Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

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第二回戦決戦 開幕の刻、来たれり

 

 

 

「バカなの、アンタ?」

 

 

 

 凛を屋上で見つけた私が、事のあらましを話しての彼女の第一声が、ソレだった。

 

 凛は頭を片手で抱え、深く溜め息を吐くと、「あ~、そういえばこういうヤツだったわー」みたいな目で私に視線を送ってくる。

 そこはかとなく侮辱された気がしないでもないが、今回ばかりは反論の余地がないので、それこそ私はぐうの音も出なかった。

 

「あのね。仮にも私達って敵同士でしょ。それなのに、そんな敵に塩を送るような真似をすると思う?」

 

 言いながら首と手を横に振ってナイナイ、とジェスチャー付きで正論を述べる凛。

 いや、ホントその通りなので何も言い返せません。

 

 だけど。

 

「それでも、なんだかんだで教えてくれる凛なのであった。まる」

 

「まるって……。あなたね、本当に私から教えてもらおうって気があるのか疑いたくなるのだけど……」

 

 あまりの呆れの度合いからか、頭痛でも堪えるかのように額を押さえてうなだれる凛の姿から、何故か哀愁漂う気がするのは、きっと気のせいではないだろう。

 もちろん、原因は私。うん、あまり誇れる事ではないな。

 

「はあ……。もう、何だか馬鹿馬鹿しく思えてきたわ。ま、教えてあなたが万が一にもブラックモアに勝てたなら、その分こっちにとっても厄介なライバルが一人減って儲けものだし、仕方ないから特別に教えてあげるわよ」

 

『……結局は教えるのね。提案しておいてアレだけど、この女かなりチョロ───』

 

 そこから先は言わなくてもいいと、私は凛が準備の為に何やらゴソゴソと探している間に、霊体化して姿の見えないアヴェンジャーを手で制する。

 いや、凛には聞こえないだろうが、それでも全てを言い切られると、私がそこに付け込む最低な輩のように思えてならないので。

 

 少しの間、凛は探し当てたらしいその目当ての“何か”を弄り回すと、それを私へと差し出してきた。

 ……小さくて紅い、これは──宝石?

 

「そ。小振りだけど、これでも立派なルビーよ。はい、じゃあこれを飲んでくれるかしら?」

 

 受け取ってマジマジと見つめてみるが、特におかしな所は認められない。にしても、これを飲み込めとは、一体如何なる了見か?

 

「なに? 頼んできたくせに、信用出来ないの? 別にこの程度のサイズなら、飲み込んでも問題は無いわ。というか、この電脳世界での肉体なんて所詮は電脳体なんだし、それこそ人体への影響だって有ったとしても微々たるものよ」

 

 影響、有るには有るのね……。

 

 まあ、今更尻込みしても仕方ない。これが必要な行為であるのなら、ここは素直に従っておくとしよう。

 

「……。それじゃあ……」

 

 意を決し、小指の爪程のサイズのソレを、私は口に放り込むと一息で飲み込む。少し喉に引っかかって嫌なイガイガ感というか、気持ちの悪い感覚があったが、それもすぐに収まった。

 

「よし、飲んだわね。それじゃ、サーヴァントも現界してちょうだい」

 

 私が飲み込めたのを確認すると、凛はアヴェンジャーに出て来るように催促する。

 断る理由もないため、アヴェンジャーも凛の要求に素直に応え、その姿を現した。

 

「現界したわよ。それで、私は何をすれば?」

 

「ん。あなたにはコレね」

 

 そう言って凛がアヴェンジャーに渡したのは、さっきのルビーと同じ大きさの蒼い宝石だ。

 色合いからして、サファイアだろうか?

 

「正解。どういう訳か、ルビーとサファイアって対を為すには相性が良いの。同じ宝石同士でも良かったんだけど、こっちの方がそれより効果が有るから」

 

 凛の説明に納得したのか、それとも興味がないのか、アヴェンジャーは「ふーん」とだけ返すと、サファイアを躊躇いなく口に含んだ。

 その口に入れる際の、チロリと舌を出した姿がやたら艶やかで妖艶に見えたのは、ここだけの秘密。

 

「……ん。飲んだわ。で、次は?」

 

「オーケー。次は互いにパートナーが飲み込んだ宝石をイメージしながら、今自分が飲み込んだ宝石に魔力を通してみて」

 

 となると、私はアヴェンジャーの飲み込んだサファイアを。アヴェンジャーは私の飲み込んだルビーをイメージしながら、それぞれが飲み込んだ宝石に魔力を流せばいいのか。

 

「…………、」

 

 手を当てながら意識をお腹に集中させ、さっき見たサファイアを思い浮かべてみるが、いざやってみると、これがなかなかに難しい。

 そもそも、私はまだ魔術師として素人に毛が生えた程度の実力しかない新米マスター。魔力を扱うのも、コードキャストという便利なプログラムがあってこその為せる技なのだ。

 

 たまらず、チラリと目を向けると、私が苦戦している横では同じように目を閉じて集中しているアヴェンジャーの姿があった。

 ただし、私とは違ってまさしく精神集中といった感じで、もはや瞑想しているのではないかと思えるくらいにその意識は研ぎ澄まされている。

 

 しばらくアヴェンジャーを見つめていると、突然パチリと開眼し、その綺麗な黄金の瞳が露わとなる。

 

「魔力が通ったわ。案外簡単なのね」

 

「あら、流石は英霊。あっさりクリアしちゃうんだ」

 

 ヤバい。アヴェンジャーはすぐに出来たのに、そのマスターたる私が全く成功しないとあっては、またバカにされるに決まってる。

 だが、逆に焦れば焦る程に、集中が乱れてしまう。

 

「で、こっちは……うん、難解のようね」

 

 私がうんうん唸っているのを見かねたか、凛がやれやれと助け舟を出してくれる。

 

「アヴェンジャー? この子のお腹に手を当てて。魔力を流し込むイメージで」

 

 凛のオーダーに、アヴェンジャーは黙って私のお腹に手を当ててくる。あっ、お腹を優しく撫でられると、すごく気持ちいい……。

 

 ───あれ?

 

「なんか、お腹がぽかぽかする」

 

 内から湧き上がってくるような、暖かな感覚がお腹からしてくる。なんだかすごく不思議な気分……。

 

「成功ね。これで念話が出来るはずよ」

 

 え、もう?

 でも、実感が湧かないというか……。

 

「いい? さっきの宝石は互いに対となっていて、あなた達の魔力に呼応して反応するようになっているの。相手の顔を思い浮かべながら、頭の中で声を発する事で念話が成立するわ。ちなみに、当然ながら念話には少量だけど魔力を要する。魔力が足りてないと念話も出来ないから、それを頭の隅にでも置いておきなさい?」

 

 じゃあね、とだけ言うと、凛はひらひらと手を振りながら屋上を去って行った。

 善意と打算もあっただろうが、凛にはお世話になりっぱなしだな……。今度、何かお礼でもしようと心に決めて、私も屋上を後にした。

 

 もう決戦まで、時間は残り僅かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試運転、という訳ではないが、私は試しに念話を試みてみた。実戦で使えなければ元も子もないからだ。

 

(アヴェンジャー、聞こえる?)

 

(聞こえてます。どうやら、確かに成功したようね。これでひとまずは一安心、といったところかしら?)

 

 おお……!

 アヴェンジャーの声が頭に直接響いてくるようだ。これが念話───テレパシーか!!

 

(魔力を消費するもののようだし、念話を使う際のルールを設けましょう。一つ、エネミー戦では用いない事。一つ、サーヴァント戦、ひいては他マスターやサーヴァントが居る前で内々の会話をする時に用いる事。なので、くれぐれも下らない事を話すために使わないように)

 

 うぐ……念話をしながら、念話についてのルールを敷かれてしまうとは。ちょくちょくしょうもない事を念話で呟いてやろうと思っていたのに。

 どうやらアヴェンジャーにはお見通しだったらしく、先手を打たれてしまったようだ。

 

(念話の試用はこれくらいで良いでしょう。そろそろ良い時間です。さあ、行くわよマスター。これまでの借り、その全てをあのアーチャーに返してやろうじゃない)

 

 流石は復讐者の英霊。仕返しは彼女にとっては絶対であるらしい。

 でもまあ、私だって彼には奇襲からの不意打ちと仕込み毒という借りがある。あまつさえ、死にかけたのだし、恨み言の一つでもぶつけてやろうではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 正午。つまりは私とダンの決戦の時間。

 ついに、この時が来た。未だ実戦経験の不足する私と、戦闘も人生経験も遥かに熟練された老騎士が、その命を賭して雌雄を決する、運命の決戦の刻。

 

「ようこそ、決戦の地へ。身支度は全て整えたかね?」

 

 相も変わらず、胡散臭い神父は決戦場への入り口である、用具室の前に陣取っていた。

 

「扉は一つ、再びこの校舎に戻るのも一組。覚悟を決めたのなら、闘技場(コロッセオ)の扉を開こう」

 

 聞かれるまでもない。そのために、私はここへと赴いたのだから。

 

「いいだろう、若き闘士よ。決戦の扉は今、開かれた。ささやかながら幸運を祈ろう。再びこの校舎に戻れる事を。そして───存分に、殺し合い給え」

 

 一回戦の決戦前と寸分違わぬその台詞を告げ、言峰は横へとずれて扉の前を私に譲る。

 私は扉の前に立つと、端末を翳し、手に入れたトリガーでその施錠を解錠した。

 

 扉は鍵を解かれた事で、扉からエレベーターへと姿を変えて、ゆっくりと開き、内部へと私を誘う。

 まるで地獄への入り口かのように、ぽっかりと口を開けた黄泉への門であるかのように。

 入れば最後、生きては帰さぬとばかりに、私を招き入れてエレベーターは扉を閉ざした。

 

 そして、私を乗せて、箱は下へと降りていく。否、落ちていく。

 

 これから向かうは一種の地獄。人と人、魔術師と魔術師。英雄と英雄とが、互いの存在を、もしくは欲望を懸けて殺し合う、泥沼のような死地。それこそが、この箱の行き着く終着点なのだから。

 

 そう。だからこそ、落ちていくというのが正しい。そこは、地獄の一つに他ならないのだとすれば───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分の間、ひたすらに下へと降りていく感覚を味わって、やがて黒一色だった視界は鮮明な色彩を取り戻していく。

 

「…………」

 

 その中で、正面では対戦相手であるダンとアーチャーの悠然と佇む姿が視認出来た。向こうも、こちらの姿を確認したはずだが、ダンは静かに、私を見つめているのみ。

 

「……ふん。余裕とでも言わんばかりのその態度、倒して当然の敵とは語る必要すらも無い──ってワケかしら?」

 

 アヴェンジャーがダンの毅然とした立ち振る舞いに対し、かなり喧嘩腰で煽りに行く。

 アヴェンジャーからしてみれば、ダンが騎士である事は勿論の事、その姿勢も態度も、何から何まで気に入らないが故に食ってかかるのだろう。

 もしかすると、騎士という存在に対して何か思うところがあるのかもしれない。

 

「…………」

 

 それでもなお、ダンは口を開こうとはしなかった。挑発には動じないどころか、それすらも歯牙にかけない意思の強さが、はっきりと伝わってくる。

 

「止めとけ止めとけ。どんだけ騒ごうが、無駄だって」

 

 と、マスターを差し置いて、緑衣のアーチャーが口を挟んでくる。そういえば、どちらかと言うとこのサーヴァントは口の達者な部類だったと思い出し、アヴェンジャーも標的をダンから彼へと変更する。

 

「うちのダンナは無駄が無さ過ぎてねぇ。茶飲み話とはいかねえのよ。それこそ、挑発なんざまるで堪えない。やるだけ無意味ってなもんよ」

 

「……チッ。言われてみれば確かに、その老騎士がこの程度の挑発に動じるとも思えないわね」

 

「そういうこった。ま、でもだ。どういう訳か、ダンナはお嬢さんには多少の関心があるようでね。どうよ、そっちのマスターさん。うちのマスターに話しかけてみないかい? そこのサーヴァントよりかは、ちっとは気にかけてくれるかもしれないぜ?」

 

 アーチャーの申し出に、確かに、ダンが私をジッと見つめている事から、少しは私に関心を持っているのだとは分かるが……。

 さて、話すにしても、何を話そうか。ここは思った事を素直に口に出してみても良いかもしれない。

 

「ダン・ブラックモア。あなたは、何故戦うの?」

 

 英国女王の騎士であるとは聞いていたが、だからといって、年老いた身でありながらどうして聖杯戦争に臨んだのか。

 軍人として女王の命令に従ったにしても、死ぬかもしれないと分かっていながら戦う理由が、単なる女子高生である私には、どうしても分からなかった。

 

 これまで、このエレベーターの中で寡黙を通していたダンだったが、私の問い掛けに対し初めて口を開く。

 

「戦いに何故はない。戦地に赴いた以上、あるのは目的だけだ。加えるなら、わしは国に仕える軍人でもあった。個人に戦う理由は必要とされなかった」

 

 それは、つまり……“個人としての理由はなく、軍人としての役割のみで殺し合いに参加した”という事か?

 

「……今は、多少違うがな。であっても、何故と自問する事はない」

 

 多少違う? それは何が、と聞こうとするも、彼は再び口を閉じてしまった。これ以上の詰問は無駄だろう。

 

「ありゃ、ほんの少しは口を開いてくれたが、やっぱそれ以上は無理だったか。ご苦労さん、つまみ程度には楽しめたぜ」

 

 アーチャーは今の結果を見て、カラカラと呑気に笑う。というか、多分この結果は彼にとって想定内だったに違いない。

 でなければ、無意味と分かっていて私に話相手をさせようとするはずもない。要は、からかわれたのだ。

 

「ハッ。趣味の悪い男ね。そんなんだから、根が善良なのにひねくれ者なんて言われるのよ」

 

「おいおい、誰が言ってんのよそんなコト? ってか、アレか? おたく、やっぱオレの事を知ってるのな? まったく、どこかで腐れ縁でもあったのかねぇ」

 

 やっぱり……。アーチャーはアヴェンジャーについては何も知らないようだ。となると、余計にアヴェンジャーの聖杯戦争に参加するまでの経緯が気になるのだが、今は聞くべき時ではないのも確か。

 目の前の戦いに集中する事を第一にすべきだろう。

 

「それにしてもだ。互いに真っ当な英霊じゃないにしたって、何でまたこうもマスターに差があるかね。うちのダンナなんてちょいと潔癖すぎるもんで、英霊らしからぬオレとしちゃあ困りもんだ。ま、マスターとしても魔術師としても未熟なお嬢さんとも相性は悪いだろうけどな」

 

「そうね。アンタにお似合いのマスターは、それこそ暗殺者ってところかしら。うちのマスターも良い子ちゃんだし、アンタのやり口とは相容れないでしょうから」

 

 あ、今()()()って言ってくれた。やだ、なんかちょっと嬉しいかも……!

 

「ああ、なるほど。それは分かるね。どう見たって人畜無害そうな顔してんもんなぁ。なら、復讐者のサーヴァントのマスターとか、正直なとこ疲れるでしょ? 王道とは正反対の立ち位置なワケだし? なあそっちのマスターさんよ。闇討ち、不意打ち、騙し討ちは嫌いかい? ってか、そもそも汚い殺し合いはダメ? 卑怯な手口は認められないかい?」

 

 気付けば話題は、いつの間にかダンから私へとチェンジしていた。

 にしても、卑怯な手口か……。

 

「否定は出来ない、かな」

 

 うん、言い得て妙だ。

 確かに、そういったやり方は好ましくはないが、だけども別に全否定するでもなく。

 このアーチャーの戦法だって、一つの戦い方に過ぎないとさえ考えている私が居る。

 そもそも、これは戦争なのだから、殺し合う工夫も千差万別、人それぞれだ。私だって、生きるためとはいえ、既にこの手を汚している。

 慎二の命を奪った私が、誰かの事を否定する権利など無い。

 

 私の答えに満足したのか、アーチャーはニヤリと小さく笑った。

 

「そいつぁ上々。毒と女は使いようってな。いい勝負になりそうだ」

 

「ずいぶんと楽しそうだな。アーチャーよ」

 

 嬉々として語るアーチャーに、どういう事か沈黙を良しとしていたはずのダンが、彼に話し掛けた。サーヴァントの様子が、ダンからすれば奇異であったのだろうか。

 だって彼らは何となくギスギスしていたし。

 

「おや。そう見えましたかい、ダンナ?」

 

「……うむ。戦いを目前に控えながら、倒すべき敵の人となりを楽しんでいる。……少なくともわしにはそう見えるな」

 

「ご明察。お喋りなのは、ま、大目にみていただければと。なにしろ敵と話す事自体珍しくて。あと、ダンナはもちっと若者の生の声ってのに耳ぃ傾けるべきですよ? これ以上老けちゃったらつまんないっしょ」

 

「……気遣いには感謝するが、無用だよ。戦いに相互理解は、余分な荷物だ。敵を知るのは決着の後にするべきだな」

 

「うは、ほんっと遊びがねえよこの人! ただでさえハードな殺し合いなのに、余計ストレスが溜まっちまいそうだ。いやね、理屈は分かるんですがね? 色々話し込んで敵に情が湧いちゃあやり辛いし。しかも、それが孫くらい年の離れた小娘ときちゃあ、ダンナの心も痛むってもんだ」

 

 余計な事をあれこれ考えるのは全て終わってから。ダンが言いたいのはそういう事なのだろう。アーチャーの意見も正論ではあるが、果たしてそれがダンに当てはまるのかと言えば、正直なところ分からない。

 彼が、戦いにおいて一時の感情に左右されるとも思えないし。

 

「つってもだ、こんなんじゃ次あたりに気疲れで自滅しちまいますよ? なあ、アンタもそう思うだろ?」

 

 そして、また私に話を振ってくるアーチャー。

 だが、まあ……彼の言う事も一理ある。

 

「せっかくなら、楽しくいきたい」

 

 これはライダーとの一戦を経たからこそ、答える事の出来た答えだ。

 彼女は消滅するその刹那まで、全てを楽しんで生きていた。慎二とのやりとりも、敵との殺し合いまでも、そして自らの死でさえも。

 その在り方は、私にはとても眩しく映ったのだ。何も思い出せない空っぽの私でも、彼女のように、せめて今を楽しむ事が出来れば、少しは意味のある戦いになると思えるから。

 

 いつ死んでもおかしくないのなら、せめて全力を尽くして、全力で楽しんで生きていたい。

 虚しさだけを噛み締めてこの先も戦い続けるのは、何か間違っていると思うから。

 

「だろ? なんであれクソッタレな人生だ。気持ちだけでもエンジョイしねえと、今際の際はまあ惨めなもんですよ、と」

 

「……やれやれ。やはり、まだ欠落しているようだな。戦う意思、その覚悟が」

 

「いいじゃないですかダンナ。青春、葛藤、大いに結構! こっちの仕事が楽になる一方だからね! その無防備な背中を後ろからシュッパーンとね。アーチャーの面目躍如ってワケですよ。理想とか騎士道とか、そんなの重苦しいだけですし。死に際は身軽じゃなくっちゃね」

 

 生前の経験からか、アーチャーは人生をそういうものだと考えているのだろう。だからこそ、マスターであるダンと相容れない、チグハグなコンビであると言えるのだが。

 

「……だがアーチャーよ。戦いではわしの流儀に従ってもらうぞ」

 

「げ。やっぱり今回もっスか。はいはい、分かってます、了解ですよ。オーダーには従います。あーあ、かっこいいよオレのマスターは。こんな小娘相手でも騎士道精神旺盛ときた。……けどなあ。誰でも自分の人生に誇りを持てるわけじゃねえって、そろそろ分かってほしいんだけどねぇ……」

 

 最後の、ボソリと呟くようなアーチャーの主張は、突如として起きたエレベーターの揺れにより掻き消される。

 

 ───大きな音と激しい震動が伝わり、相手の言葉に圧倒されていた意識が戻ってきた。

 

 

 ──どうやら到着したらしい。ついに戦う時が来てしまったのだ。

 目の前の───堅き意志を持つ軍人と──。

 

 

「発つぞ、アーチャー。戦場に還る時が来たようだ」

 

 

 ダンからすれば、これまで幾度となく経験した戦場だろう。

 だけど、私にとってはこれで二度目でしかない、未だ恐れるべき、死と隣り合わせの世界。

 せめて楽しみたい──そうは言ったが、やはり私の心は、それを大っぴらに受け入れるのは難しいようだ。

 そう思えばこそ、ライダーは凄い人だったんだなと、改めてあの大海賊にして英雄の凄まじさを思い知る。

 

 

 ダンと連れ立って、先にエレベーターから降りていくアーチャー。

 彼らに勝たねば、私には未来はない。

 

 

「行きましょう、マスター。勝つわよ」

 

 

 臆する私の頬に、アヴェンジャーの冷たい指先が添えられる。

 ひやりとしたその感触に、私は一人ではないのだと思い出し、その指先に自身の指を重ねて、彼女へと応えよう。

 

 

「うん。行こう、アヴェンジャー!」

 

 




 
今日で復刻水着も終わりですね。
超難関クエストも、全ての素材とモニュメントも滞りなく回収を済ませてあるので、もはや一片の悔いのみ!

結局、水着マルタは諦めたので、それだけが唯一の悔いです……。
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