「ここです。隠れ家......って言うのは初めてですけど......」
「......成程。使われなくなった炭坑施設、か。セーフハウスにはうってつけだな。中はどれくらい?」
「全員入れるほどには広くはないです。余裕を持つなら三人ほどかと」
「......ウツギと私と高雄で、残りは敵が来ないかの見張り。それでもいいだろうか?」
「......自分、ですか?大本営の方が適任だと思うのですが」
「上司の言うことには従え。お前は私と高雄に付いてこい。良いな?」
「............了解」
全員が島に着いてから、高雄の案内で佐伯から言われていた二人の隠れ家に着いた合計13名の艦娘のうち、日向の提案で......というよりも半ば強引にウツギは施設の調査に付き合うことになった。
なんというか、鎮守府で見たときには静かな人だと思ったが、意外と強引に押してくるタイプの人だ。
そうは思いつつも嫌な顔は極力せずに、ウツギは懐中電灯を持って、邪魔な艤装を外して炭坑のトンネルに入っていく高雄と日向の後に付いていく。
トンネルはウツギの予想より長く、彼女の感覚ではもう五分は歩いた時だろうか。
やはり栄えていた炭坑なだけあって、大きな場所なんだな。ウツギが考えていた時に日向が話し掛けてくる。
「ウツギ」
「なんですか」
「無駄話は好きか?」
「......え?その、聞くぐらいなら......」
「そうか。なら遠慮なく」
「上司の言うことには従え」発言の通りにウツギは大人しく彼女の話を聞くことにする。
「大海原には「魔」が潜むと言われている。一部の艦娘はこの「魔」を無意識に避けて、そしてまたさらに一部の艦娘はこの「魔」に強く惹かれる。しかし大多数の艦娘はそんな「魔」に気づきもしない」
「............第一横須賀の食堂にある本棚の、一番分厚い本に載っている一文なんだがね。この「魔」というのは何を指していると思う?」
「.........姫級の深海棲艦......では?」
どういう意味があるのか......意味深だな。それに本当に意味のない話などする人なんだろうか。掴み所のない不思議な人だ。そう考えながらウツギが返答すると
「う~ん。そうか」
「私が前に通った道だ。ふふ......」
日向がはにかみ笑いを浮かべてからかうようにそう言ってくる。ほどなくして高雄が歩みを止めた。目的地に着いたようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「着きました。このドアを開けば」
「ん、案内感謝する」
「......あの、一番先に私が入っても良いですか?」
「......まぁ、その程度は許そう」
「ありがとうございます」
......見られてマズいものでもあるのだろうか。......ありそうだな、勝手な推測だが。
高雄が炭坑跡に後付けしたと思われる扉を開いて中に入った後に続いて、日向とウツギが部屋に入る。
三人の目に映ったのは飾りっけの無い白いベッドが三つ、ごく普通の小さな机が置いてある空間だ。
もっともベッドには一人誰かが寝ていたが。
隠れ家までやってきて具体的に何をするのかまでは教えて貰っていなかったウツギが、その「誰か」を見て一瞬硬直する。しかし横の高雄と日向が眉ひとつ動かさなかったのを見て、いつも通り、ウツギは無表情で二人のアクションを待つ。
扉の音に気づいたのか、寝ていた人間が顔だけを動かして、こちらへ話し掛けてくる。
「誰......ですか......?」
「春風さん、今戻りました」
「その声は......
「春風」と呼ばれた女は顔が病的に白く、両目が隠れるようなアイマスクを着けており、左手と左足に血の滲んだ包帯が巻いてある痛々しい姿だった。
恐らく彼女も被験者なのだろうな。ウツギがそう仮定して話を聞く。
「君の姉さんは私たちの鎮守府に居るんだ。あぁ、勘違いしないでくれ。少し君たちについてのお話を聞かせて貰っている」
「......何をしにいらっしゃったんですか」
「君を
「あの人の仲間なんですか?......もう体を弄られるのは嫌です......」
「春風さん、大丈夫です。この人たちはあいつを捕まえるために頑張ってくれている方たちです」
「......信じていいんですか」
「私が嘘をついたことがありましたか?つくことがあっても。それはあいつを殺った後と決めました」
......なんだか、様々な事情を知らないのは自分だけらしいな。
目の前で意味深な会話をする三人を見ながら、ウツギが適当に部屋の角を見ながら時間を潰す。
数分後、高雄は「春風」と呼んでいた深海棲艦を抱えて部屋から出ていく。
「彼女一人で良いんですか?私が見張りましょうか?」
「いやいい。それよりウツギ」
「仕事開始だ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「鎮守府に居たときにちゃんと説明しなくて悪かった。ここに来た理由は第一にここの物色。そしてもう一つはさっきの深海棲艦......元艦娘を連れて帰ってくることさ」
「神風と高雄に「自分達のことは何でも喋るからあの子だけは連れて来させてくれ」と泣いて頼まれてね」
成程。秋津洲たちと四人きりになったとたんに色々と話した裏にはそんな事があったのか。ウツギが一人で納得している途中に日向が続ける。
「しかし、調べるって何処をです?寝具と机しかありませんが......」
「ここだ。この下......これか」
日向がそう言って小さな机を退かすと、収納スペースのような扉が現れる。中を開けると一冊の薄汚れたノートが入っていた。
「日記......ですね。神風の」
「物色といってもこれだけさ。田中についてと、ここ数年の三人の事が載っているらしい。持ち帰って読むとするか」
目当ての物も手に入れたということでさっさと日向が部屋から出ようとする。そんな日向をウツギが呼び止めた。件の田中についてだ。
「すみません、ちょっといいですか」
「何だ?」
「田中について、知ってることだけでいいんです。教えて貰えないでしょうか?」
ウツギの言葉に、日向の表情が曇る。彼女でも田中については知らないのか、それとも話したくないことがあるのか。表情だけではウツギには解らなかったが、数秒ほどの時間を空けて日向は口を開いた。
「田中について、か。君はどこまで知ってる?」
「呉で戦術アドバイザーをやっている、という所までは」
「そうか」
「ウツギ。お前は第三横須賀の天龍は知っているんだよな」
「田中は......いまのところ推測に過ぎないが、あいつらを指揮して深海棲艦化実験の主導者をやっていた可能性が出てきている」
「......二人から聞いたんですか?」
「............問題はここからさ。奴はね」
「人間に変装した深海棲艦かもしれないってさ。まったくバカげてるよ」
「何者...なんでしょうね。田中というのは」
「さあね。とりあえず趣味は悪そうだ」
「......ですね」
人間に化けた深海棲艦......か。そんな特技、自分も覚えたい位だ。ウツギが自分の見た目の事を思い出していた時、日向が首から下げていた無線機が鳴る。
「ん、外の加賀からだ」
「...どうした?」
「............それは今すぐ?......少なくとも今週中、ね」
「......そうか。まったく忙しくなるな」
「第三鎮守府の近くにある島の、基地跡。そこに田中が行った痕が」
「どうして見つかったんです?」
「色んなとこの空母の艦娘が、これまた色んな鎮守府の周りをしらみつぶしにローラー作戦。見つからないほうが不思議さ。まあ、ここまで見つからなかったのは頑張ったほうかな」
「捕まるのも時間の問題だ。さ、帰るぞ」。そう言う日向の後に続いて、ウツギは部屋を出た。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ついに追い詰めた。そう思った時には、
また行方をくらます田中。
一説には禁忌とされた技術を推奨する指導者、
また一説には変装した深海棲艦。謎は深まる。
次回「小休止」 ウツギは考える。
不完全ですがすいません......ちょっとずつ修正する可能性大です。