Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

54 / 75
おとぎの国の住人?

 

 早速次の日の朝、固有結界を解くヒントをくれたお礼を言いに、屋上に居るであろう凛の元へ向かう。

 単純な仕掛けではあったが、手に書いた名前が無ければ、今頃は自分の名も、身体も、全て消えていたかもしれないのだ。

 

 と、屋上に着くと、やはり凛はいつもの場所に佇んでいた。何というか、もはや定位置な感じがする。

 向こうも、誰かが扉を開いて屋上へと来た事に気付いたようで、こちらに振り向く。

 

「あら、誰かと思えばヒヨコマスターさんじゃない。どう? ありすって子のサーヴァントの固有結界は解けた?」

 

「うん。凛のおかげで、無事に解く事が出来たよ」

 

 頭を下げて礼を言うと、凛は「そういうのはいいから」と本当にどうでもいいとばかりに受け流す。

 ……あと、名前を言い間違えそうになった事は言わないでおこう。なんだか恥ずかしいし。

 

 さて、わざわざお礼だけを言いに来たのもアレだし、ちょうどいい機会だ。ありすの力自体についても、凛に相談してみよう。

 彼女のような一流の霊子ハッカーは、ありすの固有結界によって、何か、異常な事を感知していないだろうか。

 思った事を率直に聞いてみると、凛は考えるようにして答えてくれた。

 

「異常? そうね……。少なくとも、学園サイドへの違法な干渉は感じられなかったわ。仮に、サーヴァントが異界を作るコトに特化した英霊だとしても、結局、その負荷はマスターに掛かる。サーヴァントに局地的な事象書き換え能力があるにしても、それはそういう機能(エンジン)があるだけ。動かすには、それに見合った燃料(まりょく)が要るわ。正直、人間の脳や魔術回路程度じゃ、不足のはずよ」

 

「その話が正しいとすれば、ありすという存在自体が人の域を超えている───という事になる?」

 

 それは───あり得る、のだろうか?

 あんな幼い少女が、人知を超えた力を身に宿しているとは到底思えないのだが……。

 ふと、人の域という言葉で思い出した事がある。

 

「そういえば、セラフに記録された死者のデータが、精神だけの存在としてさまよう事があるって聞いたけど───」

 

「死者のデータ……ああ、ゴーストか。地上のネットワークならともかく、ムーンセルにゴーストは居ないけどね」

 

 え、そうなの? と思わず素で聞き直す。

 

「ゴーストは未練や怨念を残したハッカーが電子上に“焼き付いた”痕跡よ。でも、ここでは人間は“死ぬ”ことはない。当然でしょ? だってここは、もともと人間の住む世界じゃないんだから」

 

 ……そうか。セラフには生者も死者も……そもそも人間が居ない。ここにあるのは情報だけだ。

 あるいは、地上から霊子化して侵入した、凛のような魔術師達だけ。

 

「そもそも生きているものが居ないから、死ぬものも居ない……って事か」

 

「そ。それにマスター達だって、死んでもゴーストにはならないわ。敗れたマスターはムーンセルそのものが消滅させる。管理の怪物であるムーンセルは不正なデータを許さない。人間から亡霊に変革したデータなんて、見つかったら即座に解体されるでしょうね。だから───」

 

 前置きの前にコホンと咳払いをして、凛は続けた。

 

「もし可能性があるとしたら、それは初めから“死んでいた”マスターだけ。デフォルトの状態が『既に死んでいた』のなら、ムーンセルもゴーストを許容するかもしれない」

 

亡霊(ゴースト)……」

 

 始まり(デフォルト)で、既に死んでいた。

 

 それは、つまり。

 

「さ、無駄話はここらでおしまい。考え込むのは自分でなさい。私たちが敵同士だってこと、忘れないでよね」

 

 思考の袋小路に入りかける一歩手前で、凛が無理やり話を切った。シッシッと手払いで、わかりやすくあっちへ行けと示されては、退散するしかない。

 まだ気になる事はあるけれど、ここは潔く帰る事にする。

 もう一度だけ軽く礼を告げて、私は屋上を後にしたのだった。

 

 

「……ゴースト、か。まさか……ねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は進み正午。朝に凛に言われた事を思い出す。

 

『サイバーゴースト』

 

 それが事実であるとすれば、地上にあるだろうありすの本体は、とっくに……。

 

「……、」

 

「相手が子どもとは言え、所詮は他人でしょう? アンタが気にする必要なんて欠片もないわよ」

 

 よほど暗い顔をしていたのだろう、現界したアヴェンジャーが私の頭を軽く小突きながら言う。励まし……ではないだろうけど、彼女なりに私に気を遣ってくれているのだろう。

 

「どっちにしろ、厄介事には変わりないわね。もし、あの子が魂だけの存在かもしれないとして、気が乗らないけど教会で聞いてみたら? あの姉妹、“魂の改竄”というくらいだし、何か知ってるかもしれないわよ」

 

 教会か。確かに、魂の改竄をしている彼女達なら、何かを知っているかもしれない。

 すぐにでも行ってみるか……。

 

 

 

 それは教会へと向かう道の途中での事だった。

 

「マスター」

 

 急にアヴェンジャーに呼び止められ、何事かと振り返ると、神妙な顔付きで彼女はそこに立ち止まっていた。

 

「どうしたの、アヴェンジャー?」

 

 私の問いかけに、アヴェンジャーはどうしようかと悩んでいるようだったが、意を決したのか、堅い表情で口を開く。

 

「少し、話をしましょうか……?」

 

 

 

 教会前の噴水広場にやってくる。そこに備え付けのベンチに、アヴェンジャーと二人並んで腰掛ける私。

 何か話をするとの事で、教会に入る前に小休止する形を取ったのだが、アヴェンジャーは視線をあちらこちらへ泳がせるばかりで、一向に話そうとしない。

 煮えきらず、私は自分から切り出す事にした。

 

「何か話があったんじゃないの? なんだか恥ずかしそうにしてるけど、もしかして“そういう系”の話?」

 

「そういう系って何よ。その、あれよ……。これまでもそうだったけど、アンタ、私の事情について聞いてこないでしょう?」

 

 事情、とは……もしかしてアレの事だろうか。

 どうしてアヴェンジャーは、これまでの対戦相手のサーヴァントについて知っているのか、という事。

 

「だって、話し辛い事情が有るんだと思ったから。アヴェンジャーが話してくれる気になったのなら、いつか聞こうとは思ってたけど」

 

「……やっぱりお人好しね、あなた。そういうとこ、ホントに()()()そっくり……」

 

 そう言って、懐かしむように空を見上げる彼女の横顔は、何故だか儚げで、それなのに美しいとも感じた。

 

「……ほら。今回って、特に取り乱してたじゃない、私? あなたと喧嘩にもなった。なのに、何も聞いてこないから、少し気になったのよ」

 

 それは、うん。確かに喧嘩した時は悲しくなったし、怖くもなった。もし、アヴェンジャーがその殺意を、敵意を私にぶつけてきたら───。

 怖くて怖くて、たまらなかった。死ぬのが、ではない。アヴェンジャーに切り捨てられるのが、だ。

 

 一回戦、そして二回戦。死ぬ思いをして、ここまで二人でやってきた。私の中では、既にアヴェンジャーは心の拠り所になりつつある。

 その彼女に見放されたらと思うと、それだけで泣いてしまいそうだった。

 だから、怖かったのだ。孤独のままに死んでいくのが。とても。

 

「アヴェンジャー、もし今、私が聞いたとしたら、全部話してくれる?」

 

「………それ、は」

 

 言いよどむアヴェンジャー。

 ああ……きっと私は卑怯な質問をしている。答えられないからこそ、ずっと話そうとしなかったはずなのに、今それを言えるはずがない。

 

 アヴェンジャーはばつが悪そうに、そのまま俯いてしまう。

 だけど、私は別にそれでも構わなかった。私にそれを言えない事、私がそれを聞いてこない事。

 どちらにしても、アヴェンジャーは私の事を気に掛けてくれている事に違いはないのだから。

 

 今はそれだけで、十分だ。

 

「私は……今それを言えば、どうなるか分からない。だから、まだ言うのは無理。でも、いずれ伝えるべき時はくる。だから、その時はちゃんと言う。私が何を抱えて、どうやってここに来て、何のためにここに居るのか。きっと伝える。それが契約を結んだマスターへの、せめてもの礼儀でしょうから」

 

 真摯に、私の目を見つめて告げるアヴェンジャー。その言葉は、これまで彼女が口にしたどの言葉よりも重く、そして温かなものであるように思えた。

 アヴェンジャーも自分で言って恥ずかしくなったのか、すぐに顔を真っ赤にして、私から顔を背けてしまう。

 なんだか、それがとても貴く感じてしまう私は、もしかしたら既に彼女が持つ人間性に魅了されてしまっているのかもしれない。

 

「……なに笑ってんのよ」

 

 おや? つい口元が綻んでいた。無意識に小さく笑い声をこぼしてしまったようだ。

 顔を背けていたというのに、アヴェンジャーは耳聡いなぁ。

 

「何でもないよ、何でも」

 

「ムカつくわね、その『ああはいはい。私はあなたの事をきちんと分かってるからね』的な態度と余裕。何様よアンタ!?」

 

「ん~……マスター様、もしくはご主人様?」

 

「そんな呼称をするのは、どこぞのピンク頭狐だけで十分よ!!」

 

 ピンク頭狐……何だろう、その名前を聞くと、何故だか、そこはかとなく貞操の危機を覚える。

 とまあ、湿っぽい空気はこれでサヨナラできたし、教会はもう目の前。早く用件を済ませてしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

「改竄に来た……訳ではなさそうだな。どうした? 私も暇ではないのだが」

 

真っ先に蒼崎橙子に声を掛けたところ、すぐに用事が他にあると気付いたらしく、彼女は面倒そうに応えた。

彼女の気が変わらぬうちに、二人のありすと、亡霊(ゴースト)……についての疑問を投げ掛ける。

 

「私の対戦相手が……もしかすると亡霊(ゴースト)かもしれなくて、少し話を聞かせてもらおうと思ったの」

 

亡霊(ゴースト)か。また、前時代的な事を言うな、君は」

 

亡霊というワードで、ようやく多少興味を示したのか、蒼崎橙子はこちらに向き直ると話を続けた。

 

「私たちがマスターを通して、サーヴァントに施しているのは、詰まる所、魔術回路の変革だ。君らの霊体を改造し、サーヴァントの力をより効率的に具現化できるようにする。それが改竄だ。あの、ありすという娘も何度か見たよ。あれが双子かどうかを調べるのは君の仕事だ、私が口を出すコトじゃないが───」

 

少し考える素振りを見せた蒼崎橙子だったが、言っても良いと判断したのだろう、私の求めた結論(こたえ)を口にした。

 

「あの少女は十中八九、君たちの言う『精神体(ゴースト)』と見て間違いない」

 

……やっぱり。プロの目から見て、そうだと捉えたのだから、これはもう確定事項だろう。第三者から断言された事で、私の中でのありすへの疑念が確信に変わると同時に、とある事実も突き付けられる。

つまり、ありすの帰るべき肉体(からだ)は、もう───。

 

「確かにサイバーゴーストなら、身体的制約を受けずに、巨大な魔力を扱える。脳が焼き切れるコトがないからね。リミッターがないんだ。いずれ壊れるとしても、魂の限界、魂が燃え尽きるまで魔力を生み出せる」

 

それは、なんて───救いのない。幼さの残るありすに、自らの限度が測れるとも思えない。あの様子では、魔力の消費量に加減ができていないはずだ。

もし聖杯戦争に勝ち進んだとしても、遠くない未来、破滅は免れないはず。

 

「……しかし。ただのゴーストがあれほどの魔力量を持ち合わせるとは、よほどサーヴァントと相性がいいのだろう。相手のサーヴァントのクラスは分かるか?」

 

クラス……。あの怪物がそうであるならば、おそらくはバーサーカー。けれど、アレは本当にサーヴァントと言えるのか?

倒して以来、その姿を見せていないが、どうにも違うような気がする。

 

「今はまだ……。ありすが使役してたバーサーカーっぽいのなら、倒したんですけど」

 

「バーサーカー? それも倒しただと? だとすれば奇妙な話だ。ならば、その時点で君たちは自動的に勝ち上がりとなり、猶予期間(モラトリアム)もトリガーさえ集めれば、あとは消化するだけのはず。そもそも、あっちは固有結界を使ったのだろう? バーサーカーにそこまで大規模な固有結界はそぐわないだろう。固有結界は最高位の魔術だ。順当に考えれば、クラスはキャスターになると思うがね。……ま。そこにもう一つぐらいは、カラクリはあるだろうが」

 

 バーサーカーに固有結界は使えない? 無論、例外もあるにはあるだろうが、それがありすの呼び出した怪物に当てはまるとは、とてもではないが思えない。

 どういうことだ……。

 

 しかし、そうだとしたら、ありすのサーヴァントは、一体─────。

 

 双子についての疑問が解けたワケではないが、ありすが特殊な存在らしい……という事は朧気に理解できた。

 

「質問は終わりか? なら私は仕事に戻るぞ。こう見えても絶賛雑務中なんだ。……まったく。腕が良くて、気が利いて、美味い珈琲を淹れる社員が恋しいよ」

 

 それきり、蒼崎橙子は再び書類に目を移すと、こちらには何も居ないかのように黙ってしまった。

 

「愚姉がごめんね。コイツったら、興味を無くすとトコトン無反応になっちゃうから。話は済んだみたいだし、せっかく来たんだから改竄やってく?」

 

 祭壇を挟んで橙子の反対に座る蒼崎青子が、厄介払いされて立ち尽くしていた私に声を掛けてくる。彼女なりにフォローを入れてくれているのかもしれない。

 

「じゃあ、せっかくなので。お願いします」

 

「よし、任された! お姉さん張り切っちゃう!」

 

「ほ、程々にでお願いします……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改竄を終え、どうにかアヴェンジャーの巨大化も消滅もなく教会を出た私たち。だが、物事というのはこちらの都合など無視するように進行するものだ。

 息つく間もなく、外に出た瞬間に私は少女たちに捕まった。

 

「あ、お姉ちゃんだ」

 

「また怖いことをされたら大変だわ。逃げましょう、あたし(ありす)

 

「そうね、早く逃げなくちゃ」

 

 不意の邂逅に身構える私ではあったが、どうやら彼女らも予想外の邂逅だったらしく、黒いアリスが白いありすに逃げるよう諭す。

 なんだろう、白のありすは私に対し、まだ友好的に見えるのだが、黒のアリスはその真逆。私への友好的な態度など、これまで一度も感じた事がない。

 

「どこに行こうか?」

 

「お話が読みたいわ、あたし(アリス)

 

「いいわね、お話を読みましょう、あたし(ありす)

 

 行き先が決まったのだろう、ありすたちはその場から消えてしまった。私から逃げる、というよりは、物語を読むという方向に興味が傾いたが故に去った、といった感じ。

 

 サイバーゴーストの話もある。それを確かめるためにも、ありすと話したほうがいいだろう。

 果たして、どこに消えたのか、ヒントはありすの言い残した『お話が読みたい』という言葉───。

 

「なるほど。()()()か」

 

 

 

 

 

 

 ありすが去ってすぐ、私は目的地に辿り着く。

 そこは図書室。お話が読みたいのなら、たくさんの物語を綴った本の保管所に向かうのが妥当だ。

 そして案の定、二人は居た。本棚の端から端、並んだ本に指を添え、なぞりながら横にスライドするように。何か本を探しているように見える。

 

「白いウサギ、ここにはいないよね」

 

「そのウサギ、三月ウサギ(マーチ・ヘアー)の見間違い?」

 

 目当てのものが見つからないのか、二人の機嫌はあまりよろしくない様子である。検索すれば早い話だろうに、如何せん子どもであるからか、そこに思い至らないらしい。

 

三月ウサギ(マーチ・ヘアー)って、きっとあなたのことよ」

 

「ひどい」

 

 黒いアリスにしては珍しく、目に涙を浮かべていた。仲の良い二人が言い争うのは、不思議と胸が痛む。……はて? これは本当に言い争いなのだろうか?

 

「白いウサギ、つかまえてどうするの?」

 

「くびをちょんぎっちゃうの」

 

「きゃあっ! ウサギさん、いそいでにげなきゃ!」

 

 先程とは一転、笑顔で物騒な事を言い出す黒のアリス。喜怒哀楽の振れ幅が異様の一言に尽きる。

 何より、恐ろしいと感じたのは、次の瞬間にはその顔から喜怒哀楽の全てが消え失せ、淡々とある事を口にした事。

 

「でもね、白いウサギは、きっとここにいるの」

 

「どうしてわかるの?」

 

「わたしたちのこと、じっと見てるもの」

 

 本を探すのに夢中で、私に気付いていないと思っていた。だが、その瞳はじっとこちらに向けられている。

 感情の宿らない、冷たい眼差しが、私を真っ直ぐに射ぬく。

 

「じっと見てるなら、一緒に遊べばいいのに」

 

「だめよ、遊ぶのはもう取っておかなくちゃ」

 

「そうだったわね。じゃあね、お姉ちゃん。今度遊びましょう」

 

 そう言うと、二人のありすは一瞬で姿を消した。予備動作など、一切見せずの転移。

 改めて思う。霊子ハッカーとして考えると、桁違いの能力だ。慎二など比較にならない。

 学園サイドのプロトコルなど、まるで存在しないように、一瞬で目の前に現れ、一瞬で消える。

 

 その行動はどう見ても亡霊のそれと同じ。

 勝つための道筋がまったく見えない。いや、あの相手に勝てるマスターなど居るのだろうか。

 

「………、?」

 

 結局、サイバーゴーストについての話を聞けず仕舞いで、呆然と立ち尽くす私だったが、ふと、気が付くと、ありすたちの立っていた辺りに1枚の紙切れが落ちていた。

 

 手に取り、見れば何かが書かれている───

 

『thguoht hsiffu ni sa dnA kcowrebbaJ ehT ,doots eh emaC ,emalf fo seye htiw ,eht hguorht gnilffihw sa delbrub dnA ,doow yeglut emac ti……』

 

 ……???

 紙切れは意味不明の言葉(コード)で埋め尽くされていた。

 

『ナニソレ。意味わかんないわね。またさっきの女にでも聞いてみれば? 如何にも文字に強そうな見た目してるし』

 

 メガネ=頭良い、というイメージでもあるのだろうか、アヴェンジャーが提案してくる。まあ、暗号系の解読とか得意そうな感じはするので、もう一度、蒼崎橙子に聞いてみようか。何か、分かるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、また君か。私は忙しいんだ。質問があるのなら手短にな」

 

 教会に足を運び、開口一番に面倒そうに応える蒼崎橙子。迷惑をかける訳にもいかないので、先程の図書室での一件を手短に伝え、そして拾ったコードを見せる。

 

「うん? これはまた懐かしいものを。コレ、鏡文字だよ。ミラーライティング。鏡があれば誰にでも読める。鏡くらいは自分で探してくれ」

 

「鏡……ですか」

 

 鏡……そういえば、長らく見ていない気がする。どこかに無いか探してみよう。

 

 橙子に礼を言い、早速鏡探しに行こうとしたところ、そういえば、と橙子に呼び止められる。

 

「そうそう。この前、敵のサーヴァントらしきバーサーカーのようなものを倒したと言っていたが。物の見方を変えてみろ。バーサーカーに固有結界はそぐわない。一方、固有結界作成に特化したサーヴァントは、戦闘能力が備わらない。順番が逆なんだよ。呼び出したか、作り出したか。はたして、先だったのはどちらかな?」

 

「順番……」

 

 言われて、改めて気付かされる。固有結界とあのバーサーカーらしきものは、切り離して考えていいものではない。アレは、きっと同じ『逸話(モノ)』ではないのか。

 

 だが、まずはこのコードの謎を解き明かそう。鏡を探さなくては。

 

 

 

 

 

 

 端的に言おう。探さずとも、鏡は見つかった。

 考えるまでもなく、学校で必ずと言って良いほどに鏡が設置されている場所。それはどこか。

 即ち、厠。言い換えればトイレ、である。

 

 女子なら一度と言わず毎回のように、トイレの鏡の前で身だしなみを整えるはずだ。気になる男子が居るならなおさら、見た目を気にするだろう。まあ、この学園での生徒はマスターもしくは聖杯戦争運営NPCなので、関係ないのだが。

 

「よし、行こう」

 

「待ちなさい。何を淀みなく男子トイレに突入しようとしてんのよ。それは蛮勇と書いてバカと読むのよ。もしくは痴女」

 

 襟首を捕まれ、危うく窒息しかける私。振り返ると、ゴミでも見るかのように私を見つめるアヴェンジャーの姿が。

 

「冗談冗談。ほら、お約束ってやつ」

 

「……アンタ、もしアンタが男だったとして、逆の事をしてたら完全にアウトだから。もう単純に変質者よ」

 

 ……頼むからもう言わないでお願いします。そこまで言われると恥ずかしさが今更ながら込み上げてくるから。

 

「分かったらさっさと行く! いつまでもトイレの前で留まってたら、変に思われるでしょうが!」

 

 急かされ、強引に女子トイレに押し込められる。

 やはり、トイレには当たり前のように鏡が設置されていた。謎のコードを鏡に映して読んでみた。英文だ。これなら、私でも何とか翻訳できそうだ。

 

「えー、何々……」

 

 直訳すると、こうだ。

 

『荒ぶる思いで歩みを止めれば、燃え滾る炎を瞳に宿したジャバウォック、鼻息荒々しくタルジの森を駆け下り、眼前に嵐の如く現れる。一撃、二撃! 一撃、二撃! ヴォーパルの剣で切り裂いて、悪たる獣が死するとき、その首をもって、意気揚々と帰路につかん』

 

「ジャバウォック、ねぇ……? 少しずつ謎が掴めてきたかしらね」

 

 ヴォーパルの剣で刈られる怪物、ジャバウォック?

 アリスが落としたメモにある怪物の名……。これが……彼女の“お友達”の名だろうか───。

 ジャバウォックと言えば、『鏡の国のアリス』に関連のある怪物だが、図書室へ行けば、もっと詳しい事が分かるかもしれない。

 

『   』

 

 去り際、ふと視界の端に映った、鏡に映る自分の姿。僅かに違和感を感じたような気がしたが、アヴェンジャーに引っ張られ、確認する間もなくトイレから連れ出されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『───ふふ、』

 

 

 

 

 

 




 


気付けば、うちのカルデアのBBちゃん、完全体になっていた。
レベル100、スキルマ、フォウマ。あとは絆だけかぁ……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。