「結局、何も得るものは無かった訳だけど。はぁ、呆れた。無駄に踊らされただけじゃないの」
アリーナに降り立ったと同時、先程まで全く口を挟んで来なかったアヴェンジャーだったが、開口一番にため息と共に愚痴をこぼした。
「……そうだね」
「…………、あぁもう! 少しは反論くらいしなさいよ! 分からないのに変わりは無いけど、代わりにアンタが
囃し立てるように、捲し立てるように、アヴェンジャーは弱気な私に怒号を飛ばす。その苛つきは彼女の言葉だけでなく、表情や雰囲気からも伝わってくる。
悲嘆なんてしてる暇はない。そんな暇があるなら、その余力を次に活かせ、と遠回しにではあるが、彼女なりに檄を飛ばしてくれているのだろう。……多分。
「まぁ、ともあれ今は、この戦いを勝ち残ることに集中しなさい。癪だけど、本当に癇に障るけど! 恐らく、この四回戦は私たちにとって最大の鬼門となるわ」
初めての事に、私は少し面食らう。
だって、辛辣に人を見下す傾向にあるあのアヴェンジャーが、過剰なまでに今回の対戦相手を高く評価しているのだ。
いや、高く評価しているというよりは、強く警戒していると言ったほうが正しいかもしれない。
でも、どっちにしたって珍しい事に間違いない。
私は驚いた顔を隠せていなかったのか、アヴェンジャーはより機嫌を悪くしたように、こちらを睨んでくる。
「……何よ、何か言いたげな顔をして」
「いや、珍しいなって。アヴェンジャーがそこまで警戒する相手って、これまで居なかったから」
ありすの時ともまた違う感じだ。あの時は、アヴェンジャーはありすやキャスターという存在そのものに驚いているように見えた。
けど、今回はそうじゃない。アヴェンジャーは最初から、敵としてレティシアとそのサーヴァントを意識しているし、初対面からその敵意は非常に強いものだった。
それは、慎二やダン・ブラックモアと戦った時とも違い、レティシアに向けるのは濃厚な殺意と憎悪を、必要以上に煮詰めたモノというか……。
とにかく、今までに無い程までにドス黒い負の感情を、アヴェンジャーはレティシアたちに対して抱いているように感じた。
そんな相手を、見下すのではなく強く警戒する発言のみに留めている事実に、私は違和感を抱く事を禁じ得なかった。
「警戒ね……。そりゃするわよ。あのマスターが
アヴェンジャーに近い何かを持つ、謎のキャスター……。
あの姿から推測するなら、日本の英霊。それも巫女なのではないかと思う。前に推察したように、日本の古い時代を生きた巫女ではないだろうか。
キャスターであり、日本の出身であり、巫女である英霊……。後ろ二つは私の勝手な推測なので、まだハッキリした事は言えないのだが。
キャスターが西洋の英霊で無い事だけは確かだろう。顔付きが西洋のソレとは全く違うのだし。
とりあえず今日は、昨日は取得できなかったトリガーの入手を第一としよう。幸いにも、今のところはサーヴァントの気配は感じられない。
また遭遇する前に、早くトリガーを手に入れなければ……。
警戒しながら進む私たちだったが、思いの外あっさりと目的地にまで辿り着く。エネミーの強さが階層を進む毎に上がり、容易に倒せないくらいには道のりも険しくなってきたが、それだけだ。
進めど進めども、レティシアたちが現れる気配は一向になかった。
「この静けさが逆に不気味ね。……エネミーどもは、わんさかと湧いて出てたけど」
確かに、と同意しつつ、私はトリガーが収納された緑のアイテムフォルダに手を伸ばす。
───、無事に『トリガーコードイータ』を手に入れる事ができた。ひとまず、先延ばしにした課題はこれで達成できたので、少し安堵できるというものだ。
今更ながらではあるが、これまで取得してきたトリガーの名前を見ていて、繰り返すが私は本当に今更ながら気付いた。
最初から順に、『アルファ』、『ベータ』、『ガンマ』、『デルタ』……と、トリガーコードにはギリシャ文字があてがわれているようだ。
聖杯戦争は全七回戦である。ならば、今しがた手に入れたトリガーコードでちょうど半分は取得した事になる。
ここが、本当の意味で、長きにわたるこの聖杯戦争の折り返し地点。私は、ようやく半分まで歩んで来れたのだ。
だが、残り半分は、これまで歩んできた半分よりも更に過酷である事は間違いない。
残っていくのは、より強き者たちのみ。故に、戦いは苛烈さを増していくのは必然なのである。
「いよいよ半分、だね。でも、まだ残り半分でもある」
「そうよ。なに? アンタも分かってきたじゃないの。聖杯戦争も後半戦に入って、ようやくマスターとしての自覚が芽生えてきたってところ?」
からかうように、悪戯な笑みを浮かべて私に軽く肘打ちしてくるアヴェンジャー。ちなみにアリーナでは、当然の如くフル武装していらっしゃるのだが、その事を彼女は忘れているのだろうか?
その肘打ちは、鎧が当たって地味に痛いので止めてほしいと切に願うばかりだ。
「さて、目的は果たしたのだし、今日はもう帰りましょうか? エネミーは狩り尽くしたみたいだし、それにアイツらが来るまでいちいち待ってられないっての」
レティシアとの遭遇に身構えていた分、肩透かしを喰らった気分だが、確かに彼女をただ待っているだけなのは時間が惜しい。
限られた猶予期間だし、大事に消費すべきだろう。
「じゃあ、帰ろうか」
少し疲弊している事もあり、私はリターンクリスタルを使ってアリーナから帰還する。帰り際にレティシアと遭遇して、最悪そのまま戦闘になるのだけは避けたかったからだ。
相手の手の内も分からない状況に加え、こちらが消耗している状態での戦闘は、下手をすれば決戦日を迎える前に敗退決定してしまう恐れがある。
……まあ、単純に疲れたから楽をしたかった、というのが大きな理由でもあるのだが。
「そんな訳で、お茶会をしましょう!」
いや、どんな訳で!?
朗らかに笑うレティシアに両手を握られ、私の頭はカオス神に見初められたが如く混乱を極めていた。
というのも、アリーナから帰還した直後、アリーナの入り口で待ち構えていたらしきレティシアに捕まってしまったのだ。
レティシア曰く、
『お茶会を開けば、互いの事を理解し合えるのです。私の友人もお茶会を開いては、相互理解を深めていました(多分)。なので、私たちもお茶会をしましょう!』
とのお達しである。
レティシアの勢いに押され、私は断るタイミングを逃してしまった。それを肯定と踏んだのか、ぐいぐいと引っ張られていき、連行された先は教会前の噴水広場だった。
簡易的にだが、テーブルと四つの椅子が用意されており、既にキャスターは腰掛けて待ち構えていた。
「……ふむ、ようやっと来よったか。少しばかり待ちくたびれたぞ」
ズズッとお茶を啜りながら、キャスターは前回と変わらない、感情の籠らない漆黒の瞳を私に向けていた。
私が連れ去られて間もなく、追いかけてきたアヴェンジャーも到着し、すごい剣幕でレティシアから私を引ったくる勢いで引き剥がす。
「この人拐いが! アンタどこまで頭ぶっ飛んでるワケ!? 第一、お茶会とか何を呑気な事を抜かしてるのよ!? アンタとコイツは殺し合う! 殺す相手と仲良しこよしとか、脳ミソ沸いてんじゃないの!?」
「いいえ。もちろん、仲良くしたいとは思っていますが、それだけじゃありません。私が本当にしたいのは、他でもない、貴女を問い質す事ですよ、アヴェンジャー?」
さっきまでの和やかな様子が一変、レティシアは強い意志の宿った目で、アヴェンジャーを見つめていた。
それに呼応するように、急に辺りの空気が重くなったように感じた。静寂に支配され、噴水の音だけがやけに耳に響く。
人の声は無く、校舎からも賑わいは聞こえない。人が減ったとはいえ、NPCだって校舎には居て、多少は活動音が聞こえてもいいはずなのに、だ。
「不思議そうな顔をしておるな、岸波白野。何故、これほど静かなのか、それが気になるのだろう?」
そんな疑問に、聞いてもいないはずなのにズバリ言い当てたキャスターに、私はギクリという音が聞こえるのではないかと思うくらい驚き、視線が彼女に向かう。
相変わらず瞳に感情が感じられないが、その口元は微かに緩んでいるように見えた。
「別に減るものでも無し。教えてやるとも。なに、これはこの周囲に結界を張っただけの話よ。お主らが来た時点で、結界と同時に人払いも掛けてある。魔術師どもには効果が薄かろうが、NPCどもは気付くまい。他者に聞かせたくない話をする分にはこれで十分よ。多少の気休め程度にはなるであろうさ」
とても饒舌に語るキャスターを見て、以前に彼女が言っていた言葉を思い出す。
他人には興味が無いと、彼女は言っていた。であれば、この手の話題こそがキャスターにとって好物なのだろう。何というか、如何にもキャスターというクラスらしいと言えばらしい性格をしている。
そんな私とキャスターのやりとりを見向きもせず、アヴェンジャーはレティシアと睨みあったまま動かない。レティシアもまた、アヴェンジャーと同じような状態だった。
これでは埒が明かない──と思った矢先、レティシアの纏う空気が軟化し、彼女は自らのサーヴァントの隣席へと腰掛けた。
「せっかくこうして席を設けたんです。どうせなら座って話をしましょう? 名目上、
そう言って、空いた席に座るよう勧めてくるレティシア。相手はキャスターという搦め手を得意とするサーヴァントを従えており、普通に考えて何らかの罠であるという可能性が高い。
しかし、当人であるキャスターは我関せずとばかりにお茶菓子にも手を伸ばしており──振る舞いが上流階級のそれである事は容易に理解できる──菓子を黙々と食べていた。
「案ずるな。妾は何も仕掛けておらぬ。マスターが手を出すなと喧しいのでな、この茶と菓子で丸め込まれてやった」
……本当に、
彼女が嘘を言っているようには見えないし、レティシアもうんうんと頷いて、座るよう促してくるので、諦めて彼女らと対面する形で席に着いた。
「ほら、アヴェンジャーも」
「チッ。……言っておくけど、何も答えるつもりはありません。黙秘権を主張しますので、お生憎さまね」
渋々ではありながら、ドカッと態度悪く乱暴に椅子へと座るアヴェンジャー。機嫌の悪さは最高レベルにまで達していそうだ。
後が怖い……。どうかマイルームで八つ当たりされませんようにと祈りつつ、私はアヴェンジャーと共に、レティシアたちへと向き合う。
「では、お茶会を始めましょうか。岸波さんは紅茶でよろしかったですか? 購買で色々と仕入れてきたので、お菓子もありますよ」
言って、レティシアは端末からお菓子を呼び出すと、山のような量の菓子が小さな丸テーブルと共に出現した。
およそ、女性一人が食べていいような量では決してない。カロリーを気にする女子なら、これは麻薬にも等しい禁断の誘惑と言える。
電脳世界では太らないという過信故の爆買いなのだろうか。そんな疑問を抱きつつも、私は紅茶とクッキーをいただく事にした。
「紅茶ですね。クッキーは自由にお取り下さい。それと、食べきれずに余ってしまっても構いませんよ。後で私が美味しくいただきますので」
え? 値段にして軽く1万PTT(現実換算しておよそ3万円分ほど)に届くのでは……くらいの量があるのだが。これを一人で……?
細い体の何処にそんな量が入るのかと、軽い衝撃を受ける私を他所に、アヴェンジャーは鼻で嗤い、キャスターは素知らぬ顔で茶を飲んでいた。
「うちのマスターがそんなバカみたいな量を食べられるはず無いじゃない。これだから、脳ミソの隅から隅までお花畑なヤツは嫌いなのよ」
「あら? 黙秘するのではなかったですか? ですが、こちらとしても会話してもらえるだけで助かりますが」
「……ッチ」
ニコッ、とレティシアはアヴェンジャーへと微笑んだ。皮肉とか、そんなのではなく、心の底からありがたいと思っているのだろう、穢れなき笑顔だと感じた。
アヴェンジャーは「しまった」とばかりに、あからさまな悪態を見せる。もしかすると、アヴェンジャーよりもレティシアのほうが舌戦では一枚上手かもしれない。
「で、結局どうしてこんなお茶会を開いたの? 今回は私じゃなくて、アヴェンジャーに用があったんだよね?」
こちらとしては、アリーナ帰りから直ぐ様ここに連行され、本音を言えば早くマイルームに戻って休みたいところだ。
しかし、対戦相手であるレティシア当人から、この戦意無き誘いを受け、まさしく彼女らの情報を得るまたとない機会でもある。
疲労は有るが、ここは無理を押してでも通るべき局面だろう。
私の問い掛けに、レティシアは微笑みを崩す事なく、事も無げに答えた。
「岸波さんが月の聖杯戦争に臨む理由は既に聞きました。記憶を失ったが故に、今はただ生き残る為だけに貴方は懸命に戦い続け、そして生き残ってきた。確固とした目標が無くとも、それは素晴らしい結果と言えるでしょう」
飾りの無い賞賛に、私は少し顔が熱くなる。比例するように頬は赤らんでいる事だろう。
──けれど。
彼女はそう前置きをして、アヴェンジャーに向き直る。その顔からは微笑みは消え、それこそ糺すように彼女はアヴェンジャーを見据えて、言の葉を紡ぐ。
「アヴェンジャー。貴方はどうですか? 貴方は何故、この月の聖杯戦争に参戦したのです。岸波さんと違い、貴方は記憶を失ってなどいないでしょう? 貴方は自らの意思でこの戦場に立っている。何故、この戦いに臨んだのか。私はそれを貴方の口から聴きたかったのです」
アヴェンジャーと瓜二つの少女は、アヴェンジャーにとってこの戦いがどういう意味を持つのか。どんな願いを胸に戦うのか。それを問い質す。
ただ真摯に。どんな答えであろうとも、それがどんなに自分勝手で愚かしくとも。アヴェンジャーの答えを、ありのままを受け止めようとしている。そんな純粋かつひたむきな気迫を感じた。
その時、私にはレティシアがまるで聖女であるかのようにさえ見えた。
錯覚である事は分かっている。だけど、そう思わざるを得ない貴さを、私は目の当たりにしているのだ。
アヴェンジャーはその問い掛けに対し、レティシアに呪いでも掛けるかのような目で一瞥し、すぐ視線を逸らす。
直後、視線は逸らしたままで彼女は口を開いた。
「何の為に戦うか、ですって? それをアンタが私に聞くワケ? ハッ! 馬鹿にするのも大概にしろ。どうせ聞くまでもなく分かってんでしょう?」
「それでも、です」
「……チッ。……私はね、私自身の手で
もう用は済んだのなら、早く帰らせろと宣うアヴェンジャーだったが、私はそうは思わなかった。だって、今の発言を聞いた私は、彼女とは全然違った心持ちになったから。
まるで、自分が贋作とでも言わんばかりの台詞だ。その言葉に、私は明確な違和感を覚えた。
アヴェンジャーが贋作、偽物だとして、彼女にとっての本物が何処かに居る?
いや。何処か、ではない。
目の前。アヴェンジャーと瓜二つな少女が、此処に居る。
本当に、二人は他人の空似なのか?
そんな言葉で簡単に終わらせてしまっては良くないだろう。だって、この二人のやりとりは私の心をざわつかせる。
昔から知っているよう口振り。互いが初対面ではなく、少なくともアヴェンジャーはレティシアを嫌う程度には、その人となりを知っているのだ。
こと此処に到って、初めて私は、自分のサーヴァントの正体不明さにようやく悩まされる事になる。
───アヴェンジャー。復讐者のクラスを戴くサーヴァント。『竜の魔女』を自称する貴方は、一体
「それが、貴方の答えなんですね。アヴェンジャー」
私が自らのサーヴァントへの猜疑心に取り憑かれているとも知らずに、レティシアは穏やかな視線でアヴェンジャーを見つめていた。それは、可愛い妹を見守る姉のような、そんな暖かさを感じる。
「……いいでしょう。貴方の目的は分かりましたし、これでお茶会はお開きでも構いませんよ。もっとも、まだまだお茶菓子は残っているので、好きなだけ召し上がっていただいてから帰ってもらっても良いのですが。岸波さんも遠慮なさらずに。アヴェンジャーも──」
どうですか? と、レティシアが聞くよりも早く、彼女はさっさと霊体化して姿を消してしまっていた。
そういえば、いつの間にか異様なまでの静けさは消え、校舎からちらほらと話し声が聞こえてくる。
おそらく、話が着いたタイミングでキャスターが結界を解除したのだろう。
「逃げられてしまいましたね。残念、もっと他愛ない話もしたかったのに」
そう不満を口にするレティシアは、本当に残念そうにしている。きっと、本心からの言葉なのだろう。
寂しそうに紅茶を啜る彼女を見ていると、なんだか席を立ち辛い。アヴェンジャーはもう居ないだろうし、私も追うべきなんだろうけど、それより先にここでしなければならない事がある。
「レティシア。あなたは、アヴェンジャーがどんな英霊なのか知ってるの? それに、どうしてあなたとアヴェンジャーは同じ顔をしてるの? 所々は違うけど、どうしても私はあなたにアヴェンジャーの面影を重ねてしまう」
レティシアがアヴェンジャーにしたように、私もレティシアを問い質す。たとえ納得のいく答えが返って来なくとも。私にはその権利と、義務があるはずだ。
私の問いに対し、レティシアは静かに、そして困ったように微笑んだ。
「……なるほど。という事は、あの子は岸波さんに自分の真名を告げていないんですね。うーん、だとすると、おいそれと私が語って良い事でもありませんし、どうしたものでしょうか……。キャスター、どうしたら良いと思いますか?」
「どうしたもこうしたもあるものか。それを教える必要も、道理も、義理も無い。この娘は敵対者なのだぞ? 戦う相手の手助けをするなぞ、愚行にも程があろうに。そも、それを語れば此処から退去させられるのを忘れた訳ではあるまいな?」
「うっ、それは、そうですけど……」
レティシアに助けを求められたキャスターだったが、助け船を出すどころか、バッサリと切り捨てた。
だが、普通はそれが当たり前だろう。敵に塩を贈るなんて、馬鹿げている。しかも、そこが命のやり取りをする戦場なら尚更である。
……どうやら、やはり教えてはもらえないようだ。元より、そう簡単に知れるとも思っていなかったが。それに、何やら彼女らにも込み入った事情があるらしい。
「ゴメン。変なこと聞いた。今のは忘れて。アヴェンジャーは私のサーヴァントだもの。これは私とアヴェンジャーの問題だし、それを他の人に解決してもらうのは、やっぱり違うと思うから」
そう言って私は飲みかけの紅茶を一気に喉奥へと流し込み、じゃあ、とだけ伝えて私もその場を後にする。
喉を通り過ぎた紅茶は、既にすっかり冷めてしまっていた。
「焦らずとも良いのだ、岸波白野よ。どうせ、この戦いを通して、否が応でも貴様はそれを知る事となるのだから」
「あら。それはお得意の占いの結果ですか、キャスター?」
「さて、どうであろうな……? ところでマスター、思った以上に菓子が余ったようだが、まさか本気で全て喰うとは言うまいな?」
「もちろん、食べますが。それが何か? たとえ電子の海の世界であろうと、たとえこれらがデータに過ぎずとも、食べ物を粗末にしてはいけません。ええ、主に誓って、全て美味しく頂きますとも」
「えぇー……先程までのシリアスな空気は