深尾「当分先だな」
漣「え゛!?」
数日前に天龍が召集した艦娘を集めて演説を行った、第三鎮守府の屋外集会所。そこに、先日の天龍の作戦ミスにより敵の強襲を受けてなお生き残ったセレクトEX-1の艦娘達が集められていた。何人かの艦娘は体の至るところに包帯が巻かれてある痛々しい姿で、それと合わせて、怪我を負っている負っていないに関係なく、ほとんどの艦娘が、自分達から少し離れたところで項垂れている天龍を睨み付けている。集会所の壇上に登った男 つい二日ほど前に作戦の説明などをやった緒方提督 が全員集まったことを確認したあとマイクのスイッチを入れて喋りだした。
「諸君、作戦は無事......というわけでもないが一応終わった。ご苦労。そして私から言わなければいけないことがある」
「今回の作戦で、指揮系統の最上位に居たのは、君たちも知っているそこの天龍君だ。彼女を」
「現時点をもって提督代理の任を解く」
緒方の発言に艦娘たちがザワつく。そこに......ウツギの予想通りに元気よく質問する艦娘がいた。あの天龍である。
「閣下!そ、それはどういう......」
「わからないのか?戦艦4、重巡2、軽巡1、駆逐6。今回の君の指揮を受けて散っていった艦娘たちだ。」
自分の知らないところでおそろしいほどの大損害が起きていたんだな、とウツギが思う。そんなウツギのことなど気にせず 当たり前だが 緒方が続ける。
「この部隊は、各鎮守府から選ばれてやって来た選りすぐりの精鋭を集めて作った部隊だ。そんな戦力として貴重な艦娘を、よりにもよって初陣で、しかも半数に及びかねない数の人員が戦死したんだ。君の率いていた戦艦の艦娘は元々ここの所属だったようだがまあ些細な問題だ。他でもない君の指揮でこれだけの損害が出たのは変わり無いのだからな」
緒方提督の話を聞いた天龍は歯を食い縛り、拳を握って震える。そんな状態の天龍が緒方へ向かって喋り始める。
「......処罰されるのは......俺だけなんですか」
「なに?」
「こいつらは......とくにこいつらは俺の命令を無視して独断行動をしました!処罰するべきです!」
天龍が震えた声で喋りながら、ウツギたち、アルファ隊のメンバーが固まっている場所を指差す。天龍の言葉を聞いた緒方はというと、すこし疲れたような顔をして返答した。
「天龍、却下だ」
「え?な、なぜ...... 」
「お前に対する苦情も数えきれないほど寄せられている。お前の指揮能力に対する不信任だ!!」
緒方が怒鳴りながら続ける。
「そしてお前の命令を聞かなかったと言ったな?聞いたぞ、アルファ隊の彼女たちからな。曰く、お前の命令通りなら部隊は全滅していた。曰く、お前がとても部隊を指揮できるような状態ではなかったから各自自己判断で動いたと!!これだけ言わないと解らないのか!?」
緒方の発言に天龍は......なんと言うかウツギからは今にも泣きだしてしまいそうな状態になっているように見えた。一通り天龍への説教を終えた緒方が、今度は死亡した艦娘に代わる補充要員の発表を始める。しかしウツギは、これからレ級をどう攻略するか、提督代理を降ろされた天龍はどうなるのか、などという考え事をしていたので緒方の話が耳に入ってこなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よーーーーッス!!おひさーーウツギ!!」
「うるせーぞツユクサ」
集会が終わって部屋に戻ろうとしていたアルファ隊の前に、ウツギとアザミのよく知った顔の艦娘が現れる。どうやら補充要員とやらには自分の鎮守府の天龍とツユクサが含まれていたようだ。......どういうわけか天龍はいつもと服装などが色々違うが。
「どうしたんだ天龍、いつもの眼帯と服は?衣替えの季節だったか?」
「お前ってジョークとか言うんだ......ってちげぇよ。ここの天龍の評判がわりぃって聞いたからわざわざこんな格好してんだよ」
苦笑いしながら、天龍は着崩した白いカーディガンをいじりながらそう返答する。髪もわざわざゴムで後ろに縛ってまとめていて、なんだか
「えっとさ、この二人ってお前の同僚なの?」
「そうだ。」
「ツユクサッス!仲良くしてくれるとうれしーッス!」
「天龍だ。なんかあんまりここで評判良くない艦娘だから来たくなかったんだけどな」
ツユクサが相変わらずすっとぼけたハイテンションで、天龍は愚痴に近い自己紹介をする。すると天龍の自己紹介を聞いた摩耶、曙、陽炎、由良がどういうわけか溜め息をつく。なにか問題でもあったのだろうか。そうウツギが考えているとため息をついた四人が摩耶から順に天龍に向かって質問し始めた。
「天龍だよな、本当にお前天龍なんだよな?」
「いや、今言ったじゃん」
「趣味は?」
「えっ?......えっと、料理......とか」
「後輩に威張り散らした回数は?」
「まず威張る後輩が居ないし......」
「質問した相手を蹴飛ばす衝動には駆られますか?」
「いや怖い怖い怖いなにそれ!?」
「「「「いぃよっしゃぁぁぁ!!普通の天龍だぁぁぁぁ!!!」」」」
「えぇ......?」
とくに何も考えずに自然体で返答した天龍に対して四人が狂喜乱舞する。「そんなにヤバイやつなのかここの天龍って?」と天龍が聞いてきたので、ウツギは「あの無能のせいで死にかけた」と返した。「マジかよ...」と言って頭を抱える天龍を見ながら、正直、躍り狂っている四人の気持ちもわからなくはないな、とウツギは「ヤツ」の顔を思い浮かべながら、自分の部屋へ向かって歩いていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なぁ、俺ついてく必要あんの?」
「なにかあったときにすぐに逃げて他のやつに伝える人間が必要だ」
「へいへい、わかりました」
すっかり日が暮れて、他の艦娘たちも寝静まっているような時間。ウツギと天龍は「ある艦娘」に会うために、鎮守府から少し離れた海に向かって進んでいた。今二人の手には普段海戦で使う砲や盾の類いではなく、何に使うのか夕食の残りのサラダの入ったタッパーが握られていた。
目的地についたウツギがその場に停止し、天龍も止まる。停まった場所は、海から岩が二つ突き出ている以外は何もない場所で、天龍はウツギが何のためにこんなところへ、しかも夕食の残り物を詰めたタッパーを持って来たのかがわからず、ウツギに質問する。
「なぁ、ここに何があんだ?」
「会いたい人物が居るんだ。赤いボタン......あった、これか」
ウツギが岩に埋め込まれていた、あきらかに人工物と思われるスイッチを見つけて何の躊躇いもなく押す。ビー! という何かの警報のようなものが静かな夜の海に響き渡る。そして
スイッチを押した岩のすぐ下の水面から、ゴボゴボと音を立てて一人の深海棲艦が現れた。
「えっ......ひ、姫級の......」
天龍は目の前に現れたこの深海棲艦を、艦娘に支給される図鑑で前に見たことがあった。該当する艦は自分の記憶が正しければ......
深海棲艦最強の艦種、「姫級」の「南方棲戦姫」だ
「わあああぁぁぁぁぁぁ!?出たぁぁぁぁぁ!?」
「天龍、大丈夫だ。敵じゃない」
「えっ?」
初めて見る姫級の威圧感......のようなものを勝手に感じ取って悲鳴を上げる天龍をウツギがなだめる。そうだ、よく考えれば敵とわかってて来るわけがない。なにやってんだ俺......そんな事を考えながら天龍が乱れた呼吸を整える。すると目の前にいる南方棲戦姫が周りを見回してからこちらに話しかけてきた。
「ん~、囮捜査じゃないね。さ、早く貸して」
「は?」
相手の言っている事が理解できなかった天龍が思わずそう溢す。するとウツギが南方棲戦姫に応対する。
「初めまして、陸奥さん。第五横須賀鎮守府所属のウツギと申します。今日は挨拶に来ました」
「あら、よく見たら一見さん?......あれ?でもなんで陸奥って知ってるの?」
「球磨から聞きました」
「あら~そうなの?いま球磨ちゃん元気?」
「ピンピンしてますよ。多分」
「ええっと......あのさ」
二人の会話についていけない天龍が割って入る。
「えっと、この......陸奥...さんでいいのかな?何者?」
「球磨の言ってた、深海棲艦化実験の被験者だそうだ」
「そうそう。実験失敗で戦闘能力無くなったんだけどね~」
けらけらと笑いながら陸奥がさらりと重大な事を言う。やられたことの割にはあんまり悲壮感の無い人だな......と思いながら、続けて天龍は聞きたいことがあったので陸奥とウツギに質問する。
「ウツギ、この持ってきたサラダは?」
「陸奥さんの好物だそうだ」
「え、何、差し入れ?お姉さん嬉しいわぁ~」
「はぁ~。あ、あとここで何してるんすか?」
「あれ、知らないのに来たの?」
天龍の質問に陸奥が少しだけ間を置いて答える。
「ここは秘密ショップ、チューン工房N。食べ物持ってきてくれた子に、武器の改造をしてあげてるの!」
はにかみながら、陸奥は得意気にそう答えた。
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陸奥に艤装の改造を依頼したウツギ。
さらに対レ級のためにと、着々と彼女は準備を進める。
そんな準備中のウツギのもとへ、大規模作戦以来の「アイツ」が訪ねてくる。
次回「とびきりのチューンドマシン」 ヤツに勝つため。セッティングに終わりはない。
というわけでちょっとだけおふざけ回でした。
第五鎮守府の天龍→女子力が高い
第三ゲス天龍→ゲス力が高い(笑)