「すげぇなぁ、ウツギは。あのレ級をぶっ飛ばしちまうんだからよ」
「買い被りすぎだ。摩耶や曙たちがヤツを消耗させてなかったら勝てなかった」
ウツギがレ級を撃破した翌日。入渠して治った、治したばかりで少し動かしづらい右腕を眺めていたウツギに向かって、食堂の机に頬杖をつきながら摩耶がそんな事を言う。
目標を達成したセレクトEX-1部隊は今日で解散、集められた艦娘たちは数日後にそれぞれ自分達の鎮守府へ戻ることが決まった。皆、全員無事と言うわけにはいかなかったが、ご苦労だった。次の大規模作戦まで、ゆっくり休んでくれ。
緒方提督が言っていた言葉を、右腕の動きを確認しながらウツギが思い出していると、机の向かい側に座っていたツユクサが突然叫び始める。
「オ゛ッエ゛エェ!ま゛っず!?なんスかこれ!?」
「っひ!?いきなり叫ぶな、びっくりしちゃっただろ!!」
「いやだって天ちゃんこれ人の食いもんじゃないッスよ!?何の肉だこれ......」
ウツギとアザミが食堂で艦娘たちの食事を管理するようになってから、大量に食堂の端に積まれるようになった、前までここの鎮守府で艦娘たちに配られていた謎の肉の缶詰めを食べた率直な感想。それをツユクサが、彼女の隣に座っていた天龍に言う。
「うっぷ......もう無理ッス、天ちゃん食べて......」
「ハァ!?なんで不味いって解ってんのに......ったくしょうがねぇなぁ~......」
ツユクサに缶詰めを押し付けられた天龍が渋々食べかけの缶詰めに手をつける。周りに座っていた艦娘たちが見守るなか、天龍が缶詰めを食べる。すると、彼女が急激に顔を蒼くしながらこうコメントする。
「う゛ぅ゛......!?ゲッホッゲホッ、信じらんねぇ......」
「どういう味なんだよ......」
缶詰めを食べて咳き込む天龍に摩耶が質問すると、天龍が食べたものを水で流し込んでから説明する。
「いや、こう......まず噛んだらなんかジャリジャリしてて、すっごく渋くて、あと滅茶苦茶塩っからくて磯臭い」
「な、なるほど」
徹夜明けの学生のような顔で説明する天龍に摩耶がひきつった顔で納得した、と返す。ぼんやりとウツギが三人の様子を見ていると、作業着のポケットに入れていたスマートフォンが鳴る。電話...?誰からだ?と思い、ウツギが画面を確認する。
相手は目の前にいる天龍ではなく第三横須賀鎮守府の「ヤツ」だった。
『俺だ、天龍だ』
「もしもし、なんのご用でしょうか。天龍「元」提督代理殿」
「「「えっ」」」
わざとらしいウツギの通話中の声を聞いて、周りの艦娘たちがザワつく。
「どういったご用件で?敵の大群に自爆特攻ですか?それともトイレで貴女の尻拭いでも?」
『ウツギ、その......渡したいものがあってよ...ちょっと来てくれないか?』
「渡したいもの、ですか。」
ウツギが不快感をたっぷりと込めた声で言う。
「何でしょう、鉛の傘ですか?または自爆する艤装?それともカミソリ入りの手袋?はたまた毒入りケーキバイキングでしょうか?」
『まて、まて、謝る!前のことは謝るから!......その、緒方提督に言われてよ......他の奴等に謝って回ってんだよ』
「......わかりました。でも一人では行きません。それでも?」
『あ、ああ、いいよ別に。じゃあ、すぐに資材保管庫に来てくれ』
通話が終わり、ウツギが電話を切る。すると、天龍が......ウツギの受け答えで大体は察していたが、電話の内容をウツギに聞く。
「......誰からだよ」
「あいつ...お前と違う天龍からだ。あと」
「アザミ。一緒に来てくれると嬉しい。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「資材保管庫......ここか」
「......アイツ......怪しイ......」
天龍の電話から数分後、指定された部屋の前に着いたウツギとアザミが扉をあけて中に入る。意外と広くて......鉄の匂いがする部屋だな、とウツギが思いながら、コンテナが沢山積まれている部屋のなかを進んでいく。
しかし、数秒ほど歩いて、ちょうど部屋の真ん中辺りに来ても天龍の姿が無い。また何か、謝ると言うのはウソで、罠でも仕掛けたか?ウツギがそう思っていた時だ。
ぼとり、と二人の背後から何かが落ちてきたような音がした。
「何だっ......ッ!?」
「...ウツギ......やっぱリ......!!」
後ろを見ようと振り返った二人の視界に入ったのは
艦娘と思われる首なし死体だった。
......罠か、外れてほしい予測だったがな。ウツギがそんなことを思いながらすぐにもと来た道を引き返し、部屋から出ようとする。が、しかしこれまた予想通り扉が開かない。完全に閉じ込められたか......他の艦娘に電話でもしようか。そう考えたウツギはスマホの電源を入れて、以前摩耶が教えてくれた番号を入力する。
「っ、摩耶......」
「ウツギ......少し......まテ......!」
通話しようとしたウツギに、普段無表情なアザミが、珍しく険しい顔でそう言う。なんだ?と思いウツギが前を見ると......
「ヒャハハハハハハ!!切り刻んでやるにゃしぃ!!」
狂ったように笑う、包帯まみれで顔が見えない艦娘たちがチェーンソーを唸らせながら、こっちへ向かってきていた。
「っ......!ずいぶんといいおもてなしじゃないか......!!」
「冗談......場合......じゃなイ......!!」
五人ほどの、チェーンソーを振り回して追い掛けてくる艦娘たちから二人が倉庫内で逃げ回る。どうする......武器は...キャンプ用のナイフぐらいか...これで流石にあんな物とやりあいたくは無いな......!そうウツギが思っていると、数分一緒に隣で走っていたアザミがその場に止まって、気色の悪い笑い声を響かせて追い掛けてくる艦娘たちの方を向く。
「いひひひひひっ!!バラバラァ!!」
「アザミ!」
「心配するな......任せロ......」
咄嗟に何かを察したウツギは、アザミに持っていたナイフを渡す。
バチン!と、指鳴らしを数倍鋭くしたような音が響き、一瞬怯んだ先頭の艦娘目掛けてアザミが突っ込む。そして包帯で顔が見えない艦娘の手首を浅く切りつけて、強引にチェーンソーを奪ったアザミが致命傷にならないような場所を狙って艦娘の足などを切る。
「悪く......思うナ......」
「アヒゃッ!?」
「ぐぅッ......」
両足を切りつけて動けなくした艦娘を蹴り飛ばし、アザミはそのまま次々と他の艦娘たちの手や足を切りつけて戦闘不能の状態にすると、短く溜め息をついてチェーンソーを放り投げる。自分にはできない見事な手際に感嘆しながら、ウツギがアザミに話しかける。
「流石...だな。お前の指弾術は」
「褒める......後......助け......早く......」
ウツギは、研究所時代からの彼女の得意技である護身術......指でコインなどを弾き飛ばす「指弾術」の腕前を褒める。が、アザミのもっともな発言に、「ああ、すまない」と言って、ウツギは摩耶に電話をかけた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ひでぇ......なんだよこれ......」
開かなくなった扉を砲で強引に吹き飛ばして中に入ってきた摩耶が、手足を切られて尚、けたけたと笑い声をあげてのたうちまわる、二人を追いかけ回してきた艦娘と、最初に出てきた首なし死体を見てそう溢す。
「この症状って......まさか麻薬か何かかな......」
「......野郎、フザけやがって...!」
ウツギのエマージェンシーコールを受けて摩耶が他に連れてきた艦娘たちのうち、整備班とは別に救護班にも所属しているツ級......夕張が笑っている艦娘の腕に、痛々しい注射の痕などを見つけてコメントすると、天龍は、自分とは違うほうの天龍の行いについて静かに怒りを
ウツギとアザミが見た、天井から降ってきた首なし死体は、デルタ隊に所属していた天龍によると駆逐艦の「島風」だと言うことがわかった。「あいつ」がなぜわざわざ島風を殺して利用したかは解らない。しかしこれで「あいつ」を
「ウツギちゃん!大変かも!!」
「どうした、秋津洲?」
「こっちの天龍が取り巻きを連れて鎮守府から逃走したって!!」
「はぁ!?なんだそれ!!」
シエラ隊の天龍がそう言うのとほぼ同時に、ズガン!!と誰かが思いっきり壁を殴り付ける音が部屋中に響く。一瞬体を震わせた天龍が音が聞こえた場所を見ると......壁を殴ったのはツユクサだった。
「..................。」
「っつ、続けるかも......」
音の大きさから考えて、相当な勢いをつけて壁を殴り付けたツユクサをちらりとみてから、秋津洲が続ける。
「緒方提督から、その逃げた天龍たちの部隊を追撃して
「......っ、全く面倒なことを増やしてくれる」
ウツギが愚痴を言うと、ずっと黙っていたツユクサが口を開く。
「あのクソ野郎を追っかけるのは......アタシにやらせてくれると嬉しいッス......」
「えっ...?えと、別に誰がやるって指定はされてないかも......」
つい数分前まで食堂を賑わしていた様子とは百八十度違う雰囲気を纏ったツユクサが秋津洲に言う。明らかにいつもと調子が違うツユクサについて、ウツギは天龍に小声で質問する。
「どうしてあんなにツユクサは怒っている。自分に心当たりがない」
「あぁ、お前は知らないよなそういや。あの、首なしになっちまった島風とアイツ......結構仲が良かったんだよ。今ごろ
うつむきながら答える天龍に礼を言ったあと、ウツギは話を終えた、戦闘に出られる艦娘たちと艤装保管室に向かって走っていった。
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逃走した「アイツ」らを追って、
「春雨」と「夕張」を加えて臨時結成されたシエラ隊が夜の海へ。
痛かっただろう、苦しかっただろう......
そんな思いを抱いて逝った友のために。
次回「黒い鎮守府の熱帯夜」 ツユクサ、友のために立つ。
さてさて、どうでしょうか。ゲス天龍が息をし始めましたよ?(ゲス顔