「で、レ級に勝つために何するよ?」
「そりゃ、集中攻撃とか?」
「そんな簡単にうまくいったら楽なんですけどね......」
ウツギが陸奥に暁の艤装の改造を頼んだ翌日。第五鎮守府所属の艦娘とアルファ隊の艦娘、合わせて8人が、第三鎮守府の艤装保管室に集まって無駄話に時間を費やしていた。というのも、例の作戦による被害により多くの艦娘が負傷したせいで、艦娘の治療用入渠ドックが順番待ち状態、艤装の修理も人員不足で追い付いていない状態であり、セレクトEX-1の艦娘は全員待機を命じられたため、ウツギたちは暇をもて余していたのである。もっともウツギは一人だけ作業中であったが。
「ウツギ、それって使い心地とかどうなんだ?」
「意外と悪くなかった。流石に拾ったままだと少しマズいからこんなことをやってるわけだがな」
黙々と作業をこなしていたウツギに天龍が聞いてくる。ウツギは回収してきたリ級の艤装にペンキで色を塗っていた。なんでそんなことをしているのかと問われれば、簡単な話で、「これをそのまま使っていれば下手をすれば味方から敵と誤認されるから」だ。
ウツギは割り当てられた自室に置いてあった戦闘機の雑誌に載っていたスプリッター迷彩の写真のページを開き、それを見ながら元は真っ黒だった艤装の装甲部分を白系統の塗料で塗りつぶす。やっと全面的に白一色で塗り終わったので、塗料が乾いたあとに模様を入れようとウツギが装備を壁にたてかけたとき、がちゃり、という音が響き、一人の艦娘が扉を開けて部屋に入ってきた。
「あのぅ、ここにまだ艤装の修理が終わってない人が居るって聞いたんですけど......」
入ってきた艦娘の姿を見て、陽炎、由良、曙が少しだけ驚いた顔をする。というのもこの艦娘、深海棲艦じみた肌の色に、ばかでかい手袋?をつけた普通の艦娘からすれば妙ちくりんな格好をしていたからだ。......もっともウツギやツユクサという前例が居たせいか皆あまり驚かなかったが。ウツギは記憶を遡って前にいる艦娘の名前を思い出す。球磨の話に聞いた......夕張...だったか?とりあえずこいつで三人全員と顔を合わせたことになるな、と思っていると曙が夕張に話しかける。
「予定だと今日は六人ぐらい先客が居るって聞いたんだけど、もう終わったの?修理」
「あ、いえ、昨日整備班が増員されたんで、少し余裕が出来たんですよ」
夕張がでかい両手を自分の前で絡めてもじもじしながら説明する。そのでかい手で艤装の整備と修理なんてできるのだろうか、とウツギが考えていると曙が続ける。
「へぇ......わかったわ。あと、アンタ名前は」
「あ、えぇと......軽巡ツ級といいます」
「ふ~ん。ねぇ聞きたいんだけど、ここの鎮守府ってなんで深海棲艦が働いてるのかしら?」
「っ......!えーと、えーと......ぼ、亡命してきたんですよ!......ちょっと向こうで虐められてるのに嫌気がさしたっていうか......」
夕張......ツ級が曙の質問に対しておどおどしながらぎこちない返答をする。どうやら彼女や春雨は表向きはこちらに寝返ってきた深海棲艦ということになっているらしい。......と言っても既に事情を知っているウツギ、アザミ、ツユクサ、天龍はともかく、あまりにもツ級がまごまごして発言したものだから「亡命してきた」というせっかくの建前が摩耶たちにとって怪しさ満点であったが。
返事を聞いて何かを察したのか、曙が「そう。変わった奴ね、アンタ」と言ってそこからはツ級を深く問い詰めずに自分の艤装を渡す。曙の中破した艤装を受け取ったツ級は「自分に任せてください。前よりも最高の状態にしてあげますよ!」と言って、部屋を出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん~このクレープ誰が作ったの?」
「自分だ。マズかったか?」
「いや逆逆、いままで食べたことないぐらいおいしいからちょっと感動しちゃった」
前日と同じような深夜帯、ウツギと天龍は例の岩場で陸奥に会っていた。用件はもちろん改造する暁の艤装を渡しに来たのだ。渡された艤装を手にとって眺めながら、陸奥がウツギに聞く。
「で、どうしてほしい?火力を上げるとか、砲撃の連射ができるようにするとか。私に任せるっていうのもあるけど」
「あなたに任せる、を選ぶよ」
ウツギの返事を聞いた陸奥が少し驚いた顔をして、聞き返してくる。
「任せるって......別にいいけど、本当に大丈夫?自分で決めたほうがいいんじゃないの?」
「いや、自分は艤装のことなんてなにもわからないから......任せたほうが良いかなっ...て」
「ふーん。わかった、明日までには仕上げてあげる。あ、あとさ、二人とも夕張ちゃんにはもう会った?」
「あの、すごく手のでかい軽巡のことか?」
陸奥の質問に疑問形で天龍が返すと「そうそう、その子」と言って陸奥が続ける。
「もし、もしもだけど、改造した艤装が気に入らなかったら夕張ちゃんにも相談してみて。あの子なら多分あなたにピッタリの艤装に調整してくれるかもしれないから」
「随分信頼してるんだな。夕張のことを」
「そりゃ、もちろん。結構仲良かったからね~。二人仲良く戦えなくなってから、必死に整備の勉強して、みんなの役に立たなきゃっ、て頑張ったし」
陸奥がどこか寂しそうな表情でそう言う。元は戦艦と軽巡の艦娘なのに艤装について精通していたのはそれが原因か、とウツギが考えていると隣の天龍の体が震えているのに気づく。なんだ?と思って顔を見ると、目元には涙が浮かんでいる。
「どうしたんだ、天龍?」
「いや......さ。こんないい人を酷い目に逢わせたアイツが許せねぇって思って......」
「えぇ~?心配してくれるなんてお姉さん嬉しくて笑顔になっちゃうゾ♪」
泣きそうになっている天龍を茶化すように陸奥が言って、更に続ける。
「確かに今まであっちの天龍には酷い目に逢わされた......けどね、一つだけ感謝してることもあるの」
「アイツに感謝してることだと?」
ウツギは陸奥の言うことの意味がわからないと思い首をかしげる。そんなウツギを笑いながら、陸奥が一呼吸置いて理由を喋り始めた。
「だって......さ」
「この姿になって......この場所に居るようになったから......だから貴女たちと会えて、こうやって楽しくお喋りできる運命に巡り会えた。そう考えるとほら、少しだけ嬉しくなるのよ。わかる?」
言い終わった陸奥は、いつかの春雨が見せたような屈託のない笑顔を、その顔に浮かべていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、ウツギは目が覚めて素早く着替えを終えると、艤装保管室に向かった。例のリ級の艤装に施す塗装作業が終わっていなかったので、今日中に終わらせようと考えていたのだ。パックの栄養ゼリーを飲みながら廊下を歩いていると、ウツギがなんとなく窓から外を見る。すると妙に外に集まっている艦娘が多いことに気づく。あの場所は...ヘリポートがあった所か。何かあったのか、とウツギが思い、気になっていると、ちょうどよく外に出るところだった陽炎を見つけたので声をかける。
「こんなに大勢集まって、何が始まるんだ?」
「え?あぁウツギか。って私に聞かないでよ、ただなんか賑やかだから混ざろうかな~って......」
質問したが陽炎も何の集まりなのかは知らなかったようで、ウツギから目をそらしてそう答える。すると数分後、バラバラバラ......という独特なローターの回転駆動音を響かせて一機のヘリコプターがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。アレは......大規模作戦の時に自分が乗ったのと同じやつか。艦娘たちが群がっているヘリポートに着陸しようとしている大型の輸送ヘリを見て、ウツギがそんなことを思い出す。どんなやつが何の用事で来たのだろうか。そうウツギが考えているとヘリコプターのドアが開き、自分の知っている艦娘が出てきた。秋津洲だ。
また知り合いか......等とウツギが思っていると、辺りをキョロキョロ見回していた秋津洲がこちらに気づいて、歩いて寄ってくる。
「やっほーウツギちゃん!お久し振りかも!」
「......?自分に用があるのか?」
いきなり自分のほうへ歩いてきた秋津洲にウツギが聞くと「ふっふっふ~......用事があるのは秋津洲じゃなくてあっちの人かも!」とヘリコプターを指差す。他にも乗っていた人間が居るのか、とウツギが秋津洲の指差す方向を見る。するとヘリコプターから出てきたもう一人の人物は、これまた自分のよく知る人間だった。
「久しぶりだな、ウツギ。元気か?」
「なっ......ワタリ!?なんでここに...?」
輸送ヘリから出てきたのは、自分たちリサイクル艦を建造した男。
「いやぁなぁに。ちょっとウチの研究所で作ったロールアウト寸前の艦娘用の装備があるんだがね......ウツギがレ級に苦戦してるって聞いたんでこれ持って飛んできたんだ」
秋津洲と渡がニヤニヤしながら、ヘリコプターから積み荷を降ろし、中身を取り出す。
「艦娘の艤装を半自動制御にする「サブコンピューター」だ。うまく使ってくれ。期待しているぞ!」
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陸奥の手によって改造された艤装、そして渡がもたらした補助制御CPU。
準備は整った。あとは実戦にて実践するのみ。
これらの装備はウツギの役に立てるのか。
次回「死神、
ツ級ってかわいいよね(錯乱