「しかし、今のはなかなか良いじゃないか。これは使えるかもな。」
アインズは先程の跳び蹴りで、昔、たっちさんに飽きる程聞かされた変身ヒーローの必殺技を思い出していた。
(…アインズキック?…モモンガキック?いや、…ここは超越者キックだな!)
「ぐぅ~。やるでござるなぁ!」
そこでようやく森の賢王が立ち上がり、此方に歩いてくる。その目は少し涙目になっていた。
「…もう止めるか?」
アインズは何やら、小動物を虐待している気分になってきていた。相手は自分よりかなりデカかったが。
「まだまだでござるよ!次は此方の番でござる!」
そう森の賢王は吠えると、前傾姿勢になり何やら空気がしなる音がする。
(あんな距離で何を…?違う!奴は最初もっと離れた距離からっ!尻尾か!?)
そう思った時には尻尾が此方にかっとんで来ていた。
アインズは咄嗟に右に避けるが、尻尾もアインズを追うように右に曲がってくる。
その時アインズの頭に電流が走る!
ティキーン!(ニュータイプ風SE音)
「サイコミュか!?…ならば!!」
アインズは咄嗟に回避運動をした事により崩れたバランスを、その身体能力と負担を感じない体を頼りに強引に立て直し、森の賢王の方向に回避運動を取る。
そして森の賢王に肉薄すると叫ぶ!
「これであの武器は使えまい!賢王!」
だが悲しいかな、次の瞬間、カツンと背中に何かが当たった音がした。森の賢王はアインズの想像以上のオールレンジ攻撃の使い手だったようだ。
「これでお互い一撃づつでござるな!」
アインズは悲しさと切なさと悔しさで立ち尽くす。
(前に出て行かなければ、やられなかったのに!……あと…サイコミュって…何だよ…。)
アインズが立ち尽くしている間に、森の賢王はタタタッと後ろに走り距離を取る。またあの尻尾攻撃をするつもりなのだろう。
「それにしてもまことに超級の戦士でござるなぁ。」
「…戦士にしか見えないか?」
「どこからどう見ても戦士でござろう?…もしかして騎士でござるか?」
「…はあ。賢王って…外れだな。もういい、終わりだ。」
アインズはそう言うと、グレートソードを森の賢王に突きつけ、スキルの一つを発動する。
「…ぇ…各員はメガバズーカ・絶望のオーラの射線上に近づくな!……。絶望のオーラレベルいち…。」
アインズは取り敢えず、今回は意味が分からなすぎたので突っ込むのは止めた。ここにはアインズと、充分離れた所にナーベラル(とアウラ)しかいないのに、誰に注意喚起したのか…。メガバズーカ・絶望のオーラって…。
とは言え、絶望のオーラは発動し、森の賢王はひっくり返った。
「こ、降参でござる!そ、それがしの負けでござるよぉ~…。」
「獣は獣ということか…。さてどうするか?」
「殺しちゃうんですか?」
と、木の上から突然隣に降りて来るアウラちゃん。
アインズは必死に悲鳴をこらえアウラに問う。
「ぃぃっ!な、何だアウラ?どうした?」
(た、頼むから急に来ないで!アウラの隠密はレベル高くて俺でも見えないんだから!)
「殺しちゃうんでしたら、毛皮が欲しいな~と思いまして!」
とアウラは上目使いでアインズに(物騒な)お願いをしてくる。実にキュートだ。
(ぐう、可愛い!ずるいぞ!しかし…!)
アインズはそのキュート振りに陥落寸前だったが、プルプル震える賢王を見て、何とか堪える。
「…すまんな、アウラ。そのうちお前にはデブゴンをやるから我慢してくれ。」
「デブゴン?」
「デブなドラゴンだ。アゼルリシア山脈の北の方にいるらしい。」
こうして、アウラの頭の中ではフロストドラゴン=デブゴンになった。
「…畏まりました!それまで我慢します!」
アインズはぽふぽふとアウラの頭を撫で、賢王に向き直る。
「アウラは良い子だな。…さて、森の賢王よ!私の真の名は、アインズという。私に忠誠を誓うのならばその命を助けよう。」
「誓うでござる!殿に忠誠を尽くすでござるよ!」
「と言うわけだ。さて、アウラ。こいつは俺のペットにしようかと思うんだが…何が必要だ?」
アインズは今まで、リアルの世界でもペットなんて飼った事は無かった。なので、色々な魔獣を飼い慣らしているアウラに聞いてみた。
「うーん。まずは名前ですかね?」
「おお!なる程な、名前か。」
(…ネーミングセンスには自信が有る。俺に任せろお!)
アインズは賢王を見る。
「このモモン…クワトロ・バジーナ…だっけ?の魔獣に相応しい名前は…」
(ハムスケは安直か…?あとは…丸いな。丸い物か…、大福、ボール、ぶくちゃん、かぜっち。…何か違う。というか最後の二つはアウラの前では言えない…。)
その時、またしても勝手にアインズの口が開く。
「おい!今度は何をっ!?…さて、ベストワンネームはもちろん、百式だよね!……はぁ?…何だか今の、何時もと違くない?何か子供に言うような…はっ!」
その言葉に賢王を眺めていたアウラとナーベラルがこちらに振り向く。
そして、ナーベラルが問いかけてきた。
「アインズ様。何か仰いましたか?」
「いや……。…私もよくよく運の良い男だな…。」
ナーベラルには聞こえて無かったようだ。ほっとしたのも束の間、もっと耳が良い子が居たのを思い出す。
「ひゃくしき…ですか?」
「ひゃくしき…、百式!…はっ!もしや武人健御雷様とご関係が!?」
「無い。」
「え?」
「無いから…気にしなくて良い。…すまんな、ナーベラル。」
アインズは、そう絞り出すようにナーベラルに言うのが精一杯だった。
(…だって…俺にもわからないもん!)
「そ、そうで、ございますか…。い、いえ!謝られる必要はございません!アインズ様!」
「う、うむ。しかし百式か。こいつには驚く程似合わない名前だな。…いや、こいつに鎧を着せて、そこに百と書くとか?うーむ。余りネーミングセンスは良く無いようだな。…ならば私の考えた名前とくっつけて…。」
賢王を含めた全員がアインズに注目する中、アインズが口を開く。
「こいつの名前は、ハムスケ百式だ!」
「おお…!」
「ハムスケ百式でござるか?カッコいい名前でござるな!」
「どんな意味なんですか?」
「う、うむ!…わ、私はアンデッドだ。寿命の無い私の魔獣として百年でも私と共に駆けられるように、という意味だ!……ふぅ。」
と、アインズは苦し紛れだったが、意外と元ネタ通りの理由を口にした。
しかし、今後ハムスケ百式はずっとハムスケと呼ばれ、百式という名前は一年も保たずに忘れ去られた。これも微妙に元ネタ通りだった。
同時刻 ナザリック地下大墳墓
ユリ・アルファは出払っているセバスの代わりとして友人でもあるペストーニャと共に、メイド達のまとめ役の業務を行っていた。とても忙しいが、やりがいが有り、毎日充実していた。逆に仕事が無いなどと考えるとぞっとするぐらいだ。
今も忙しく歩き回っていると、向こうからプレアデスの妹である、シズが歩いて来るのが見えた。
「…………ユリ姉。」
「あら、どうしたの?シズ。」
「…………アインズ様に伝えて欲しい事が有る。」
ユリはその言葉に内心喜びを感じた。この子はとても良い子なのだが、余り自分から行動するタイプでは無かったのでこういう事を言ってくるのは初めてだったからだ。
初めてでも心配は無かった。我々ナザリックに働く者がアインズ様に伝えて欲しい事など、このナザリックの為になること以外では有り得ないのだから。
「分かったわ。急ぎならエントマに頼んでメッセージを送って貰うけど?」
これは本当に緊急の場合だけだ。ナザリックから出て働いている至高の御方に緊急以外のメッセージを送るのはとても失礼だからだ。
見れば、シズは首を横に振っている。違うという事なのだろう。
「そう。では次にお会いした時で良いのね?」
「…………うん。」
「では何の用件かしら。」
「…………サイコミュは、サイコ・コミュニケーターの略。」
「…うん。うん?…え?それだけ?」
「…………うん。」
そう言い、シズはもう用は済んだと言わんばかりに背中を向け歩き出す。途中でエクレアを右手でひっつかみ、抱きかかえながら。
ユリ・アルファはその背中を狐に摘ままれたような顔で見送った後、ぽつりと呟いた。
「…またルプスレギナに何か吹き込まれたのかしら?…厳しく言っておかないとね…。」
※このシーンには特に深い意味は有りません。
アインズ達はアウラと別れ森の賢王改め、ハムスケ百式を連れンフィーレア達の元へ戻った。
(残る問題はこのデカハムスターを森の賢王だと思ってくれるかだな…。)
とアインズは悩んでいたが、いらない心配だった。ハムスケを見た彼らは皆、驚き恐怖していたからだ。
アインズが可愛くないですか?と聞けばモモンさんは凄い!!との絶賛の嵐だった。
その中でンフィーレアとの間で、森からハムスケを連れ出した事によってもしかしたらカルネ村に危険が及ぶかもしれないという事で、互いに協力しよう、という約束もした。
その後、ハムスケの協力も有り薬草も予定より大量に取れ、エ・ランテルに帰還する事になった。
そこで一つ問題が有った。ニニャがハムスケに乗って凱旋しましょう!と言い出したのだ。
他の皆も同調し、更にナーベラルまで勧めてきたので一応ハムスケに乗ってみたのだが、そこでアインズの口から滑り出てきた第一声は
「冗談ではない!」
だった。アインズも概ね同意した。
次にエ・ランテルに入ってからの第一声は
「情けないモンスターに乗って凱旋して、一体何の意味が有ると言うのか!しかし…これはナンセンスだ!」
だった。これにも少しハムスケが可哀想だったがアインズも概ね同意だった。
「ひ、非道いでござるよ!殿~!」
「これほどの魔獣を情けないなんて…。」
「我々では有り得ないのである!」
「本当にすげぇや…」
アインズが羞恥プレイしている中、ナーベラルはドヤ顔をしていた。
「ではモモンさんは組合でハムスケさんの魔獣登録ですね。」
「それなんですが…ンフィーレアさん、これは私の冒険者としての初仕事なんです。出来れば先に貴方達と最後まで仕事を終わらせたいんですが…。」
これはアインズの偽らざる本心だった。魔獣登録はいつでも出来る。しかし、初仕事の締めくくりは今しか出来ない。これは社会人、鈴木悟としての残滓も仕事をやり遂げたいと訴えていたのも大きい。
それとは別に、アインズの中で共に旅をした彼等を気に入り、彼等に仕事を押し付けたくないという気持ちも有るのだが、その気持ちにはアインズは気付かなかった。
「…モモンさん…貴方は本当に…、分かりました!では皆さん!全員で魔獣登録してから僕の家に行きましょう!」
「いや、それは迷惑なのでは?」
そのアインズの問に、笑顔で否定するメンバー。
その後、組合に行き登録を済ませたのだが、ここで登録料がかかる事を知らなかったアインズはこの世界の金が尽き、一文無しになったのは皆には内緒にした。
その後、ンフィーレアの家、バレアレ商店に向かうのだが、その道中ナーベラルからメッセージが入る。他の皆に聞かれたく無い事なのだろう。
『アインズ様、失礼いたします。』
『いや、彼等に聞かれたく無い事なのだろう?良い判断だ。』
『は!有り難うございます!…アインズ様、やはり街の中では人間や死角が多く、この時間では暗い為、御身を完璧に守る事が出来ません。ナザリックから何かシモベを呼ぶべきでは?』
『何だそんな事か、心配するな。〈
『おお…!流石はアインズ様!畏まりました!』
アインズはただ単に、今の状態でスリなどに有ったら一文無しなのがバレてしまうので使ったのだが、とてもいい方に転がったのだろう。
本当に。
何故なら…バレアレ商店の前に着くと、その魔法が反応したのだから。
「こ、これは?…ぃ…見える!私にも敵が見えるぞ!!…ぇぇっ!?」
シズとユリのシーンは何の意味も有りません。ただ単に特典のぷれぷれぷれあですの2人が可愛かったのでねじ込んだだけです。