Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

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騎士の矜持

 

 ぐっすり眠った次の日の朝。

 なんだか昨日とあまり変わりない一日の始まり方だが、昨日との違いは、未だ全身に感じる倦怠感。

 毒による痛みはもうほとんど無くなっていたが、気だるさを引きずったままにするのは良くはない。なので、私は朝一番で保健室へと治療の為に訪れていた。

 昨日、アヴェンジャーも治療してもらえと言っていたし、それに素直に従っておくべきだと判断したからだ。

 

「これはイチイの毒ですね。自然界から摘出された毒にしては、ずいぶんと凶悪なものですけど」

 

 桜に軽く触診してもらい、診断結果を告げられる。しかし、触っただけで毒の種別が分かるとは、これ如何に?

 

「えっと、健康管理AI権限で岸波さんのパラメータを見させてもらったからですよ。本当は触る必要はないんですが、コンソールからアクセスするより、直接触れて岸波さんのパラメータに接続した方がすぐだったので……。もしかして……嫌、でしたか?」

 

 まさか。桜みたいに可愛い女の子から触ってもらえるなんて、私の業界ではご褒美です。

 

「業界……? あの、私の権限(ちから)で、どこまで治療出来るか分かりませんが、出来る限りやってみます」

 

 桜に冗談は通らなかったらしい。というか、多分理解すらされていない。

 ……それ以前に、業界って何だ業界って。別に私は『フヒヒ』とか『デュフフ』とかいった風に笑ったりする業界の人間ではない。

 決して、そのような業界の人間ではない。(大事な事なので二回言った)

 

「でもダメですよ、一つしかない大事な体なんですから。次は気をつけて下さいね?」

 

 本当に心配そうに、私の事を案じてくれている桜。嬉しく思う反面、『何故?』という疑問も生じる。

 何故、私はこんなに嬉しく思っているのだろうか。桜との関わりは別に深い訳でもないのに。

 たまにお茶したり、おしゃべりしに来るくらいの間柄の筈なのに。

 何故か、大切なものであるような気がしてならない。

 

 

 

 それから、保健室のベッドに身体を預けつつ、桜から解毒の施術を受ける。

 彼女の治療を受けられたのは、決戦日以外の私闘が禁じられているから、だろうか。

 そんな事をぼんやり考えていると、保健室の扉が開かれ、予想外の来客を告げた。

 

「え、あの……!?」

 

 桜の制止も聞かず、その人物はベッドで休む私の元までやってくる。

 そう───ダン・ブラックモアが。

 

「……」

 

 予想外の──敵マスターの来訪に、身構えようとするが、体に力が入らない。

 

 だが、彼の取った行動は、こちらの予想を大きく裏切った。

 

「イチイの矢の元になった宝具を破却した。宝具が消滅した時点で、イチイの毒は消え去るだろう。身勝手な言い分だが、これを謝罪とさせてほしい」

 

 あろう事か、彼はベッドの傍らに立つと、宝具を封じたと言ったのだ。

 そして、彼の行動はそれだけには(とど)まらなかった。後ろに従えていた緑衣のアーチャーへと振り返ると、彼は更に想定外の言葉を口にする。

 

「そして失望したぞ、アーチャー。許可なく校内で仕掛けたばかりか、毒矢まで用いるとはな。この戦場は公正なルールが敷かれている。それを破る事は、人としての誇りを(おとし)める事だ。これは国と国の戦いではない。人と人の戦いだ。畜生に落ちる必要は、もうないのだ」

 

 静かな独白。

 だが、確固たる信念に基づいた、覆らぬ何かを感じる、老騎士の双眸。

 

「アーチャーよ。汝がマスター、ダン・ブラックモアが令呪をもって命ずる。学園サイドでの、敵マスターへの祈りの弓(イー・バウ)による攻撃を、永久に禁ずる」

 

 そう。まさしく想定外。彼は自ら、サーヴァントの宝具を限定的ではあるが封じたのである。

 それに驚きを隠せないのは、私だけではない。その場に居た者すべてが、衝撃を禁じ得なかった。

 

「はあ!? ダンナ、正気かよ……! 負けられない戦いじゃなかったのか!?」

 

 アーチャーが血相を変えて口答えするが、もはや令呪による命令は遂行された後。ダンの右手の甲から、手袋越しに赤い輝きが放たれ、そして消えていった。

 

「無論だ。わしは自身に懸けて負けられぬし、当然のように勝つ。その覚悟だ。だが──アーチャーよ。貴君にまでそれを強制するつもりはない。わしの戦いと、お前の戦いは別のものだ。何をしても勝て、とは誰も言わん。わしにとって負けられぬ戦いでも、貴君にとってはそうではないのだからな」

 

「……」

 

 緑衣のアーチャーは、マスターの言葉に納得の行かない顔をして、しかし反論するでもなく黙って姿を消した。

 何を言ったところで、無意味だと理解したのだろう。

 

 ──令呪。

 本戦参加者に与えられた、三つの絶対命令行使権利。

 信じ難い事に、目の前の老騎士は、それを使ったのだ。自らのサーヴァントに、『正々堂々と戦え』と。

 

「こちらの(あずか)り知らぬ事とは言え、サーヴァントが無礼な真似をした。君とは決戦場で、正面から雌雄を決するつもりだ。どうか、先程の事は許してほしい」

 

 そう言うと、ダンは踵を返し、立ち去っていった。

 

「………、」

 

 瞬く間に、色んな事が過ぎ去っていった気分だ。昨日の一件もそうだが、まさか敵が自らを抑する行為や、宝具の名前すらも明かすとは。

 

「………お見逸れしたわ」

 

 事のあらましを見ていたのであろう、アヴェンジャーは現界するなり、たった今の老騎士の所行を、素直に感心していた。

 

「なるほど、確かに騎士を名乗るだけはあります。敵マスターへの不意打ちを詫び、潔白を表すために令呪を使用し、かつ宝具名まで漏らすとは。高潔な騎士様が好みそうなやり方ではあるけれど、まさか現代でもそれを平然と行える人間がまだ残っているなんてね」

 

 まさに感服したとばかりに、アヴェンジャーは老騎士への評価を改めたようだ───、

 

「だけど、なおさら虫唾が走る。清廉潔白? 高潔なる騎士道? ハッ! それが何? 下らないったらないわ! 綺麗事で済む程、世の中甘く出来ちゃいないのよ。いいわ、正々堂々と正面から戦う事を望むなら、その気高き思想を完膚無きまでに叩き潰してやろうじゃない……!」

 

 ───否。評価を改めたというのは正しくない。

 彼の清々しいまでの行為は、アヴェンジャーの琴線に触れてしまったらしい。

 考えてみれば、自らを復讐の魔女と自称する彼女が、世間一般で正しいと思われる行いを良しとする筈もない。

 邪悪で獰猛なその笑顔が、何よりの証明だ。

 

「さあ、今度会ったら、今の命令がどれだけ愚かであったのかを思い知らせてやりましょうか、マスター?」

 

 いや、私まで巻き込まないでほしいんだけど。

 

 けれども、アヴェンジャーは聞く耳を持たず、私の意見を聞く前にさっさと姿を消してしまった。

 いつも思うが、扱いに難しいサーヴァントだな、まったく……。

 

「……あ、あのぅ」

 

 と、桜が小さく声を掛けてきた。そういえばここは保健室だったという事を思い出し、今のダンやアヴェンジャーとのやりとりを見ていたであろう桜の、居心地の悪さは想像に難くない。

 

「あ……ごめん、桜。ここは桜のテリトリーなのに、なんだか迷惑掛けちゃったみたいで」

 

「い、いえ。私の事は気になさらないで下さい。それよりですね……岸波さんの体を蝕んでいた毒なんですが」

 

 あ。ダンが言っていた事が本当なら──まあ十中八九、真実なのだろうが──毒はキレイさっぱり消え去ったはず。

 なら、もう保健室に居る必要もないという事か。

 

「もう大丈夫って事でいいんだよね?」

 

「はい。そういう事になりますね。岸波さんのステータスからも、毒による異常は見当たらなくなっていますから。でも無理は禁物ですよ? 毒による身体への潜在的疲労までは消えてなくなった訳ではありませんから」

 

 桜が注意申告を掲げてくる。それは健康管理AIとしての言葉か、それとも後輩としての心遣いか。

 どちらにしても、この忠告はありがたく受け取っておくべきだろう。桜の言う通り、なんとなくだが、体のダルさはまだ少し残っている気もするし。

 

 ベッドから降り、軽く体を伸ばして、異常は残っていないか動作確認をする。

 ……、うん。問題なく動く。アリーナ探索くらいなら大丈夫だろう。

 

「そういえば、この前言ってた問題ってどうなったの?」

 

 ふと、体に問題が無いかを確認して、問題というワードからその事を思い出す。たしか──残存するマスター数がおかしいという話だったような……?

 

 いきなり全く違う方向の質問が飛んできた事に、少し焦ったような桜だったが、すぐに平静を取り繕うと、歯切れ悪くぽつぽつと語り始める。

 

「それが……結局解決せず、そのまま様子見という方向になったんです。セラフも特に私達への通告もしてきませんし、現状は全会一致で問題無しと判断されました。何か兆しが見られた時には、問題解決に当たるという方針ですね」

 

 全会一致、か。多分、それもその場に居た者すべてが渋々での合意となったのだろう。

 手を尽くしても、結局何も解決しないどころか、原因すら何一つ分からなかったのだ。運営NPC達の悔しがる姿が容易に想像出来る。

 今度、一成に会ったら何か奢ってやろうかな……。

 

 

 

 

 その後、保健室を後にした私は、憂いもなく堂々と校内を歩いてマイルームへと戻る。ダンがあれだけ厳しく言った上に、令呪まで用いてアーチャーを叱責したのだ。まさかまた校内で仕掛けては来ないだろう。

 

 奇襲を恐れないで良いというのが、これほどに嬉しく思える日が来ようとは。何事も経験とはよく言うが、平穏のありがたみを改めて思い知らされたとも言える。

 

 廊下を歩いている最中、もはや聞き慣れた電子音が鳴る。携帯端末を取り出し、確認してみると、

 

 

『::第二暗号鍵(セカンダリトリガー)を生成。第二層にて取得されたし』

 

 

 二つ目の鍵が生成されたらしい。

 今日で二回戦が始まってから四日目。決戦まであまり時間も無い。早めに入手しなくては。

 余裕があるうちにアリーナへ行こう。

 

 

 

 朝食後、アリーナに行く前に少し調べ物をしに図書室へと向かう。

 というのも、保健室で知ったアーチャーの宝具、『祈りの弓(イー・バウ)』について何か新たな情報を得ようと思い立ったからだ。

 

「んー……、あった!」

 

 イチイの毒から遡り、祈りの弓がケルト系、北欧神話に関連するものだと発見した私は、祈りの弓そのものについて記された書物を見つけ出す。

 

「えっと……『イチイはケルト、北欧における聖なる樹木の一種であり、かの森のイチイから弓を作るという行為は“この森と一体である”という儀式を意味する。また、イチイは冥界に通じる樹とされる。』……森と一体になる?」

 

 つまり、ドルイドのような感じだろうか?

 しかし、如何せん英霊の真名に直接繋がるような記載は流石に無いようで、説明もこれだけとなっている。

 マトリクスにも新たに追記されているはずなので、本を直すと、他の利用者の邪魔にならないように本棚から離れ、近くの席に座って端末を操作する。

 

「アーチャーの項目はっと……これだ。『祈りの弓:このサーヴァントが拠点とした森にある、イチイの木から作った弓。標的が腹に溜め込んでいる不浄を瞬間的に増幅・流出させる力を持つ。対象が毒を帯びているなら、その毒を火薬のように爆発させるのである』……なにそれ怖い」

 

 要はアレだ。毒を帯びたまま真名解放された宝具の矢を受けてしまえば、体の内側から一気に毒が爆発して弾ける…と。

 うわ、想像しただけでもグロい。どこぞのほにゃらら神拳のようなイメージだろうか。

 

「『イチイは冥界に通じる樹とされる。このサーヴァントはその特性を知ってか、末期の時には「自分をこの矢が落ちた場所に埋葬して欲しい」と言って矢を放った。矢は果たしてイチイの木の根元に刺さり、彼は望み通り、親愛なるパートナーだった大樹の元に埋葬されたという』……。なんというか、ああ見えてロマンティックなところもあるのかな?」

 

 奇襲、待ち伏せ、毒矢───これらだけ見れば、ロマンスの欠片も感じられない彼だが、こういった逸話からはまた違った印象を受ける。

 長きに渡り受け継がれてきた伝承によって、本来の彼の人物像との違いに、どこか差異が生じているのかもしれない。

 

「大樹がパートナー、か……。アーチャーだし、“森の狩人”ってところかな? うん、なんだかそれっぽい感じがする」

 

 

 

 

 

 

 

 

「くんくんくん…。あ、私の柿! あなたの所にあったのね。ありがとー!」

 

 調べ物を終え、一階へと来るなり職員室から藤村先生が私に向かって突進してきた。

 犬ですか、あなたは。

 

「どうぞ。……あの、一箱も紛失するのは流石に如何なものかと」

 

「ふふん♪ え? なんて?」

 

「……いいえ。何でもありません。良かったですね、見つかって」

 

 あまり深く追求するのは止めておこう。話が長引きそうな予感がしたし。

 

「ホント、助かったわ。これでおすそ分けが出来るもの。あ、そうだ──」 

 

 タイガーが期待に満ちた目で、何か思い付いたような顔で私を見てくる。嫌な予感しかしない……。

 

「岸波さん、生徒からお願いされた事があるんだけど、代わりに聞いてくれないかしら?」

 

 職務放棄ダメ、絶対。

 とまあ、言ってはみたが、どうせまた何か探してきて的なお願いだろうし、引き受けておこう。

 

「まあ、いいですよ」

 

「助かるわー。あのね、その子、女の子なんだけど、アリーナでメガネを落としちゃったらしいの」

 

「ぜひ喜んで引き受けます!!」

 

 ───はっ。思わず条件反射で即答していたようだ。タイガーも私の即答に、目を丸くして固まっているし。

 でも、仕方ないじゃない? だってメガネに罪は無いんだもの……。

 

「き、岸波さんが乗り気でせ、先生助かるわー……。えっとね、それでなんだけど、第二層の海の底に落としたらしいんだけど、そういう物って、たまに他の人のアリーナに紛れ込んでる事があるのよね。だから、あなたのアリーナも、探してみてくれないかしら」

 

「死に物狂いで見つけ出してみせます」

 

「わー、すごい血眼になった岸波さんが見られそー……。第二層のアリーナに落としたものだから、二回戦の間に探してあげて。でも、別に無理しなくてもいいんだからね……? じゃあ、お願いね」

 

 そう言って、タイガーは柿一箱を抱えて職員室へと引き返して行った。

 流石はタイガー。あれを軽々と運搬するとは、並みの人間とは馬力が違うな。

 

『アンタも大概だけどね。そのアンタが人外認定した本人から、今のやりとりを心配されるくらい引かれてるって自覚はあって?』

 

 ………べつにおかしなことなんて、しゃべってないよ?

 

『自覚が無い辺り、アンタってば相当ね……』

 

 そんな事より、早速新しい階層に赴こう。トリガーも早々に回収しておきたいところだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナ第二階層、二の月:想海。

 

 一回戦が沈没船をテーマにした海の底だったなら、こちらは海に埋没した古代都市──アトランティス、だろうか。

 生命の死を連想させた一の月と比べて、二の月は滅びゆく文明を思わせるロケーションだ。どれだけ繁栄しようと、どんなに栄華を極めようと、滅びぬものは存在しない。

 人類史に名を残す、かつての数多の国々がそうであったように、永劫に続くものなど存在しないのだ───。

 

「……永遠、永劫、悠久の(とき)と呼ばれるそれらは、所詮はそれを夢見た人々が勝手にそうあれと望んだ、そうありたいと願った──自分勝手な妄想の(あらわ)れなのでしょう」

 

 まるで見てきたかのように語るアヴェンジャーに、私は自然と、肯定の意味で頷きを返していた。

 

 全てのものに等しく終わりは訪れる。

 それは死という形で。または滅亡という形で。もしくは忘却という形で。

 有機物、無機物、事象、記録、そして記憶……。ありとあらゆる事は、何かしらの『終末』をその内に抱いているのだ。

 人の営みに限らず、自然界も例外ではない。この世界に存在するというだけで、やがて無条件にやってくる何かしらの終わり。

 

 この海は、その一つの可能性を示しているだけに過ぎない。

 

「さあ、行くわよ。それと、あの老騎士はああ言っていましたが、アリーナでの戦闘が起こらないとは限りません。敵サーヴァントが宝具を封じられたのは校内でだけという事を忘れないように」

 

 そうだった。彼は不当な場での宝具の使用を禁じただけで、アリーナでの戦闘は十分起こりうる。

 注意だけは心掛けておくようにしよう。

 

 

 

 今回のアリーナは、前にも増して迷路度が強化されているらしく、分岐点がかなり多い上に、一つ一つの通路が長く設計されているようで、探索も一苦労しそうだ。

 

「遠くに見えているのは、コロッセオ……かしらね。ローマの皇帝様なんかが喜びそうな光景だわ」

 

 そのローマの皇帝というのも、アヴェンジャーの英霊友達なのだろうか。確かに、ローマ皇帝って拳闘士とか好きそうなイメージではあるが。

 

「それにしても、これはまた入り組んだ地形のアリーナね。貴方の嫌いな坂道もそれなりには多いようですし?」

 

 その通り。嫌がらせかと思いたくなる程に、今回も坂道があらゆる所で存在していた。

 まあ、第一層に比べれば、傾斜の強さは可愛い方なのだが。

 

 遠くに見えていたコロッセオだが、そこまでへと至る通路はまるで見当たらず、どうやらあそこへと通じる道は存在していないらしい。

 前回の決戦の舞台が沈没船の甲板だった事から、もしかするとあのコロッセオが今回の決戦の舞台なのかもしれない。

 

「……疲れてきたね」

 

 こうもマップ範囲の広いアリーナだと、病み上がりの身には辛くなってくるのも無理はない。

 しかし、二回戦でこの広さなら、回が進むごとにもっと過酷になっていくのだろう事が容易に推測出来る。

 これくらいで根を上げてなどいられないか。

 

「…ふむ。そうね、無理は禁物とあの保健室のAIにも言われたのだし、少し休憩を挟みながら探索を進めましょうか」

 

 スパルタ趣向の彼女にしては珍しいと思いつつも、私はありがたいと、近くの遺跡の出っ張りに腰掛ける。少しゴツゴツしているが、休む分には支障はない。

 

「マスター、この際ですから一つ、貴方に言っておきたい事があります」

 

「なに?」

 

 急に改まってどうしたのか。かなり真面目な話をしようという雰囲気がして、私も無意識に姿勢を正していた。

 

「サーヴァントとの戦闘で、これまでのように口頭での指示は今後なるべく控えなさい。エネミーと違って、サーヴァントには考える頭があるのよ。バーサーカーならまだしも──いいえ、そうだとしてもマスターが居るわね。まあ、どちらにしても、今のままだとこちらの策や戦術が相手に筒抜けです」

 

「───あっ」

 

 言われて、慎二やライダーと戦った時の事を思い出す。決戦の時も、アリーナで戦闘になった時も、私の指示はアヴェンジャーのみならず、彼らにも聞こえていた。

 何か対策をとは思っていたが、最近は目まぐるしい程に色んな事が起きていたため、すっかり忘れてしまっていた。

 

 だが……、むう。いざ考えるとなると、これといって良い案が浮かばないな。

 アヴェンジャーには何かないのだろうか?

 

「私? 私は……そうね、かつて地上で行われていた聖杯戦争では、マスターとサーヴァントが脳内で直接会話する念話という手法もあったようだけど。でも、私もやり方までは知らないのよね」

 

 念話……つまりはテレパシー、テレパスと呼ばれる超能力の一種か。

 

「厳密に言えば、念話は魔術であって、超能力と呼ぶべきは体に特殊な力を宿している事例でしょうか。例えば有名所で言えば『魔眼』とかかしらね」

 

 魔眼。ふおぉ……!!

 なにそれ、何というか、響きが格好いいのだけど!?

 

「そのままよ。その瞳に力を宿したもの。見たモノの死が線として捉えられる『直死の魔眼』や、対象を歪める『歪曲の魔眼』。見た者を魅了する『魅了の魔眼』もあれば、『天眼』なんていう一風変わったのもあるわね」

 

 ほうほう。魔眼と言っても、一括りにするには種類が多く存在するのか……。

 

「あ。じゃあ、メドゥーサの眼もそうなのかな? ほら、石化するってやつ」

 

「ああ、ゴルゴーンの伝説か。そうね、確か……キュベレイ、だったかしら。魔眼の中でも宝石クラスの最上位の方に入る部類よ。魔眼にもランクが有って、ノウブルカラー、黄金、宝石、そして最高位が虹。言ってしまえば、宝石より上は神話や伝説級のレアな代物ね」

 

 聞いているだけなら眉唾な話だが、実際に存在するからこそ、そのような格付けも存在しているのだろう。

 今後、それを持つ英霊と戦わないとも知れないし、頭の片隅にでも置いておくか。

 

「魔眼の話はここまで。それで、どうするのかしらマスター? 言葉で伝えるにしても、何か暗号のようなものでなければお話にもならないわよ」

 

「うーん……。分かってはいるんだけど、何も良い案が無くて」

 

 帰ってから、凛にでも聞いてみるか?

 また説教されそうな気はするが、凛なら私のような愚行は取っていないだろうし。

 

「ともかく、帰ってからまた考えるよ。さ、休憩終わり! そろそろ行こう、アヴェンジャー」

 

 少しではあったが、今のでかなり足を休められた。探索再開だ。

 まだトリガーも、そしてメガネも見つけられていないのだ。休んでばかりもいられまい。

 

「あまり後回しにならないようになさいね。……あと、その妙なメガネ推しは辞めて。無性にイラッとくるから」

 

 

 なぜ……!?

 

 




 
魔眼関連で私が個人的に思う事なのですが、岸波白野には『天眼』が備わっていてもおかしくないと思うのは、果たして私だけなのでしょうか……?

天眼の性質は、未来測定に近い性質だそうでして。
『自己の全存在を視線に乗せて、自らが定めた目的に対して投射する事で無限にあるべき未来を「たった一つ」に限定し、最適解を達成させる』との事。

宮本武蔵ちゃんの天眼が『特定の場所を斬る』事に特化して、確実にそこを斬る未来を引き寄せるなら、岸波白野の戦術眼もある意味それに近いような気がするんですよね。
だって凛やレオという聖杯戦争でも最強のマスター達をして、観察眼に関しては自分と同等、もしくはそれ以上とまで言われてますし。

戦闘において、自らに勝ちを引き寄せる選択肢を選べるというか。
そうでもなければ、普通マトリクスを集めたからといって、敵のスキルや宝具、マスターのコードキャストを使ってくるタイミングとか分かる訳がないですし。
もし岸波白野に天眼が備わるとしたら、それは『敵の動きを見切る』事に特化したものではないでしょうか。最適解を達成させるって辺り、まさにそれっぽいですしね。

まあ、それもプレイヤー次第で如何様にも変わる事は否めないのですが……。

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