Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

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邪竜よ、その心臓を捧げよ

 

 

 アヴェンジャーの詠唱に呼応し、地面を這うように炎が噴出しながらファヴニールに向かって押し寄せる。アヴェンジャーがこれまでに見せた炎の中では、恐らくはかつて見た事もないほどにとてつもなく巨大な炎の柱が、空を征くファヴニールの全身を瞬く間に呑み込んだ。

 炎に纏わり付かれたファヴニールは逃れようともがくが、更に上空からは逃さんとばかりに無数の杭が襲いかかり、抵抗も虚しく邪竜の巨体は地面へと撃ち落とされる。

 そして落ちていくファヴニールの体は、トドメとばかりに地面から突き出てきた無数の大きな杭―――もはや鋼鉄の槍―――により、全身余すことなく串刺しにされた。

 

 それはまるで、この世の地獄だった。

 地獄と比喩しても遜色ない程に、凄惨で残酷で邪悪な光景に、私は戦慄する。

 

 英霊が扱う宝具は切り札であると同時に弱点でもある。何しろその英雄を象徴する要素であり、真名を秘匿する聖杯戦争においては、自らの真名を露呈させかねないからだ。

 だからこそ、宝具は確実に敵対者を仕留める事を念頭に置いた、一見必殺でなければならない。真名が明かされてしまうのだから、敵を取り逃がしてしまえば、そこから伝説や伝承から対策を立てられてしまう。

 故にこそ、切り札でありながら弱点でもあるのが宝具。

 

 そして、宝具がその英雄の象徴でもあるのなら、いま見せたアヴェンジャーの宝具はなんと邪悪なことか。

 ()()ジャンヌ・ダルクの過去を私は知り得ない。本来の史実のジャンヌとは到底思えない彼女の姿、言動、思考だが、今のを見て完全に得心した。

 

 竜の魔女を名乗るジャンヌ・ダルク。聖女には程遠い、昏き煉獄の炎を携えた復讐の徒。

 私の契約したサーヴァントは、おそらく本物のジャンヌ・ダルクではないだろう。

 これほどまでに(おぞ)ましく深い闇を抱えている()()

 ジャンヌ・ダルクであってジャンヌ・ダルクではない者。

 推測の域を出ないが、おそらく遠からずとも近からずといったところか。

 

 確かに、彼女の宝具を見て恐ろしく感じた。

 けれど、それよりも。驚く事に私は恐怖よりも頼もしさを強く感じていた。

 

 あの絶望の塊であるかのような強大な黒竜を、アヴェンジャーは撃ち落とした。撃ち落としてみせた。

 私が契約したサーヴァントは、こんなにも力強く、逞しい。それが何よりマスターとして誇らしく思えたのだ。

 

 

「フゥ! フゥ……ガフッ!」

 

 邪竜を見事撃ち落としてみせたアヴェンジャーだが、それまでに受けたダメージは無視出来るものではない。

 満身創痍……を越えて、むしろ今の彼女は瀕死に近い、危険な状態だ。もう戦闘を継続していい段階はとっくに過ぎている。

 後で知った事だが、アヴェンジャーが真名解放してみせたあの宝具は、敵の攻撃を何倍にもして跳ね返す効果を持つそうだが、あの特大ブレスの質量全てを反射する事は不可能だった。故に自身のダメージ覚悟で宝具を使用したらしい。

 まさに捨て身の覚悟だ。一歩間違えれば、宝具を放つ前に自分が死んでいたのだから。

 

 喀血が酷く、全身からの出血は今も続いている。放っておけば数分と保たずアヴェンジャーは死ぬ。

 私は即座にアヴェンジャーの元へと駆け寄り、コードキャストで回復を―――

 

「ッ!! バカ、来んな!!!」

 

 

 

 一瞬、何が起きたか分からなかった。

 最初に、何かに突き飛ばされたような衝撃があった。それから間も置かずに、頬に熱く滴るものを感じた。

 ネバこくて、鉄臭い―――血の匂い。

 

 訳も分からず、顔を上げると、何が起きたのかを理解させられた。

 

「あ、ああ、アア…………」

 

 私の目の前には、腹を大きな竜爪に穿かれたアヴェンジャーが、私を庇うようにして立っていた。

 

 ()()を理解した瞬間、頭の中が真っ黒になる。思考が回らない。脳の処理が致命的なまでに追い付かない。体が麻痺したように動かない。

 

「ハッ、ハッ……油断、したっ……」

 

 口と抉られた腹から止めどなく血を垂れ流すアヴェンジャー。さっきまでの出血量など比にもならない程の失血量。

 間違いなく致命傷だった。

 

「アレ、を……喰らって、まだ……生きて、たか……ファヴ、ニール……ゲボッ……、やるわ…ね」

 

 アヴェンジャーは死にかけているというのに、笑いながら邪竜に視線を送った。どこか狂気的な筈の光景は、どことなく穏やかな絵画にも映る。

 ファヴニールは動かない。私を狙った攻撃は、おそらく最期の一撃だったのだ。今際の際に放ったマスターを殺す為の攻撃は、マスターを守らんと立ちはだかったサーヴァントにより防がれた。

 その結末に、邪竜はどこか不満そうに、しかし誇らしげに、静かに瞼を下ろし、永久に果てた。

 

 ファヴニールの死と共に、その巨体も消滅する。そして、アヴェンジャーの腹を塞いでいた竜爪も同時に消え去り、支えを失ったアヴェンジャーはその場に崩れ落ちる。辛うじて血が溢れ出る事を防いでいたものが取り払われてしまったのだ、当然ながら流血が勢いを増す。

 血がどんどん溢れ出る。血の海が彼女を中心に広がっていく。

 私では止められない。アヴェンジャーの顔色がどんどん土気色を帯びていく。

 

 死がそこまで迫っている。避けようのない絶対の死。

 彼女が死ねば、私も終わる。私たちの戦いは、ここで幕を下ろす事になる。

 

 嫌だ。イヤだ。いやだ!!

 まだ私はアヴェンジャーと一緒に戦いたい!

 言いたい事も聞きたい事も、たくさん残っている!

 あの時、こんな空っぽな私なんかの為に手を取ってくれた彼女の旅路を、こんな所で終わらせる訳にはいかない……!

 

 私はまだ、彼女へと何も報いる事が出来ていないのだ……!!

 

 

 震える手で自らの頬を殴り、私は止まっていた脳を無理やり再稼働させる。

 魔力はまだ有る。なら出来る事をやる。

 回復のコードキャストを重ねがけ、治療を継続して行う。命を救うまではいかずとも、効果的な対処法を見つけるまでの延命にはなるはずだ。

 その間に、何としてもアヴェンジャーを助ける方法を見つけなければならない。

 

 何かないか。頭を動かせ。記憶を辿れ。利用出来るものを見つけろ。たとえ私の命を削っても―――!!!

 

「………、」

 

 アヴェンジャーの呼吸が、心臓の鼓動がどんどん弱くなる。既に意識も無い。残された時間は僅か。

 何か、何か手は……!

 

 ………、そういえば。

 一昨日のゴーストは倒した際に何か落とした。もし、今回も同様に何か落としたのだとしたら。

 それが、アヴェンジャーを助ける事が出来る可能性があるとしたら!

 

 私はコードキャストを止めず、邪竜の消滅した跡に目を凝らす。何か落ちていないかと一縷の希望を抱いて。落ちていてくれと必死に祈って。

 

「――っ、あ」

 

 それは有った。人間のソレとは桁違いの大きさで、死してなおも脈打つ力強い鼓動。魔力を半永久的に精製し続ける炉心。

 

 邪竜の心臓(ドラゴンハート)

 

 コードキャストを一旦止めて、私は急ぎそのファヴニールの心臓を取りに行く。大砲の玉の5倍ほどはある大きなそれを胸に抱えて、未だ脈打つ不気味さを気にも留めずに、私は無心でソレをアヴェンジャーの元へと運んだ。

 

 アヴェンジャーの体は既に消滅が始まっている。途中、急に力が抜けて転倒しかけた際に気付いたが、私の足も消滅が始まっており、既に感覚も無くなってきている。少しずつ存在が薄れノイズに塗れていくその様は、これまで私が屠ってきた対戦相手の消滅する時のアレによく似ていた。

 つまり、もう猶予は僅か程も無い。

 

(この心臓を、どうする……!? これをどうしたらいい……!? どうすればアヴェンジャーを助けられる!?)

 

 正常な判断が出来ない。猶予が無い事が、私をより焦らせる。

 だから、だろうか。

 常人ならまずしない事。考えもつかない事を―――

 

 

 ―――私は無意識のうちに、その竜の心臓に喰らいついていた。

 

 

 口の中が血生臭い。吐きそうな程の鉄の味が口に広がる。魔力を精製し続ける程に常に躍動している邪竜の心臓は、まるで鉄のように硬い筋肉の塊だった。歯が折れそうになりながらも、そして折れようとも涙を堪えて、噛み千切った邪竜の心臓を口の中で必死に細かく分割し、それをアヴェンジャーに口移しで飲ませる。

 

 特に考えがあっての行為ではなかった。本能的に、咄嗟に、コレを彼女に食べさせれば助かるかもしれない。そんな意味の分からない理屈で、体が勝手に動いていたのだ。

 未だに魔力を滾らせながら脈打つ邪竜の心臓。コレを使うにしても、私には魔術師としてのスキルは無い。故に、直接アヴェンジャーにコレを摂取させるには、この方法しか無かった。

 

 魔力炉とも言うべき竜の心臓を口にしたからか、口の中が焼けるように熱い。火傷で爛れたかのような酷い痛みに襲われるが、私はそれでも咀嚼を止めなかった。

 可能性はもうコレしかない。コレに縋るしかない。コレに賭けるしかない。

 神様でも仏様でもなんでもいい。この際、悪魔でも構わない。

 ファヴニールという脅威を打ち払ったアヴェンジャーに、どうかその偉業を成し遂げた彼女に、それに見合っただけの酬いを。

 死闘の末にこんな幕引きだなんて、あまりにも理不尽だ。

 

 しばらく竜の心臓をアヴェンジャーに飲ませ続け、私の口の感覚が無くなってきた頃、異変に気付く。

 消滅しかけていたはずの自らの体は未だ健在で、アヴェンジャーも同様に身体の消滅が止まっていた。

 それどころか、大きく空いていた腹の傷も少しずつ修復されている。血色は悪いが、呼吸も落ち着いており、鼓動も戻ってきていた。

 

「―――、―――――ッ!?」

 

 私はアヴェンジャーが一命を取り留めた事に安堵の息を漏らす。と同時に、声が出せない事に気付いた。

 口元を触ってみると、手にはべっとりと血が付着し、その上で激痛が走る。口の中の感覚は失っていただけ。口から垂れている血は、邪竜の心臓から溢れた血だと思っていたが、実際は私も流血していたらしかった。

 思い出したように、遅れて嵐のような痛みが口元を襲う。さっきまでは必死であったがゆえに、我武者羅に心臓に齧り付いていられたが、もう無理だ。我慢出来ない。

 

 安心したせいで、緊張の糸が解れた私は、アヴェンジャーを救った代償とばかりに激痛に見舞われた。

 

「―――!! ――――!!!! ―――、」

 

 痛みのあまり、私はその場にのた打ち回り、そして痛みに耐えきれず気を失った。

 薄れゆく意識の中で、最後に視界に映ったのは、半分以上食い千切られてなおも、未だ生きているかのように脈動する邪竜の心臓だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、微睡みから目覚めた。

 記憶が途絶えている。意識を失う直前までの私が何をしていたのか。

 

 ……そうだ。思い出した。

 ファヴニールと戦って、宝具の真名解放で倒した思ったら、結局は倒しきれてなくて。

 私を回復させようと近寄ってきたマスターを、ファヴニールが死ぬ間際に道連れにしようとしたから、それを庇って……。

 

「マスター? マスター!! 返事しなさいよ!!」

 

 重い体をどうにか起こし、状況把握に努める。マスターは返事が無いので心配したが、私が消滅してないという事は、つまりそういう事だろう。

 案の定、私のすぐ近くで気絶して倒れていた。口元は血塗れで、よく見ると口周りが焼け爛れたようになっている。

 マスターと私の間に挟まれるようにして、何かの臓器らしき肉塊が落ちており、私はその瞬間に何が起きたかを理解した。

 

「あー……。なるほど。やったわね、やったのねアンタ。よくもまあ、やってくれたわね」

 

 あの致命の一撃を受けて、私がまだ生きている理由が分かった。

 竜の心臓を喰らったからだ。それも、竜種の中でも最高位に属する邪竜ファヴニールの心臓を。

 とはいえ、ムーンセルが作り出した再現体ではあるが。

 

 本物までとは行かずとも、しかしその効力は人智の域を逸している。

 体の内を流れる血液の全てが炎のように熱く、全身に魔力が漲っている。英雄シグルドは倒したファヴニールの心臓を喰らい、それにより無敵の力と大いなる智慧を得たと聞くが……。

 

「イツッ……。これは身体に慣らすまで結構掛かりそうね。にしても……」

 

 死にかけた。恥ずかしながら切り札を切った上で邪竜を仕留めきれなかった。幾ら初期化されて霊基修復中の身とはいえ、我ながら情けないコトだ。

 

 けれど、それでも得るものは確かにあった。

 決戦を前にこのパワーアップは嬉しい誤算だ。恥を晒した上に死にかけた甲斐もあるというものだ。

 

「…………はぁ」

 

 どれだけ意識を失っていたか分からない。周囲に他の敵性体は存在しないと確認するや、気が抜けて体は再度倒れ込む。マスターを抱えて帰還しようかとも思ったが、それが出来る体力も最早残っていない。

 仕方がないのでマスターが目を覚ますのを待つとしよう。

 

 

 

「―――“竜種改造”。これから先、もはや私たちにまともな未来が待つ事は無いと思うコトね、マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………、〜〜〜ッ!!」

 

 痛みで目が覚める。

 一瞬、何がなんだか分からなかったが、すぐに思い出した。

 アヴェンジャーが助かったと思ったのも束の間、彼女を助けた代償に私も負傷して、その痛みで気絶していたのだ。

 

 痛みがぶり返してくるが、もう気絶する程ではない。目覚めたら傷が治っているとか、電脳世界でも流石に無かった。

 

「起きたのね」

 

 声に振り向くと、アヴェンジャーが片膝を抱えるようにして座り込んでいた。見える範囲では、大きな傷は塞がっているようだ。

 

「―――、――――っ」

 

 良かった、と言いたいが口の痛みで言葉を出せない。

 アヴェンジャーもそれが分かっているようで、私が返事をしない事を咎める事はなかった。

 

「話せないでしょう、その口の傷じゃ。傷を治す為にも、さっさと帰るわよ。ほら、リターンクリスタル使いなさいな。パキッと行ってパキッと」

 

 なんなんだ、そのグイッといけみたいな言い回しは。

 などと、しょうもない事を思えるくらいには、私も余裕を持てている。と言っても、痛みは全然引いていないのだが。

 

 リターンクリスタルを端末から呼び出し、手の平の上で握り潰す。視界が光に包まれる中、私はふと邪竜の心臓が有った所を見た。

 けれどそこには血の跡しか残されておらず、私が口にしたはずの心臓は、夥しい量の血痕を残すのみで、跡形も無くなっていた。

 

 

 

 ある程度回復したアヴェンジャーと一緒に肩を寄せ合いながら、私たちは保健室へと向かう。足取りはまさしく瀕死のそれで、すれ違うNPCや他のマスターからはギョッとした視線を必ずと言っていいほど浴びせられていた。

 

 目的地の保健室では案の定というか、桜からも、

 

「な、なんですか、その傷は!?」

 

 私を見た途端、桜は顔を真っ青にして私の腕を強引に引き、ベッドへ横にさせられる。当然、隣のベッドに居たラニにも見られてしまう。

 それはもう、目を見開いて、ラニにしては珍しく私の顔を驚いたような表情で見つめたままフリーズしていた。

 

「とりあえず口元の傷を治してやって。あとバイタルチェックも。コイツ、竜の血を少なからず飲んでるから」

 

 遅れてベッド前に来たアヴェンジャーの言葉を聞いて、桜は卒倒しそうになるのをギリギリ持ち堪え、慌てて準備に取り掛かり始める。

 

 ラニも事態を呑み込めたようで、さっきまでの驚愕は消え去り、いつもの冷静沈着な彼女へと戻る。

 

「たしか、大型エネミーの討伐に行くのだとお聞きしていましたが……。マスターである岸波さんまでも負傷するとは、それほどに強いエネミーだったのですか?」

 

 ラニの疑問に今の私は物理的に答えられない。なので、代わりにアヴェンジャーが返事をしたのだが、

 

「そうね……。コッチがマスター共々死にかけるくらいには強かったんじゃない? でもま、竜退治なんてそんなモノでしょう?」

 

 軽口を叩く風だが、なんとなくアヴェンジャーの声音からは清々しさを感じた。長年の憑き物が落ちたというか、そんな感じだ。

 と、そこへ治療の仕度を終えた桜が割り込んでくる。アヴェンジャーは脇に避け、空いている椅子に適当に腰掛けた。

 

「それでは治療を始めます。あとアヴェンジャーさん、あなたも重傷だと思いますので、身体検査にバイタルチェックをさせていただきますから。明日は決戦なんですよ!? それなのに二人ともこんな無茶をして! 私だって、たまには怒りますよ、もう!!」

 

 どうやら桜の逆鱗に触れてしまったらしい。

 これは徹夜でお説教も覚悟しておいたほうがいいかも……。

 

 

 

 結論から言って、私の身体は少し頑丈になっていた。

 少しの血を飲んだ程度だが、相手が悪かった。邪竜の血は、他の竜種よりも遥かに濃い魔力を持ち、そしてその性質が原因との事だ。

 邪竜ファヴニールは元々は人間から竜に転じた存在。つまり、人から竜に変質した存在だ。そんな竜の血を飲んだのだから、身体に変化が起きるのは当然と言えば当然の事だった。

 

 少し頑丈になったと先程私は言った。それは間違いではない。でも、正確には少し違う。もっとはっきりと言おう。

 

 私の身体は、竜化の傾向がある。

 

 とはいっても、飲んだ血の量と、桜による早めの対処のお陰で、せいぜい皮膚に数か所ほど竜の鱗が生えた程度。もっと処置が遅れていれば、手足は完全に竜のものへと変貌していた可能性があったらしい。なにそれコワイ。

 

 それで、血を飲むどころか、心臓を喰らってしまったアヴェンジャーはというと、私よりも竜化の傾向が強く出てしまっていた。

 全身の皮膚の半分未満が竜の鱗に覆われ、右眼は獣の眼、とりわけ猫科のものに近い形状へと変質していた。竜眼、という竜種に特有の瞳なのだとか。

 だが、一番の変化は右側頭部から突き出るように生えたツノだった。

 コレに関しては、桜の診察中に突如生えてきたようで、どうにか竜化の進行を抑えているが、このままではやがて抑えきれなくなるらしい。

 抑える方法もあるにはあるが、今の私たちには現実的な方法ではなかった。

 

 霊基再臨を完遂する事。霊基さえ強化出来れば、身体を蝕む竜の因子に抵抗出来るだろうと桜は語った。

 けど、それには素材が足りない。私たちが手に入れた再臨の素材は『虚影の塵』と『英雄の証』のみ。それだけでは、きっと霊基を最終段階にまで持って行けないだろう。

 

「どうしよう、このままじゃアヴェンジャーがファヴニールに……」

 

「あー……。あ。忘れてたわ」

 

 ベッドでうんうん唸りながら心配する私を余所に、アヴェンジャーはポンと両手を叩いて一言。この一大事に何を呑気な事を言っているんだ。そう思いながらも、何を忘れていたのかと問いただすと、

 

「霊基再臨。一回は出来るわよ」

 

 などと抜かすのだった。

 

「は?」

 

「ほら、昨日だかにとっておきの朗報があるって言ったヤツよ。あの後すぐにアイツらと一悶着あったから言いそびれて、そのまま忘れてたのよね」

 

「ハア〜〜〜〜!!??」

 

 なんでそんな大事なコトを忘れてるのこの竜の魔女さんは!?

 でも、それが本当なら光明が見えてきた。

 

「確かに。完全な竜化の抑制には最終再臨させる必要がありますが、一度だけでも再臨を果たす事で竜化を多少なりとも遅らせる事は可能でしょう。邪竜に完全に変貌してしまうまでの猶予は生まれるはずです」

 

 隣で話を聞いていたラニも賛同してくれた。

 誰かにお墨付きを貰えると嬉しいよね。

 

 だがしかし、ここに来て、聖杯戦争を勝ち抜いていく他に、困難な素材集めも同時にこなしていかないといけないという、割とキツい展開になっている事に、この時の私は浮かれていてまだ気付いていないのだった。

 

 

 

 

 

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