分厚い雲に覆われて薄暗い、あまり天気の良いとは言えないある日の早朝。「鎮守府」の門の前に一台のミニバンが停車する。運転していた白衣の男、
「何かあったら、すぐに研究室に連絡してくれ。忘れ物、するなよ」
「ワタリ、もう三回目だぞ。心配してくれるのは嬉しいがちとしつこい」
助手席に乗っていた艦娘、「資源再利用艦一番艦」のウツギが苦笑いしながらそう返す。そんなに言ったか?と渡はとぼけながらまた口を開く。
「すまんな。こう、それなりにお前らとは付き合いが長いから心配になっちまって。っと、そろそろ時間だ。じゃ、元気でな」
「お世話になりました」
「......元気......してロ......」
「ありやとごさいやしたっ!」
今まで黙っていた二番、三番艦のアザミ、ツユクサを加えた三人が別れの挨拶を返す。それを聞いた渡は、三人が車を降りたのを確認すると、寂しそうな笑顔を浮かべながら、自分の職場である研究所に戻るために車を発進させた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、今日から艦娘としてここで働く訳だが......ウツギは歩きながら目の前の建物を見つめる。新しく建てられたからなのか、はたまたどこも同じ設計なのか。どうも想像していたよりも小さい建物だ、と思っていた。大きさは地方の郵便局クラスといったところか。そんなことを考えていると横からツユクサが声をかけてくる。
「いやぁ楽しみっスねぇ~ここの提督さんってどんな人なんスかね?ウツギは気になったりしないんスか?」
「......別に、余程の能無しでもなければ上の人間だし従うだけだ。あとその喋り方はどうにかならないのか?」
「話し方なんてどうでもいいじゃないっスか~というか、本当にウツギはお喋りしても面白くないっス。アザミは何かないんスか?」
車を降りてから、ウツギは聞き流していたがずっとべらべら喋っていたツユクサとは対照的に、ずっと黙っていたアザミにツユクサが問いかける。アザミは眉一つ動かさずに
「......興味......無い......ウツギ......同ジ...」
と返した。(ちなみに彼女は建造されてからずっとこの調子で喋る。)ツユクサはあぁ...ウツギ以上に面白くないの忘れてた......等とのたまい項垂れている。そんな無駄話を ほとんどツユクサの独り言になっているが 続けていると、これから自分達を指揮する「提督」がいるであろう執務室に着いた。こんなに早く着くとは。やっぱりここは少し小さくないか?中に入った感想は結構広いな、などと思ったのだが......そんな考えを胸に仕舞い、ウツギはドアをノックした。
「入れ」
部屋の中から低い男の声が聞こえる。
「失礼します」
ウツギたちは渡から教わった礼儀作法のやり方を思い出しながら部屋に入った。先程部屋に入るように促したと思われる男が椅子の横に立っている。随分身長の低い男で、150もないのではないだろうか。顔は三十代を思わせる出で立ちだ。ウツギは、資料で見たよりも老けているな、などと考えていると男が口を開く。
「ほう、なるほど。確かに普通の艦娘とは違うみたいだな。っン、これからお前たちの指揮を執る
「資源再利用艦のウツギです」
「......アザミ」
「同じくツユクサッス!」
「お前たちのことは徹から聞いたよ。なんでも艦娘の残骸を利用したリサイクル艦だってな」
「ワタリを知っているのか?」
フカオ、......提督の口からワタリの名前が出てきたので気になって質問してみる。
「知ってるも何も、学生時代の友人さ。俺の学校じゃあいつは有名人でね。学生のくせに論文で博士号なんて取りやがったヤツさ」
なるほど、と相づちをうつ。トモダチなら知ってて当然だな。そう思っていると今度は提督から質問が来た。
「それよりお前たちと、あともう一人ここに来る予定のはずなんだが......もう時間を過ぎてるのに来ないんだが何か知らないか?」
「もう一人?そんな話聞いてないぞ」
その時、バタン!と勢いよくドアが開き、近くにいたツユクサがドアに当たり「ギャッ」と間抜けな声を出して吹っ飛ばされる。
「やっべぇチョー遅れたぁ!ご主人様チィーーッス!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ふぅ......やったぜ。寝坊したけど時計見たらギリギリ間に合ったからセーフだよね。ご主人様にも挨拶出来たし一石二鳥!......あれなんかご主人様プルプルしてんだけど。漣?これ漣が悪いの!?ドア蹴り飛ばして入っちゃったから!?ねぇねぇ!
「......色々言いたいことは山ほどあるが、まず聞こうか。お前の名前はなんだ?」
おっ早速ご主人様から質問キタコレ!マニュアル通りに自己紹介せねば!
「綾波型駆逐艦「漣」です、ご主人さま。こう書いてさざなみと読みます」
よし!バッチリだべ、名前書いたメモ書きも見せたしね!
「イテテテ......一体なんなんスか今の......」
「ん?」
アレ?なんか後ろから声が聞こえる。なになに一体どんな人が後ろに............石膏みたいに白い肌に、真っ白な頭髪に、薄く光る赤い目......え、え、え
「わあああぁぁぁぁぁぁぁ深海棲艦!!?深海棲艦ナンデ!?」
「ええっ!嘘っ!どこスかっ!」
えっ何コイツ、なに深海棲艦のくせにいっちょまえにとぼけちゃったりしてんの?
「やかましい!!」
痛い!なんかご主人様にチョップされた!酷くない?だって後ろ向いたら深海棲艦が居たんだよ?びっくりして当然っしょ!
「ご主人様早く逃げてください!こいつは危険です!」
「話を聞けこのバカちん、というかそのご主人様ってのはなんだ?あとそいつらは無害だ」
「無害なワケないじゃん!?だって深海棲艦ヨ!?」
「えぇい話にならん、お前はだぁって廊下に立ってろ!」
いや痛い痛い!なんかゴスゴス蹴ってくるよご主人様!私Mジャナイヨ!ってなんかドアにカギ掛けられた!漣なんか悪いことしたノー!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「......随分賑やかなやつが最後の一人みたいだな」
「もう少し静かで常識のあるやつが良かったんだがな」
率直な感想を述べるとかなり疲れた顔で提督が返してくる。ちなみに今この執務室は、今入ってきて追い出された漣とかいうやつがドアを叩く音と部屋の中に入れてくれと言う叫び声で非常ににぎやかだ。というかうるさい。
「さて、邪魔なやつが居なくなったからやっと言えるな。お前たち四人は今からすぐに出撃してもらう。俺も仕事を片付けないといかんのでな」
「......アレとまともに共同作業ができるのだろうか」
「できるできないじゃない、やるんだ」
「......了解」
提督がため息をつきながら、命令してきた。前途多難だな。ウツギはそう思った。
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鎮守府に配属された三人のリサイクル品と一人の正式な艦娘。ウツギたちの存在に納得のいかない漣。ぎこちない連携行動を取りながら彼女たちは初めての実戦を経験する。
次回「シェイクダウン」。 ウツギたちの戦いは始まったばかり。
開始早々の二話にしてはっちゃけました