資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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三章はあと少しで終わりです。


フォグシャドウ

 

 

 

 

 

 嘘だ。こんな事が有り得るものなのか。これは嘘だ。私は......このレ級は、装甲空母姫様に選ばれた精鋭なんじゃないのか?

 じゃあ目の前にいる、私を追い詰めているこの駆逐艦の艦娘は何だ。腕の肉を削いでやった。まだ向かってくる。砲を一つ使えなくしてやった。まだ向かってくる。残った腕を切り飛ばしてやろうとした。逆に自分の左手を持っていかれた。

 師であり、私の友だったル級は目の前のこいつに成す術もなく首を切り飛ばされて沈んだ。彼女は自分よりも剣術に()けていた筈だ。

 

 駄目だ。

 

 

 まるで勝てる気がしない。

 

 

 勝てる要素も無い。

 

 

 

「う~ふ~ふ~♪楽しいねぇ殺し逢いは......」

 

「ぐっ......うぉわッ......!!」

 

「なんてったって時間を忘れて打ち込める......んっくッ......」

 

「ッ!」

 

 何なんだこの艦娘は。なんで命のやり取りの途中にそんなに笑ってられるんだ。とても正気とは思えない。

 

 ああ、そうか。

 

 

 こいつは正気じゃないんだ。

 

 

「どうした?反応が鈍くなってるぞ?」

 

「ふっ、せいっ......!!」

 

「おっとト、危ない危ない......ふふふ......♪」

 

「そんなっ......!?」

 

「なんだ?意外と張り合いがいが無いなァ......?」

 

 

 

 駄目だ。

 

 駄目だ駄目だ駄目だ無理だ無理だ無理だ。自分はここで殺される。

 左肩の痛みに気をとられていれば、相手はすかさず此方が怯んだ処に畳み掛けてくる。でも、斬り合いに集中すればするほど、鋭い痛みが突然やってくる。

 同じ条件。同じ条件なのにだ。同じ条件......?いや違うな。

 そうだ。断じて同じ条件なんかじゃない。だって相手は削がれた肉が垂れ下がった片腕の事などまるで忘れているかのように私の命を刈り取ろうと刀を振ってく......

 

 

「......飽きた」

 

「ッ、何」

 

 

 数分ほど、若葉に押され続けていたレ級の思考はそこで中断される。

 

 手加減しながらの斬り合いに飽きた若葉は刀を放り投げ、動かせる手を顔の横に持っていきながらレ級の目の前まで移動すると、得意の馬鹿力による直突(じかづ)きをレ級の鼻面に叩き込み、彼女の「意識」を刈り取る。

 

「っぁ......ぅぅ......」

 

「......終わった。つまらん」

 

 

「雑魚が」

 

 

 若葉が、倒れたレ級を前にそう吐き捨てる。

 

 

 ふと周りを見渡せば、若葉が気付かないうちに周囲には小雨が降り注ぎ、それによって昨日の演習の時のように霧が立ち込めていた。

 用は終わった。あいつらの手伝いでもやってやるか。それにあの姫とかいうやつはこいつよりも強そうだった......。

 気絶したレ級を小脇に抱え、投げた刀を拾うと、若葉は濃霧の中を砲撃と金属同士を打ち合う音を頼りに、ウツギたちの元へと向かっていった。

 

 そして、勿論彼女の顔には薄ら笑いが浮かんでいたことも追記する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「んもー剣で砲弾弾くな!大人しくやられろっての!」

 

「はははっ!それは私に対する恫喝か艦娘!!」

 

「砲門が潰された......不幸だわ......」

 

 周囲に霧が立ち込め始めた頃。タ級を相手にしていた三人、ル級とレ級を弄んでいた若葉とは別に、川内と山城は弾幕を張って装甲空母姫とル級から距離を取っていた。

 

「全く、こりゃ近づかれたらアウトだよぉ!!」

 

「そんなこと言ったって......あぁ、扶桑姉さま......」

 

 砲を撃ちながら空いた手に短刀を持って注意を促してくる川内に、山城がぼやきながら、ル級が時たま此方へ投げつけてくる「独鈷(とっこ)」を持っていた飛行甲板を盾にして防ぐ。

 「仏教道具を武器に使うとかバチあたりじゃんか」と、剣を片手で風車のように回転させて砲弾を弾きながら、隙をみて投げナイフ代わりに独鈷を跳ばしてくるル級に川内が山城の隣で愚痴を溢す。

 

「どうした艦娘!怖じ気づいたァ!?」

 

「姫、援護します!!」

 

「わわわっ、距離詰めて来たよ山城!」

 

「えっちょっ......」

 

 ふ、不幸だなんて言っている場合じゃないわ。どうしよう!

 山城がとにかく向かってくる装甲空母姫とル級から距離を取るために、背負っていた主砲から三式弾......散弾を発射する。

 

「これなら!」

 

「山城ナイス!」

 

 薄い霧で少し薄暗い海上で、川内がガッツポーズをする。

 これだけバラける弾なら流石に弾ききれないし効くでしょ!楽観的に考えていた彼女の予測は、

 

 

 残念ながら外れることになる。

 

 

「無駄ァ!!散弾ではなぁ!!」

 

 

「えぇ......」

 

「......ウッソーん」

 

 打つ手ナシ、じゃん? 

 

 どうだ見たか!と言わんばかりに得意気な顔で弾幕を全て切り払って爆風を潜り抜けてきた装甲空母姫に、目の前まで近づかれた山城が顔を青くしながら咄嗟に飛行甲板を盾にして、防御の構えを取る。

 折角整備長から貰った装備、こんな使い方したら怒られるかな。等と言う考えが飛ぶほど激しい剣撃と盾にしている飛行甲板越しに伝わる衝撃に山城が顔をしかめ、額から止めどなく汗が(したた)り落ちる。

 

「いつまで耐えられるかな!」

 

「うぅ......」

 

 霧が出てきて味方の場所もわからなくなってしまったし、目の前には自分一人ではどうにもならないような敵。あぁ......不幸だわ。

 そう考えながら、ただひたすら相手の攻撃を山城が耐えていると、

 

 鋭い金属音が響き、ふと目の前の敵の攻撃が止まった。

 ......?いったいどうしたのかしら?

 不思議に思った山城が、恐る恐る目を開けて状況を確認する。さっきまで装甲空母姫が立っていた場所に居たのは

 

 

「どうにか追い払ったな」

 

「生きてる?山城」

 

 

「し、時雨ぇぇ......!」

 

 

 相手が持っていた剣の一本を手に持った、旗艦の時雨と、駆逐艦叢雲の槍を構えているウツギだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 ええい、何故だ!?何故こうもあと少しの良いときに邪魔が入るのだ!!

 山城にしつこく斬撃を見舞っていた装甲空母姫が自分の間に割って入ってきたばかりか、ワイヤーで持っていた剣の一本を絡め取って奪ったウツギと時雨の二人を睨み付けながら、そう考える。

 そんなとき、怒りながら思考に更ける彼女の元へル級が合流し、口を開く。

 

「姫、御無事で?」

 

「私は平気だ。それよりお前が相手をしていた軽巡はどうした?」

 

「はっ、申し訳ございません。タ級が足止めをしていた艦娘どもに水を差され......」

 

「っ......タ級がやられたのか......」

 

 忌々しい艦娘どもめ......私の可愛い部下をよくもッ!!

 怒りが頂点へと達した装甲空母姫が失った西洋刀の代わりにと、予備として腰に着けていたエペ剣を抜いて再び二刀流の構えを取り、時雨達が居た場所へと単身霧の中を突っ走って行く。

 

「......?姫様、一体何を?」

 

「この装甲空母姫が相手だ駆逐艦の艦娘ッ!!」

 

「姫!?あなた一人では!!」

 

 ル級の制止を振り切って装甲空母姫が構わず時雨を探しに、辺りを探索する。

 

 

 

 来た。今だ。

 

 音が反響してよく聞こえる。座標はここから22の14辺り......!

 時雨が音を頼りにワイヤーを射出し、的確に装甲空母姫の持っていた剣に引っ掻けて飛ばそうとする。

 

「ぐっ......またか!出てこい艦娘!!卑怯ものめぇ!!」

 

「数で攻めてきたくせに、自分のことは棚にあげるのかいっ......!」

 

 相手の言葉に少し苛つきながら時雨が返し、ワイヤーをかけた剣を飛ばそうとする......が、相手の力が強いのかビクともしない。

 そこへ天龍が加勢に入る。

 

「これ引っ張りゃいいんだろ?」

 

「えっ?はっはい!」

 

「うしっ、いくぜぇそれっ!!」

 

 掛け声と共に、二人が体重をかけて背中から倒れ込み、相手の持ち物を遠くへ投げ飛ばす。

 

 そして

 

 

「っ味なマネを!」

 

「そこまでだ」

 

「な」

 

 時雨から相手の居場所を聞いたウツギが、装甲空母姫のすぐ目の前まで近づき

 

 

 至近距離から彼女の顔を撃ち抜く。

 

 

「うわあぅっ!?お、オノレェェ!!」

 

「っ、駄目かッ......!」

 

 直撃だ、ただでは済むまい。そう思っていたウツギだったが、結果はガラスが砕けたような音と共に相手の右目の辺りが割れただけだった。

 レ級に輪をかけて頑丈な奴だ、倒すのは骨が折れそうだな。

 一先ず相手から距離を取りながら、ウツギがそう考えていると雨が止んでから時間が経っていたためか、霧が晴れてきた。

 次はどう行動すべきか......ウツギが時雨の隣に来た時、時雨の無線機が鳴る。

 

「誰だい?こんなと......」

 

 

 

『姉貴ィ!!射線空けてくれェ!!』

 

 

 

 無線機の江風の声に従い、急いで時雨、ウツギ、天龍がその場にしゃがむ。次の瞬間、凄まじい爆発音と共に、後方から砲弾の嵐がやって来た。

 

 

 

「うへぇ、何、何、何が起きてんだ!?」

 

「援護か!」

 

「ウツギさん当たり!」

 

 轟く砲撃の轟音の中で、時雨が勝利を確信し思わず笑顔になる。

 突然自分達へと凄まじい砲撃が飛んできたことに混乱しながら、装甲空母姫は顔を押さえながら急いで撤退しようと後方へと下がって行く。

 

「姫!このままでは......!」

 

「解っている、てった......」

 

 目元から青い血を流しながら、撤退の二文字を宣言しようとした彼女の足元に、何処からか何かが投げられてきた。

 

 片腕を欠損したレ級だった。

 

「......ぅぅ............」

 

 

「レ級!?しっかりしろ!」

 

 

「忘れ物だ。届けに来たぞ?」

 

 

 レ級を瀕死まで追い詰めた張本人、何時の間に装甲空母姫の前にやって来た若葉が、砲弾の嵐の中で涼しい顔をしながら言う。

 自分の部下を「忘れ物」扱いされた装甲空母姫が怒りのあまり若葉に立ち向かおうとするが、後ろで見ていたル級が止めにはいる。

 

「冷静さを欠いてはいけません姫!ここは直ぐに退くべきです!!」

 

「どうした?来ないのか?」

 

「ぐっ......うぅっ......」

 

 ル級の発言に踏みとどまった装甲空母姫はレ級を抱き抱えると、身を翻してル級と一緒に艦娘達から逃げて行く。

 

 

「すまん、タ級、ル級......弱い私を許してくれ......」

 

 

 惨めだな。私は。  

 敗走する真っ只中で、装甲空母姫は自分をそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

危機は去った。

敵を退け、味方の勝利に貢献したシエラ隊の休暇も終わり、

彼女たちは鎮守府へと帰還する。

また新たな戦いがわざとらしい足音をたててやって来ていることを、ウツギたちは知らない。

 

 次回「たのみごと」 遠くへ行ってしまう前に、伝えなきゃと思いながら。

 




予告しておくと四章はニ章を越える胸糞の予定です(何時もながら絶対とは言わない
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