Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

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怪物退治の手掛かり

 

 なりふり構わずに全力で逃げ出してきたので、息が上がっている。逃げるのに夢中で、かなり戻ってきていたのに今気付いた。

 

 加えて、アリーナの中で起きた不可解な出来事で、未だに頭が混乱している。

 ありすが二人……とは一体どうなっている?

 そして、彼女たちが呼び出した凶悪な気配の怪物。あれこそが、あの少女のサーヴァントなのだろうか───。

 

「───違う。アレはサーヴァントじゃない。サーヴァントは確実にあの少女のどちらかのはずよ」

 

 はっきりと、アヴェンジャーが告げた。あの怪物はサーヴァントではない、と。

 

「どうして、そう思うの?」

 

「知ってるからよ。私は、あの子の顔を知ってる。でも、だからこそ意味が分からない。どうして()()()()()の? あの子の事は顔を知ってる程度で、それ以外はほとんど知らない。それが悔やまれるわね……。もっと知っておけば良かった……!」

 

 どうにも、アヴェンジャーは本気で悔しがっているようで、爪を噛んで何事かをブツブツと呟いている。

 

 しかし、あの怪物が居ては、これ以上のアリーナ探索は困難だろう。マップを見る限り、結構な割合を埋められてはいるが、如何せん暗号鍵(トリガー)が怪物の傍に設置されているのが見えていたため、どうあっても怪物と戦う羽目になる。

 

 戦って勝てるか。いや、とにかく存在感が凄まじい怪物だったし、感じた魔力も底が知れなかった。

 多分、このままぶつかっても勝てない。アヴェンジャーが本来の力を取り戻せていないのなら尚更だ。勝てる見込みもなく無謀に挑むのは、愚行でしかない。

 

「……長居は無用、かな。今日のところは帰ろう、アヴェンジャー。あの怪物をどうするのかは、明日考えよう」

 

 どっちにしても、今日はもう出来る事はない。尻尾を巻いて帰るしか、今は出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナから帰ってくると、外のロケーションはもう夕暮れへと変化していた。

 校舎の廊下も、人がチラホラと見かけられるが、ほとんどがマイルームか食堂へ向かっている。

 一日の終わり。この時間帯は、明日への備えの為の行動が主となる。

 

 

 足取り重くマイルームへと帰ってきた私たち。今日は色々とありすぎて、まだ頭の整理が追いつかない。

 

 敵である幼いマスター。同じ顔をした二人の少女。彼女らに呼び出された怪物。

 

 ……。

 そして、アヴェンジャーと───。

 

「……」

 

 アヴェンジャーは帰ってくるなり、いつものように鎧を脱ぎ捨てず、そのままの格好で膝を抱えて座り込んでいた。

 虚空を見つめる黄金の瞳は、いつになく弱々しく揺らいでいる。普段から強気な彼女にしては、珍しい姿ではある。

 

「……、」

 

 私も、いざ帰ってきてみると、アヴェンジャーとのアリーナでの一件が思い出され、とてもではないが声を掛けられるような気分にはなれなかった。

 

 食事も気が乗らないので、今日は早めに休むことにする。あの怪物の対策は、明日にでも図書室で調べてみるか。それとも凛やラニに相談してみるか?

 気まずいままに、それでも小さく「おやすみ」とアヴェンジャーに告げ、私は眠りに落ちる。

 

 明日は、また元通りにアヴェンジャーと話せるといいなぁ……などと、子どもじみた願望を胸に抱いて。

 

 

 

 

 マスターからの就寝の挨拶から少しして、彼女の寝息が聞こえた事から、本当に眠ったようだ。

 

「……マスター」

 

 音を立てず、彼女を起こさないように近寄る。

 常日頃から思っているが、私のマスターは愛らしい顔をしている。特に無防備な寝顔は、思わず頬が緩んでくるくらい。

 いや、別に私はそんな醜態を晒すなど有り得ないのだが。

 

 思えば、彼女は記憶が無く、訳も分からない状態で聖杯戦争へと参加せざるを得なかった。他のマスターたちのように、目的があって参加しているのではなく、ただ生きるために、彼女は望まぬ生存競争を強いられている。

 そんな中で出逢ったのが、私。

 

 今だからこそ、考える事がある。この子は、私に依存するしかなかったのではないか、と。

 命の危機に瀕し、窮地を救ったとはいえ、最初は私を恐れはしただろう。

 けれど、時を重ねるごとに、その恐れも親愛へと変化してきているのが、嫌でも分かる。分かってしまう。

 だって、この子は、()()()とどうしようもなく似ているから。邪険に扱う私に、尚も交友を結ぼうとした、()()()に。

 

 でも、彼女は置かれた状況が違う。彼女には私しか居ない。

 マスターにとって、サーヴァントは私だけなのだ。故に、否応なく私に頼るしかないのに。

 

 そんなマスターに、私は殺意を向けてしまった。敵意を、放ってしまった。

 ほんの僅かではあったけれど。それでも、私を見るあの時のマスターの目は、恐怖が滲み出ていた。

 

「……だって、仕方ないじゃない。私はアヴェンジャー。復讐者だもの。幸せから背を向けた、暖かな世界を自ら放棄した愚か者なのよ? それなのに、憎しみに囚われた私の心に、土足で踏み込んでくるから……」

 

 いや、それは言い訳か。何故ならマスターに非はないのだから。

 悪いのは私だ。あの少女が幼い自分にとっての友達だからと言って、ここではそんな事は関係ない。

 敵として立つというのなら、倒すだけの事。それだけだ。

 

「勝つわ。敵に情けをかけるなんて、そもそも私らしくもない。いつものように戦って、いつものように殺す。それしか、私とマスターには選択肢が無いのだから」

 

 夢の中に居るマスターの頭を撫でながら、決意する。あの少女が相手だろうとも、容赦はしない。私情は持ち込まない。

 

 聖杯戦争とは、そういうものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 不思議と心地良い目覚め。なんだか、寝ているあいだ、頭に優しい感触があったような気がする。アヴェンジャーは……いつものように、甲冑を脱ぎ捨てて眠っていた。

 何だろう、眠っているのに、少しだけ晴れやかな顔になったような……。

 

 時刻はまだ早朝。無理にアヴェンジャーを起こす必要もないので、私は彼女を起こさぬようにマイルームを出る。

 朝から細かな文字の群と睨めっこするのは、まだ眠気が残るので避けたいところ。

 凛は……なんとなくだが、朝に弱そうな気がするので、相談するなら昼か。

 なら、ラニは? おそらく彼女の気質から、朝は早い気がする。もう起きてるかもしれないので、いつも彼女が居る三階の廊下、その窓際に探しに行ってみよう。

 

 

 三階まで上がったところで、ふと誰かに呼ばれた様な気がした。

 普段は滅多に通らない三階の廊下。何の変哲も無い、退屈な廊下。加えて言えば、かなり朝早い時間帯だ。

 何故か無性に気になる。

 

 見渡してみると、遠くに人影が見えた気がした。

 気のせいか。いや、よく目を凝らしてみると、確かに人が立っている。

 ラニ───ではない。

 

 白衣を着た、存在感の薄い男。

 ゆっくりと、こちらへ向かって歩いてくる。

 

「……!!」

 

 間もなくすれ違うかというところで、彼は私のすぐ近くまで来ていたのに、そのまま消えてしまった。元々、最初から何も、誰も居なかったように。

 跡形もなく消えていったのである。

 

 

「“サイバーゴースト”ですね」

 

 

 凛とした声で、現実に引き戻される。

 気が付くと横には、レオが居た。彼も今の幻───だろうか? を見たのだろう。

 

「おはようございます、ハクノさん。貴女も、朝がお早いようで素晴らしいですね。健康的かつ体の資本は早寝早起きです。聖杯戦争に参加するのなら、常に万全のコンディションを整えたいものですからね」

 

「レオ、今の……サイバーゴースト? っていうの?」

 

「セラフには何兆、何京という生命の記憶が保存されています。細菌一つから、もちろん人間に至るまで。原子海洋の有機物の中から単細胞生物が生まれ、生と死の連鎖がやがて人を生み出した奇跡に比べれば──あらかじめ設計図が用意されているセラフの中で、擬似的生命が生まれる事は、そう不思議ではないのかも知れません。あれは恐らく、そういう類のものでしょう。生きた肉体を持たない死者の記録……無害なデータです。気にする事はありませんよ」

 

 かつての人間の記録が、実体にも似た形で現れたもの、という事か。

 だが、声を掛けられたのは何故なのか、それが気になる。何か私に訴えたい事でもあったの?

 でも、もう消えてしまったし、それを彼に問い質すのは不可能だ。

 レオの言うように、気にする必要は無いのかもしれない。また、あのサイバーゴーストに会えるかも分からないのだから。

 

「それでは失礼しますね。僕は日課の散歩の途中ですので。そうだ、良ければご一緒に如何です?」

 

「け、結構です……」

 

「そうですか。それでは、ごきげんよう」

 

 良い笑顔でお辞儀をすると、彼はそのまま去って行った。そういえば、いつも彼に付き添っている騎士の姿を見かけなかったが、何か用事でもあったのだろうか。

 

 結局、ラニはまだ居なかったので、私も購買に寄って朝食を調達してから、マイルームへと戻る事にした。

 ご機嫌取りというワケではないが、アヴェンジャーにも何か買っていってあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 朝が過ぎ、昼になる。アヴェンジャーとの関係は未だぎこちないが、それでも昨日よりは幾分改善されたように思う。

 なんというか、私からもではあるが、彼女からの歩み寄りらしきものが、ほんの心持ち僅かにだが感じられた気がするのだ。

 

「さてマスター。例によって、敵の情報集めを始めるわよ。あの怪物はサーヴァントではないけど、それでも打ち倒す為の手掛かりは探らないといけませんからね」

 

「アヴェンジャーはあの子を知ってるんだよね? だったら、あの怪物が何か分からないの?」

 

 これまでのように、アヴェンジャーは一回戦、二回戦でも敵サーヴァントについて知っていたようだし、今回もそうなのでは、と期待してみたのだが、

 

「残念。私もサーヴァントの真名こそ知ってるけど、その特性や性質については無知もイイとこ。予想は出来ても確証が持てないから、迂闊な事も言えないのよ」

 

 首を振り、困ったとばかりに溜め息を吐くアヴェンジャー。

 しかし、そうなると敵サーヴァントの正体がまるで掴めない。アヴェンジャーのスタンスからして、私に敵サーヴァントの真名を突き止めさせる方針なので、やはり自分の足で情報を稼ぐしかないか。

 

 それにしたって、サーヴァントがマスターと瓜二つだなんて、正直なところ意味が分からない。そんな英霊が存在しうるのだろうか。

 

 まさか、双子のサーヴァントで、片方が最新の英雄で、片方がそのマスターであるなんて事は無いだろうし。

 こうなれば、ありす本人を探して聞いてみるか。あの子、案外私に懐いてくれてるし。

 ……本当なら、妹が出来たみたいで嬉しかったんだけど、そんな彼女と戦わされる運命にあるなんて、セラフも悪趣味甚だしい。

 

 もしありすが見つからない時の代案としては、誰かに双子について聞いてみるか。

 何にせよ、慎重に行動するべきだろう。白いありすはともかく、黒いアリスは私に対して敵意を剥き出しにした目をしていた。

 下手に刺激するのは危険かもしれない。

 

 マイルームから教室へと移動する。ありすが居ないかとも思ったが、どうやら居ないようだ。

 というか、よく考えれば、遊び盛りの年頃のようだったし、こんな堅苦しい場所に、ましてや勉学の象徴たる教室に足を運ぶとは思えない。

 

 次の場所に行くとしよう。

 

「なあ、岸波……」

 

 と、教室から出ようしたら、後ろから声を掛けられる。振り返り、そこに立っていた男性マスターを見て、合点が行く。彼は教室に居るとよく話しかけくるマスターだ。

 

 ……その彼だが、若干引いたような顔で、私を見ている。何か知らないうちにしてしまったのだろうか。心当たりは特に無いが……。

 が、聞かずとも、その理由を彼の口から聞かされる事になる。

 

「お前の趣味にどうこう言うつもりはないがな───対戦相手と遊び回るのだけは、不健全だと思うぞ。さすがに……。しかも、それが幼女相手とか」

 

「な……!!?」

 

 そ、そそ、それは何か? 私が幼女趣味の変態女子高生だとでも!?

 勘違いにも程がある。とんでもない風評被害だ!

 世が世なら、訴訟問題にまで発展させる自信がある。というか失礼過ぎやしないだろうか。

 花の女子高生を捕まえて変態趣味と指摘としてくるとか。デリカシーというものをだね……!!

 

「……なぁ、動揺しまくってるのは、俺の気のせいだよな? いや、そうであってくれ、頼む。俺の中の岸波のイメージを壊さないでくれ。後生だから」

 

 拝むように両手を合わせ、僧侶のように頭を下げて礼の形を取るや、彼はそそくさと去ってしまった。

 

 ……、誤解解けてなくない!?

 

 

 

 

 

 ありす捜索のため、私は校舎を回っているのだが、他のマスターからの視線が痛い。

 さっきの彼から聞いた私の風評は、あらぬ誤解と要らぬ噂となって校舎全体へ駆け巡っていたらしい。

 

 

「見て、アレが例の……」

 

「あんな可愛い顔して、人は見た目で判断出来ないってのは本当だな……」

 

「幼女趣味ktkr!! 羨ましいぞ同志よ! 我が輩も幼女の対戦相手になりたいでござるぅ!!」

 

「いやはや、君は計り知れないマスターだな。これまで様々なマスターの記録がセラフには集積されてきたが、こうも偏った多趣味を持ったマスターは初めて拝見する。まったくもって愉悦だよ」

 

「対戦相手と遊ぶとか、どんな神経してんだよ……。殺し合う相手だってのに」

 

 

 などと、私を見ては言いたい放題好き勝手言ってくれる。

 あと、いつも思うのだが、野次馬の中に愉悦神父や変な人が交ざるのは何なの? 暇なの死ぬの?

 

 何よりショックだったのは、三階で一成と会って開口一番に、

 

「お前が相手のマスターと遊んでいる様子は、はっきり言ってかなり異常と言わざるを得ないな……。日々の戦いの連続に、心身共に疲れているのやも知れん。一度、保健室に行く事をお勧めするぞ」

 

 と、本気で心配された事だ。あの生真面目な彼にそう言われて、心に大きなダメージを負ってしまった。

 これ以上のありす捜索は、余計な精神的ダメージに繋がりかねない。早く見つけるか、違う方法に切り替えないと。

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、岸波さん。無事に帰ってきて良かったです」

 

 

 柔らかな笑みと共に迎え入れてくれるのは、保健室の主である桜。こうして足繁く保健室に通うのは、彼女の笑顔を見る為でもある。

 決して。決して一成の言葉を真に受けてここに来たワケではない事だけは宣言しておく。

 

「支給品をわたしますね。今回も頑張ってください」

 

 手渡されたのは『魔術結晶の欠片』。占い師が使うような水晶の欠片に、魔術師の魔力が少量封じ込められたものだ。

 これを服用(※電脳世界なので飲んでも大丈夫です。現実世界では危険なので、良い子は絶対に真似しないでネ!)すれば、マスターの魔力を僅かに回復する事が出来る代物である。

 コードキャストの使い過ぎなどで、魔力を消費した時などが主な使い道だ。ただ、電脳世界だからと言って過信は禁物。欠片とはいえ多く飲み過ぎると、胃の調子がヤバくなるので、使用する際は用量を守りましょう。

 

 ところで、ありすがここに来なかったか聞いてみたが、桜はずっとここに居たそうだが、これまで一度も来た事はないらしい。

 まだまだ幼い子どものようだし、病院を想起させる保健室は忌避しているのかも。

 

 

 

 保健室を後にし、今度は校庭に出てみる。その際、マンガ雑誌回収の交換条件として頼まれていた大鍋を、アリーナでちょうど拾っていたので取引し、どうにかタイガークエストは完了した。タイガーに渡すのだけは忘れないようにしよう。

 

 ちなみに、マンガ雑誌は『少年サンディー』という名前で、特に人気作品なのは『ロジウラ!』というものらしい。タイトルにパクリ感が半端ないが、放課後の路地裏で登場人物である三人娘がだべるという内容で、何が面白いのかよく分からなかった。

 ただ、一人だけ女子高生の格好の女の子は不思議と応援したくなる。何故かは分からないのだが。

 

 

 

 一通り探したはずなのだが、一向にありすの姿が見当たらない。昨日は鬼ごっこだったが、これじゃあまるで、今日はかくれんぼをさせられている気分だ。

 諦めて図書室にでも向かおうかと、校舎の二階に上がったところで、ようやく探していた白いフリルが目に映った。

 

「やっと見つけた……」

 

 あちらも、私が階段のほうから現れたのに気付いたようで、私の顔を見るなりパーッと笑顔を輝かせて、こちらへと走ってくる。

 その勢いのまま、腰あたりに抱き付いてきた少女は、純粋無垢に笑っている。すりすりと頭をこすりつけるように甘えてくるありすだったが、私は周囲の視線に、撫でるに撫でられず困ってしまった。

 

 そんな私の気持ちはつゆ知らず、ありすは無邪気にお願いをしてくる。

 

「お姉ちゃん、今日も遊ぼう! 今日は学校で、かくれんぼがしたいな」

 

 ……えー。散々探し回って、もはやアレが半ばかくれんぼじみていたのに、ここに来て本当にかくれんぼをさせられる羽目になるとは。

 が、ありすは有無を言わさずに、さっさとかくれんぼを始めてしまう。

 

「じゃあ、あたし(ありす)隠れるから、ちゃんと見つけにきてよ!」

 

 と、言い終わると同時に、彼女は転移で姿を眩ました。というか、セラフでするかくれんぼは未来感が凄まじいな。数える必要もなく、即座にかくれんぼスタートとか。

 

「ちょうどいいじゃない。あの様子なら、かなり素直な性格みたいだし、遊びに応じて何か探ってやれば?」

 

 アヴェンジャーが現界し、遊びに乗ってやれと諭してくる。まあ、魂胆が見え見えだけど。

 なんだか、ありすの純心さにつけ込むみたいで気が引けるけど、確かに情報を得られるまたとないチャンスでもある。

 ここは乗じてみるのも良いだろう。

 

「まあ? また妙な噂が広まる事にはなるでしょうけど」

 

 からかうように、意地の悪い笑顔で言ってくるアヴェンジャー。せっかく忘れてたのに、思い出してしまったじゃないか! もう!

 

 ……こほん。かくれんぼ、と言うなら、この校内のどこかに潜んでいるはずだ。早速探してみようか……。

 

 

 

 そして、方々探し回る事10分。小さな子が隠れそうな所を走りに走って探していたが、これが全然見つからない。

 もしや、着眼点に問題があるのでは、と思い至り、趣向を変えてシンプルに廊下の奥などを探してみると、アリーナの入り口がある死角に、彼女は居た。

 ……茂みや弓道場にまで行った私の努力は一体?

 

 ともあれ、かくれんぼならルールに則った方法で終わらせよう。

 

「ありす、みーつけた」

 

「あ! みつかっちゃった。残念……あたし(ありす)の負けだね」

 

 うん、やっぱり素直な子だ。すんなりと負けを認めるあたり、非常に好感を持てる。

 

「うーん、お姉ちゃんが勝ったから……そうだ! じゃあね、お姉ちゃんのお願いごと、何か聞いてあげる! 何がいい?」

 

 何の裏もない、心からの提案。これはチャンスだが、お願い事……どうしようか───。

 

 二人のありすについて教えてもらう?

 それとも、あの怪物を居なくならせてもらう?

 

 …………、ひとまずは確実なほうを選ぶべきか。トリガーの入手は何より重要だし。

 

「じゃあ、お友達をどかしてくれる?」

 

「お友達? それはあの子に聞かないと分からないわ」

 

 む、どうやらこのお願い事はクリア出来る範疇に無かったらしい。あの子───とは、黒いアリスの事なのだろうか。

 

 悩んでいたらしいありすだったが、何か思いついたのか、ポンと手を叩いて、それを口にする。

 

「あ、そうだ……じゃ、今度は宝探しね! 『ヴォーパルの剣』を見つけられたら、きっと、あの子もどいてくれるわ」

 

 『ヴォーパルの剣』……? どこかで聞いた事があるような気もするが、何だったか。はっきりと思い出せない。

 

 そんな私を見かねてか、ありすは更にヒントを出す。

 

「えっとね、特別にヒントをあげる! 『ヴォーパルの剣』は、ただアリーナに行っても見つからないよ。それは、どこにあるとも知れない架空の剣───さあ、どうやって見つけたらいいでしょう? じゃあ、がんばってね。ばいばい。お姉ちゃん」

 

 ヒントの後に別れを告げると、彼女はさっさとアリーナへと姿を消した。

 

『上手く情報を引き出せたようね。さて、今度はその『ヴォーパルの剣』とやらを探しましょうか』

 

 霊体化したままでアヴェンジャーが提案してくる。確かに、このままありすを追ってアリーナに入ったところで、あの怪物をどうにも出来ないなら意味はない。

 おとなしく宝探しに興じるしかないだろう。

 

 それにしても、『ヴォーパルの剣』か。まさかありすが剣などと物騒な感じのする物をお題に出してくるとは、意外も意外。

 引っ掛かるのは、彼女が口にした『架空の剣』というキーワード。何を以て架空とするのか。まさか、実在しないとか言わないよね……?

 

 え、まさかね? ねぇ……?

 

 

 

 ……なんか、自信無くなってきた。

 

 


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