「演習は中止......なるほど」
「流石にこの雨と霧だからな。何か面倒な事があったとき対処できなかったらマズいから待機だとさ」
休暇......表向きは島の警備隊の視察という目的でやって来た第五鎮守府の面々は、二日目に予定されていた警備部隊との演習のため、駐屯地に来ていた。外が凄まじい豪雨だったのでどうなるか、と思っていたウツギに、天龍が深尾の伝言を伝える。
流石にこれじゃあ中止か。さて、これからどうやって過ごそうか。とウツギが考えていると、漣が口を開く。
「しっかし暇ねぇ~こんな大雨じゃ観光なんて出来ないし」
「ふふふふ......さっちゃんこれ見るッス!」
「なになに......「屋内遊戯施設PLAY!」ポクタル店、国内最大規模のゲームセンター!?」
「お前らさぁ......あんだけ遊んでまだ遊び足りねぇの?」
「あったりまえよ天ちゃん!せっかくのお休みなんだから骨折れるぐらい遊ばないと!!」
「本当に骨折ったらシャレになんねぇぞ......」
雨で今後の予定が変わるかもしれない、と聞いた漣とツユクサが早速遊ぶ予定を組もうとニヤニヤしながら話始める。その様子を見た天龍が、昨日散々二人に連れ回されて疲れているのか、少し頬がこけた顔で突っ込む。
「にしても昨日のパレード凄かったよね!!火吹き芸とか綺麗だったし!!」
「ッスね~アレが毎日やってるとか信じらんねぇッスわ」
「漣、ツユちゃん、これもどークマ?」
「何々、雨が降っても大丈夫、島の名物ブロッケン現象を楽しもう?」
聞いたことがない単語が書かれた球磨の差し出したチラシを見て、漣が何やらあまり日常で見ないような工具を弄っていた明石に質問する。
「明石さん、ブロッケン現象ってなんぞ?」
「へ、何?ゴメンもう一回」
「このブロなんとかってなんスかね」
ツユクサから再度質問を受けた明石が、漣の持っていた観光案内を受け取って読み始める。
「ん~?ポクタル島の海は特殊な性質を持ち、雨天時には化学反応を起こし小雨でも濃霧が発生します......雨の日は島の各地でブロッケン現象を楽しむことができます......へぇ~」
「何かわかりますぅ?」
「え~と、ブロッケン現象って言うのはね、霧に光が入って虹が出来ること......だったはず」
「えぇ!?じゃあ今日虹見放題ッスか!?行こうよてっちゃん!!」
「嫌だ木曾と行け俺疲れてんだよ」
「はぁ!?なんで俺が!」
みんな楽しそうだな......。そう思いながら、ウツギはちらちら漣たちを横目に特にすることもなく暇だったので、本を読もうと作業着のファスナーを開けようとする。すると、自分達が待機していた警備府の広々とした客室に、渋い顔をした深尾が入ってきた。
......また何かあったみたいだな。深刻そうな深尾の表情をみて察したウツギは、特大の溜め息をしようとしたが呑み込んで、自分の上司の言葉に身構えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この雨と霧でもやるんですね。少し意外です」
「何も問題ないさ。レーダー設備にこっちは君たちと違って高練度揃い、少しぐらい数が減ったって近海警備には問題ないし」
「......自信満々ですね」
「当たり前さ。僕はここの旗艦だよ?」
「姉貴ィ、ちょっとそりゃ言い過ぎじゃンか?」
「江風は黙っててよ。これは君には関係のない話だ」
ここまで自分に自信のある艦娘は初めてだ。ウツギは さっきまで自分達が居た部屋から替わってこれまた広々としたエントランスホールで 目の前で意気揚々と自分の有能さと練度について説明する時雨に、弱冠辟易する。
深尾が渋い顔をしていた理由はこうだ。「ここの秘書艦の発言に圧された藤原提督が、単艦同士なら演習は予定通り組んでもいい」と言ってしまい、立場が弱い深尾は反対できず押しきられてしまったことを、ウツギたちに謝りに来たのだ。
後ろで苦笑いしている警備隊の艦娘......時雨の姉妹艦である、ついさっきウツギが自己紹介してもらった江風のことなどお構いなしに、また時雨が大口を叩く。
「で、そっちは誰が出るんだい?僕一人に総出でも負ける気はしないけど」
「自分は遠慮しますよ......」
「あぁなんだ。やっぱり大したことないんだね。失望したよ」
「何......?」
時雨の発言にウツギが眉をひそめる。
「怖いんでしょ?この雨と霧が。でも無理もないね、練度の低い君にこの濃霧の中で的確な砲撃も出来ずに僕に無様にやられちゃうなんて、考えただけでも屈辱的だものね?」
「姉貴!」
「おい、お前」
さっきまで一人だった自分の後ろから、突然聞こえてきた声にウツギが振り返る。
そこには、涙を流すピエロのフェイスペイントを顔に施した若葉が居た。
「......なんだい君は?ここはお遊戯会の場所じゃないけど」
「そんなにでかい口を叩くなら若葉とやらないか?」
「......君みたいなふざけた格好の子が僕に勝てるのかい?」
時雨の挑発を聞いた若葉が、黒い口紅を塗った口元を歪ませて言い放つ。
「......ンフフフ.........勝てるのかい、だと?違うな。逆に言ってやる」
「『お前ごとき』が若葉に勝てるのか?」
いきなり現れて会話に割り込み、そしてあからさまな挑発と取れる言葉を、けたけた笑いながら言う若葉に、時雨が目元をヒクつかせながら返す。
「ごめん、ちょっと僕も頭にきちゃった」
「もう謝っても許さないから覚悟してね?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『艤装の調子はどうだ?』
「問題ない」
『そうか。無理はするなよ』
「あんな身の程知らずの雑魚一人に無理することは無い......ふふふフ......」
降りしきる雨と濃霧で絶望的に視界が悪い海上。不気味なピエロ顔の若葉が無線でウツギと演習開始まで、お互いに連絡......と言うよりかは無駄話に近かったが、会話をしていた。
無線機越しのウツギが若葉に質問する。
『その......お前のその化粧はなんなんだ?』
「ああ、なんだそんなことか」
若葉がはにかみ笑顔で......もちろんウツギには見えていないが、返答する。
「『ゲン担ぎ』ってヤツさ。少し違うがな」
『......そうか。あともうひとつ』
「なんだ?」
『どうして名乗りを挙げたんだ?また体が動かしたいとかそういう理由か?』
「...くくク......まあそう捉えて貰っていい」
『......まったくこの戦闘狂が』
「ンふふふ......誉め言葉だな。そろそろ切るぞ」
『わかった。......勝てよ』
「何度でも言う。当たり前だ」
無線を切った若葉が、深呼吸をする。そして限界まで口角を吊り上げた笑顔でこう呟いた。
「まぁ、理由はもうひとつ......あるんだがねぇ......うふふふ......」
「友達を侮辱した奴にはいた~いおしおきが必要だ。なぁ時雨?」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
霧の中からの見えない変幻自在の攻撃。
時雨の苛烈な攻撃に晒される若葉は、しかし顔に貼り付けた顔をますます歪ませて、
虎視眈々と攻略の機会を伺う。
そして演習の結果は......
次回「ビッグマウスの時雨」 何も知らない。敗北を知らない。だからこその強さ。
私事によりめっちゃ投稿遅れました。スンマセン(小声