「えーと、はい弾薬とワイヤー」
「あ、ありがとうございます」
弾が底を尽きかけていよいよか、と、身の危険を感じていた時雨が何とか間一髪助けに入ったウツギ達から、燃料と弾薬を受け取って補充する。
天龍から貰った砲弾を背中から伸ばした砲に詰め込み、自分用にいつも演習で使っていたワイヤーガンのグリップを握りながら、時雨が前であわてふためいている深海棲艦たちを見る。
「......うっぐぅ......ぉぉ」
「姫様ァ!!気を確かに!!」
数秒前にウツギの攻撃で盛大に吹き飛ばされ気を失っているのか、昔時雨が見たカートゥーンアニメの登場人物のように目の焦点が合っていない装甲空母姫に何やら敵の一人が呼び掛けている。
す、すごい。姫級がたった一発の攻撃でダウンするだなんて。僕にはとても真似できない、と時雨が考えていると、すぐ隣にいたウツギが声をかけてくる。
「なぁ時雨」
「はい!何ですか!?」
声をかけた瞬間、食事の時間の子犬のように目を輝かせて返事をしてきた時雨に一瞬気圧されるが、気にせずウツギが持っていたライフルをさすりながら質問する。
「この武器は......その、ほとんど殺傷能力がないんだが。なんであいつはあんな状態に......」
「えっ......冗談はいいですよウツギさん!!」
「冗談じゃないんだが......」
「なァ......さっさと始めたいぞ」
「若葉、補給を済ませるのが先だ。丁度今何故か敵がモタついてるしな」
早く戦いたいと言ってくる若葉を止め、ウツギが砲弾の装填に手間取っている山城を手伝いながら、前の敵を目線に入れる。
ちょうど補給と時雨たちの艤装の応急措置が終わった頃、相手もようやく意識が回復したらしく、装甲空母姫がよろけながら煤で汚れた顔でウツギに話しかけてきた。
「き、貴様ら......もう絶対に許さん......!!」
「別に最初から許してもらうつもりも何もない」
どういうわけか今一迫力のない装甲空母姫にウツギがそう切り返す。
「っええい、野蛮な艦娘どもめが!まぁいい、隊列変換!!」
「.........?」
なんとなくで言ったウツギの返事を聞いた装甲空母姫がそう高らかに宣言して隊列変換を行う。
......なんだ?敵の目の前でこいつらは何がしたいのだろうか?とポーカーフェイスで考えていたウツギのことなど露知らず、続けて六人の前にいる五人の深海棲艦が、時雨たちにやったようにまた名乗りを挙げる。
「われら、楽園警護部隊強襲撃滅特別攻撃艦隊!!正義の裁きを受けよ!!」
「「「「
装甲空母姫の言葉に続いて、彼女の両側に並んだタキシード姿の戦艦の深海棲艦たちが格言のような物を言おうとするが
全部言い終わらないうちに一人のル級の顔に砲弾が当たり、そのまま後ろに崩れ落ちる。
「ぐはぁっ......!?」
「ル級うううううぅぅぅぅ!!!」
ウツギが、何が起きたかと後ろを向く。
そこには砲口から煙が上がっている単装砲を持って困惑している天龍がいた。
「えっ...ちょっ......撃っちゃ駄目だったのこれ......?」
「さあ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「んフっ......若葉はあのレ級をやる。いいか?」
「好きにしろ。流れ弾には気を付けろよ」
「くくクく......りょーかい......」
うふ......ふはははは......
わはははははははははは!!待ちに待った殺し逢いだ!!血がたぎる!!
そう、心のなかで盛大な笑い声を挙げる若葉が、ウツギの了解を経て
レ級だ。あいつならこの若葉に釣り合う敵に違いない。
そう思いながら刀を大上段に振り上げて突撃する彼女の顔を見て、装甲空母姫の隣で砲撃を受けたル級を介抱していたレ級が、急いで両手の二刀で防御の構えを取り装甲空母姫の前に立ちはだかる。
「っぐ、一度ならず二度ま」
「姫様御下がりくださっ......んぐぉっ......!?」
「ん~?少し鍛え方が足りないんじゃないのか?」
若葉の尋常ではない馬鹿力で降り下ろされた刀を受けたレ級が、自身では完璧だと思っていた防御の体勢を崩されそうになり、軽いパニックに陥る。
そしてそんなことなどお構いなしに、若葉は取っ組み合いになったレ級を装甲空母姫から離れた場所へとどんどん押し出していく。
「こ、こいつなんて馬鹿力っ......!」
「馬鹿力~?違うなぁ......お前が弱いだけだ......くひヒ......」
「レ級、手伝おう!!」
「おっと来てたのは知ってるぞ?」
少しずつ圧力を掛けてレ級の防御を崩そうとしていた若葉の後ろから、天龍の砲撃を受けて顔にヒビが入ったル級が不意打ちを仕掛けてきたが、若葉は降り下ろされた刀を
「角度をつけた自分の腕をわざと相手に切らせ、骨と刀の間で摩擦を発生させて」止めた。
みちみちと肉や腱の裂ける生々しい音が響き渡り、血の匂いが辺りに漂い始める。
相手の奇天烈すぎる対処法に驚いていたル級が、そのまま隙を突かれて若葉に蹴り飛ばされる。
「おおわあぁぁっ!?」
「ル級!」
「いいねぇ......心地いい痛みだぁ......」
あーあーまたやってしまったな。ケガしないようにって、これを持たせられたのを忘れていた。他人事のように考えながら若葉がぼろぼろの腕と、反対の手に握った打刀を交互に見ながら思考に更ける。
そして血が滴っていて、血管や削げた肉が垂れ下がり、凄まじい状態になった右手を眺めながら恍惚の表情を浮かべている若葉に、レ級が酷く動揺していた。
なんなんだこの艦娘は。痛くないのかそんな状態の腕で?なんで......なんで笑っていられるんだ。
そう、目の前の艦娘に戦慄していたレ級に、若葉が声をかける。
「ん~サァ、続きをやろう......♪」
レ級が感じた感情は、奇しくも過去に若葉が春雨に抱いたものと同じだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「レ級!ル級!!うわぁっ!?」
「ヨソ見してる暇はないぞ」
「姫様、ここは私にお任せください!!」
ちょうど若葉がレ級とル級を手玉に取っていた頃。ウツギは残った他の艦娘と装甲空母姫......の取り巻き二人を相手にしていた。
華麗な剣さばきで砲弾を切り払いながら近づき、
何度も当てたせいで、ライフルが威力がそれほどでもないことを見抜かれてしまい、どうしようものかと考えながら、ウツギが五回ほどリ級の艤装で剣撃を受けきった時、タ級が口を開く。
「生白い艦娘!我が剣の錆びになるがいい!!」
「お前も白いクセによく言うよ」
「その口を塞いでやると言っているのだッ!!」
そう言った後、タ級が弾いたのとは別の剣で突きを放つ構えを取り始める。
マズいな、ただでさえそこまで戦闘が得意じゃない自分に奴の得意な間合いは危険すぎる。
そう考えて背中にライフルを仕舞い、今度は同じく背中に仕舞っていた、ウツギが何となく倉庫から勝手に持ち出してきた駆逐艦「
「手伝わせろよウツギ!」
「天龍、そいつ相手に近づいたら......!」
「ええい、邪魔だ!そこをどけぇ!!」
「敵にどけって言われてどくほど親切じゃないんでね!」
割り込んできた天龍が、タ級の放つ突きを持っていた刀の峰で受け流し、激しい金属音が何度も辺りにこだまする。
その天龍にもう一方の刀で斬りかかろうと、タ級が大上段から降り下ろした剣をウツギが槍で止めると、タ級は頭に血が昇り始めたのかべらべらと喋り始めた。
「貴様らに構っている暇は無いのだ!!」
「構っているのはこっちのほうだ。さっさと帰ってくれるとこちらは嬉しい」
「なんだと!?」
挑発に近い言葉を浴びせて相手の集中力を欠かせてやろう、とウツギが考えていると、案の定激昂したタ級が両手の剣を滅茶苦茶に振り回し始めたため、天龍とウツギがたまらず距離を取る。
これなら砲も通るか?
先程砲弾を跳ね返されてしまったことから接近戦を余儀なくされたウツギが、艤装の副砲をタ級目掛けて撃ち込む。
が、怒って精細さを欠くどころかますます冴えた太刀筋でこちらの撃った弾を受け流したり切り飛ばして無効化するタ級に、天龍とウツギが驚いていると、件のタ級が自分達の方へと海面を蹴って加速しながら突進してくる。
「クソが、なんてヤツだ......!」
「剣だけでここまでやるのか......」
「何度やろうが無駄だ!艦娘!!」
やはりこれでやるしかないのか......。槍を片手にウツギが前から突っ込んでくる敵を見つめる。
すると
「そこだよ!!」
「なっ......!?」
タ級が移動する直線上に入った時雨が、すれ違い様にタ級を二本のワイヤーで拘束する。
「っ......く、駆逐艦のネズミがぁっ......!!」
「ウツギさんやっちゃって!!」
「.........!」
時雨に拘束されて身動きが取れなくなったタ級の所へ、天龍とウツギが得物を構えて近づいて行く。
「うっ......ううぅぅ!!」
「ひっ姫様あああぁぁぁぁ!!!!」
体を二ヶ所、貫かれ絶命したタ級の断末魔が、虚しく海に
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
少しずつ圧されていく味方に、焦りを見せ始める装甲空母姫。
そして数的有利にたったウツギたちは、
ここぞとばかりに追い打ちをかけてゆく。
更に戦場には、快晴にもかかわらず雨が降り注ぎ......
次回「フォグシャドウ」 濃霧発生中につき、視界不良にご注意。
インフルエンザ流行ってるんですね最近。皆様御体にはお気を付けて。