
マダム・マーブルが登場時点で怪しいと思ったのは、きっと私だけではないはず……?