Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

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忍び寄るは毒の影

 

 今日も今日とてやってきましたアリーナ探索。今回の探索での大きな目的は二つ。

 一つは、ラニが言っていたダンとそのサーヴァントに関わる残留物の捜索だ。それが何かまでは分からないが、明らかにアリーナにとって異物である物が存在するなら、それは彼らの遺物に他ならない。

 そしてもう一つは、割とどうでも良いのだが、タイガークエストである柿の捜索。先程、大きな目的は二つと言ったが、こっちはついでに探す程度で十分だろう。

 だって直接聖杯戦争に関わりが無い訳だし。単なる人助けのようなものだ。まあ、探すけど。

 

「奴らにまつわる遺物、ね……。そんなものが都合良く落ちてれば万々歳もいいところだけど、果たしてそう上手くいくかしら?」

 

 復讐者だけにネガティブ発言をするアヴェンジャー。いやまあ、それは確かにそうだけど、探してみない事には始まらないのだし、やるだけやってみようよ。

 

「やらない、なんて誰が言ったの? もちろんやるわよ。どうせ柿も探すんでしょう? なら、どっちにしたってアリーナを隅々まで調べるんだし、たいして変わりないじゃない」

 

 イジワルな笑みを私へと向けてくるアヴェンジャー。なんだ、あなたもなかなかに私の事が分かってきたじゃないか。

 無論、隅から隅まで探してやるとも。こういうのは、根気と負けん気とやる気だ。諦めなければ、たいていの事はどうにかなるもの。

 と言っても、流石にライダーよろしく、不可能を可能なままに実現させるなんてのは無理なんだけど。ホント、星の開拓者様々ですよね。

 

「とりあえず、まずは結界の基点になってたあの木があった所を調べてみよう。もしかしたら何かあるかもだし」

 

 

 

 

 

 

 今回は毒もなく、あっさりと目的地へと到着する。道を阻む敵も、霊格を取り戻しつつあるアヴェンジャーにとって、雑魚程度なら難なく倒せるようになってきている。

 それに加えて、私が購買で治療薬を購入した時に見つけて買った、新しい礼装の力も相まって、瞬殺をも簡単にしてしまったのだ。

 その名も『空気撃ち/一の太刀』。守り刀よりも更に小振りな短刀で、装備する事により、Cランク相当の魔力放出スキルを私でも使えるようになったのである。

 守り刀と同じように光弾を手から撃ち出す訳だが、こちらは戦闘開始前の初手のみに効力を発揮する仕様で、上手く当たれば戦闘開始と同時に有効打を遠慮無しで決める事が可能となる。

 ただし、戦闘が始まってしまえば使えない、無用の長物と化すという、便利だが不便な礼装と言えるだろう。ここら辺、決戦を踏まえた仕様になっているのかもしれない。初手で動きを封じられるのはかなり大きいし。

 

 ともあれ、それにより、まず私が敵の動きを一瞬でも止めた間に、アヴェンジャーが一撃でエネミーを葬るといったサイクルを築き上げたのである。

 ヤバい、楽チンすぎてクセになりそう……。

 

「おバカ。その分、魔力の消耗も激しいでしょうが。あまり多用しすぎないように気をつけなさい。今回は子どもみたいに新しい玩具にハシャいでいたから見逃してあげましたけど、次からは無いわよ」

 

 ビシッとお叱りを受けてしまった。正論すぎてぐうの音も出ないので、素直に従っておこう。

 確かに雑魚相手に使いまくるには、魔力がもったいないな。気をつけるとしよう。

 

 さて、何かあるだろうか……?

 

「───これは?」

 

 ダンのサーヴァントが作り出した結界の基点、イチイの矢が打ち込まれた場所。

 よく目を凝らすと、そこには鈍い輝きを放つものがあった。

 

 結界の基点、イチイの矢の残骸。手に取ったそれは、確かに年代物の矢じりのようだった。

 

「まさか本当にあるとはね。これでアイツの正体に一歩近づいたわよマスター? ほら、喜びなさいな?」

 

 いやいや、これだけではまだ何とも言えない。だけど、もしかしたら他にもまだ何かあるかもしれない。他の場所も探してみよう。

 

 

 

 次に来たのは、あのワニ口エネミーの居る広いエリア。

 先にエネミーを殲滅して、それからここを隈無く探すと、エリアの一角に何か妙な物があるのが見えた。近寄ってみれば、燻した一本の棒が転がっていた。

 折れてはいるが、矢──かもしれない。何かの証拠になるかもしれないし、持ち帰る事にしよう。

 

 それと、あえて触れないようにしていたのだが、前に来た時は無かったものが、エリア中央のスイッチの隣に鎮座していた。

 オレンジ色のアイテムフォルダ──レアなブツが入っているアレだ。

 もう何となく中身が分かってしまったが、開けてみると、

 

「ぶふっ!?」

 

 柿だった。それも、ダンボール箱一杯に詰まって。

 隣でアヴェンジャーが吹き出しているが、私はあまりにアリーナには似つかわしくないその見た目に、唖然となってしまう。

 

「アリーナに柿も大概ですが、それを箱詰めで大量にとか……!! ふ、ふふ……っ!! わ、笑える……!!!」

 

 ……タイガー。私はてっきり、柿は一つだけなのかと思っていたよ。

 これだけの量がアリーナに紛失すれば、そりゃ探したくもなるよね。というか、これだけの量を何故、アリーナに紛れ込ませてしまったんだ……。私はそこがとにかく疑問でならなかった。

 

 

 

 次は上下左右に伸びた迷路ゾーン。私は悪夢の再来に生唾を飲み込む。また、あの険しい坂を上り下りしなければならないのかと。

 

 当然ながら、ヒイヒイ言いながら方々を探し回り、上っては下りて、下りては上って───それを繰り返してようやく見つけた。

 迷路の奥の奥。しかもそこに行くまでに坂はほとんど無いという、さっきまでの私の労力をまさしく無駄足と嘲笑うかのような場所に、それはあった。

 

 通路の奥によく目を凝らすと、見事な風切羽根が落ちていた。間違いなく、あのサーヴァントの残した結界の基点の一つだろう。

 

「……矢じり、棒、風切羽根、か」

 

 拾ったものを全てピックアップし、口に出しながらそれらをイメージする。一つ一つを組み合わせていけば、簡単に一本の矢のイメージが出来上がってきた。

 

「パズルのピースとしては、それで完成でしょうね。なら、もう結界の基点に関連のある遺物もこれ以上は無いでしょう。目的の物も回収出来たし、エネミーをひとしきり狩ったら帰るわよ」

 

 個々として見れば、かなり小さいものだが、それでも三つ。彼らの手掛かりと思しきものが手に入ったのだ。上出来どころか、かなり運が良いと考えた方が良いだろう。

 最悪、何も見つけられなかった可能性だってあったのだし。

 

 それに、今回手に入った矢のパーツ達。これらから考慮するに、もしかすると彼のクラスは───。

 いや、まだ断定には早い。今は“そうかもしれない”という当たりだけを付けておけばいい。特定するのは、確固たる証拠を手にしてからだ。

 

「探せるところはこれで全部だし、アヴェンジャーの気の済むまでエネミーと戦ってね」

 

 とりあえずはやる事はやった。今日はもう戦闘経験を積むくらいしか出来ないし、アヴェンジャーの好きにやらせてあげよう。

 サーヴァントの強化だって重要だもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白野達がアリーナに探索へと赴く少し前。校舎屋上では緑衣のマントに軽鎧を身に着けた男が一人、寝そべったままぼんやりと(ソラ)を眺めていた。

 

「……なんだかねぇ。空を見上げてるはずなのに、見えるのは数字やら記号やらの羅列に、海の中ってか。神秘的っちゃ神秘的なんでしょうけど、数列(アレ)のせいで風情もロマンもあったもんじゃないぜ」

 

 ぼやく彼の傍らには、彼の主たるマスター、ダン・ブラックモアの姿はない。つまり今の彼はいわゆる、単独行動というやつだ。

 アーチャーというクラス故の宿命か、アーチャーのサーヴァントは独自に持つクラススキル、『単独行動』によってマスターから離れて活動する者が、彼のように少なくない。

 が、彼にしてみれば、自由に過ごす事自体がライフワークの一つでもあるのだが。

 

 彼の生き方はともかくとして、つまりは、後に付ける白野の目星は、見事的中しているという事だ。

 

「しっかし旦那と四六時中一緒ってのは流石に疲れるね。旦那の言う事も確かに正しいっちゃ正しいが、正しいだけじゃ世の中通用しないでしょ」

 

 誰に言うでもなく、ぶつぶつと自らの主への文句を零す彼だったが、何もダンの思想を全否定している訳ではない。

 ダンの思想は、彼からしても崇高だと思えるものだ。尊敬に値すると言ったって良い。

 だけど、彼はそれを自分のやり方へ反映させられない。培ってきたものが、ダンと彼ではあまりに違いすぎた。

 前提がまず違うのだ。ダンが騎士としての誇りを重んじるならば、彼は反逆者として誇りを軽んじる。敵を倒すのに、誇りは時に邪魔でしかない。

 罠だろうと、暗殺だろうと、奇襲だろうと。卑怯な手であっても、勝てるなら使えるものは何でも使う。

 それが彼のやり方だ。だからこそ、騎士であるダンとは根っから基本的な方針が噛み合わないし、戦闘への嗜好も志向も真逆。それは仕方ない事なのだ。

 

「……青いねぇ。ま、空って言っても海の中だし、当然なんだけども」

 

 どうして、自分はダンのサーヴァントになったのか。ムーンセルも粋な嫌がらせをしたものだ。

 そう思わずにはやってられないと、彼は自嘲の笑い声を漏らす。

 

「……おっと、お客さんだ。どれどれっと」

 

 不意に、下から扉を開ける音が聞こえた。屋上への入り口の上に居た彼は息を殺し、気配を消して来訪者に視線を送る。その視線の先に居たのは───

 

 

 

「つっかれた~! ホント、嫌になっちゃうわ。二回戦、さっさと終わってほしいって切に思うわね」

 

 

 屋上に来た少女。赤い服装にミニスカート、長い黒髪をツインテールにした、控えめに言っても美人の彼女の名は、

 

(トオサカ……リン、だったか? 旦那が危険視してるマスターの一人じゃねぇの。こりゃ、気付かれるのはマズイか。一応、宝具使っとくかね)

 

 まさかの大物マスターの登場に、彼は最大限の警戒と注意を以て、彼女に自身の存在を気取られまいとする。

 その凛はと言えば、疲労を隠そうともせず、完全にだらけきって、柵に肘をついていた。

 

「まさか二回戦の相手がストーカー気質持ちとか。アリーナに入れば常に私を追っかけ回してくるし、校舎でも私を見かけたものなら、離れてずっとくっついてくるし! 気持ち悪い上に撒くのも面倒! 地上でもこんなヤツ私の近くに居なかったっての!!」

 

(うへぇ、こりゃかなり荒れてるな。やっぱバレたらヤバいね)

 

 グチグチと愚痴を言い続ける少女に、彼は若干の同情を覚えながらも、一言一句を聞き逃さぬように意識を集中する。

 どうやら、姿を消している彼女のサーヴァントへとその愚痴は向けられているようだった。

 

「ハア……。え? モテモテ? あんなのにモテても嬉しくもないわよ。アンタ、今度アイツとアリーナで会ったら少し本気で行きなさい。なんなら、別にそこで倒してしまっても構わないわ。特別に許すから」

 

 本気で頭にキているのが、その台詞からも分かる。一体どんな対戦者と当たったのか見てみたい気もするが、遠坂凛がソイツと戦う以上、自分達と当たるカードは有り得ないだろう。

 故に、ソイツの情報など要らない。要るのは彼女、間違いなく強者である遠坂凛の情報のみ。

 対戦者でなくとも、強者というだけで脅威でしかない。

 

(ってもまあ、俺としましても、このお嬢さんには親近感があるんですよねぇ。一人でレジスタンスとか、生前の俺かって話な訳だし?)

 

「あー、やだやだ。もうこの話はお終い。もっと別の話にしましょう。そうね……例えば、あの子とか?」

 

 あの子……、この少女が気にかける程だ。おそらく、その人物もまた手強いマスターの一人に違いない。そう踏んで、彼は耳に意識を傾ける。

 

「あの子のバカさ加減は呆れるけど、なんでかあの子の顔を思い出すと気分転換するのにちょうど良いのよね。あれかしら、庇護欲をそそられるというか、母性本能をくすぐられるというか……。とにかくそんな感じ」

 

 ……? その()()()とやらは、遠坂凛にとっては敵ですらないという事か?

 その言い方だと、マスターとしてはそれほど危険視されていないようだが。

 

「でも、まさかあのシンジに勝つとは思わなかった。曲がりなりにもゲームチャンプにしてウィザード、そこらのマスターじゃ勝てないだろう実力をシンジは持っていたのに。記憶をロクに持たないままに、あの子は勝ってみせた」

 

(記憶を持たない? それにシンジ──確かあの海藻みたいな頭の小僧か。ん? ソイツと一回戦でやった相手って言えば、確か……)

 

「岸波白野。あの子、一体何なのかしらね。この聖杯戦争唯一の、エクストラクラスと契約したただ一人のマスター。最後に予選通過した、落ちこぼれマスターのはずなのに」

 

(こいつぁ……)

 

 予想外の名を、まさか予想外の相手から聞く事になろうとは。

 岸波白野、二回戦の対戦者。人畜無害そうな、子リスのようなあの少女が、遠坂凛に一目置かれる程の存在とは思えない。

 だが、確かに一回戦を勝ち進んだという事実がある。偶然か、それとも必然であったのか。

 いずれにせよ、細心の警戒を払う必要があるだろう。何せ、結界も突破された相手なのだし。

 

(ヒュー。こりゃイイ話を聞いたもんだ。情報がどうとかじゃねぇ。あの小娘が殺すに値する実力者なら、俺もちょいと本気で仕留めに行きますかぁ! 具体的には明日からだけども)

 

 遠坂凛はここから動く気配はない。下手に動くのも危険だが、彼は今、とある宝具を展開中だ。なら、多少は気配を気取られようと、追撃までは仕掛けられないだろう。

 何せ、()()()()()()なのだから。

 

 緑衣のサーヴァント──アーチャーは、大胆にも一気に屋上から校庭へと飛び降りる。

 着地してすぐに校舎へと入れば問題ない。もはや誰も彼の姿を捉えられない。無論、遠坂凛とて。

 

 

 

 

 

 

 

「……今、何か動いたわね。多分サーヴァントだろうけど、あのストーカー野郎のサーヴァント……じゃないか」

 

 その凛はと言えば、今の今まで屋上に自分達以外に誰か居た事にようやく気付いていた。

 が、それも時既に遅し。異分子は既にこの場から去ってしまった後だ。追跡しようにも、今からでは気配も姿も、もはや捉えられない。

 

「普段から自分の情報は口にしないように心掛けてはいるけど、やっぱり周りは全員敵だっていうのを痛感させられるわ。油断禁物ね、私」

 

 自らを叱責する凛だったが、さっき口走った事が何かを改めて思い出す。それは自分の対戦者の事、そしてヒヨコマスターこと岸波白野の事だ。

 別段、聞かれて拙い事は一つもない。他人の情報を勝手に口にするのはマナー違反かもしれないが、岸波白野のサーヴァントのクラスなど、とうの昔に多くのマスター達に知れ渡ってしまっている。

 何せ、アヴェンジャーなどという正体不明な上に不吉なかつレアなクラスを引き当てたのだ。彼女とシンジとのやりとりで、それについて既に露呈してしまった以上、今更クラス名など知られたところで、岸波白野には痛手にならない。

 

 言わば、岸波白野は一種のダークホースと化している。取り立てて強敵ではないが、レアなサーヴァントを引いたマスター。

 それが、他のマスター達の岸波白野への印象だ。例えるなら、そう、動物園のパンダのような感じだろうか?

 

「私含め、周囲全てを信用しない事ね、ヒヨコマスターさん? ここに居るのは、自分以外は敵でしかない。味方なんて皆無のトーナメント式バトルロワイヤルなんだから」

 

 ここには居ない少女へと、凛は届かぬ言葉を口にする。それは岸波白野という少女へと、お人好しに接してしまう自分への戒めでもあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 明日、岸波白野に何が待ち受けているのか。現在アリーナにて絶賛エネミー討伐中の彼女に、それを知る由もなかった。

 

 

 




 
さて、新宿幻霊事件ピックアップ再来という事は、そろそろ『アガルタの女』の配信が近いかも。具体的には6月の半ば以降かな?

どのタイミングでアーサー王は本筋シナリオに絡んでくるのでしょうね……?

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