Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

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他サーヴァントとの初遭遇

 

 扉から転送されて、アリーナへと足を踏み入れる。先に入った慎二が居るはずだが、すぐ近くにはその姿は確認出来ないようだ。

 

「……ふん。サーヴァントの気配がしますね。気を付けなさいマスター、あの優男、サーヴァントと共にどこかで待ち構えているわよ」

 

 隣に降り立ったアヴェンジャーが、鋭い視線でアリーナの奥地へと睨み付ける。サーヴァントならではの気配というものなのか、アヴェンジャーには他のサーヴァントの気配が感じ取れているらしい。

 

「ですが、これは見ようによっては、アイツから情報を奪う好機です。アリーナに奴らがいる間にこちらから仕掛けてやろうじゃない」

 

 邪悪な笑顔を浮かべて、アヴェンジャーは手にした旗に頬ずりする。これは……どう考えても鬱憤を晴らしてやろうという顔だ。本気でアヴェンジャーは慎二の事が気に入らないらしい。

 

「ほ、程々にね?」

 

「何よ、まさか私が馬鹿な真似をするとでも? 安心なさいな。あのエセ神父も言っていたけど、決戦までは私闘は禁じられているし、もしアリーナで戦闘になっても、それは牽制にしかならないのだから。第一、数手で戦闘を強制終了されるのだから、そうそう間抜けな事にはならないでしょう」

 

 うーん、アヴェンジャーはスラスラと述べてみせるが、頭に血が上って暴走しないか、心配で気が気でない。

 

「それと、今日に限った話じゃないけど、アリーナでは何が起こるかは誰にも予測が付きません。機会を逃せば得られない情報もあるでしょう。まして、アリーナには一日に二度は訪れられない。取りこぼしが無いように注意なさい」

 

 一度入ってしまえば、出た時には一日が終わりを告げてしまい、その日はそれが最後となる。それも当然か。入ってすぐにでも出ない限り、マスターは出来る限りアリーナを探索しようとするだろう。

 何度も出入りが許されず、だからこそ期間内のマトリクス回収をマスターには求められる……。

 時間は有限とはよく言ったものだ。聖杯戦争では時間を無駄にする余裕は無いという事か。

 

「理解したようね。では、行きましょうか。雑魚エネミーを蹂躙し、そしてあのワカメ野郎から情報をふんだくるわよ!」

 

 意気揚々と、アヴェンジャーは私を置いてアリーナの奥へと歩を進めていく。ああ…ついに言ってしまった。頼むから、本人の前でワカメについての言及だけはしないでください……!

 天にも祈る気持ちで、私はアヴェンジャーの後を追い始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 前回の探索時に回った箇所でエネミー狩りに興じたアヴェンジャー。何度でも言おう。エネミーを狩っている時のアヴェンジャーは、非常に…嗜虐的です……。

 嬉々として、攻略法を見つけたエネミーを一方的に蹂躙し、駆逐していくその姿は、ある意味で苛烈と言える。彼女が自分のサーヴァントで、味方で心底良かったと思える程に、その光景はあまりに残酷、冷徹、悪逆そのものにしか見えないものだった。

 アヴェンジャーは味方にすら控えめに言っても厳しい態度だが、敵に対しては慈悲すら掛けない。遠慮もなく、躊躇もなく、戸惑いもなく、いとも容易く殺すのだろう。

 

 嗚呼、私は彼女が怖い。その身に秘めた悪意が、殺意が、憎しみが、憤りが、絶望が。彼女を構成する全てが怖いのだ。

 だが、それと同時に頼もしいとさえ感じている自分がいる。彼女の絶対的な自信、揺るぎない意思、時折見せる人間らしさ。

 アヴェンジャーが真性の怪物ではないのだと感じさせる、どうしようもない少女としての容貌(かお)が、私を安心させていた。

 

「……私の顔に何か? ニヤニヤと気持ち悪いわよ」

 

 と、隣を歩くアヴェンジャーの横顔を見つめていると、それに気付いたアヴェンジャーが嫌そうな顔をする。

 というか、そんなつもりはなかったのだが、知らず知らずのうちに私は微笑んでいたらしい。

 それにしても、女子に向かって笑顔が気持ち悪いとか、失礼なんてものじゃないぞ。

 

「あら? 私は事実を言っただけです。そんな事より、昨日の虫型エネミーが居た辺り、見てみなさい」

 

 ちょうど直線上に位置していたため、少し遠くだがよく目を凝らしてみる。すると、

 

「……慎二」

 

 そこには虫型エネミーの代わりに、慎二と、そのサーヴァントらしき人物の姿があった。遠目からでも分かる背丈やシルエットからは、サーヴァントが女性であるという事が分かる。

 

「やはり居たわね、優男とそのサーヴァント。マスター、このように、アリーナでは対戦相手と出くわす事があります。それが吉と出るか凶と出るかはその時々ですが、今日のところは、相手の手の内を探る好機としましょう」

 

 そうだ。まだ慎二と戦うという実感は湧かないが、何もしなければ敗退は確定事項となってしまう。やらないで後悔するよりも、やって後悔した方が何倍も良いだろう。

 相手の情報を得る事が、聖杯戦争における最も重要な事柄。さっきも聞いたではないか。なら、慎二とここで小競り合いをするのは、とても重要になってくる。少しでも情報を得られるなら、やるに越した事はない。

 

「ふっ…。では行きましょうか。あのワカメ、私の炎でカラッカラに干からびさせてやるわ」

 

 やめてあげてください慎二が縮んでしまいます。というか、マスターに直接攻撃とか、しても良いのだろうか……?

 まあ、それも戦略としてはあるのかもしれないが。また今度、言峰神父にでも聞いてみるとしよう。

 

 エネミーを軒並み倒した私達は、誰に遮られるでもなく、悠然と待ち受ける慎二達の元まで歩を進める。

 さっき会った時と変わらず、過剰な自信に溢れた彼の顔付きに、自然と隣のアヴェンジャーの顔付きもまた険しくなっていくのが、分かりたくないが分かった。

 

「遅かったじゃないか、岸波」

 

 ようやく正面から対面するとすぐ、慎二はいかにも余裕しゃくしゃくといった風に、私へと向けて声を掛けてきた。

 

「お前があまりにモタモタしてるから、僕はもう暗号鍵(トリガー)をゲットしちゃったよ!」

 

「え…もう?」

 

「あははっ、そんな顔するなよ? 才能の差ってやつだからね。うん、気にしなくていいよ!」

 

 悪びれる様子もなく、平然とそれを口にする。つまりは、お前は自分以下だ、と慎二は私に告げているのだ。

 

「ついでだ、どうせ勝てないだろうから、僕のサーヴァントを見せてあげるよ。暗号鍵(トリガー)を手に入れられないなら、ここでゲームオーバーになるのも、同じ事だろ? 蜂の巣にしちゃってよ、遠慮なくさ!」

 

 最後の言葉は私に掛けられたものではない。彼の隣にいる、彼のサーヴァントに対してのものだった。

 慎二のサーヴァント───真っ赤なコートに身を包み、胸元は大きく開かれてその豊満な胸がギリギリまで晒け出されている。

 そして何より印象に残るのは、桃色寄りの赤みがかった長髪……であるにも関わらず、それを使って隠そうともしていない、顔の中央に大きく走った傷跡だ。

 美人である事は一目で分かるが、眉間から左頬にまで刻まれた長い傷跡が、せっかくの美しい容貌を台無しにしてしまっている。

 

 いや、だからといって、彼女の良さが失われたかと言えば、まるで真逆だ。彼女の様子からするに、彼女はその傷を何一つ恥じていない。見せて当然とさえとれる、その毅然とした佇まいに、独特なワイルドさが滲み出ていた。

 

「うん、お喋りはもうおしまいかい? もったいないねぇ。中々聞き応えがあったのに」

 

 慎二のサーヴァントは残念感を隠さずに、溜め息混じりに私へと視線を向けると、話し掛けてくる。

 

「ほら、うちのマスターは人間付き合いがご存じの通りヘタクソだろ? お嬢ちゃんとは、珍しく意気投合しているんで、平和的解決もアリかと思ってたんだがねぇ」

 

「な、なに勝手に僕を分析してんだよおまえっ。コイツとはただのライバル! いいから痛めつけてやってよ」

 

 なんと……! あの慎二が、こうも容易く手玉に取られている……!

 このサーヴァント、出来る……!!

 

「おやおや、素直じゃないねえ。だがまあ、自称親友を叩きのめす性根の悪さはアタシ好みだ。いい悪党っぷりだよシンジ。報酬をたっぷり用意しときな!」

 

 慎二のサーヴァントは威勢良く声を張り上げると、その手に何処からともなく大きな拳銃を取り出し、戦闘の構えになる。

 ピストルなんて可愛く見えるそのサイズ。あれは直撃すればサーヴァントと言えども危険に違いない。

 

「来るわよ! マスター!!」

 

 無言で慎二を睨み付けていたアヴェンジャーが、旗を構えて同じく戦闘態勢に入った。

 

「ハハッ! いいねぇ、そうこなくっちゃねえ!!」

 

 慎二のサーヴァントはアヴェンジャーが戦闘態勢になった事で、嬉々として両手の拳銃を構え、無遠慮にそれらを乱雑に撃ち放つ。

 大きな拳銃による凶弾の嵐に、アヴェンジャーは旗を両手で回転させ続け、それを防いでみせた。

 

「へぇ、やるじゃないか。なら、これはどうだい!?」

 

 銃撃の嵐を完璧に防いでみせたアヴェンジャーに、敵サーヴァントは悪どい笑みを浮かべると、一気にアヴェンジャーへと距離を詰めてくる。

 

「チィッ!」

 

 銃とは本来、中距離、遠距離から撃つもの。しかし、近距離で撃てないのではない。間合いの問題があるだけで、相手の懐に入ってしまえば、確実かつ的確に相手を殺傷しうる必殺にもなる。

 それを理解していたアヴェンジャーも、旗の振り回し直後の隙を突かれ、忌々しいとばかりに舌打ちする。

 この近距離で直撃を受ければ、ただでは済まない。

 

「アヴェンジャー、石突きを思い切り地面に叩き付けて!!」

 

「…!!」

 

 距離を詰められ、必殺の間合いから凶弾を放とうとする敵サーヴァントに、彼女が銃撃態勢を取る前にアヴェンジャーは振り回していた旗をそのまま地面に刺す勢いで叩き付けた。

 そう、何度かアヴェンジャーがしてみせた、武器による炎の発生。敵に振るうのが間に合わないのなら、足下の地面に叩き付けるだけなら、まだ間に合う。

 私の考えが理解出来たらしいアヴェンジャーも、即座に行動に移してくれたのである。

 

「おっと!」

 

 アヴェンジャーが何かをしてくると察したらしい慎二のサーヴァントは、急ブレーキを掛けて、すぐさまバックで後退する。

 

 そして、ゴウッ、と黒混じりの燃え盛る炎が、寸前まで彼女が来ようとしていたアヴェンジャーのすぐ目の前で燃え上がった。

 

「へえ、旗だけが武器かと思いきや、そんな芸当も隠し持っているとはねぇ。アンタ、一体どこの英霊だい?」

 

 慎二の元まで下がった彼女は、今の炎を目にしても怯む事なく、余裕の態度を崩さない。

 

「ふん。貴方に言う必要があるわけないでしょう。この薄汚い女海賊が」

 

「……ほーう。よくアタシが海賊だって分かったねえ、アンタ」

 

 途端、場の温度が一気に下がるのを感じる。先程までのちゃらけた空気が消え去り、今や場を支配するのは二人のサーヴァントによる緊張感のみだ。

 

 と、そんな両者の睨み合いに答えるかのように、アリーナ内に警報のようなサイレンが鳴り響く。

 

「チッ…セラフに感知されたか。まあいい、とどめを刺すまでもないからね」

 

 サイレンと共に、得物が強制的にサーヴァントの手から放され虚空へと消えていく。慎二の口振りからするに、今のがセラフによる私闘の禁止、それによる措置といったところだろう。

 これ以上の私闘を許さない為に、武器を奪うのだ。

 

「旗や炎が武器とか、少しばかりレアなサーヴァントを引いたみたいだけど、僕には通用しないんだよ。そうやってゴミのように這いつくばっていればいいさ! 泣いて頼めば、子分にしてやってもいいぜ? まあ、このゲームの賞金も、少しは恵んでやるよ。あははははははっ!」

 

 高笑いと共に、私の事を貶すだけ貶して慎二はサーヴァントと共に姿を一瞬で消した。どうやらどこかへと転移したらしい。もしくは、アリーナから外へと出たのかもしれない。

 

「チッ───逃げ足の早いワカメ……。邪魔さえなければ、あのワカメヘアーを焼いてやったのに」

 

 いや、邪魔がなくてもそれは不可能だったはずだ。何故なら、慎二のサーヴァント……彼女は紛れもなく、アヴェンジャーを上回った力を持っているはず。

 こちらが防戦に躍起だったというのに、彼女は攻めるばかりかまだまだ奥の手を隠していそうな雰囲気だった。

 

 マスターの未熟さゆえに、サーヴァントへのステータス低下……。それさえなければ、アヴェンジャーはもっと十全に戦えたはずなのに。

 

「それを気にする暇があるのなら、さっさと経験を積みなさい。そのためのエネミー狩りだという事を忘れない事ね」

 

 アヴェンジャーのそれは、気遣いなどではないのだろう。彼女はただ事実を口にしたまで。

 だけど、それが私には嬉しく思う。少なからず、アヴェンジャーは私の事を気にかけてくれている。少し猟奇的なエネミー狩りではあったけど、それも私の為の事なのだ。

 まあ、自分の強化の為という本音が、そこにはあるのだろうけど。

 

 それよりも、だ。アヴェンジャーは慎二のサーヴァントが海賊だと言い当て、それを彼女も認めた。何故、アヴェンジャーは彼女が海賊の英霊だと分かったのだろうか。

 

「それは……、あの女の事をちょっと知ってるだけよ。でも、あの女の真名とか宝具については期待しない事ね。残念だけど、生前に正史で直接にしろ間接にしろ、関わりのなかった英霊については、その人物について少しは知っていても、ムーンセルからロックが掛けられているから。だから私から教えられる事はそうないし、あっても教える気はないわ。だって、そんなの面白くないし」

 

 アヴェンジャーはそれきり、慎二のサーヴァントについて何も言わず、口を閉ざしてしまう。

 むう、少し期待したが、やっぱり(ひね)くれている、このサーヴァント。

 

 仕方ない。今の戦闘で予想出来るところは自分で想像するしかない。

 あのサーヴァントのメインの武器は恐らく、あの銃だ。武器が飛び道具なら、少しはクラスを絞れるかもしれない。断言出来ないがアーチャーではないだろうか。

 だが、まだ確定でない以上、もっと情報収集が必要だ。

 

「やる気が出てきたのかしら? なら言っておくけど、アリーナを隅々まで探索すれば、何らかの敵の情報や痕跡を掴めたり、こちらに有利な状況を作れる事もあるでしょう」

 

 アヴェンジャーは、仮称アーチャーである彼女について知っていても教える気はないが、私がその正体を探る事には協力してくれるようだ。だからこそ、こうして助言をくれるのだろう。

 

「いい? この聖杯戦争はこうやって進めるのよ。探索、情報収集、そしてヒヨコマスターの貴方にはスキルアップの為のエネミー討伐。これらが今後の方針において根幹となるのです」

 

「そうだね。忘れないように肝に銘じておくよ」

 

「そう、分かったのならいいでしょう。何にせよ、この聖杯戦争は時間との戦いです。故に明日も同じように、ここで敵と遭遇するとは限らないし──その日しか得られない情報も時にはあるでしょう。後悔したくなければ、納得いくまで探索する事を心掛けておきなさい」

 

 時間との戦い……、まさしくその通りだ。定められた猶予期間のうちに、暗号鍵(トリガー)の取得、敵の情報収集、そしてマスターとして魔術師としてのスキルアップ───と、やる事はたくさんある。

 時間は多く残されているようで、その実、あまり余裕はないのだ。特に私には──。

 

 ならば、する事は決まっている。さっきの慎二とのやりとりで、多少は友人との戦いにも現実感を得られた。もはや迷っている場合ではない。時間は有限、慎二はどこかへ去り、昨日は虫型エネミーが塞いでいた道も、今や障害となるものは何一つないのだから。

 

「さあ、先に進もう。アヴェンジャー」

 

 そうと決まれば、余すことなく探索を進めよう。せっかくだ、いっそ今日このフロア全てを隅から隅まで満遍なく探索してしまおうではないか。

 私はアヴェンジャーよりも先に、未知の領域へと足を踏み入れていく。そうしなければ、威勢ばかりかと、隣に居た彼女に笑われてしまうのだから。

 

「…………。なんというか、どうしてこう、私のマスターになる人間はこうも前向きなのかしらね。卑屈で陰険な自分が馬鹿みたい……。私に見出されて、貴方も運が悪いわね、マスター?」

 

 アヴェンジャーが何やら後ろで言っているが、それは私の耳には届かない。

 出来れば、早く付いて来て欲しいのだが……。だって私、未熟な魔術師だし? ヒヨコマスターだし? 戦うスキルなんて持ち合わせていない単なる女子高生だし?

 なので、早く来るようにアヴェンジャーに催促する叫びを上げた。

 

 

 

「助けて!! 盾みたいな形のエネミーに見つかった!!!」

 

 

 

 実は、あんなモノローグのように呑気にしている場合ではなく、結構な窮地に陥っていたり。

 

「っ! あんのバカマスター…! 調子に乗って先々進むからよ!!」

 

 物凄い形相で、こちらに走ってくるアヴェンジャー。私も急ぎ彼女の方へと走り、アヴェンジャーと入れ替わる形で前後を交代する。

 

「さあ、やるよ。アヴェンジャー!!」

 

「……マイルームに帰ったら、私自らありがたいお話をしてあげるから、覚悟していなさい」

 

 凄みの利いた良い笑顔を頂きました。これはお仕置き兼お説教コース確定です。ああ、とてつもなく帰りたくない。出来るだけアリーナで時間を潰したい程に。

 これは本気で、今日中にこのアリーナ全踏破を試みるしかないようだ。

 

「バカなマスターを持つと苦労しますね、まったく。せめて、不様な指示だけは出さないでちょうだい」

 

 初めて目にするエネミーを相手に、無茶な注文だとは思う。だが、アヴェンジャーを失望させるつもりも毛頭ない。

 やってやろうじゃないか。死に物狂いで、エネミーの一挙手一投足のその全て、観察しきってやる!

 

 

 

 

 

 

 結論から言おう。盾型のエネミーは、討伐出来ました。それも、驚く程に呆気なく。

 見た目の通り、守りを固める事を優先的に行うエネミーだったようで、確かに攻めがたい硬さではあったが、その分、ほとんど向こうから攻撃を仕掛けてくる事がなく、守りを崩す一撃を連続でアヴェンジャーに打ち込まれたエネミーは、簡単に消滅していきました。

 

「恐ろしい……敵の行動を読み取る、この私の洞察力が───あいたっ!?」

 

「バカな上に阿呆ですか、マスター? あんな奴、行動パターンが単純だっただけでしょうに」

 

 ペチン、と頭を軽くはたかれる。ボケ殺しは止めてほしい、ほんと。割と真面目に対応されると、こちらとしても困るというか……イタッ!? だから痛いです!!

 

 無言で私の背中を刺すかのごとく、指で突いてくるアヴェンジャー。地味に痛いのですが。

 

「ハア……。ふざける元気はあるようですね。なら、その有り余る体力で、さっさとこのフロアを制圧するわよ」

 

 制圧は何か違うような気がする。それだと、種別が変わってくるというか。ゲーム的に言えば、ジャンルが異なると言えば分かるだろうか。

 しかし、そんな私の異論を送る視線はスルーされ、今度はアヴェンジャーがアリーナの先を歩き始める。

 

 こんなチグハグな主従関係、私達以外に果たしているのだろうか……?

 そんな疑問を胸に抱きつつ、私は慌ててアヴェンジャーの後を追うのだった。

 


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