Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

53 / 75
私の名前は───

 

 そして翌日。

 昨晩受けたアヴェンジャーからの折檻によるダメージがまだ少し尾を引いているが、泣き言を言ってられないのが現状だ。

 ありすが残した固有結界。アレをどうにかしなければ、本当の意味で手も足も出せない。いや、彼女たちに手が届きすらしないだろう。

 

 そして、今のところ唯一の手がかりになるかもしれない、()()

 

「さて、このメモには何が書いてあるのかしら? ……、ハア?」

 

 昨日ありすたちを追い詰めた場所で拾った、小さな一枚のメモ。拾った当の本人であるアヴェンジャーが真っ先に目を通していた───のだが、走り書きを見つめて、しばらくポカンとしていた。

 

 何が書かれていたのか気になるが、一向にそれを口にしようとしないので、私は待ちきれずにメモの文字を覗き込む。

 

 アヴェンジャーの手にあったメモには一言───

 

 

 

『あなたの名前はなあに?』

 

 

 

 とだけ記されていた。

 

「あなた……って私? いや、違うわね。私よりもアンタのほうが固有結界の影響が顕著だったし。でも、なんでマスターの名前なのかしら? あの固有結界の中でなら分かるけど、そんなものを問う理由なんてある?」

 

 悩むアヴェンジャーと私。これが固有結界を解く術だというのだろうか?

 しかし、どうやって。あの中では、真っ先に名前を失ってしまうのに?

 

 ……試す価値はありそうだが、どうやって忘れた名前を口にするのか、その対策を練らないと。

 

 昨日は結局できなかったし、今日こそは誰かに相談してみようか……?

 

 

 

 

 

 

 case.1 ラニ=Ⅷ

 

 

「名前を忘れずに済む方法、ですか? 師ならば錬金の術を以て、魂に刻む事も出来るでしょうが……そうですね……。それでは、あなたの身体に呪印を刻むというのはどうでしょう? 大丈夫、痛いのは一瞬ですから。魂まで砕かれるほどではありませんし」

 

「……丁重にお断りします」

 

「そうですか。では、星の導きがあらん事を……」

 

 

 

 

 case.2 柳洞 一成

 

 

「なに? 名前を忘れない方法だと……? ふむ、それはやはり、繰り返し口に出して覚えるしかあるまい。暗記というのは言葉に出して覚えるものだからな。何事も一朝一夕で身に付くものではない、という事だな。……ん? そうじゃない? 固有結界の中で名前を忘れない方法が知りたい? ……むう、すまんが俺では力になれそうもない。聖杯戦争の運営を担う身ではあるが、魔術とやらにはサッパリでな。助力できずに申し訳ない。おお、そうだ! ならば、あそこにいるラニさんに聞いてみるのは───」

 

「結構です。痛いのは、イヤ」

 

「痛い……? ふむ、まあ壮健にな!」

 

 

 

 

 case.3 レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ

 

 

「名前を忘れない方法、ですか……。そうですね、人間というのは一度経験した衝撃はずっと記憶しているものです。ですので、何かインパクトのある事と名前を結び付けて記憶する、というのはどうでしょう? 例えばですが、覚えたい単語を口にしながら誰かにビンタしてもらう、とか。ビンタという衝撃に単語が結び付き、より印象も深くなるという寸法です」

 

「ビンタ……? いや、アヴェンジャーにビンタされると後遺症が残りそうで、ちょっと……」

 

「まあまあ。物の例えですよ。あ、そうだ。岸波さんは兄さんを知っていましたよね? 実は一つ、お勧めしたい方法があります。ああ見えて兄さんはカレー作りが得意と自称していまして、そこで兄さん特製ドラム缶カレーをですね……」

 

「食うか、んなゲテモノカレーなんて! マスターにだって食べさせないわよ!!」

 

「おっと。貴女のサーヴァントに止められてしまっては、これは諦めるほかにありませんね。ちなみに、これまでお伝えした話は全て冗談ですので、真に受けないでくださいね? ああ、兄さんのカレーに関しては本当の事だと断言しておきますが」

 

 

 

 

 case.4 遠坂 凛

 

 

「名前を忘れない方法? あなた、ついにそんな情報まで消えてきちゃったの?」

 

 呆れたような、多少は心配するような声をあげた凛に、事情とこれまでの経緯を説明する。

 

「それはまた……ご愁傷様、ってところかしらね。で、自分の名前が分からなくなる固有結界の中で、自分の名前を言う方法ですって? っていうか固有結界って何よ!? あの子のサーヴァントは、そんなもの使ったの!?」

 

 凛のこの驚きぶりから見ても、やはり固有結界を使うという事は、常識では考えられない代物のようだ。

 

「しかもアリーナ全体を、そんな長い時間書き換えるなんて……。……きな臭いわね。真っ当な英霊とは思えない。何か、反則じみた特例と見たわ。……ここで潰れてくれないかしら……」

 

 ……何か不穏な言葉が聞こえた気がしないでもないが、と、とにかく、固有結界の解き方に関して、何か思いつく事はないだろうか?

 そんな私の問いかけに対し、凛は呆気に取られた顔で答えた。

 

「へ? メモにはメモでしょ? そんなの、手にでも書いとけばいいんじゃないの?」

 

「………………手に?」

 

 しばらく間抜けな時間が流れる。

 沈黙を破ったのは、突然に現界したアヴェンジャーだった。

 

「そうよ! なんて迂闊……!! 単純な話、見えるところに書いておけばいいだけの事じゃない!」

 

 興奮しながら私と凛、交互に肩を掴んで揺さぶるアヴェンジャー。悲しいかな、私にも凛にも、アヴェンジャーほど揺さぶられて揺れる果実は実っていなかった。

 親の仇でも見るかのように、そのたわわな二つの肉まんを私たちが睨みつけている事を、彼女は全く気付いていない。

 

「……うん、そうだね。それが何なのか分からなくなっても、手に書いた文字を読めばいい事だけを覚えておけば、名前を言う事は可能だもんね」

 

「……ま、そういうコト。子どもだましには子どもだましよ。メモを残すっていうのも、結界を作るのに必要な条件なんでしょ。遊びには遊びのルールが必要なの。ほら、鬼ごっこやかくれんぼ、色んな子どもの遊びがあるけれど、どれも一応のルールは定義されているでしょう? それと同じってワケ」

 

 こんな簡単な事にも気づかないとは……。何だか、自分が恥ずかしくなる。

 とりあえず、彼女にはお礼を言っておこう。

 

「ありがとう、凛。助かったよ」

 

 彼女の手を両手で握り、真摯に目を見つめて礼を言う。

 凛は、少し照れたように顔を僅かに赤く上気させ、しどろもどろに返事をした。

 

「っ、バ、バカじゃない? こんな事でお礼を言われてたら、わたしは今ごろ女王さまだっていうの」

 

 それでも、まあやはりと言うか、彼女の対応は、そっけなかった。自分とは、いずれ殺し合うかも知れないのだから当然ではあるが、やはり少し寂しい───。

 

 ……さて、とにかく忘れないうちに、手に名前を書いておこう。

 

「任せなさい。私が書いてあげます。しっかりと、消えないように()()でね。フフフフフ……文字書きの特訓の成果を、まさかこんな所で披露もとい発揮するなんてね。腕が鳴るわ……!!」

 

 アヴェンジャーさん、別に油性で書く必要はないのでは……? そして、あなたフランス出身のサーヴァントだったよね? 日本語で書けるの?

 ───などという心配を余所に、しっかりと私の手のひらに油性ペンで『きしなみ はくの』と、ひらがなで刻み込んだアヴェンジャーなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお! それこそまさしく漫画雑誌!」

 

 一階に降りてくるや否や、もの凄い速度で駆け寄ってきた藤村先生(タイガー)。そういえば、と私は彼女から依頼を受けていた事を思い出し、とあるマスターから交換してもらった漫画雑誌を手渡した。

 

「よく、回収してくれたわね。じゃあ、先生が預かっとくわ。あ、それでねー……」

 

 何だろう、嫌な予感がする。

 

「もう一つ、先生のお願い、聞いてくれないかなー?」

 

 やっぱり。期待を裏切らないのがタイガーだ。いや、悪い意味で。

 

「(子どもは一人で手一杯だけど)いいですよ」

 

「わあ、ありがとー。何だか妙な間があった気がするけど。あのね、何でも今度のアリーナの第二層には、流氷が漂ってるって話じゃない。だからねー、氷を取ってきてほしいの。かち割り氷。何に使うかは、大人の秘密よ」

 

「……まさか、いい大人が流氷を使ってかき氷……なんて、言わないですよね?」

 

「あははー……とにかく! 取ってきてくれたら、先生の秘蔵の品を進呈するわ。じゃあ、三回戦のうちにお願いね」

 

 あ。ごまかした。しかも追及されるのを避けて職員室に走って逃げ込んだ。これは当たりだろう。

 まあ、請け負った以上、やり遂げるしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 藤村先生との会話の後、購買部にて必要物資を調達した私たちは、アリーナ入り口の前に立っていた。

 扉に手を掛ける前に、再度手のひらを確認する。アヴェンジャーに書かれた、私の名前。手を洗っても簡単には落ちなかったので、きっと大丈夫。ちなみに、少しだけ薄れてしまったので書き直してある。名前の上には意味不明ないたずら書きもされてしまったが、まあ問題はないだろう。

 それに、意図してかは分からないが、ひらがなで書いてあるおかげで、もし漢字を思い出せなくて読めない事になっても、ひらがな程度なら大丈夫なはずだ。

 

 確認を終え、扉へと手を掛ける。そんな私に、アヴェンジャーからアリーナへと入る前に最後のアドバイスが。

 

「マスター。アリーナに入ったら、まずは自分の手を見なさい。名前を忘れてしまうのなら、名前を言おうとする事が既に不可能になるはずよ。なら、まず目に入った文字を口にしなさい。意味が分からなくともいい。もし、それで固有結界を解けなくても、また引き返して対策を立てれば良いだけなんだから」

 

「うん。でも、一応は声を掛けてね? 手を見るのも忘れてしまうかもしれないから」

 

「当然よ。さあ、行くわよ。あの鬱陶しい固有結界を木っ端微塵に粉砕してやろうじゃないの?」

 

 

 

 

 アリーナへと降り立つ私たち。

 やはりと言うべきか、アリーナは前回と変わらず、全てが異様な雰囲気に包まれたままだ。

 

 さて、何をしたらいいんだっけ?

 

「マスター、私が書いてあげたその名前、今こそ高らかに読み上げる時よ!」

 

 隣の女性に促され、手を見つめる。手の甲には何もない。裏返し、手のひらを見ると、何か書いてある。

 これの事、だろうか……。

 

 息を吸う。深く、そして吐き出し、また息を吸って、口を開く───

 

 私の、名前は───

 

 

 

 

「フランシスコ…ザビ……!?」

 

 

 

 

 ─────待て。落ち着け、まだ慌てる時間じゃない。この単語が何なのかは不明だが、間違いなく、致命的に間違っている。

 このフランシスコな単語の下に書いてある、控えめな単語の方を口にしよう。

 

「フラ……、『きしなみ はくの』!!」

 

 今は意味の分からない文字を読み上げる。

 すると、侵入者を拒むように張り詰めていた空気が一瞬で変わった。

 

 視界の歪みは無くなり、反転していた色も元通りになる。固有結界は、跡形もなく消失していた。

 

「よしっ。これで邪魔なものは消え去った。というか、イタズラに引っ掛かるとか焦ったっての。まあ、私が悪いんだけど。それよりもマスター、先を急ぐわよ!」

 

 隣の女性……いや、()()()()()()()が意気揚々と私の手を引いて歩き始める。

 本当に、固有結界はその効力すらも完全に抹消されているようだ。

 というか、やっぱりイタズラの自覚はあったのね……。

 

 

 

 

「ああ……名無しの森が消えてしまったわ」

 

 

()()()()()が消えてしまったわね」

 

 

 

 

 

 ……!

 ありすと、アリス! 少女たちが、昨日と同じように通路の先で、いつの間にか立っていた。

 

「残念だわ。別の遊びを考えなくちゃ」

 

「大丈夫よ、あたし(ありす)。もう少しで時計が鳴ってしまうもの。その時は、思い切り遊べるわ」

 

 時計……? それは、どういう───、

 

「本当? 壊しちゃっても大丈夫?」

 

「大丈夫だわ、あたし(ありす)。でも、今は少し我慢しましょう。楽しみは取っておくものよ」

 

「そうね、取っておくものね。じゃあね、お姉ちゃん」

 

「さようなら、お姉ちゃん」

 

 別れの言葉を告げて、二人は消えた。おそらく転移したのだろうが、あの口振りから察するに、今日はもう手出しはしてこないのかもしれない。

 

「……名無しの森、ね。それが固有結界の名前かしら。なるほど、確かに()()()らしいというか何というか」

 

 何やら思い詰めたような顔で呟くアヴェンジャーであったが、すぐにいつも通りになる。どうやら心配する必要は無いらしい。

 

「さあてと。今日のうちに行ける所まで進むわよ、マスター。昨日の遅れを取り戻さないと。何なら、今日のうちに暗号鍵(トリガー)も手に入れましょうか?」

 

 やる気に満ち溢れるアヴェンジャー。不思議と、私まで自信が出てくる気がする。やっぱり、アヴェンジャーはこうでなくっちゃ。

 

「よし、行こう! アヴェンジャー!」

 

 

 

 

 

 

 昨日、固有結界が展開されている時には居なかったエネミーを討伐しつつ、奥へと進む私たち。改めて、正常な自我を保てたまま進んでいると分かるが、今回のアリーナはまるで迷路のようだ。前回の比ではない広大さ、入り組んだ通路、そして数々の行き止まり。

 これを迷路と言わずして何と言うのか。

 

「どんどんアリーナの構造も複雑になっていくわね。エネミーの強さだって、一部は馬鹿にできないレベルになってるし」

 

 長い距離を歩き、しかもエネミーとの戦闘もこなしているアヴェンジャーが気怠げに愚痴をこぼす。

 指示を出しているだけの私ですら、流石に疲れてきていたのだから、彼女の疲労度は計り知れないだろう。

 

「そうだね。トリガーを守るように新型エネミーが二体も配置されてた時は、息が止まるかと思ったし」

 

 あからさまな配置だったが、片方をアヴェンジャーが対処している間は、私がもう片方を引き付ける。そしてアヴェンジャーの対処が終了次第、私と入れ替わり次のエネミーへ……。

 アヴェンジャーと代わるまでの間、どうにかアヴェンジャーへと狙いが集中しないようにコードキャストでエネミーを挑発していたのだが、正直死ぬ思いで立ち回っていた。というか、逃げ回っていた。

 もう少しアヴェンジャーが遅かったら、私はきっと死んでいたに違いない。

 

「トリガーコードゼータ。これで二つ揃った。後はマトリクスだけ、か」

 

「言っておくけど、今回も私は何も教えないから。これはマスターである貴女が辿り着くべき答えであって、私がおいそれと口出ししても貴女の成長には繋がらないのだから」

 

 分かっている。何も、アヴェンジャーに教えてくれと頼むつもりは、これっぽっちもない。

 前回も、前々回も、アヴェンジャーは対戦相手のサーヴァントを知っていた。

 けれど、私は彼女の知る記憶に頼らずに、自らの足で情報を得てきた。

 なら、やはり今回も、そしてその次も変わらない。アヴェンジャーに頼り切るばかりでは、きっと私は堕落する一方なのだろうから。

 

「大丈夫。私のためを思ってくれて、ありがとう」

 

「べ、べべ別に? 貴女の事を思って言ったとか、そんなんじゃないから!? 自意識過剰とかキモいんですけど!」

 

 激しい照れ隠しですねごちそうさまでした。

 

 まあ、あれだ。こんな風に、前みたいに馬鹿げたやりとりができるというのは、嬉しく思う。

 ありすを見てからというもの、最近のアヴェンジャーはどこか辛そうに見えた。望まない戦いに身を投じようとしているかのようで、心配で不安でたまらなかったが、この分だと吹っ切れたかな?

 いや、完全に払拭できてはいないだろうが、それでも前を向いてくれている。ずっと下ばかり向いているのは、彼女には似合わないのだから。

 

「ところで、今回は氷のお城が舞台なワケだけど、すごく幻想的だよね」

 

「まあそうね。かなり前にどこかで見た覚えがあるのだけど、何かの映画で出てきそうなお城ではあるわね。私は炎系のサーヴァントだから、氷系のサーヴァントも格好良くて気に入ってるんだけど、もし私に氷系スキルが加わったら、炎と氷が合わさって最強に見えるわよね」

 

 助け舟的に話題変更をしてあげる私。すると、すぐさま食いついてくるアヴェンジャー。彼女としても、この話題には興味があったのだろうが、勢いがハンパない。というか、途中から話が変にズレているのだが。

 

「でも、実際問題住むとなると話は別よね、コレ。氷の城とか、移動するにも足が滑って一苦労しそうだし、そもそも寒いのはイヤだし。私だったら間違っても住んでみたいとは思わないかしらね。ま、見る分には綺麗だし、構わないんだけど」

 

 今度は氷の城の機能性について語り出したアヴェンジャー。何か文句を言わないと気が済まないのか、このお嬢様は。

 

「住む住まないは、この際どうでもいいわ。それより、多分だけど今回の決戦場はあの城でしょうね。これまでの事を考えれば、他に思い当たらないもの」

 

「そうだね。お城、かぁ……。氷で出来てるけど、対戦相手の名前がありす。まるで本当に『不思議の国のアリス』の世界に入った気分」

 

 ジャバウォックに関連するであろう怪物と、それを倒すために用意した礼装、『ヴォーパルの剣』。

 どちらも『鏡の国のアリス』に登場するとされる要素。

 何かしら、童話に登場する“アリス”と関連性を持った魔術が使われているので、無関係ではないはずだ。

 

 あの固有結界の事であろう“名無しの森”。これも、調べれば何かしらの繋がりを見つけられるかもしれない。帰ってから調べてみるか……。

 

「それじゃ、帰ろうか。藤村先生に頼まれたかち割り氷も手に入れてあるし、マップも埋めてあるしね」

 

「オッケー。私も今日は疲れたわ。帰って速攻シャワー浴びて寝たい気分」

 

 トリガーは揃った。あとは、マトリクスを埋めるのみだ。

 流石に今日は疲れたし、明日にでも凛に固有結界を解くヒントをくれた礼でも言いに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───サイバーゴースト。

 

 実体を持っても、本来は現実世界に影響を与える事はない。それが電脳世界であったとしても。

 

 いや、そもそもサイバーゴーストはその名の通り、電脳世界にしか存在できない。

 電脳世界でしか存在を許されない、彷徨するだけの虚ろな影……。

 

 けれど、それにも利用価値はある。

 

 生者に干渉する権利を得た()()には、十二分以上の利用価値がある。

 

 これまでとは違う。十分なリソースは得た。そして現実に帰るべき体が無いのであれば、()にも()()の電脳体に干渉する事が可能となる。

 肉体と繋がりを持たない電脳体など、()にとってはオモチャでしかないのだ。

 

 さあ、可愛いお人形さん。()のために、踊らせてあげましょう……。

 どうか、お願いだから簡単には壊れないでくださいな……?

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。