果たして、あんな話題に触れたからだろうか。私達はそこから何度か迷いながらも、とあるオレンジ色のアイテムフォルダを発見した。
「……見つけ出したよ、メガネを!!」
中から現れたものを、私は頭上に掲げる。
それは何の変哲もない、至ってシンプルかつ素朴な黒縁のメガネ。
だが、話はここからだった。
「な、ん……だと……!?」
大切な預かり物を壊してしまわないようにと、端末へと収納した際、ふとアイテム欄に目を通せば、そこには見覚えのない名前があった。
魔眼殺しの眼鏡。
「魔眼を、殺す……?」
なんとも物騒なネーミングに、私はこのメガネの持ち主に興味が湧くと同時、このメガネがどのような用途で使用されるのかが気になった。
メガネとは、掛けるもの。他者へではなく、己へと掛けるものだ。
それなのに、魔眼を殺すとはどういう事だろう。掛けさせて殺すのか、それとも何か他に意図があるのか。
そんな事をグルグルと頭の中で考えながら、端末とにらめっこしていた私の隣にずいっとアヴェンジャーが顔を覗かせる。
「魔眼殺し……、この眼鏡の持ち主は魔眼持ちなのかもね。まさか話題に出た途端にそれを持つかもしれない人間がマスター候補の中に居るかもだなんて。魔眼の種類にもよるけど、そのマスターとはなるべく当たりたくないわね」
「アヴェンジャーは魔眼殺しの眼鏡の使い方を知ってるの?」
眼鏡というくらいだ、当然掛けて使うものなのだろうが、それが自分に対してなのか、それとも他者に対してなのかが分からない。
掛けるという観点からして、おそらく自分に効果があるとは思うのだが……ならば自分の魔眼を殺すとは一体どういう意味があるのだろうか?
「一応は知ってます。殺すと言っても、魔眼の能力を制限するだけなのだけど」
制限するだけ?
だが、何故制限する必要が?
「制限が必要な理由はシンプルです。例えば、見たもの全てに効果を及ぼす魔眼を持っているとして、そんな眼で日常を送れるかしら、マスター?」
「……、そうか。制御出来ないから、その眼鏡で魔眼の効力を抑えてるんだね」
常時発動しているタイプで、それこそメドゥーサのような石化の魔眼だと、意図せずとも視界に入れただけで対象を石化させてしまう。
それも、魔眼の主の意思とは関係なく、無差別に。
制御出来るかどうかの可能性を考えるだけ無意味だろう。だって、制御が困難だからこそ、そんな魔具を用いている訳なのだし。
これで納得した。それなら、魔眼殺しの眼鏡も必要というもの。
便利だとは思ったが、魔眼とは私が考えていたよりもかなり厄介な代物らしい。
それから程なくして、メガネを発見した場所から程近くで二つ目のトリガーが入っているであろう緑色のアイテムフォルダを見つけた私達。
だけど、それを手に入れるためには一つの問題があった。
「目の前にあるのに……」
手を出そうにも出す事が出来ない。それもそのはず。
何故なら、アイテムフォルダのある小部屋への入り口が、もはやお馴染みと化してきているフェンスゲートによって閉ざされていたからだ。
「面倒ね。ここに来るまでにそれを開けるスイッチらしきものは見当たらなかったし、まだ行っていない場所にあるのでしょう」
───っ。
ま、まさか……また結構な距離を歩くの?
「そうなるわね。諦めなさい、マスター。せめて近くに設置されている事を祈りなさいな?」
そんな殺生な!?
ここに来るまででも、一層の比にならないレベルのかなりの広さだったというのに、この上まだ歩き回らなければならないというのか。
セラフめ……こんな面倒なマップを用意して、私を苛めるとは度し難い小悪党だな。度し難い上に許し難いとは正にこの事だ。
「ほら、行くわよ。幸いにも出て来るエネミーは戦った事のある雑魚ばかりだし、敵サーヴァントにでも遭遇しない限りは危険も無いでしょう。ま、あるとするなら問題は──」
ジッと私の足に視線を送ってくるアヴェンジャー。
……言いたい事は、その残念なものでも見るかのような視線で大方察した。だから、どうか言わないで。
自分のスタミナ不足が情けなくなってくるから……。
うなだれながらも、私は顔を上げて歩き出す。分岐点はそれなりに距離が離れていたはずだ。とりあえずそこまで向かうとしよう。
さて、あのフェンスゲートに道を阻まれてから歩く事幾ばく。もう十数分は経っただろうか。
というよりも、今回初めてこのアリーナに足を踏み入れてから、既に1時間は経過している。端末で確認したので間違いない。
一回戦の時では、さっきのあのようなイヤらしい仕掛けの設置のされ方などはなかったので、今回がどれだけ時間をより要するのを強いられているかがよく分かる。
しかも、それだけではない。時間的観念のみならず、エネミーとの幾度かの戦闘に、広大アリーナを歩き回って、私の体力も限界が近付いてきていた。
疲れが歩行にも出始めた頃、ようやく私はとある通路の果てにてスイッチを見つけた。
マップを見てみれば、アリーナの全域が表示されており、この広さをよく踏破したものだと自分を褒めたくなる。
ちなみに、スイッチのある位置的に、今居るここはアリーナの最東端。トリガーが有るであろう小部屋が、アリーナ中心より少しだけ北寄りである事を考えれば、やはりこのスイッチの配置は何というか卑劣である。
まあ、先にこちらから探索を始めていればその限りではないかもしれないが、それでもこれは酷いと思う。
体力の無い人だって居るのだという事を、セラフにはもっと留意して欲しい。
もうね、足が辛いの。足が棒のようだとは、こういうのを言うんだねっていう経験談が出来てしまったじゃないか。
「良かったわね。貴重な経験が出来て。それでは、トリガーを取りに戻りましょうか?」
その言葉に、ハッと私は振り返る。振り返った先では、ニマニマと意地の悪い笑顔を浮かべるアヴェンジャーが、親指でクイッ、クイッと元来た道を指差していた。
「…………。い、」
「い?」
「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
我が絶望の叫びも虚しく、結局来た道を引き返す私達。半ばアヴェンジャーに引きずられながらという、端から見ればかなりみっともない様子だろう。
再び、エネミーとの戦闘も交えて、戻ってきた時には既に2、30分の時が過ぎていた。
「……もう、歩きたく、ない」
昨日アーチャーから逃げ回る為に走った時並みの疲労感。あっちは短期的に蓄積した疲労なら、こっちは長期的に蓄積した疲労である。
たとえるなら、前者は常時全力で短距離走(200m程)をやった時で、後者は体力テストでよくやるシャトルランを100回こなした時───くらい?
いや、シャトルランを100回も走り切った事などないのだが、なんとなくそんな気がしたのだ。
と、色々言ってみたが、要は現実逃避の言い訳である。それだけの事を、私は頑張った、成し遂げたのだという自己正当化だ。
……うん。誰に褒められるでもなく、ただただひたすらに虚しいだけではあるが。
「いつまでも愚痴を言ってないで。ほら、ゲートは開いているようだし、歩くのが嫌というなら、せめてさっさと回収して帰りますよ」
「あふん!?」
言うや、私のお尻にパチンと軽く平手打ちをかましてくるアヴェンジャー。そういう不意打ちは止めてホント。思わず変な声が出たじゃない。
「はあ……トリガーを取ったら、リターンクリスタルで帰るからね」
もうこれ以上は一歩たりとて歩きたくはない。こうなったらアヴェンジャーがなんと文句を言おうとも、意地でも歩いては帰らないぞ。
「はいはい。分かったから。早く行きなさいよ」
呆れながら私を前へと押し出すアヴェンジャー。
───だから! いちいちお尻を押さないで!? あと、若干鷲掴みされてるんだけど!? あ、こら、揉むのも禁止!!
これを手に入れるまで紆余曲折とあったが、何はともあれ『トリガーコードデルタ』──二回戦における二つ目の
ひとまずは安心といったところか。これで、決戦から締め出される心配は無くなったのだし。
だが、残る問題はマトリクスについてだ。
アーチャーと言うクラス、彼が持つ宝具の名前──これだけの重要であろう情報を得たというのに、私はまだその正体にまでたどり着けていないのだ。
まだ何かが足りない。足りない何かが、一体どのようなピースであるのかは分からない。けれど、その欠片は明日、埋まりそうな気がする───。
明日。
あのラニという少女との約束の日。彼女に、手に入れたアーチャーの遺物を見せる事で、何か新たな情報が手に入ると良いのだが……。
そして翌日。
ラニに会う前に、朝のうちに魂の改竄を済ませておこうと教会を訪れると、緑色の服に身を包んだ老人──ダンが居た。
彼も、こちらに気がついたようで、軽く頭を下げて挨拶してくる。
「昨日は済まなかったな。あの傷が命に関わらなかった事は不幸中の幸い、とは思うが」
ダンの改まっての謝罪に対し、魂の改竄の為に既に現界していたアヴェンジャーが、面白くなさそうに返事をする。
「不幸中の幸い、ですか。ええ、そうですとも。貴方の管理不足であの野蛮なサーヴァントは我がマスターに、文字通り毒牙を剥き出しにしてきたのですから、貴方の騎士道精神からすれば確かに不幸中の幸いでしょうね?」
誠心誠意の謝罪に対し、皮肉十倍増しにして返すあたり、さすがは復讐の魔女と言うべきか。
いや、別に誉めてない。むしろ彼のような高潔な人物を前に、我がサーヴァントながらアヴェンジャーの振る舞いに恥ずかしくなってくる。
「ふむ。これは手痛いな。だが、貴殿の言葉に反論出来るような立場ではない。どのような罵倒も、甘んじて受けよう。それだけの失態を私
だが、この老騎士はそれすらも大らかに受け止めてみせた。これでは、まるでこちらの方が駄々をこねる子どものようではないか。
それをアヴェンジャーも感じたのだろう。騎士の反応を見て、ばつが悪そうにそっぽを向いてしまう。
「……ふん。それにしても、だからと言って自らを律するためだからとは言え、令呪まで使うなんて腑に落ちないわね。一体どういうつもりなのかしら?」
「そうだな。自分でも、どうかしていたと思っていたところだ。三つしかない令呪を、あろう事か敵を利するために使ってしまうとはな」
令呪。
聖杯戦争の参加者に与えられる、三つの絶対命令権。
それは聖杯の可能範囲ならば、絶対の実行力として行使される。つまりは、万能の例外だ。
「だが、あの時はそれが自然に思えた。この戦いには女王陛下からたっての願い、というコトもあったが……」
一呼吸置いてから、老騎士は迷いなく、私情を口にする。誰かに仕える騎士としてではなく、ただ一人の戦士として。
「わしにとっては久方ぶりの……いや、初めての
「へえ……堅物そうに見えて、妻が居たのですか。それも、その言い方からして大切にしているのでしょう?」
「老人の昔話だがね。今は顔も声も忘れてしまった。面影すら、思い返す事が出来ない。……当然の話だ。軍人として生き、軍規に徹した。そこに
この老騎士は今、何を思い、何を感じて、敵であるはずの私達と相対しているのだろう。
忘れたはずの妻の面影が、この戦いでうっすらとでも蘇ってきたのには、一体どんな意味があるのか。
それは私には分からない。きっと、それを理解出来るのは、目の前にいるこの老騎士だけなのだ。
「君も気をつけたまえ。結末は全て、過程の産物に過ぎん。後悔は
……誤りだったと感じた過程からは、何ものも生み出されない。
誇れる道程の先にこそ、聖杯を掴む道があるという事か──。
「……ハハ、らしくないな。何故だか、つい孫とでも話している気になってしまっていた。……つまらない話に付き合わせた。老人の独り言と笑うがいい」
そう言うと、老人は再び目をつぶった。
静かに、何かに対して祈りを捧げる彼を邪魔しては悪いだろう。
魂の改竄を速やかに済ませて、静かに立ち去る事としよう。
昼になり、昼食を済ませた私は、ラニを探すためにマイルームから出る。
『マスター、分かっているとは思いますが、今日は五日目です。ラニとか言う娘の指定した日ですが、何か情報が得られるかもしれません。早速利用してやりましょうか。どうせ向こうもそのつもりなのだし』
「分かってる。今から探しに行くところ」
さて、探すにしても、彼女が居そうな所と言えば───たいていは廊下の窓際だったり。
探すの自体はさほど難しくはないだろう。でも、どうせなら一発で見つけたい。二階なら階段前まで行けば、居るかどうかはすぐ分かる。
なので一階か三階か。どちらにしても、外せば大いに面倒なのだ。
案の定、二階の廊下窓際に彼女の姿はなく、はてどちらに行こうかと、少し思案していると、
「おお、岸波か。どうだ調子は? 壮健か?」
ちょうど三階から降りてきた一成が、私へと気さくに挨拶してきた。
「うん、一昨日くらいに軽く死にかけたけど、今は元気」
「そうか。うむ、割と笑えん返答だが、元気そうで何より!」
ハッハッハ、と渇いた笑い声を上げながら、私の肩をいつものようにタンタンと叩く一成。
こういう爽やかなところが、一歩間違えば女性に触れるといったセクハラに成りかねない行為でも許せてしまうのだろう。
セクハラで思い出したが、昨日のアヴェンジャーの私への数々のセクハラ行為。忘れないでほしいが、異性からの性的嫌がらせだけがセクハラという訳ではないと知ってほしい。
同性でも、された本人が性的嫌がらせだと感じれば、それは歴としたセクハラなのだ。
なので、アヴェンジャーには今後も私のお尻を揉む事を許さないぞ!
「そういえば、三階にいつも居る女子、ラニさんが岸波の事を気にかけていたようだが……婦女子の協力を得られるとは、羨ましい限りだな」
……おっと、思わぬところで収穫だ。
なるほど、その言い方からして、今日も三階に居るらしい。手間が省けたというもの。
一成に軽く礼を告げて、私は三階へと向かう。登り切った所で左を見れば、やはりそこに彼女の姿があった。
「ごきげんよう。ブラックモアの遺物を持ってきてくれたのですね」
いや、多分彼というよりも、そのサーヴァントの遺物だと思うのだが───とは、あえて口にするまい。
「礼を言います。今日なら時も満ち、ブラックモアの星も詠めるでしょう」
人を知りたいのだ、と彼女は言った。
だが、いいのだろうか。
彼女もマスターの一人であり、これから戦うかもしれない自分にここまでしてくれる事には、少し違和感が残った。
「私にとって、師の言葉こそが道標。その師が言ったのです。
私の顔色から、何を考えていたのかを察したらしい彼女。
私が問うよりも先に機械的に答えたラニは、アリーナに残されていたアーチャーの矢と思しき遺物を見ると、一言、二言呟き、こくん、と頷いた。
「……これならば」
ラニはそれらの品を柔らかな手付きで撫でると、目を閉じ、空を仰いだ。
「星々の引き出す因果律、その語りに耳を傾ければ、様々な事が分かるものです。ブラックモアのサーヴァント、彼を律した星もまた、今日の空に輝いています」
占星術というものは、正直、よく分からなかったが──今日という日が、それを占うのに適切で、彼女にはあのサーヴァントが見えている、というのは感じられた。
『占星術、ですか。別にそれ自体には思い入れも知識もありませんが、星と聞けばかつて見た星の大海を思い出しますね。そこで行われた、大いなる戦い──ま、詳細については口にしませんが』
何か、星という単語に感じ入るものがあったようだが、アヴェンジャーは深くは語らない。
彼女の過去と関係のある話なのかもしれないが、いつか、それも語ってくれる日が来るかもしれない───。
「これは…森? 深く、暗い……」
と、こうしている間にも、占星術は順調に進んでいるようで、アーチャーの矢に手を沿え、窓から虚空を睨むラニは、静かに語り出した。
「とても…とても暗い色。時に汚名も負い、暗い闇に潜んだ人生……。賞賛の影には、自らの歩んだ道に対する苦渋の色が混じった、そんな色。緑の衣装で森に溶け込み、陰から敵を射続けた姿……」
あのサーヴァントのそんな生き様が、私達を襲撃した際のように姿を一切感知させない、身を隠す宝具として、形作ったというのだろうか。
隠れ続け、卑怯者として、闇から敵を撃つ人生。
それはマスターであるダンの言う騎士たる戦いとは、あまりに対照的だ。
「……そう、だからこそ、憧憬が常にあるのかもしれませんね。陽光に照らされた、偽りのない人生に」
あの飄々とした彼に、そのような薄暗い過去があったとは……。彼の人生がそのようなものだったと考えれば、ダンのやり方に反発してしまうのも頷ける。
綺麗事では通用しないと知っているからこそ、現実主義を貫くその精神の在り方。
だけど、その人生故に、綺麗事が眩しく、羨ましいとさえ感じてしまう───矛盾、葛藤。
占星術の結果が真実であるとするなら、それがアーチャーの根底にあるものか。
しかし、そのような英雄など居ただろうか、と頭をめぐらす。
栄光を手にした者こそ英雄の名を冠する。とは言え、その過程には様々な経緯がある、という事か。
『……なるほど。認めたくはありませんが、私にはあの男の性根が少し理解出来ました。道化を演じるしか、それしかなかった男、か』
この、自分に味方している英霊もまた、苛烈な人生を歩んだのだろうか。
そんな事を考えていると、ラニは静かに言葉を閉めた。
「これは、私の探している者ではないかもしれません……。はっきりとは、分かりませんが。憧憬、それ故の亀裂。これは師からも伝えられた、私も知る
「アリーナに……?」
今まさに、ダンとアーチャーはアリーナの中に居ると。まさかそんな事まで知る事が出来るとは……と思ったが、初日のアリーナでの一件をラニは知っていたのだから、何も不自然ではないか。
ありがとうございます、とラニはぺこりと頭を下げ、再び空を見上げて黙ってしまった。
「憧憬、そしてそれ故の亀裂……か」
言わば──合わない歯車。
果たして、自分は合っているのだろうか。
サーヴァントも、その他の色々な事象とも。
記憶が戻れば、それも幾らかはハッキリとするのだろうか。
鬼ヶ島、ダメージポイント報酬は3日程前にコンプし、今は素材集めに勤しんでおります。
改めて、邪ンヌ様のクリティカル運用が如何にぶっ飛んでいるのかを思い知らされました。
だって丑御前様が1ターンキル、もしくは3ターンと保たないんですもの。
あと、ダメージポイント報酬コンプしたからと言って、BP消費は怠らないようにしましょうね。
素材もドロップしますし、最難でやればQP10万は確定で貰えますから。
そして超難関クエストもクリアしてきました。茨木ちゃん大勝利ってね?