クロス・ブレイド~剣爛舞踏~   作:ゲキガンガー

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第二章『シーサイドクロスブレイド』⑥

無人となったウォータースライダーの上部。そこはこの施設内でもっとも高い場所である。今では係員すらいない。そう、その無人のはずの上部に少女はいた。

 冷徹な目をした金髪碧眼の少女。彼女は今回もまた常人離れした視力で

戦局を見つめていた。無数の妖魔は次々と消失していく。戦局は明らかに不利といえよう。流石に低級の妖魔では数で押しても押し切れない事は前回の闘いで学習している。

 だから、今回は趣向を変える事にした。

 数で押して駄目だったのならば、質で勝負してみる。そう、少女は持っていたクリスタルを砕いた。

 

「・・・・・・・これで終わりね」

 そう、安堵をする姫乃。数は多くても雑魚は雑魚だった。片づくのも時間の問題だった。

 ーーと。

 高らかなほうこうが聞こえる。それは叫びだった。地獄の底、いや、天界からの叫びの声か。

 何もない空間のはずだった。そこから突如として実体化する。それは蛇のようだった。髭を生やした蛇のよう。刀哉はそれに既視感を覚える。そう、龍だ。青い鱗のような皮膚をした龍。水龍。

 そう、先程の水穂の攻撃はこの龍を模倣したものだったのだろう。レプリカである。先ほどのような無意思の存在ではこちらは明確な意思を持った存在だった。

 先ほど現れた数だけの低級妖魔とは訳が違った。相手は人外の存在の中でもかなり上位に位置する化け物である。

 その神々しいまでの神聖なオーラは静かで、何よりも恐ろしかった。

「・・・・・・・どうして。こんなものが」

 ーーどうして。偶然ではないだろう。偶然にしては出来過ぎている。そう、何者かの明確な意思を感じる。それもとびきりの殺意を。

「どうやら。俺の存在を疎ましく思う奴がいるらしい」

「誰なのよ、そいつは! それに何でそこまで」

 刀哉には心当たりがあった。そしてその心当たりは、明確に自分の殺意を抱いている。全てが符号したのは数年前のあの時の事件。燃える本道。そして血塗れの母ーーそして父はその時ーーそしてあの時の二振りの刀。

 だが、その事を今ここで説明している暇(いとま)はない。

 水龍は息を吐き出す。

 アクア・ブレス。

 超高速で放たれた水の息吹は恐ろしいまでに鋭利な刃物になる。

「避けろ!」

 間一髪のところで三人は跳び避けた。そこには大きな水柱ができた。

 大きな霧のような水しぶきができる。幾ばくかの間をおいて水しぶきが治まる。

 驚く事に、そこには大きなクレーターのようなものができていた。

 平行さを失った地盤。プールの水はそこに流れ込んでいく。

「そ、そんな・・・・・・・」

 喰らったら一瞬でお陀仏だろう。

「・・・・・・どうするの?」

 姫乃は訊いた。

「作戦ならある」

 刀哉はそう言った。

「どんな?」

「あの攻撃ーー恐らくは連発はできない」

 あいつの動きはブレスを撃った後止まっていた。こちらに隙があったはずだが追撃してこなかった。いや、できなかったんだ。

「だ、だったらどうするのよ?」

「簡単だ。俺が一人であの攻撃を受け止める。その間で二人で攻撃してくれ」

「む、無理よ。右腕殆ど動かないんでしょ。そんな腕であいつの攻撃を受け止めるだなんて」

「いいからいけ! ここは俺が何とかする」

 刀哉の気迫に押されるようにして、二人は頷く。

「わかったわ。けど無理はしないで」

「冗談言うな。あれが無理をしないで勝てそうな相手に思うか?」

「そ、それもそうね」

 姫乃と水穂の二人は離れる。

 来る。

 水龍は息を深く吸い込んだ。放たれたのは強烈な水の流れ。水流だった。刀哉は刀を構える。

「・・・・・・・・村正」

 刀哉は呟く。刀哉はその息吹を避けなかった。避けようとしなかった。水流は勢いよく刀哉に突き刺さる。突如、刀哉に当たるはずだった水は霧散する。消失していった。障壁を張っているのではない。だから防いでいるという表現は間違っているといえる。しかし無力化しているかと言うとそうではない。それは吸収という言葉が相応しいのかもしれない。

 攻防はしばらく続き、ついには相手の息が切れた。

 隙。千載一遇のチャンスだった。

「はあああああああ!」

 二人は水龍に襲いかかる。

 姫乃は喉元あたりに刀ーーを突き立てた。刀ーーたけみかづちである。姫野は刀に力を込める。高圧の電流が流れ始める。

 水龍はけたたましい悲鳴をあげはじめる。

 万物には相性というものがある。火は水に強く、水は木に弱いみたいなやつである。RPGとかでよくある。

 水属性の敵である、水龍に対して姫野のたけみかづちの雷撃は特に有効だった。効果は抜群だった。

 ひとしきりに雷撃を放った後、水龍は大きくのけぞり、地面に伏せる。

「村雨」

 水穂は自らの愛刀の銘を呟く。水辺ーープールの中心に彼女は佇む。無論、浅瀬の幼児用プールではない。そう、彼女は水上に立っていたのである。そう、彼女は今、水を統べていたのである。全ての水は彼女に付き従う隷である。

 水は形を作る。そう、水龍と同じ龍の形を。

 そして叫びもあげずに襲いかかる。

 出来あがったのは巨大な水柱だ。

 二人の姉妹の同時攻撃により、水龍は断末魔にも似た大きな悲鳴をあげる。

「やったか・・・・・・・」

「ふう・・・・・・やれやれですわ」

 水穂は水龍から離れる。完全に油断しきっている。刀哉は嫌な予感を覚えた。そしてその予感は的中する。死んだと思った水龍。その目が鈍く光った。瞳孔が見開きする。そして、踵を返した水穂に向かって水流を放った。いや、その表現は生ぬるいとしか言いようがない。放たれたのは水の弾丸。まともに喰らえば無事で済む人間などいない。

「水穂!」

 姫乃は叫ぶ。しかし、距離的に彼女が助けられる場所にはいなかった。

「え?」

 水穂は気配を察し、振り返った。だがその時にはもはや水の弾丸は水穂を飲み込まんとしていた。迫り来る死の恐怖。しかし、やってくるはずの衝撃も痛み

「くっ」

 刀哉は水龍の攻撃を受け止めた。 咄嗟の事で攻撃を受ける際、両腕を使って受け止めてしまった。いや、両腕でなければこの攻撃はまともに受け止めきれなかった事だろう。だが、右腕は水穂との闘いの際負傷している。打ち身では済んでいないかもしれにない。ヒビで済んでいればいいが、最悪は骨折程度はしているかもしれない。

 そんな腕で高圧の水流を受け止めればどうなるかなど言うまでもない。

 そう、無事では済まない。右腕は軋み、激しい痛みが走る。

「な、なんでなんですか。どうして私なんかをーー」

 水穂に疑念が走る。そう、水穂は彼を殺めようとしていたのだ。

 そんな水穂を命がけで助けようとしているのだ。彼の行動は水穂の理解の範疇を越えていた。

「さてな・・・・・・何でだろうな」

 ただ。何となく理由はわかる。

 目の前で二度人が死ぬのをみるのはまっぴらだった。あんな光景。さっきまで生きていた人間が冷たい肉の塊になる瞬間を。

 刀哉は水龍の攻撃を防ぎきる。

「はああああああああ!」

 再度。姫野は斬撃を放つ。太い首に鋭い剣が走り、血がほとばしった。

 水龍は正真正銘の断末魔をあげ、霧散した。そう、まるで最初から存在していなかったように。

 先ほどまで、あれほどの人混みがあり、活気があったテーマパークの中はすっかり人気がなくなり、静寂しきっていた。静かだった。そしてどこか寂しげだった。

 気がかりな点はいくつもあった。だが、問題を整理している時間などなさそうだった。しばらくして何の役にも立っていない警察機関がかけつけてきたいようだ。パトカーのサイレンの音がしてきた。

 事情聴取されるのも面倒だった。

 三人はその場から避難する事にした。

 

 刀哉の傷の治療。その他雑処理、雑作業をしているといつの間にか夕暮れ時になっていた。オレンジ色になった太陽が彩りを変えていく。そう、それは日中の終わり。一日の終わり。どこか儚げだった。

 ーーさて。

 途中、中断はあったとはいえ。根本的な問題が解決していないように思った。そう、水穂の問題である。

 ただ、先ほどから攻撃を仕掛けてくる様子がない。疲弊しているのか。それにしてはどことなく様子がおかしい。顔がなんだか赤っぽいし。どことなく。以前のように攻撃的な様子が伺えない。

 ーーそうしているうちに学園の寮にたどり着く。皆寮生活なので当然と言えば当然だった。

 別れ際だった。水穂はこちらを向き直る。

「・・・・・・・なんだよ」

 何か言いたげだった。

「あ、あの。今日は助けていただきありがとうございました」

 そう言ってきた。礼を言ってくるなど随分と律儀だった。それだけで彼女の行いの全てを許せるとは言わないが。

「で、ですがあなたがお姉さまにとって相応しいと認めたわけではありません」

 そう言われる。

「だ、だから私と刀哉はそういうのじゃ・・・・・・・まだ」

 姫乃は言う。「まだ」・・・・・・という事はこれからは可能性があると言うことなのか。

 ーーともかくして。

「わ、私、思うんです。あなたにぴったりの女性は他にいるんじゃないかって」

 そう言った彼女の頬は紅潮していたように感じる。錯覚か。

 ーーただ、その後、彼女の言葉の意味を理解する事になる。

 

【第二章完】

 

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