Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

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真名看破:■■■■■■

 

 今日は疲労も大きいので、霊基再臨は明日の決戦前に行うという事に決めて、私たちはマイルームへと戻る。

 なんだろうか、ここ最近毎日のように疲労困憊で一日を終えているような気がする。

 

「少し待ちたまえ」

 

 ―――その道中で。

 不意に言峰に呼び止められる。階段を上りかけていた私とほぼ同じ目線の高さで、あの胡散臭い神父の顔が目に入る。

 身長の高さは即ち威圧感でもある。相変わらず妙に緊張させるオーラを醸し出す言峰に、私は何用かと問い返した。

 

「何の用か、と問われれば、それはもちろん決まっている。今回の趣向、楽しんでもらえたかな? 若きマスターよ」

 

 趣向……、その言葉で思い出すのは、あの厄介極まりなかったモンスターハントだ。

 楽しかったかと聞かれれば、間違いなくNoだ。死にかけたのにアレで楽しかったと答える輩は戦闘狂くらいなものだろう。

 と、それはさておき。重傷は負ったが、私たちは課された試練をなんとか乗り越えた。となれば、言峰が声を掛けてきたのは約束の報酬(マトリクス)をくれるとか、そんなところか。

 

「課題はクリアだ。おめでとう、とひとまずは言っておこう。では、ルール通り相手の情報を一つ開示する」

 

 言峰が此方に手を翳すと、ポケットの中の端末が振動するのが分かった。データが送信された証だろう。

 

「さて、猶予期間も今日で終わりだ。明日の決戦に向けて、悔いの無いように最後の準備を整えてくれたまえ」

 

 もう用は済んだとばかりに、神父はさっさと何処かへ去って行く。此方としても、もうスタミナ切れなので長話に付き合わされないだけ、ありがたかった。

 端末は後で見るとして、階段を上りきり、そこからは邪魔も入る事はなく、ようやくマイルームへと戻ってきた。

 

 アヴェンジャーは戻るなり装備を重そうに脱ぎ捨て、横になるや、すぐに眠りに落ちる。私やラニ、桜の前では気丈に振る舞っていたが、実際のところは、それだけ疲れていたのだろう。

 まあ、無理もない話だ。何せ死闘の末に、本当に死にかけたのだから。九死に一生を得てピンピンしてたら、それはもう体力オバケである。

 改めて、無防備に眠るアヴェンジャーの肢体に目を向けるが、やはり身体中に竜化の傾向が見て取れた。私がした事は、決して間違いではなかったと思うが、それでも大きな代償を伴っていたのだと、今更ながらに痛感させられた。

 

「……ふぁ。私も、眠い……。………、」

 

 キャスターのマトリクスを見るつもりだったが、アヴェンジャー同様に私も既に限界だった。

 一度体を横にしてしまうと、強烈な睡魔が私を眠りへと容赦なく誘う。マトリクスは真名を推理する時に見ようと決めて、私は微睡みを甘受する。

 泣いても笑っても、明日で四回戦は終わる。

 未だ正体が掴めないレティシアとそのサーヴァントとも、ついに雌雄を決する時が来るのだ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの通り目が覚める。

 決戦の日の朝。支度を済ませ、マイルームを出る。校舎は静寂に包まれている。マスターも、NPCも、生活音はその一切が消失していた。

 この静けさにも慣れたもので、特に何も感じ入る事もなく、まずは教会へと足を向ける。昨日のアヴェンジャーの話が本当なら、霊基再臨が出来るはず。

 決戦まで時間はまだある。先に済ませて、少しでも新しい霊基の状態を身体に馴染ませてもらうのが目的だ。

 

 

「いよいよ決戦の日だが、準備は全て整ったかね?」

 

 

 階段を降りてすぐ、背後からの声に振り返ると、いつものように言峰が立っていた。

 

「準備はまだあと少しってところ。今から教会に行こうと思って」

 

「なるほど。それはいい。出せる力の全てを以て決戦に臨む――それこそSERAPHが求める人間の在り方(データ)というものなのでね。では、準備が出来たらアリーナまで来たまえ。なに、急ぐ必要は無いとも。まだ対戦相手も来ていないのだから」

 

 言うだけ言うと、彼は私の前を横切り、エレベーターの前で静かに佇んだ。いつもながら、本当に機械みたいな男だと思ってしまう。

 

 言峰との会話も切り上げ、私は真っすぐ教会へと歩いていく。保健室は当然ながら閉鎖され、ラニに挨拶はもはや出来ない。

 だが、約束した。勝ってまた会いに行くと。

 ならば、決戦前の挨拶など不要だ。今生の別れにするつもりは欠片も無いのだから。

 

 教会も静かだったが、校舎に比べると人の気配がまだあるだけマシか。

 教会の奥、祭壇の前では蒼崎姉妹がいつも通りの場所で、いつものように退屈そうに座っていた。

 私という来訪者が視界に入ると、姉妹はそれぞれ違った反応を示す。

 姉の方は、チラリとこちらを一瞥するだけで、特に声を掛けてくるでもなく、黙々と煙草を吸っている。黙々と煙草……。モクモクと煙草を吸っている。別にオヤジギャグではない。決してない。

 

 妹の方は、私を笑顔で出迎えてくれていた。だが、それは好意から来るとかではなく、単に暇潰しのオモチャがノコノコとやって来た……ような感覚に近いだろう。

 

「やあ! ちょうどヒマしてたとこだったのよ! それで、決戦前に最後の魂の改竄しに来たの?」

 

「えっと、今日はそれだけじゃなくて……」

 

 意気揚々とコンソールを開きながら、指をウネウネとさせる青子だったが、魂の改竄以外にも用があったのが意外だったのかピタリと指が止まり、神妙な顔をしていた。

 

「他にも用事? 何かしら」

 

「ふむ……。用件は改竄だけではない、と。……ああ、アレか。キミのサーヴァントに頼まれていた件だな。ならば不肖の我が妹に任せるのはいただけないな。決戦前にサーヴァントが炭化しては目もあてられない。どれ、幸いにも今は手が空いている。受け持ってやろうじゃないか、霊基再臨を」

 

 青子はピンと来ていないようだったが、橙子は心当たりがあったらしい。自然な流れで貶された青子は、今にも殺しに掛かりそうな睨みを利かせた後、橙子からフイと視線を切る。

 えらく不機嫌そうなので、魂の改竄は少し時間を置いてからにしたほうが良いだろう…。

 

「さて、霊基再臨だな。本来なら、素材となるのは地上ではまず手に入らない代物ばかりだが、ここは電子の海だ。SERAPHのデータベースには、もはや地上からは失われた魔獣や竜種、霊魂などに依る貴重な素材も無論揃っている。かといって、それらが出力され物質化するのはムーンセルにおいても稀な事だが……」

 

 そう言って、私をジッと見つめる橙子。普段なら軽い挨拶程度しかしない橙子に見つめられて、少し居心地が悪くなる。なんというか、むず痒い。

 

「キミは運が良い。何せ、そんな超が付くほどに貴重な品を手にしたんだ。私がデータを閲覧した限り、過去に幾多と繰り返されてきた月の聖杯戦争において、霊基再臨の素材を己の力で得た事のあるマスターは、トワイスという男がたったの一人だけ。それほどにキミは運が良いのさ」

 

 そんなに豪運だったのか私…!!

 でも、運をそこで使い果たしていそうで怖くもある。勝負は時の運とも言うし、どうか使い切っていないでくれ、私の運……。

 

「ま、それでも霊基再臨したって負ける時は負けるし? だからこそ“魂の改竄”は抜かりなくってね。ほら、さっさとそっちの用事なんて済ませて、おねーさんに改竄を任せなさいな!」

 

 青子が縁起でもない事を言い出している。橙子はそれに大袈裟かつわざとらしい溜め息を吐くと、スイッチが入ったかのように目付きが変わる。

 その見た目も相まって、仕事の出来る女オーラ全開といった感じだ。

 

「馬鹿が騒ぎ出すと煩わしい。どれ、手早く済ませてしまおう。持っている素材を出してくれ」

 

 促され、私は端末から『英雄の証』と『虚影の塵』を取り出した。

 改めて、私の持つ素材を横からアヴェンジャーが覗き込んでくるのだが、自分で霊基再臨を出来ると言っておきながらも怪訝そうな顔をしていた。

 

「それにしても、ホントにこれだけで再臨出来るワケ? 竜の牙とか要らないのかしら?」

 

「それは地上ならの話だ。ここは電子の海。データの世界。SERAPHに限って言えば、そこいらに漂う電子情報を基にして、必要な素材数はある程度の誤魔化しが利くのさ」

 

「なにそれ便利過ぎない? でも、不純物が混ざりそうでちょっと嫌なんだけど。……まあ、再臨出来るんならそれでいいんだけど」

 

 橙子の説明に納得したのか、してないのかよく分からない反応で返すアヴェンジャー。

 私としては、安全が保証されているなら、アヴェンジャーを強く出来るのだし問題ないのだが。

 

 橙子に素材を渡し、彼女はそれらを祭壇に載せ、宙に浮かぶコンソールの操作を行う。置かれた素材は消え、代わりに祭壇を囲むように光の陣が現れる。

 

「………、よし。ではアヴェンジャー、祭壇の前へ。これより霊基再臨の儀を執り行う」

 

 アヴェンジャーは指示された通り、祭壇の前――光の陣の中心で立つと円陣から眩い光が発せられ、瞬く間に円陣は光帯へと変化した。アヴェンジャーの全身も、光に覆われ目視出来ない。

 

 橙子の方を見ると、特に変わった様子は見られないので、この現象は儀式の一環であるらしい。

 

「……それにしても。まさか本当に再臨用の素材を持ってくるとは。私は半ば冗談のつもりであの時『虚影の塵』を渡したんだがね」

 

 少し呆れたように、しかし感心したように。

 橙子は無表情のまま、コンソールを操作しながら呟いていたが、私には彼女の口元がほんの僅かにだけだが、綻んでいるように見えた。

 

 ――数分が経った。

 光帯が収縮を始め、やがて消えていく。

 光が消えた後に残ったのは、新しい力を手にしたアヴェンジャーの姿だった。

 外見の変化と言えば、これまで身に付けていたボロボロに擦り切れたマントが無くなった程度で、然程変わりがないように見えるが、重要なのはそこではない。

 以前のアヴェンジャーとは比べるべくもない程に、今の彼女は魔力に満ち溢れていた。ともすれば、精神力の弱い者では、この強大かつ邪悪な魔力にあてられ、意識を失ってしまうのではないか。

 そう思わせるだけの力強さを、今のアヴェンジャーからは感じられた。

 

「……ん。どうやら問題無さそうね。再臨前の2倍くらいは強くなってるんじゃない?」

 

 身体に不具合が無いか確かめながら、アヴェンジャーは祭壇から離れ、私の元へと戻ってくる。

 

「成功したようで何より。まあ、元より失敗する余地など無かったがね。今の姿を見るに、竜に関する厄介事を背負い込んでいるようだが……ひとまず、その竜化の進行も減退しただろうさ。さて、気紛れはここまでだ。そろそろ私も自分の要件に戻らせてもらう。あとはそこの愚妹に頼んでくれ」

 

 橙子はそれっきり、こちらに構う事なく、モニターで集中して何かを見ているようだった。

 再臨も終えて、次は魂の改竄だ――というところで、ふと青子の方を見ると、そこに彼女が居ない事に気付く。どうやら不貞腐れて、再臨の儀式をしている間に席を外したようだ。

 なんとも自由な人だなー、などと思っていると、教会の扉が開く音がした。そちらを見れば、何やら困ったような顔をして青子が戻ってきたところだった。

 なんとなく、青子がそんな顔をするのは珍しいと思いつつ、私は魂の改竄を青子に依頼する。

 

「あ、再臨終わったんだ。んじゃ、サクッと終わらせちゃいましょ」

 

 すぐに明るい表情に戻ると、ツカツカとこちらに歩み寄るや否や、即座にアヴェンジャーを祭壇にぶん投げ、すぐ作業に入る青子。

 前振りもなく、いきなりぶん投げられたアヴェンジャーはかなり不服そうだが、とりあえずは黙って施行を受けている。

 

 さっきの青子の困った顔が気になり、このまま待っているだけというのもアレなので、何かあったのか聞いてみる事にした。

 

「さっき席を離れてる間に、何かあったんですか?」

 

「へ? ああ、ほら私ってば此処にはキナ臭い未来を感じたから来たって言ったじゃない? それで、ちょっとさっきにそのキナ臭い感じが外からしたから、見に行ってたワケ。でも噴水広場でマスターが一人座ってただけで、何も変わった事は無かったのよね〜。こんな辛気臭い教会でそこのイカれ人形師とずっと居るせいで、私のレーダーも鈍ったのかしら?」

 

 思い切り悪口を言われている橙子は、見事なまでに我関せずと、会話に一切入ってくる気配はない。多分もはや慣れっこなのだろう。

 それにしても、キナ臭い未来が何かは分からないが、青子が気にするくらいだし、私も気になるな……。

 

 少しして魂の改竄も滞りなく終了する。決戦前の下準備も、これで後はキャスターの真名を明かすのみ。

 

「はい、お疲れさんっと。……あ、ちょっと待って。これから決戦に赴く年若きマスターちゃんに、お姉さんから一つアドバイス」

 

 さあ戻ろう、というところで、青子に呼び止められる。いつになく真剣な眼差しに、私は自然と佇まいを正していた。

 

「物事には何にでも表と裏があって、普段見えているのは表でしかない。たいていは裏に本質が隠れているものよ。で、それは当たり前のコトなんだけど、だからって裏側だけがその全てじゃない。表裏一体って言葉があるでしょ? まさしく、表ありき裏ありき。どちらか片方だけを見ても、本当にその物事の本質を捉えられる訳じゃないってコトを覚えておきなさい」

 

 最後に人懐こい笑みを浮かべて、青子はコチラに手を振って「頑張れ」とエールをくれた。

 私は頭を下げ、それを背に受けながら教会を後にする。

 多分、これから敵サーヴァントの真名を推理する私への助言だったのだろう。もしかしたら、私がまだキャスターの正体を掴めないでいる事が、顔に出ていたのかも。

 

 表裏一体。確かに、キャスターの裏側が、あの鬼の姿であると仮定するなら、私はそこに思考が囚われ過ぎていたかもしれない。表側である、あの巫女の姿。アレも、彼女の本質……。

 

 

 

 教会を出てマイルームに向かう。

 と、出てすぐに、噴水広場のベンチに一人腰掛ける少女が居る事に気付いた。

 そういえば、青子が先程マスターが一人居たと言っていた。きっと彼女の事なのだろう。

 

 彼女は一人、何をするでもなく、ただジッと噴水を眺めている。

 服装こそ私と同じだが、黒髪セミロングに、目を引く程度には整った顔付き。きっと凛やレオたちと同じく、カスタマイズしたアバターだ。

 噴水を眺める彼女には、どこか底知れない冷たさを感じる。何故、そう思ったのかは私にも分からないけれど。

 

「………、」

 

 私は彼女に話しかけるでもなく、黙って前を通り過ぎる。

 彼女も、私に気付いているはずだが、視線はそのままで微動だにしなかった。

 まるで、この噴水広場に最初から在ったオブジェのように。

 

 私はそのまま校舎に戻る。少し後ろ髪を引かれる思いもあったが、向こうにも接触の意思が無いなら、無理に話し掛ける必要もない。

 

 

 

「……………………、」

 

 

 

 

 

 

 

 マイルームに戻ってすぐ、私は端末に手を伸ばす。

 マトリクスは一通り揃えた。これでキャスターの正体に辿り着けなければ、もうどうしようもない。

 

「……さっきの噴水広場に居たマスター以外は、やっぱり誰とも会わなかったわね」

 

 アヴェンジャーが呟くように口にした言葉に、そういえば、と私も思う事があった。

 もしかしたら決戦の日に言峰や対戦相手以外に会ったのは、初めてではないか?

 教会は機構として動いているので別として、校内で決戦当日に他人の姿はおろか、声すら聞かないのに。

 

「……なんか、嫌な感じがしたのよね、あの女。何が、とかは分からないけど。……悪かったわね、口挟んで。とにかく今は、あの鼻につくキャスターの正体を明かしてやろうじゃない」

 

 アヴェンジャーに促され、私も思考を一本に纏める。今は決戦の事だけを考えよう。それ以外の事は、勝ち残った後で考えればいい。

 

 まず、対戦相手について、これまでに分かっている事を一つ一つ確認しよう。

 

 今回の相手……見た目は深窓の令嬢といった風の美少女、レティシア。口調は丁寧だが、中身は令嬢というにはアクティブ過ぎる性格の持ち主だ。

 そして、そのサーヴァントはとてつもなく強力だった―――。

 あの巫女装束を纏ったサーヴァント。彼女が得意とするのは――

 

 ――呪術、だ。

 とは言っても一概にどんな呪術であるかと説明が出来る訳ではなく、その手法、用途は様々だった。

 結界を張ったり、人払いをしたり、銅鏡を用いた戦闘方法に、光を駆使した移動手段を持ち、それらをひとえに呪術と呼んでもいいのかも分からない。だが、キャスターは呪術使いである事は間違いない事実だ。

 

 

 ――次に。

 キャスターは和装であり、最初は普通の人間と同じ見た目をしていた。だが、ふとした時。彼女は何らかの理由で暴走し、彼女がひた隠しにしてきたであろうモノが姿を露わにした。それは――

 

 

 ――鬼のツノだった。

 額から突き出た、異形の証。それが彼女を普通の人間ではないと証明している。

 かつて、日本には鬼が居た。鬼は筋骨隆々なイメージもあるが、確かに女性の鬼も居た。

 故に、彼女は日本出身のサーヴァントで、鬼に由来のあるサーヴァントではないかと思ったのだ。

 そして、彼女は自身が鬼である事を忌避している様子だった。でなければ、自らツノを忌々しいと言ったり、あの姿を隠したりしないだろう。

 

 

 日本の英霊、女性の鬼、呪術を扱うキャスター。

 今のところ分かっているのは、これくらいか……。

 正直、これだけで真名を判断するのは難しい。

 

 ここでようやく、私は昨日獲得したマトリクスを確認する。

 見れば、キャスターの所持するであろうスキルが3つほど、マトリクスに追記されていた。一つは最初のエネミーを倒した報酬で、更にもう二つもあるのは、ファヴニールという難敵を倒した褒美みたいなものなのかも。

 

「………ふむ?」

 

 

『領地運営A……陣地作成の亜種。自身が領地と認識するだけで神殿クラスの陣地として容易に確立させる事が可能』

 

 これは、つまりキャスターが領土を治めていた、或いはそういう立場だった事の証左かもしれない。

 言われてみれば、傲岸不遜ながらも気品のある言葉遣いだったような気がする。お姫様というよりは、女王様というか。

 

「ふーん? 偉そうだったものね、あの女。で、次は?」

 

 隣から端末を覗き込むアヴェンジャーに急かされ、私は画面をスクロールして、次の項を見る。

 

 

『偽装召喚A……召喚された際、本来のクラスを偽り、違うクラスとして振る舞う事の出来るスキル。偽る事の出来るクラスは、自身が元来資格として持つクラスのみ。本来のクラスを隠し、偽装したクラスを特性として併せ持つ事が出来る。これは自身を召喚したマスターにも適応され、サーヴァント自身が明かさない限り本来のクラスはマスターであっても知る事は出来ない』

 

 

「―――え?」

 

 これは、このスキルは……!!

 今までの前提が覆る。覆ってしまう。

 

 聖杯戦争において、サーヴァントのクラスを知る事は、真名を知る次に重要なファクターだ。

 相手がセイバーであれば、最優である故に相応の対策も必要となる。アーチャーならば、遠距離攻撃に警戒しなければならない。アサシンなら、マスター殺しの危険が出てくる。

 こういったように、クラス毎に対策や対応の仕方を考慮しなければならないが、このスキルはそれら全てを無視すると言っても過言ではない。

 つまり、聖杯戦争においてこのスキルは宝具に匹敵する切り札と言い換えていいレベルの、超抜スキルだ。

 

 そして、エネミーハントによる報酬としてマトリクスを獲得していなければ、私では辿り着けなかった真実でもある。

 

「ちょっと待ちなさいよ。これ、つまりはアイツがキャスターじゃないってこと!? いや、違うわね。キャスターでありながら、キャスター以外のクラスも併せ持つ―――マルチクラスってワケ!?」

 

 アヴェンジャーの驚きも分かるが、マトリクスが事実なら、そういう事になる。

 私たちがキャスターだと思っていたあの英霊は、単なるキャスターではなかった。

 キャスターであり、他の何かなのだ。あの女性は。

 

「暴走……。そうか、そういう事だったんだ……」

 

 あの時に見せた暴走は、彼女が本来隠していたクラスの影響だったのだろう。

 そう、バーサーカーのような、ではなかった。

 キャスターであり、バーサーカーでもあったのだ、彼女は。

 

「あ〜、アレか。なるほど、抑えきれない狂化の影響が溢れた結果が、あの暴走ってコトね。しかもあの感じからして、マスターの方はアイツがバーサーカーだって事も知ってそうね。記述が正しいなら、自分からあの鬼の姿を晒したって事になるわね」

 

 そう。あの姿はキャスター/バーサーカーにとって余人には見せたくない姿のはず。それをレティシアに明かしたという事は、かなりの信頼関係を築いているとも取れる。

 

 とにかく、キャスターでもあるが、本来の彼女はバーサーカーだ、という事が判明した。

 あと少しで、真名に辿り着けそうな気がする。

 逸る気持ちで、私は次の項へと指を進めた。

 

 

『姿隠しの王政……固有スキル。人前に姿を見せる事なく国を運営していた彼女がその逸話から獲得した特殊なスキル。如何なるスキルであっても正体を暴けない。ルーラーであっても、彼女の正体は掴めず、クラスを把握出来るのみ』

 

 

 ……これは、なんともまあ、凶悪なスキルの組み合わせだ。

 本来のクラスを偽装し、その上で聖杯戦争の仕切り役であるらしいルーラーですらも、その真名は分からない。

 おそらく、クラスを把握出来るといっても、それは偽装したクラスだ。

 聖杯戦争において、このバーサーカーは敵対者に自身の正体を一切悟らせない存在となる。姿、能力からだけでは、バーサーカーである事すらも知り得ない。

 徹底した情報の隠匿に、彼女がそこまでして自身の正体を悟られたくないという、とてつもなく強固で堅牢な意志を感じる。

 

 

 ――以上から、私はなんとなくだがバーサーカーの正体が掴めてきた。

 銅鏡を用いた時代の生まれで、日本人であり、本来はバーサーカーではあるがキャスターとしての資格を有する巫女。

 決定的なのは、最後に確認したスキル。

 

 姿隠しの王政。

 王政を敷くという事は、彼女は女王だった。

 

 そして――私が知る限り、日本において姿を隠して王政を敷いていた、女王かつ呪術師は一人しか心当たりがない。

 

 そう、バーサーカーの真名は―――

 

 

 

 

 

 

 ―――邪馬台国の女王、卑弥呼。

 

 

 

 

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