短編集   作:雨の日

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自然の王・前編

「他のカンピオーネ?」

 

「そうだ。俺以外のカンピオーネの情報が欲しい」

 

「急にどうしたの、護堂?」

 

 草薙護堂が突然そんなことを言いだしたのはかのヴォバン侯爵を撃退した日から、一週間が経った時だった。それに応じたのは草薙護堂の愛人であると周りに堂々と公言しているミラノにある魔術結社『赤胴黒十字』に所属し、大騎士の位階と組織のイタリア人筆頭騎士たる『紅き悪魔』(ディアヴォロ・ロッソ)の称号を持つ天才魔術師であるエリカ・ブランデッリである。(ちなみに愛人については草薙護堂が全面的に否定している)

 

「いや、これまで会ったカンピオーネにはいい思い出がないだろ? だから他のカンピオーネはどうなんだろうと思ってな」

 

「今まで会ったというとヴォパン公爵とサルバトーレ卿のことですよね?」

 

「そうだ」

 

 草薙護堂に確認を行ったのは万里谷裕理。日本の政府直属の魔術組織『正史編纂委員会』に所属し、類まれな霊視能力をもつと呼ばれる媛巫女と呼ばれる存在だ。その能力故ヴォパン公爵に狙われて草薙護堂に助けられた。黒髪黒目の大和撫子を体現したといっていい容姿と性格の良さからたくさんの人に慕われている。

 

「貴方も同類だと思うのだけれど」

 

「そんなことないだろ。俺は平和主義者なんだぞ!」

 

「どうかしら? 少なくとも周りへの被害という意味ではあのお二人と大した差はないと思うのだけれど」

 

「うっ!」

 

 痛いところを突かれたと呻く草薙護堂を見ながらエリカ・ブランデッリは思考を巡らす。先ほどの言はどうしてでてきたのだろうと。魔術関係に興味を持った? それは普段の言動からありえない。ならどうして・・・・・・と。

 

「・・・・・・それで結局のところどうして他のカンピオーネについて知りたいのかしら?」

 

「単に相手を知っていれば、多少は争いから逃げることも出来るんじゃないかって思ったんだよ。それとできれば会った時に平和的に解決できそうな奴がいないか知りたかったんだ」

 

「カンピオーネなんて、基本的には戦いを好む人ばかりなんだから、あんまり意味はないと思うけれど。まあ、知りたいというのなら私の知っている範囲で教えてあげるわ」

 

「助かる! 俺が8人目って話だから、あの2人を抜いても後5人いるんだよな?」

 

 考えてもわからないので訊いてみて返ってきた答えに頭をさらにめぐらす。平和的に解決できそうなカンピオーネなんていただろうかと。そして1人の人物にいきついた。

 

「そうなるわね。と言っても、中には情報が秘匿されている王もいるから、私が説明できるのは三人だけ。そして護堂の要望に会いそうな相手は1人しかいないわ」

 

「1人はいるのか! どんな奴なんだ?」

 

「トルコの魔術結社『トルコリラ』の長、カルラ・グレンジャー様よ」

 

「あっ! 私もその方なら知っています」

 

「万里谷もか?」

 

「はいっ! 自然を愛するカンピオーネだと。自然を破壊するものには容赦しない方だと」

 

「それだけ聞くと俺の要望に合っているようには思えないが」

 

 草薙護堂はこれまでいろいろなものを壊してきた。それには植物や山も含まれる。そんな自分とたたかわないでくれる相手とはとても思えなかった。

 

「それだけなら・・・・・・ね」

 

「エリカ、もったいぶらずに教えろよ」

 

 エリカ・ブランデッリの意味深な発言に思わず草薙護堂は聞き返す。エリカはそんな草薙護堂の様子に笑みを浮かべながら懐からメダリオンを取りだした。

 

「このメダリオンを持っていればどんな方だろうと襲わないそうよ」

 

「へー」

 

 エリカ・ブランデッリの掌にある精巧な細工がなされたメダリオンを2人は観察する。何か特別な力を感じるということはない。おそらく権能を使って作成されたものではないだろう。万里谷裕理がそれを見て何も霊視できないということがこの考えを後押ししていた。

 

「ちなみに偽物をつくろうとした者がいたのだけれどすぐに偽物だと見抜かれて悲惨な目にあったそうよ」

 

「カンピオーネを騙そうとするなんて馬鹿なことを考えましたねその人も」

 

「そうね。私もその意見には同感よ」

 

 いったいどんな目に合ったのだろうと顔色が悪い2人を見て考えながらも草薙護堂は訊くことはしなかった。訊くと後悔すると自分の直感がささやいていたからだ。

 

「結局どういう人なんだ?」

 

「カルラ様は自然を愛し争いを好まない方でね。周りへの被害についてもしっかり考えていただけるカンピオーネの方の中では稀有な人よ」

 

「そうか。1回会ってみたいな」

 

「そうね。1度会いに行ってみましょうか」

 

「いいのか!」

 

「ええ。カルラ様に会うことは護堂にもいい影響を与えるでしょうからね」

 

 エリカ・ブランデッリと草薙護堂の意見が一致したこともあってこの会話から数日後の休日に一行はトルコへと旅立った。そのトルコで厄介ごとに巻きこまれるとは露知らず。

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