機密物資護衛
......なんだここは。見たことがないが......花畑か......?
空は鉛色で今にも雨が降りそうで、辺り一面に白い花が咲いている平原。まるで記憶に無い場所に自分が居ることに困惑しながら、ウツギが周りを見回し、花が咲き誇る地面に一本だけあった細い道を歩いていく。
とりあえず歩いたが。なんだ。来たことがない場所なのに......不安になるどころか心が落ち着く......?......意味がわからない。なんなんだこの場所は......。
全く知らないにも関わらず自分に安らぎを与えるこの場所に、ますますウツギが混乱する。しかしそんな感情は表に出さず、無表情で道を歩いて五分ほどたったときだろうか。ウツギの視界に人間の姿が映った。
体格と格好から見て女か。そう思いながら歩いていると、すぐにその人間の近くまでウツギがやって来る。
「............」
「......やっと来た。まったく、レディをこんなに待たせたらダメなんだから」
会話ができる程度の距離まで人影に近づいた時。無言のウツギに背中を向けている、セーラー服に帽子を被った女が、体の向きを変えずに話し始める。その女に話し掛けられたウツギも口を開いた。
「......待っていた?誰をだ」
「とぼけるの?貴女に決まってるでしょ」
「......自分はアンタとは面識が無いんだが」
「当たり前よ。でも、貴女の一番近いところに何時も居たんだけど?」
「......一番近いところ?」
何を......言っているんだこの女は。でも、確かに。確かに会ったことも一度もない筈なのに、この女の声を自分は知っている気がする。本当になんなんだ。このよくわからない妙な場所に来てから変な考えに囚われて仕方がない。
頭に軽い頭痛を覚えるウツギの前に立っていた女が、体の向きを替えて、帽子を弄りながらウツギと向き合う。
......!! お前は...............!
「でも、わからないならしょうがないわ。自己紹介しないと」
「特III型駆逐艦1番艦の「
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
......そういう意味だったのか。「自分の近くに何時も居る」という表現は的を獲ているだろう。
ウツギが目の前に居る艦娘、「暁」を見ながら、つい先程の暁の言葉を思い出す。
一番近く、か。当然か。だって彼女は自分という艦娘を構成する艦娘の一人なんだから。
不思議な感覚を不思議なこの場所で抱きながら、ウツギが考え事をしながら暁に聞く。
「何か聞きたい、って顔してるわね」
「ここは何処なんだ。夢の中か?それとも自分の精神世界か何かか?」
「夢の中。が、一番近いわ。んもう、すぐに当てちゃうなんてつまんないの」
暁が少しむっとしながら不機嫌そうにそう言う。
「もう一つ聞きたい。なんでここに自分は居るんだ。私の無意識なのか?それともお前が呼んだのか?」
「............」
ウツギの問いに、暁は何も言わず、しかし顔は不機嫌そうな表情からはにかみ笑顔に切り替えて、数秒の後に切り出す。
「このお花」
暁が、一面に咲いている白い花を指差す。
「知ってる?」
「......何?」
暁の問いに、ウツギがその場にしゃがんで花の一つを摘む。知っている。この花は
「スノードロップ。彼岸花科。花言葉は希望、慰め、逆境の中の希望、恋の最初のまなざし。」
「ただし贈り物にするときの花言葉は」
ウツギが一呼吸置いてから続ける。
あなたの死を望みます......だ。
「......お花、好きなの?」
「.........本でよく読むぐらいには」
「ふ~ん」
「それで。この花に何かあるのか?」
辺りに咲いている花、スノードロップについて一通り話した後、いまいち目の前の小柄な彼女の言いたい事が解らなかったウツギが問う。暁は口を歪ませて、しかし目は笑っていない表情で
「ここはね。貴女に関わりのある人が貴女に抱いている感情によって咲く花が変わるの」
「つまり誰かさんは私に是非とも死んでくれ、と思っているわけだ」
「そうかもしれないし、違うかもしれない。ここでこんなお花が咲いているのを見るのは初めてだから」
「はっきりしないな。何度でも言うがそれがどうかしたのか。こんな見た目の自分だ。人から恨みを買うことなんて慣れている。それに死んでほしいなんて他人から思われていようがまだ死ぬつもりもない」
「......これだけは言えるわ。この先貴女に......貴女以外の誰か、例えば貴女のお友だちに。とっても辛いことが起こる。なぜかそんな気がするの」
「......それを伝えたかった。という事か」
花の咲く平原にウツギを呼んだ目的を言う頃にはすっかり真顔になった暁に、ウツギが切り出す。
「そうか。ありがとう暁」
「礼はいいわ。......気を付けて」
心配そうに言ってきた暁に、ウツギが薄く笑って返す。
「修羅場は慣れてる。心配要らないさ。お前も付いているなら尚更。」
そう言った後。ウツギは意識が遠退き、その場に眠りに就いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
不思議な夢だった。「これから辛いことが起こる」。か。用心しないといけないな。
目が覚めて、身支度を整えて食堂で朝食を摂っていたウツギが、起きたときに自分の手に握られていた一輪のスノードロップの花を思い出す。
食べ終わった食器を片付けようとウツギが席をたった時。食堂の扉を開けて小柄な男......深尾が入ってきた。食堂に居た艦娘たちの視線が全て自分へと向いたのを確認した深尾が喋り始める。どうやらまた仕事の話のようだ。
「朝早くからすまんな。お偉いさんから仕事の依頼だ」
「また遠征か?」
「いや、違う。民間の船の護衛だな。第一呉鎮守府ってトコの
食器を洗いながら話を聞くウツギや他の艦娘へと深尾が続ける。
「正確には以来主はナカヤマ・インダストリィって会社。そこの無人輸送船が横須賀に行く途中までの護衛だ」
「結構有名な会社ですね」
「明石さん知ってるんスか?」
「ウツギちゃんが使ってるスナイパーライフルの製造元だよ。それ以外にも色々艦娘用の装備の開発と生産をやってるんだとか」
「そんな凄い所から依頼が来るなんてスゴいじゃないですか!!僕感激しました!!」
いつのまにやら、すぐ隣に来て目を輝かせていた時雨にウツギが顔をしかめながら、今度はウツギが深尾に質問する。
「それで、提督。編成は?変えずにいつも通りか?」
「おお、その事なんだがな。今回は向こうから制限を言ってきた。何でも極秘の任務らしくてな、四人までしか護衛を付けるなってさ」
深尾の答えに若干あやしい顔をしながら、ウツギが気になった事を聞いてみる。自分達のような艦隊に極秘任務?何かが引っ掛かる。そう、夢の事もあってか変に感じたためだ。
「こんな弱小部隊に極秘任務なんて変な話だな」
「そうか?いきなり大規模作戦に駆り出すようなお偉いさんならやりかねないと思うがね。それに」
「駄目だな」
ウツギの疑問に答えていた深尾を遮って、壁に寄っ掛かって腕を組んでいた若葉が言う。
「俺を殺した奴等が弱いはずが無い。ウツギ、自分を下に見るな。お前は強いんだ」
「若葉......」
「いいことじゃないですカ。ここもちゃんと上から見ても戦力に組み込まれてるってことですヨ!......多分」
若葉と春雨が喋った後に、深尾がウツギが聞いてきた編成や作戦の詳細を発表する。
「......で。納得できたか?」
「......任務了解。護衛任務の時間は?」
「今夜からだ。編成はお前と若葉、春雨、時雨。安直だが練度と戦闘記録の優秀な四人ってことで選んだんだが......いいか?」
「わかっ......自分を入れるのか?」
「馬鹿か。自分に自信を持てとさっき言ったのを忘れたか?友よ.........くふふ......」
「そうですよ!!ウツギさんとサザンカさんが居れば無敵です!!!!」
う、うるさい。朝なんだからもう少し静かにしてくれ。時雨の声にそう思ったが、しかし激励の言葉には違いないのでウツギがほんの少し気をよくする。もっとも「うるさい」という感想のほうが大部分を占めていたが。
準備。しておくか。ウツギは机に置いていたスノードロップの花を持って、艤装の準備のために食堂を出た。
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極秘と銘打たれた任務につく四名の艦娘。
補給地に着いた輸送船に近づく敵影。
たった二つの敵反応。
そして輸送船の積み荷は......
次回「強襲」 海風が、不吉な薫りを運んで遣ってくる。
不穏な雰囲気......がちゃんと漂ってたらいいな(不安を隠せないダメ作者