短編集   作:雨の日

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鍛冶の王 前編

 オーストラリアの首都キャンベラから南南西に120kmの地点に古期造山帯のグレートディバイディング山脈の中で最高峰と呼ばれているコジアスコ山がそびえている。この山の山頂付近にこの地に似つかわしくないものが突如現れた。そう報告を受けた現地の魔術結社はその報告のあったものを確認するためにその場所を訪れた。

 

「それで? わしの家を調べに来たと?」

 

「はい。この地には昨日まで何もありませんでしたので」

 

 報告にあった場所には確かにこの地に似つかわしくないものがあった。外見は日本の武家屋敷のようであったが中から何やらすさまじい力が感じられるのである。その力は下手な魔術師、3流と称してもいいものでも容易に感じられるものであり明らかに異常なものであった。

 

 魔術結社の構成員は意を決して門をたたいてみると中から人がでてきた。その人は髪や髭は全部白髪になっていて顔にもしわが目立ち優しい好々爺のように見える。ただ、鍛えられているのか体はがっしりしており身長も2m以上ある。白い着物を着て草履を履いているのでおそらく彼がこの屋敷の家主なのだろうと構成員は判断した。

 

「なるほどの」

 

「中に入ってもよろしいでしょうか?」

 

「別にかまわんが。気をしっかりと持っているのじゃよ?」

 

「それはどういう・・・・・・」

 

 老人は構成員の言葉に返答せずしゅを返して屋敷の中に入っていった。その背を追うように構成員も屋敷の敷地内に入った瞬間気を持って行かれそうになった。構成員は急いで呪力を体中に巡らせて気をしっかり持とうとする。構成員が感じられたその現象は幽世にいった時に感じられるものにそっくりだった。

 

「お主、なかなか優秀なようじゃのう。咄嗟に呪力を体に巡らせるとは。幽世に行ったことがあるのかのう」

 

「えっええ。しかしこれはいったい? ここは幽世ではありませんよね?」

 

「ここは一種の神域になっておるのじゃよ」

 

「神域?」

 

 老人曰く神域とは現世にある幽世のような領域のことを便宜上呼んでいるだけで本当は違う名でよばれているところに呼びやすい名をということでつけたものらしい。ここにいればまつろわぬ神だろうと元の神性に戻ることができるのだそうだ。

 

「まあこの地が元々神域だったわけではないんじゃがな」

 

「そうなんですか。ではどうしてこのようなことに?」

 

「わしのせいなんじゃろうな」

 

 老人はちょっと後悔しているような顔をしたがすぐに元に戻して構成員を中に誘導する。構成員は老人の誘導に従い奥に進んでいく。中は外から見たときより広くなっていて炉の中で火が燃えている音と煙のにおい、日本家屋独特の畳のにおいしか感じられない。そのことが逆に構成員にはおそろしかった。

 

「ここは幽世にわしが建てた屋敷。この地に顕現したのは偶然じゃな。引きこもるのをやめて現世に出ようとして座標を間違えてしもうたのじゃ」

 

「はあ」

 

 老人は道中に構成員に訳を説明していくが構成員は生返事をかわすことしかできなかったが話が進むにつれて嫌な予感が頭によぎるようになった。老人は幽世から現世に出てきたまつろわぬ神なのではないかと。それなら一刻も早く周りに被害が出ないように弑逆するべきなのだが、構成員には背中を向けている老人に攻撃しても返り討ちにあうビジョンしか頭に浮かばなかった。

 

「遅くなりましたが御身はその・・・・・・」

 

「わしがまつろわぬ神かと訊きたいのかの?」

 

「はい」

 

「素直なのは美徳じゃがもっと言葉を選んだ方がいいと思うぞい」

 

「すっすいません」

 

「まあいいがの。わしはまつろわぬ神ではないのう」

 

「わしは?」

 

「うむ・・・・・・ここじゃ」

 

 老人が指差した場所は一般的には工房と呼ばれるであろう場所だった。その中には一つ目の巨人や黒い小人がその手に合うハンマーを持ち炉に入れられて熱せられて赤くなった金属を叩いていた。その光景に構成員は思わず絶句した。

 

「あ奴らのことくらい知っておるじゃろ?」

 

「ドヴェルグとサイクロプス・・・・・・ですか?」

 

「正解じゃ」

 

 どちらも鍛冶に関しての逸話を持つ神話上の生き物である。構成員は思わず現実逃避したくなった。そんなことは知らぬとばかりに老人は彼らに近づき何かを話したかと思うと構成員の元に戻ってきた。

 

「他の者は大広間にいるそうじゃ」

 

「他の者・・・・・・ですか?」

 

「うむ。幽世で懐かれた隠遁生活をしていた神々がわしの屋敷とともにここに顕現しておってのう」

 

 老人の説明に構成員は思わず気を失いそうになった。ここで気を失うのは危険なのはわかっているがそれでもである。構成員の許容量は限界に近かった。

 

「上にどう報告するべきでしょうか」

 

「ん? こういえばいいじゃろう『4番目のカンピオーネが返ってきた』とな」

 

「御身はカンピオーネでしたか。申し訳ありません。我が・・・・・・」

 

「あぁそういうのはいいのじゃ。最初に言っても信じてもらえなかったじゃろうしお主の態度ごときで一々文句なんぞ言わんわい」

 

 構成員は突然の告白に態度を改めて自分の失態の罰を自分だけに向けてほしいといいかけたが老人にさえぎられる。老人の今までの行動で老人の正体を見抜けというのは酷なことであると老人もわかっているようだった。

 

「改めて、わしは『鍛冶の王』、古鍛治神代じゃ。現存するカンピオーネの中では4番目になったものじゃな」

 

「私はオーストラリアの魔術結社『アネクメネ』所属 クロエ・スミスといいます」

 

 これが鍛冶の王とその付き人の初コンタクトであった。

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