クロス・ブレイド~剣爛舞踏~   作:ゲキガンガー

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第一章『剣爛舞踏のはじまり』④

 武御雷(たけみかづち)。

 彼女の持っている刀の銘である。彼女の口から聞いたわけではない。刀哉の知識を照合させてみた結果だ。間違いなく業物である。そしてその大きな特徴は雷神を宿しているところにある。簡単に言えば雷の付加効果が備わっている。優れた剣(ブレイド)には必ずこういった付帯効果が備わっているものだった。斬撃と共に電流を流す事ができる。斬られれば死亡。電流が当たっても感電死。

 なんとも厄介な業物である。これだけの業物を持っているのであるから、彼女もまた相当な名家の出自に違いない。名家であるが故に格式や形式に囚われ、頭が固いのだろうが。先ほどの対応もその点が見て取れた。

「くっ」

 追い詰められた。夜の公園――その噴水の前で刀哉は尻餅をつく。

「抜きなさい」

「えっ?」

「丸腰の相手を斬る程あたしも卑怯な剣士(ブレイダー)ではないわ」

 彼女はそう言い放った。

「……いや。あんたこの前丸腰の俺を斬りまくってただろう」

「う、うるさい!」

 刀哉が生存できたのも丸腰であったが故に剣を振るう腕が鈍ったのかもしれないが。

「あなたの背負っている剣は抜く必要がない程に鈍なの?」

 そう聞かれる。刀哉は刀を入れた袋を背負っている。

「……けど。俺はこいつを抜くわけには――」

 嫌な記憶が蘇る。数年前。血の匂い。炎が滾った講堂。鈍く光る二振りの刀。

「ああ。もういい」

 彼女は刀を振り上げた。

「終わりにしてあげる」

 そして振り下ろす。――と。別の類の殺気と臭気を感じた。

 無数の黒い影が姿を現す。

「……えっ?」

 妖魔である。剣士(ブレイダー)にとっての敵は同じ人間だけではなかった。古来から存在する鬼、悪魔、妖怪、幽霊、化け物。様々な呼ばれ方をする人外の敵。そういった類を総括して妖魔という。突如、妖魔が見計らったようなタイミングで現れた。あまりにタイミングが良すぎる。偶然ではない。恐らくは何者かによって狙われていたのだろう。

 不意をつかれたのか、姫乃は妖魔の攻撃を防ぎ切れなかった。生半可な受け方をしたその刀――武御雷は天高く舞い、遠くに突き刺さる。

「……くっ。うそ。こんなはずじゃ」

 予想外の敵の出現に少なくない動揺をしているようだった。

「下がってろ」

「……けど。あんた一人じゃ」

「いいから」

 刀哉は姫乃を庇うようにして、妖魔の前に出る。

「……全く、誰の差し金かはしらないが」

 刀哉は渋々ではあるが、鞘を解き放つ。

 脅威を察した妖魔は先手を打とうと襲い掛かってくる。

「遅い!」

 抜刀一線。音より早い斬撃は妖魔を分断した。

 キシャアアアアアア!

という奇声をあげつつ妖魔は霧散した。

「なに……その刀」

姫乃は予想外な程鋭い剣筋は元より、予想外な刀の出現に畏怖の念を抱いた。

業物ではある。業物ではあるが、その刀には神聖さというものが感じられなかった。優れた逸品ではあるのかもしれないが、良いものであるようには感じられない。

不気味だ。それが姫乃がその刀に関して抱いた印象だった。

「無銘だ」

「……うそ。そんなはずがない」

「今はそんな事を語っている場合じゃないだろ」

 次々に妖魔が襲い掛かってくる。それを刀哉は斬り払っていった。斬撃が終わるまでの時間は一分にも満たなかった。しかし、流れるような一連の流れはまるで時間が止まっているかのような体感を姫乃にもたらした。

 静寂が夜の公園を支配する。

「……そっちか」

 殺気がした。そして妖魔を放つタイミング。全てに作為的なものを感じた。当然のように首謀者がいると考えた方がいい。だが、逃げられたようだった。

 一体誰が、何のために。疑念は尽きない。だが、今日のところは一旦、騒動は収まったと言えよう。

「ほら」

 刀哉は地面に突き刺さった刀――武御雷を姫乃に返した。

「あ、ありがとう」

「なに。礼には及ばない」

「……なにかっこつけてんのよ」

 姫乃は起き上がり、刀を構えた。

「……なんだよ。まだやるつもりなのか?」

「ち、違うわ。確かに、今までは私情で剣を振るっていたけれど、今はそうじゃない。私情は私情だけど、それだけじゃないの」

 姫乃は複雑そうな表情になった。

「剣士(ブレイダー)として。武人として。試してみたいの」

 そう言った彼女の表情は真剣そのものだった。恐らくは力あるもの。武を目指すものであるのならば誰もが持っている本能と呼べるものだろう。自分がどれだけ強いか。相手がどれだけ強いのか。それを知りたい。時にそれは限界を知ることになり、恐怖になるかもしれない。だがそれを克服しなければ今の自分より強くなる事はできない。

「試合か?」

「真剣よ。練習と一緒にしないで」

 本気でやりたいと言っているのだ。詮無い事だった。刀哉は彼女の真剣な眼差しに根負けし、仕方なくその想いに応じる事にした。

 刀哉もまた刀を構える。夜の公園。その場にいるのは二人だけだ。先ほどのような邪魔立ては入らない。お互いに間合いの取り合いになる。何もしていないようではあるが、お互いに有利な距離を取り合ってるのだ。一瞬でもその領域(テリトリー)に入ればお互いに無事では済まないだろう。

 風が凪いだ。公園に放置してあった空き缶がカラカラと音を立てながら転がっていく。

 それが全ての合図だった。

「はあああああああああ!」

 姫乃は鋭く踏み込むと同時に刀を横凪ぎに払った。刀の斬撃。刀哉はそれを後ろに跳んで避ける。斬撃は回避できたが付帯した電流がかすったからか、制服が焦げた。

 第二刃が来る。刀哉は刀身でまともにそれを受けた。

「……いい斬撃だ」

「相手を褒めるなんて随分と余裕があるじゃない」

 姫乃は力任せに刀哉を弾き飛ばす。女とは思えない馬鹿力だった。

「『まるで女の皮をかぶったゴリラだな』そう俺は心の中で思った」

「しっかり口に出してんじゃない! 殺すわよ! あんた!」

 いまだかつてない程気の乗った斬撃だった。姫乃は斬撃を振り下ろす。その気に呼応するように武御雷はその雷撃をいつも以上に発揮した。そう、その斬撃はまさしく、雷のような一撃だった。

「とった!」

 姫乃はそう思った。――しかし。

 斬撃はいとも容易く受け流された。そして返す刃は姫乃の喉元に突きつけられる。

「……え?」

 ありえない事象に姫乃は愕然とした。

「ど、どうして?」

 自身の最大の一撃。それを受け止めるならまで理解ができる。しかし、受け流された。受け流し、反撃まで決められた。理解が及ばなかった。

「……どうして。どうしてなの?」

「こいつは鈍だが……それなりに便利にできてるんだよ」

「便利に?」

「吸ったんだ。お前の攻撃を。生き血のように」

「……そ、そんな事ができる剣(ブレイド)があるわけ」

「そんな事はどうでもいい。詰みだ。明智姫乃」

 刀哉はそう告げた。

「あ、あたしの負けよ。煮るなり焼くなり好きにしなさい」

 姫乃はそう言った。

「そうか……煮るなり焼くなりか」

「……何するつもり?」

「いいから、目閉じろ」

「え?」

「いいから」

 姫乃は目を閉じた。ま、まさかこれから――。姫乃は想像をしてしまった。まだ誰ともした事ないのに。しかし、勝負に負けたのは自分だ。だからこれは仕方のない事――。

 と。予想していた感触はやってこなかった。代わりに額あたりに感触が走った。

「……なに、したの?」

「鏡で自分の顔見てみろ」

「鏡」

 姫乃は持っていた化粧鏡を見る。

『負け犬ゴリラ女』

 とマジックで書いてあった。

「あ、あんたね。人をおちょくるのも大概にしなさいよ!」

 夜の公園に姫乃の大声が響いた。

 

 その日。その晩。その瞬間。一人の少女はその様子を見ていた。驚く程高所から。そして驚く程良いその視力で。気取られる範囲外からその様子を観察し続けていた。

 あれが、あの男が。妖刀のもう一振りを持った男。そして、自らの主の障害になるであろう男だった。その存在を見過ごす事などできない。見過ごせば大きな障害となり、自分達に立ちはだかる事だろう。

「アリシア」

「……はい。マスター」

 言霊だ。主(マスター)はこの場にはいない。だが声は聞こえてくる。二人は通信機器など介さずとも意思の疎通ができる。以心伝心というやつだった。二人は一心同体のようなもの。

「……こちらは目標を遂行した。後三つだ。後三つで我々の悲願が叶う」

「了解しました。マスター」

 目的の達成の為、是が非でも排除しておかなければならない。そう、あの男を――。

 彼女はその事を深く胸に誓った。

 

 第一章完。第二章に続く。

 

 

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