クロス・ブレイド~剣爛舞踏~   作:ゲキガンガー

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第四章『村正×村正』①

第四章「村正×村正」

 

 和室。そこは明智家の寝室だった。そこの寝床に、姫乃と水穂の父が寝かされている。幸い大事には至らなかったようだ。もっとも、しばらくは絶対安静のようではあった。包帯を巻かれ、痛々しい様子で床に伏している。

「ひどい……どうしてお父さんがこんな――」

 姫乃及び水穂は表情に悲痛さを浮かばせる。

「すまない」

 刀哉はそう謝罪をする。

「な、なんで。あんたが謝るのよ」

「あの男は俺の父親だ。身内にも責任がある」

「そんな事ない。親子でも別の人間よ。親がやったことを子供が全て背負わなくてもいいじゃない」

 姫乃はそういった。少なくとも日本社会では家族を同一視するきらいはある。家族にも責任がある、そして責任を負うべきだという思考は根強かった。

「だけど。そうだとしても俺の責任だ。俺が親父の――いや、もうあの男を親父なんて呼ぶことはできない。そうだ。あの男を止められなかった――。それが俺の役割だったのに。それができなかった。だから俺とあの男の関係に関わらず、俺の責任なんだ」

「――けど。そうだとしても、自分を責めても何にもならないじゃない」

「そうですわ。お兄様。お姉さまのいう通りです。自分を責めたところで苦しくなるだけです。責任感が強いのは良い事ですが、その責任に潰されてしまっては何にもなりません」

 姫乃と水穂はそういう。

 刀哉は立ち上がる。

「待って。どこに行くのよ」

「決まってるだろ。あの男を止めに行く」

「止めに行くって言ったって、どこに行くつもりなのよ。どこにいるかもわからないんじゃ、止めようもないじゃない」

「心当たりならある」

「心当たり? ……」

「恐らく――あいつはあそこに行く。いや、あそこに戻るんだろうって確信がある」

「ど、どこなのよ、それは」

「――ついてくればわかる」

 ――と。その時だった。地響きのような音が聞こえた。

「きゃっ。やだ。なによこれは。地震?」

「ちぃっ。始まったか」

 大きな揺れを感じた。しかし、刀哉はそれがただの地震ではない事はすぐに察知することはできた。刀哉は知っていたのだ。妖魔――村正の過去の逸話を。知っていたのであれば、次にどうするか、などという事はすぐに理解ができた。

 

 そこには古くからある城があった。――かつて、ではある。本来、城などというものは幾多もの修繕や補強の末に維持されていくものだ。重要な国家遺産でも焼失などがあり、実質的には建て替えのようになってしまうものもある。何百年にもわたり建築物を維持することはそれなりに手間もかかるし、難しい事だった。

 ――しかし。その城は主が戻ってきたことを察すると、突如姿を作り出した。そう、ここはかつて、妖魔――村正が根城としていた城だったのだ。勿論、その城は既にその形を失っていた。何百年も前に、倒壊して消滅していた。

 ――しかしである。本来の城主が帰還したとあって、その城は瞬く間に本来の姿を取り戻した。

 妖魔の王の城。いわば、魔王城である。

 その玉座に男は座る。男はもはや人間ではないのかもしれない。妖魔の中の王、魔王。

「主様」

 アリシアは平服する。

「ついにこの時が来たのですね」

「……ああ」

 魔王は答える。

 ついに、長い時をかけた計画が始まるのである。復活したのは魔王城だけではなかった。数多の妖魔もその姿を取り戻したのである。そう、それが本来の魔王城の姿だった。

 

 魔王城が出現したのは都会のど真ん中だった。突如、そこに城が現れたのだ。町中はパニックが起こった。渋滞が起こり、住民は走り回った。そして数多の妖魔による虐殺が起こった。緊急で数多の剣士(ブレイダー)が出動することになる。それにより一時的には敵の攻勢は小康状態になった。だが、根本的な解決にはなっていなかった。元である魔王城への侵攻がうまくいってなかったからである。国家は防衛線を引くことになる。

 平和だった町中は突如戦争状態へと突入することになる。

 

 魔王城の出現地点は刀哉や姫乃の通っていた剣蘭学園の近くにあった。突然の出現という事もあり、猫の手も借りたい状況下で、そこにいた多くの学生達もまた戦闘に駆り出されることになる。

 そう。平和だった日本社会というものは存在しなくなり、今では戦場下になってしまった。

 今、戦況は膠着状態だ。人間側からしても突破口というものは見いだせない。

 刀哉達は急いで帰郷することになる。そして、行った先は八神家だった。

 そこは明智家と同じくらいに古い建物だった。そして格式を感じさせる建物だった。

 刀哉は表情を歪ませる。いやな記憶のある場所だ。もはや刀哉からすれば。そこには家に帰ってきたという安心感などない。トラウマを抉られて、嫌な記憶が戻ってくるだけだった。

 刀哉は表情を曇らせる。苦痛で表情を歪ませる。姫乃はそれを心配そうに見やる。

 しかし、それは必要な事だった。この場所に来ることは、刀哉にとって必要な事だったのである。

 

「……ふむ。そうか。ついに京哉のやつが」

 先々代。刀哉にとっては祖父に値する男がそこにはいた。老人。とはいえしっかりした老人だった。気骨さというものは失われておらず、肉体的にも実年齢よりは幾何も若い。

「はい。ついに全ての宝玉を破壊し、妖魔としての村正の本来の力を取り戻しました」

「ふむ……そうか」

 先々代――刀哉にとっては祖父は頷く。名は厳哉という。

「それでお前はこれからどうするつもりじゃ?」

 祖父――厳哉はそう聞く。

「決まってます。これからあの城へ出向き、あの男を斬る」

 刀哉は強く言い切った。

「しかし、無為無策で行くつもりかの。敵は強大。無暗に突っ込んでも犬死するだけじゃ」

「ですが――この命に代えても」

「焦ってもなんともならん」

 厳哉は言う。

「――どうしてなんですか。刀哉がなんでそこまで背負い込まなければならないんですか」

 姫乃は悲痛な表情で訴える。

「ふむ……。そちらは、なぜ村正が二振り目を用意されていたかは知っているかね?」

 厳哉は訊いた。

「いえ……」

 知るわけもない。逸話によれば村正が一人の英雄によって滅ぼされ、封印されたという事は知っている。

「――そう。言い伝えには続きがあったのじゃ」

 そう。村正は封印された。そして、世の中は平和になったのだ。しかし、言い伝えには続きはあった。その時、ある鍛冶師が村正の復活を恐れて、一振りの刀を打ったのだ。そう、その刀には妖魔である村正と同じ力が使われていた。毒を制すには毒が必要だったのだ。そうして、二振り目の妖刀である村正が作られた。そして、それは村正と同じく封印をされたのだ。そして、妖魔である村正の封印が目覚めた時、同じ悲劇を起こさせない為に、二振り目の妖刀は用意されたのである。

 そしてその妖刀は八神家により保管をされることになった。そう、八神家は代々、妖刀を保管し、妖魔である村正を目覚めさせない事を使命とした一族だったのである。

 そしてまた、もし妖魔である村正が目覚めた時。二振り目の妖刀である村正を持って、妖魔である村正を仕留める事もまた使命として定められていた。

 父の不始末の責任を負うのも息子の定めだった。そういう風に八神家では決められていた。刀哉は妖魔となってしまった父を、二振り目の村正によって斬らなければならない定めにあったのだ。

「――そうなことがあったのですか」

 と、水穂。

 そう、それが言い伝えの全容である。そして妖刀である村正が二振りあった理由だった。一振りは妖魔である村正を封印しておく為のもの。そしてもう二振り目は村正が妖魔として目覚めた時、その封印が解けた時、再び妖魔村正を討つようにと作られたものだった。

「そうじゃ。それが八神家に課せられた使命であり、存在意義だったのじゃ」

 八神家は妖刀を保管するためにあり、そして妖魔村正を討つためにあった。その為だけに存在していたのである。

「……そうだ。だから親父を――いや、妖魔村正を討つのは俺の役割であり、目的だったんだ」

 刀哉はそういう。

 現在。魔王城は包囲網が完成している。とはいえ、迂闊に手を出せない状況だった。被害を抑える為に、魔王城からこぼれ出てきた妖魔を狩っている最中だ。しかし、やはり無尽蔵に湧き出る妖魔をどうにかしなければ戦局は消耗戦になっていく。相手の無限に対して、こちらは有限なのだ。ただ、相手も何か策があるのか、積極的に攻勢に出てくるような真似はしてこなかった。拮抗状態にあった。

 刀哉は苛立つ。急いていた。こんなことをしている場合ではない。責任のある自分が出向かなければならない。そして、あの男を。妖魔村正を斬るのは自分しかいない。そう思っていた。急いていた。それは表情にも空気にも表れていた。

 それを祖父――厳哉にも伝わったようだ。見透かされたような目で見られ、深いため息をつかれる。

「急いても何も変わらん。いや。今のまま行けば確実に貴様は負ける。あの男に勝つことはできん」

「――ですが、このまま何もしないわけにも」

「貴様の持っている、もう一振りの村正じゃが。そやつはまだ本来の力を取り戻していない」

 古い刀である。剣(ブレイド)はただの剣ではない。そう、意思を持った刀である。だから劣化をすることはなく、自己による再生機能もまたある。だから刃こぼれし、折れたとしても自然と回復をする。時間さえ置けばであるが。

「封印の力は妖魔である村正だけではなく、もう二振り目の村正にも影響していたんじゃ。それが今の村正の本来の力を取り戻せていない主な要因じゃ」

 そう、厳哉は語る。

「――しかし。だからと言ってどうすれば」

「その妖刀、村正が本来の力を取り戻すには、その刀を打ち直すことが必要なんじゃ」

「打ち直す?」

 ――しかし。かといってこの妖刀は普通の代物ではない。普通の鍛冶師――現代にいる鍛冶師に打ち直せるとは思えない。それだけ特殊な代物なのだ。当時の鍛冶師でなければ打ち直すことなどできないだろう。

「……そうじゃ。しかし、その妖刀。普通の鍛冶師では打ち直すことはできない。そう、普通の鍛冶師では――ましてや現代の鍛冶師では当然じゃ。しかし、何事にも例外はある。八神家は代々妖刀を保管し、またうち滅ぼす為に存在していたのと同じように、太古の鍛冶の技術を受け継いでいく為に存在した一族もまたあった。その技術は脈絡と受け継がれておる」

 太古に妖刀村正を打った鍛冶師の血脈は今もまた、受け継がれている――らしい。

「急げ。刀哉。もう我々に残されている時間は残り少ない。実は魔王城はまだ完全ではないのじゃ」

「――まだ完全ではない」

 まだ――つまりはいずれは完全になるという事だった。

「期限は一週間。その時がくれば、魔王城は完全となり、取返しのつかない事になる。そう、かつて太古と同じようになる」

「同じように……?」

「そう。とどのは地獄。この世の地獄に、この現世に地の獄ができる」

 祖父――厳哉はそう語った。

 行くしかなかった。刀哉は――刀哉は立ち上がる。

「待って。刀哉――一人で行くつもり?」

 姫乃は刀哉に、そう言った。

「しかし、部外者のお前達を危険にさらさせるわけには――」

「もう。今更部外者だなんて。水臭いですわ。お兄様。旅は道ずれ世は情けというではありませんか」

 旅ではないとは思うが。この場合その用法で合ってるのか果たして。

「――ともかく。どこへでもお供しますわ」

 そして含みのある笑みを浮かべる。

「例えそれが地獄の底であったとしても――」

 水穂は笑った。

「止めてもついてくるってなら勝手にしろ」

「はい。そうしますわ」

 三人は出向いた。もう、時間はさほど残されてはいない。目的の場所へと向かう。

 

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