短編集   作:雨の日

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鍛冶の王・後編

 古鍛治はシャンテの報告を聞いてからすぐに日本の魔術結社『正史編纂委員会』に連絡を入れた。シャンテを日本に行かせた目的を伝えるためと草薙護堂の見極めのために一席設けてもらうためだ。

 

 正史編纂委員会はこの申し出を承諾し、連絡を受けてからすぐ場所の選定を始めた。もしかしたらこの会談の流れによってはカンピオーネどおしの戦闘が始まる可能性があるため周りを壊されても問題ない場所をいくつか候補にだして話し合い東京にある埠頭に決定した。

 

 古鍛治は正史編纂委員会から日時と場所の連絡を受けるとすぐに日本に上陸した。懐かしい故郷にこみあげてくるものを感じながら自分がいたころとは様変わりした東京を付き人として同行しているクロエとともに時間まで観光した。

 

 そして、古鍛治は時間通りに会談場所に訪れた。正史編纂委員会の指定した埠頭は東京の再開発地域にあった。ここはその名の通り近く再開発を行うということで住人もいなく壊されても問題ない建物しかない場所だった。

 

 古鍛治は目の前にいる高校生くらいの男性と同い年くらいの金髪の外国人の女性を観察する。おそらく男性のほうが草薙護堂、日本に誕生した8人目のカンピオーネであろう。レポートに載っていた顔写真と一致するし人間とは思えないほどの呪力を無駄に周囲に放っている。おそらく裏に関わりがなく自分の呪力のコントロールができないのであろう。

 

 そして女性の方は草薙護堂の愛人であるとされているエリカ・ブランデッリであろう。イタリアの魔術結社『赤胴黒十字』所属の『赤い悪魔』の称号を持つ大騎士であると報告を受けていた。確かに普通に立っているように見えるが隙が同年代の騎士よりか少ない。若くして天才と言われるだけの実力があるのだろう。ただし、古鍛治にはもちろんクロエにも勝てないだろう。

 

「さて、まずは自己紹介から始めるとするかのう。わしは4番目のカンピオーネ、古鍛治神代じゃ。こちらはわしの傘下にある魔術結社『アメクメネ』の総帥であるクロエ・スミスじゃ」

 

「ご紹介にあずかりました魔術結社『アメクメネ』の総帥を務めさせていただいております、クロエ・スミスと申します」

 

「えっと、俺は草薙護堂。8人目のカンピオーネってことになってる」

 

「なってるじゃと? お主、カンピオーネとしての自覚が薄いようじゃの」

 

「いや、別に。俺、カンピオーネってのになりたくてなったわけじゃないんだ」

 

 草薙護堂のこの発言につい懐かしいと古鍛治は思ってしまった。自分もそうだったと。だが、そうもいっていられないだろう。これから様々な裏の厄介ごとに関わりそこら辺は自然と変わっていくだろう。特に日本のカンピオーネになるということはどういう意味を持つかしっかりと理解しないと大変なことになるだろう。

 

「わしもそうじゃったのう。ただ、カンピオーネになったということはとある義務が生じるのじゃよ」

 

「義務?」

 

「うむ。カンピオーネとは魔術師たちの王のようなものじゃ。故に己が傘下にある魔術師たちを守護したりする義務が生じるのじゃ」

 

「いや、俺の会ったカンピオーネはあんたを除いたらドニくらいだけどよ。噂に聞く他のカンピオーネは傍若無人なやつばかりだぜ?」

 

「こら護堂! 古鍛治王になんてこと言うのよ! 申し訳ありません、古鍛治王。我が王はこの世界に入ってから日が浅く・・・・・・」

 

 エリカ・ブランデッリは王と王の会話だからと口を出さないようにしていたが思わず口を出してしまった。それというのも古鍛治の評判が他のカンピオーネとは違い格段によいものであったからだ。自分の傘下にある魔術結社を成長させ、国をまつろわぬ神から護り、周りへの被害もできるだけ抑えてくれる。横暴な真似を一度もしていない。そんな古鍛治の従来のカンピオーネからは考えられない行動にヨーロッパの魔術結社は驚きの声をあげていた。そして、できれば自国のカンピオーネになってほしい、交換してほしいと熱望する国すらあるのだ。

 

「よいよい。カンピオーネとはそういうものと思っておる者が多いことも事実じゃし実際にそういう者が多いからの」

 

「そっそうですか」

 

「えっと・・・・・・俺に用があると聞いたんだけど・・・・・・」

 

「うむ、今回の日本へのまつろわぬ神の誘致について訊いておきたくての」

 

「それって・・・・・・」

 

 草薙護堂はつい最近起きたまつろわぬ神に関する出来事を古鍛治の言葉で頭に思い浮かべた。エリカ・ブランデッリとイタリアの魔術結社に頼まれて神具『ゴルゴネイオン』を日本に持ち帰り出会った少女姿のまつろわぬ神。あっさりと口づけを許してしまい死に生き返ったらおわっていたあの不可解な事件を。

 

「俺は詳しいことは知らないんだが・・・・・・」

 

「それくらいわかっておる。わしが聞きたいのは1つだけじゃ。何故日本にまつろわぬ神を招いたのじゃ? まつろわぬ神との戦いは周りへの被害がでるのはほぼ当たり前の出来事であり実際かなりの被害がでたそうじゃの。何故わざわざイタリアから日本に持って帰ってきてしまったのじゃ?」

 

「それは・・・・・・」

 

 草薙護堂はまさか日本にまで追いかけてくるとは思わなかったとは言えなかった。後で聞いたがエリカ・ブランデッリはまつろわぬ神が神具を追いかけてくることを確信していたらしいし他の草薙護堂が知っているカンピオーネ、サルバトーレ・ドニもそのことに気づいていたのだ。それに追いかけてくるなんて思わなかったなんて言ってもいい訳にしか聞こえないだろう。

 

「海を隔てれば追いかけてこないだろうと思ったのかの?」

 

「あっああ」

 

「まつろわぬ神を完全になめておるの。いや、カンピオーネになるまで裏を知らなかったのじゃから無理もないのかの」

 

 古鍛治は得た情報を整理してこれからどうするか考えを巡らせる。シャイテが連れてきてしまった正史編纂委員会所属の媛巫女、ユーリこと万里谷裕理についてはこちらで預かるしかない。今の草薙護堂に預けるのは不安しか感じないからだ。魔道具に関してはカンピオーネのいる国には提供しないようにしているので日本の魔術師へも渡さないようにする。今のところはこんなところだろう。

 

「わしのようはすんだがそちらからはあるかの?」

 

「じゃあ、俺があった後あの少女はどうなったか知りませんか?」

 

「ん? わしは知らんのう。クロエは知っておるか?」

 

「確かこちらに所属しているシャイテ・イズイットが撃退したと報告があがっていました」

 

「そっそうなのか。ということはそのシャイテ・イズイットという人は今回の件でカンピオーネになったのか?」

 

「いいえ」

 

 草薙護堂は最後の顛末が気になるようで古鍛治に質問してみた。古鍛治はクロエにその話をふりクロエはあっさりと答えを返す。確かにクロエの答えは間違っていない。シャイテがカンピオーネになったのは6年前のこと。今回権能が増えたがカンピオーネになったわけではない。

 

 その後、古鍛治と草薙護堂は数分雑談に興じて今回の会談は終了した。古鍛治はオーストラリアに帰り、草薙護堂はエリカ・ブランデッリに古鍛治についての講習を受けた。この講習を聞いて草薙護堂は古鍛治に好印象を受けた。そして自分の駄目さ加減を再確認することになったという。

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