Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

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毒と迷路のスパイラル

 

 ゲートを抜けた先は、大きく開けた一つの空間が広がっていた。だいたい教室二つ分くらいの広さだろうか。中心を位置する辺りには、また別のフェンスゲートのスイッチが鎮座している。

 

 が、当然ながら、それだけ広いという事は、その分エネミーも多く存在する訳で。

 エネミー達は我が物顔で、スイッチには簡単に近寄らせまいとばかりに、このエリアを縦横無尽に動き回っていた。

 

「あれは……」

 

 そんな中、私はとある一体のエネミーに注目する。

 他はボックス型やバグタイプ、蛇型のエネミーと見知ったものばかりなのに、その個体だけは初めて見るタイプだ。

 顔だけのワニのような形状で、身体の9割をその大きな口で占めている。

 有り体に言ってしまえば、パッ○マンのトゲトゲしいバージョン、といったところだろうか。

 

「マスター、あの個体を警戒しつつ、見知った型のエネミーを駆逐していくわよ」

 

 アヴェンジャーも、初めて見るエネミーに警戒しているようで、常に他のエネミーを視界に入れながらも、あのエネミーから意識を離さない。

 

「了解。アヴェンジャーは慣れてる雑魚を討伐。私は逐一指示を出しながら、あのエネミーの動きを観察するね」

 

「ウイ! 派手に燃やし尽くしてやるわ!!」

 

 美しくも醜悪な微笑みを浮かべて、アヴェンジャーは得物を旗から大鎌へと持ち替える。

 鎌に手を当て、その刃に炎を乗せると、まず目の前を闊歩する蛇型エネミーを一刀両断する。

 

『■■■■───!!!!』

 

 胴体を真っ二つ。綺麗に魚を捌くかの如く断面図だが、やはりその内は果てしなく機械そのもの。

 そこに生命の名残など微塵も存在する筈もない。

 

「イイ、イイわよ! 素晴らしい切れ味だわ!! 力が全身に漲るのを感じます!!」

 

 エネミーを葬り去ったアヴェンジャーは、いつになく上機嫌に高笑いを上げて、すぐさま次の獲物へとその凶暴な視線を向ける。

 

 エネミー達も、アヴェンジャーの笑い声に反応し、近くに居た個体が彼女目掛けて一斉に集中していく。

 

 だけど、

 

「無駄よ!!」

 

 それこそがアヴェンジャーの狙い。自身を基点とし、周囲にエネミーが殺到したその時、アヴェンジャーは弧を描きながら回転するように、握り締めた大鎌を力任せに振り抜いた。

 

『■□■■□──ッ!!?』

 

『◆◆◆◆……!!』

 

 当然、複雑な思考を持たないエネミー達は、アヴェンジャーの企みなど見抜ける筈もなく、彼女の目論見通り、大鎌による炎の回転斬りによってその身を散らしていく。

 声など有る訳がないが、エネミー達の断末魔が幻聴として聞こえてくるような気さえする。

 

「アッハハハハ!!!」

 

 エネミーが消滅していく中で、その円の中心では、大鎌片手に魔女が嗤っている。

 大きすぎるダメージで、形状を維持しきれずにデータ化していくエネミーに、魔女から嘲笑という名のレクイエムが贈られていた。

 

「さあ、まだいるわよね? もっと殺させてちょうだい!!」

 

 物騒な台詞に違わぬその風貌。美しい魔女が次なる獲物を求めて、声を張り上げながら鎌を掲げる。

 悲しいかな、理性も知性も存在しないプログラムであるエネミーには、力の差が分かっていようとも難を避けるという行動を取れはしない───否。

 力の差など理解出来ないのだ。だって、そういう風に設計された機械なのだから。

 

 待つばかりでは埒があかないと、アヴェンジャーは自ら散らばって移動するエネミーへと走る。

 

「アヴェンジャー、あのエネミーが動いた! こっちに来る!!」

 

 広い空間と言えど、視界が開けている上に、戦闘の騒音を隠そうともしていないのだから、当然ながら離れていようと異変を感知される。

 

 大口を開きながら、全身で跳ねるようにバネ運動でそのエネミーは私の方へと突進してきていた。

 何故アヴェンジャーではなく、こちらへと狙いを定めたか。

 簡単な話、近くに居た敵として手っ取り早い位置に居たのが、私だったのだ。

 

「ちょうど粗方片付いたところよ。では、そのお手並み……いいえ、口並み拝見しましょうか!!」

 

 目前に居たエネミーを倒した直後、アヴェンジャーは宝探しの際に見せた炎のジェット噴射移動で、すぐさま私の前へと帰ってくる。

 そしてその勢いのまま、新型エネミー───ええい面倒だ! ワニ口エネミーへと向かって行く。

 

「シッ!!」

 

 猛スピードで突っ込んだアヴェンジャーは、鎌をその大口目掛けて横に振り抜く。

 しかし、タイミング悪く口が閉じた事で、その一撃は防がれてしまった。

 

「くっ……ぐぐ、」

 

 鎌を抜こうともがくが、ワニ口エネミーに噛み付かれたまま微動だにしない。噛む力は強いと聞くが、あのエネミーは全身がほぼ口のようなもの。

 その力は計り知れない。もし直で噛まれようものなら、大怪我どころでは済まないだろう。

 

 炎を纏った斬撃も、受け止められてしまって効果がない。しかも、未だ炎を纏っているのに、エネミーはさほど影響を見せておらず、単なる炎だけでは通用しないという事か。

 

「アヴェンジャー、一度鎌を手放して、腰の剣で追撃して!」

 

「……クソ、仕方ない。すぐに奪い返してやる……!!」

 

 このままでは、どうあってもエネミーは鎌を放そうとしないだろう。無理に鎌を取り戻そうとした結果、あのエネミーによる未知の攻撃を受けないとも限らない。

 ここは一度立て直した方が良いだろう。アヴェンジャーもそれを理解し、すぐに鎌を手放すと、エネミーから距離を取りつつ腰の剣でターゲットを付ける。

 

「串刺しにしてやるわ!」

 

 声を合図に、剣の切っ先にいるエネミーへと魔力で形成された黒い槍が、群を為して襲い掛かる。

 迫る黒槍を前に、ワニ口エネミーは鎌を振り放すと、飛び跳ねたと同時にその大きな口をガパッと広げて、黒槍全てを一気に噛み砕いた。

 

「へえ、やるじゃない……!」

 

 強烈な顎の一撃を受け、砕けた黒槍が霧散していくのを見て、アヴェンジャーは楽しそうにしながらもエネミーを注視する。

 今のところ、正面からの攻撃は全て防がれてしまっている。だが、あの形状からするに、側面や背面からの攻撃には弱いはず。

 狙うなら、陽動からの不意打ちだ。

 

「アヴェンジャー、そのままエネミーの気を引いて。私に考えがある」

 

 私の指示に、アヴェンジャーは少し考える素振りを見せたが、すぐに頷き返した。

 

「いいでしょう。その代わり、きっちり遂行するように」

 

 その返答を受け、私はすぐに右の方へと走り出す。幸い、エネミーがこちらに来てくれていたおかげで、戦闘はこのエリアのほぼ中心で行われていたので、私の進路上に行き止まりは存在していない。

 アヴェンジャーがエネミーのほとんどを駆逐してくれていた事もあり、障害となりうるものもない。

 

 無論、突然の私の動きにエネミーも反応を見せるが、

 

「行かせるかっての!」

 

 それをアヴェンジャーが許さない。指先を銃のようにして、人差し指から小さな炎の塊を連続で撃ち出してエネミーを牽制する。

 

「よし……!」

 

 私は今のうちに、円を描くように走り、エネミーの背後を位置取ると、アヴェンジャーと同じく指先で銃を作ると、腰に提げた守り刀によるコードキャストを発動した。

 

 指先から放たれる、テニスボール程の大きさの光弾は、迷う事なくエネミー目掛けて一直線に飛んでいく。

 

「アヴェンジャー、攻撃中止!!」

 

 光弾が当たる数秒の間に、私は炎の銃撃を止めるように叫ぶと、彼女も素直に従ってくれたようで、ピタリとアヴェンジャーからの攻撃が止んだ。

 

「……そういうコト」

 

 距離が開いているので、アヴェンジャーが何か言ったようだが、私の耳には届かない。

 そうこうしているうちに、私が撃った光弾がエネミーの後頭部(?)へと直撃する。

 

『■■■!!』

 

 当たりはしたが、当然ながらダメージはほとんど無い。だって、このコードキャストは本来、敵の魔力に反応して効果を発揮するもの。

 故に、ダメージも効力も今のエネミーには全く無意味だ。

 

「そう、それでいいの」

 

 だが、()()()()()()()()()()()という事実さえ作る事が出来れば良かった。

 狙いはダメージや効力による一時的な麻痺ではない。本当の目的は、一片の注意でも良かったから、私の方に意識を向けさせる事。

 機械的なエネミーは、目の前の敵を警戒するようにプログラミングされているが、見えない箇所からの攻撃にも当然警戒しなくてはならない。

 

 狙い通り、エネミーはアヴェンジャーから私へと方向転換した。

 一瞬でも、こちらに意識を向けた事が、自身の敗因になるとも知らずに。

 

「素人にしては、なかなかに上出来よ、マスター!!」

 

 嬉々としてアヴェンジャーが両腕を左右いっぱいに広げて、そのままクロスさせるように反対の方へそれぞれ一気に振り抜く。

 エネミーが背を向けた隙に作り出した、二本の小振りの黒槍は、彼女の腕の動きに合わせて、左右から同時にエネミーを串刺しにした。

 

『■■……■』

 

 それはまさしく一瞬の出来事。エネミーは何が起きたかも分からぬまま、渇いた獣のような叫びを上げながら、その身を(ほつ)れさせデータ化していった。

 

「……勝った、かな」

 

 ひとまずの脅威が去り、私は気が抜けたように息を吐く。

 あのタイプのエネミーは、その特徴的な大口から見ても正面からの攻撃に滅法強い。その反面、左右後方はがら空きで、そこさえ突ければ容易に倒せる。

 気を付けなければならないのは接近戦か。あの大きな口に生え揃った大量の鋭利な牙。あれこそがあのエネミー唯一にして最大の武器だ。

 サーヴァントならまだしも、あれにもし私が噛まれようものなら、ひとたまりもないだろう。

 今度からあのエネミーと戦う時は、なるべく近付かないようにしよう。

 

「分析するのもいいけど、早く進むわよマスター」

 

 っとと。考え事に没頭しすぎていたようだ。

 いつの間にかアヴェンジャーが私の方へと近付いていた事にも気付かなかったとは。

 

「ほら、スイッチなら押しておいたから」

 

 言われてそちらを見れば、エリア中心地ではスイッチが黄金の光を放っている。

 道は私達が来た方とは対面のものの二つしかない。そして、まだ行っていない方は下り坂になっているようなので、間違えて戻るという心配もなさそうだ。

 

「よし。それじゃあ行こう、アヴェンジャー」

 

 

 

 

 

 

 

 何という事か。この先の構造を、私は甘く見ていたらしい。

 分岐点や坂が異常に多い構造をしており、さっきのイチイの樹があったところも迷路だったが、こちらもなかなかの迷路具合をしている。

 しかも、迷路プラス大量の坂だ。無駄に体力の消耗を強いられるのは目に見えていた。

 

「ゼェ……ヒィッ……」

 

「だらしないわね、この程度でその(てい)たらくとか。もっと体力付けなさい」

 

 私が息絶え絶えで坂を上り下りしているのに、アヴェンジャーは素知らぬ顔で、私の体力不足を叱責してくる。

 そんな事言ったってしょうがないじゃないか。私は何処にでも居る女子高生の代表的かつ平均的な能力しかないのだ。

 逆に私がスタミナ有った方が、ギャップが強すぎると思う。だから、私は悪くない!

 

「屁理屈ばかり並び立てて……。情けないわね、こんなのが私のマスターだなんて」

 

 そう言って、心底残念そうに溜め息を吐くアヴェンジャー。

 いや、今のはものすごく失礼だと思うのですが!?

 主にマスターへの畏敬の念が、あなたには足りてないと思う。

 

「無駄口を叩く余力があるという事は、まだ限界ではないという事の裏返しです。ほら、どんどん先に進むわよヘボマスター?」

 

「今のは本当に傷付いた!! とうか言葉に棘しか無くて心がチクチクするよ!?」

 

 否、チクチクどころがザクザク刺さりまくりです。

 言葉は時に、どんな武器よりも鋭利な刃となって、人の心を傷付けるのだと知って下さいアヴェンジャーさん。

 このままでは、私の心がズタボロです。

 

 まあ、当然ながら私の懇願など聞く耳持たずの復讐者は、私の腕をグイグイ引っ張って、無理矢理坂道を歩かせるのだった。

 

 

 

 

 何度かの坂道とエネミーとの戦闘を経て、私達は緑色のアイテムフォルダ───即ち、暗号鍵(トリガー)を発見する。

 

 疲労で鈍る脚に鞭打ち、私はフォルダの元まで辿り着くと、力無く手を翳し開封した。

 

「やった……トリガー、ゲットだぜ……!」

 

 中から出て来たのは、『トリガーコードガンマ』。初日からトリガーを取得出来たのは、結果としては上々か。

 よく考えたら、毒を受けて、迷路と坂道に苦しめられて、よく頑張った私、と自分を褒めてあげたいくらいだ。

 

「トリガーを手に入れたわね。ひとまず、これで安心といったところかしら?」

 

 本当、サーヴァントだからかは知らないが、全然疲れて見えないアヴェンジャーが羨ましい。

 今も、余裕しゃくしゃくといったように腕を組みながら、私の手に握られた端末を目にしている。

 

「ふう……これで、あとは帰るだけだね」

 

「それもそうね。流石に少し疲れたし、さっさと帰りましょうか」

 

 え。嘘だ~? 絶対に私よりも疲れてないし、疲れたようには全く見えないんですが。

 ……でも、間違ってもそんな事を言えば、もっとヒドいマラソンに付き合わされる羽目になるのは見え見えなので、ここは素直に頷いておく。

 

 

 しかし、そうは問屋が卸さない。元々、今私達が居るのはちょっとした迷路なのだ。出口は近いだろうが、それらしき道はまたしてもフェンスゲートによって閉ざされていた。

 結果、私はまたヒイヒイ言いながらスイッチを探す事になるのだった。

 

「今回のアリーナしんどすぎ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうにか無事……とは言い難いが、校舎へと帰還した私達は、そのままマイルームへと直行した。

 もはや寄り道するのも億劫になる程に、私の疲労はピークに達していたからだ。

 なので、夕食は今日は摂らないで、すぐに休む事にしていた。

 

 もはやアヴェンジャーの早脱ぎにも見慣れたもので、ポイポイと投げるように脱ぎ捨てられていく甲冑やガントレットも気にならなくなっている。

 そして、その豊かな肉まんにも、もはや何も思わなくなってきていた。

 大きさだけが重要ではない。形だって重要だ。私は量より質を取るだけ。

 小振りだからといって、巨乳に遅れを取るつもりは一切無いのだ!

 

「……時々思うのだけど、貴方ってたまに女とは思えないコトを言う時があるわよね。なんというか、魂がオッサン? みたいな」

 

「アリーナの時より傷付いた!! それはあまりにヒドい物言いだ!!」

 

 どこからどう見たって私は女子。それをオッサン呼ばわりなど、笑止千万。

 謝って。この可憐な女子高生の私に謝って!

 

「いや、そういうトコロがオッサンくさいというか……」

 

「はうあ!?」

 

 なん……だと……!?

 まさか、私は無意識のうちにオッサン化しているとでも!?

 屈辱だ……。果てしなく屈辱だ……!!

 

「いつまでもバカ言ってないで、さっさとやるコト済ませて休むわよ」

 

 アヴェンジャーに軽く頭を小突かれ、私はおふざけはここまでに、今日一日の出来事を振り返る。

 

 まず、二回戦の対戦相手───ダンとそのサーヴァントについて。

 緑衣のサーヴァントは毒を用い、待ち伏せや奇襲、罠を利用する典型的な暗殺者然とした戦いを得意としていると推測出来る。

 それだけで見れば彼のクラスは『アサシン』であると過程出来なくもないが、まだ彼の武器が何か分からない上に、宝具だけではそのクラスを判断するのは困難だ。

 だって樹が宝具とか。あれだけでクラスを見極めるのは無理だろう。

 

「……」

 

 私の分析を黙って聞いているアヴェンジャー。彼女は彼の正体を知っているが、話してくれる事はない。

 私が彼の真名に辿り着けるか、苦労して真実を見つけようとする私の姿を楽しんでいるのだろう。

 

 話を戻す。

 しかし、ダンは騎士であるために、そのような戦法を良しとしない。故に、その事であの主従は正反対の人物同士の組み合わせのように見えた。

 

「それには私も同感ね。どう見たってアイツらは戦いに対する姿勢が食い違っていました。相反する戦闘思考は、こちらが付け入る最大の隙でしょう」

 

 あ、どうやらサーヴァントの正体についてはノータッチのようだが、彼らと戦う上での話には参加してくれるらしい。

 

「マスターの実力差は仕方ないとしても、私達の負けが決まった訳ではありません。奴らの人間としての理想の差異……よく目を凝らして見定めるコトね」

 

 言われなくても、それは分かっている。

 私とダン、どちらが優秀かは明らか。だけど、そんな彼にもサーヴァントとの不仲という穴がある。

 劣る私は、その欠点を上手く突く必要があるのだ。どれだけ優れた牙城でも、亀裂を狙われては脆く崩れるもの。

 必ず、万物にはどこかに弱点が存在する。力で劣る私は、そこをどう活用するかが求められてくるのだ。

 

 

「それはそうと、あのサーヴァントが毒を使ってくるのは分かったのだし、対策くらいは考えておくべきよ」

 

 一通りの今日一日の総括を終え、さあ休もうとしていた私に、アヴェンジャーが声を掛けてきた。

 既に彼女はだらしなく寝そべっていたが、目はまだ眠気を携えてはいない。

 

「対策……って言うと、例えば?」

 

 私が問い返すと、呆れたようにアヴェンジャーの私を見る目が、明らかに見下すソレになっている。

 

「そんな事も分からない? つくづくおバカなマスターだコト」

 

 むむ。そこまで言われたら、私だって黙っちゃいない。彼女から答えを言われる前に、正解を言い当ててやろうではないか。

 

 いざ考えるとなると、案外あっさりと意見が浮かんでくる。

 毒。現実では即効性と殺傷力が高いイメージがある。ゲームでは、じわじわとHPを奪う傍迷惑な状態異常だ。

 今日の感じだと、あのサーヴァントが使ってきたのは後者のもののように思える。

 ゲームの毒は基本的に治療の手段がある。魔法による除去か、あるいは道具を使った除去か。

 自然回復というのもあるが、それは回復の手段がない場合や、HPに余裕がある時の話。

 

「……購買に治療用の道具って売ってるかな?」

 

 結論、アイテムによる除去。コードキャストでそういった類のものを持っていない私には、購買で毒を回復出来るアイテムが買えるかどうかが重要になってくる。

 毒をいつまでも引きずったまま、エネミーや敵サーヴァントと戦闘に突入するのは不利でしかないからだ。

 

「売ってるでしょう、多分。今はまだスキルを使ってくるエネミーと遭遇していませんが、そのうち手強いタイプも出て来る筈。その中には、毒や麻痺といった状態異常にしてくるエネミーも居る筈よ」

 

 ……確かに一理ある。聖杯戦争の進行に合わせて、残るマスターのレベルも相応のものへとなっていく。

 ならば、エネミーもそれに比例するように強化された個体が現れても、何もおかしな話ではないのだ。

 当然、スキルや状態異常を付与してくるエネミーも出て来るだろう。

 いや、そういう事を得意としたサーヴァントだって、今回以外でも対戦する事になるかもしれない。

 

 ダメージを回復するアイテムが売られているくらいだし、状態異常を治すアイテムも売られている方が自然だ。

 まさかそういったアイテムが数に限りある貴重品という訳でもあるまい。もしそうなら、どんなハードゲーだと文句を言いたいレベル。

 

「とりあえず、明日の朝ご飯を買いに行く時にでも、購買で確認してくるね」

 

 まあ、実際に見てみなければ分からないのだから、あると祈りながら今日はもう休もう。

 

「おやすみ、アヴェンジャー……」

 

 私はそれだけ言って、どんどん意識が闇の底へと沈んでいき、完全に途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみ、アヴェンジャー……」

 

 マスターは就寝の挨拶を告げると、死んだように眠りにつく。

 よっぽど疲れたのだろう、寝るまでに数秒と掛からなかった程だ。それか、緊張の糸が切れたからか。

 どちらにせよ、疲れたのには変わりない筈だ。

 

「………ホント、憎らしい程に可愛らしい寝顔だコト」

 

 眠るマスターの顔は、まさに無垢なる乙女そのもの。先程は魂がオッサンと称したが、その実、この子は戦いのイロハも知らなければ、命の奪い合いからも無縁だった、ただの人間に過ぎない。

 そう、単なる一介の少女でしかないのだ。

 魔術師としても未熟、マスターとしても未熟、戦いへの姿勢には著しく成長が見られるが、やはりまだまだ雛鳥の範疇を出ない。

 

「……」

 

 私は静かに、音もなくマスターへと這い寄る。

 その無防備な寝顔を、起こさないように気を付けながら見つめ、頬を指で突っついてみる。

 ぷにぷにしていて、その触り心地に思わずクセになりそうだ。しばらく突っついているが、マスターは一向に起きる気配はない。

 やはり、疲労が溜まっているのだろう。

 

「無理もない、か……。毒に、迷路に、戦闘に。今日だけでも密度の高い一日だったワケだし」

 

 聖杯戦争において、あらゆる面で素人のマスターが、この聖杯戦争を勝ち抜くには、聖杯戦争を知る者の手助けが必要となる。

 そうだ、私が、この子を導かねば。

 本来なら、手を取り合う事もなかった私達。奇跡にも等しい巡り合わせで、私は彼女と巡り会ったのだ。

 

 私の望みは、ここでなければ叶わない。

 

 私の願いは、現在進行形で叶っている。

 

 私の目的は、聖杯戦争を勝ち抜く事で達成される。

 

 そのためにも、復讐者の虜となった我がマスターを、死なせる訳にはいかない。

 別にマスターが特別好きとか、そんなんじゃない。

 

 だけど私には、もう彼女しか居ない。この繋がりを、断ち切る訳にはいかないのだ。

 

 

 

 それが、私が選んだ願い/道だから───。

 

 

 

 マスターは相変わらず、頬を突っつかれていても起きない。

 本当に、憎らしい程に可愛らしい。

 どうか、我が煉獄の炎に呑まれぬ事を。復讐に取り憑かれるのは、私だけで十分だ。

 

 

 

 そうでしょう、下らない聖女様?

 

 




 
FGO×CCCスペシャルイベント。完全攻略終了しました。
素材交換、ミッション、クエストも滞りなく終了し、最後の最後、元祖EXTRAの裏ボスであるmonsterもノーコンでクリア。
流石に即死は怖かったですが、ガッツ優秀なのが分かりますね、ホント。特にボニー! って感じのアンのスキルが優秀で優秀で。

とりあえず、今回のピックアップは全て揃いました。スズカちゃんも無事に来て、魔性菩薩も無事に来て。
何故かメルトも二回来て。何故か婦長も二回目来て。

これでようやく執筆に集中出来るというものです。
それでは皆々様、次回もよろしくお願いいたします。


追伸 活動報告にて物語に関連した事を漏らしている時がありますので、興味のある方はどうぞお目汚しを。

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