資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

41 / 102
お待たせしました。


5 海軍の長い夜
開始の合図


 林業関係者以外は立ち寄らないような林の奥深く。今は深海棲艦の攻撃により焼け落ちてしまいもう無いが、その場所に『神風心刀流』道場の「心鳴舘」はあった。

 

 神風が所有していた刀 「夕霧」は、古くからこの道場に納められていた業物(わざもの)であり、その刀身が赤いのは「数々の、この刀で切り殺された人間の血液が浸透して染まったから」という逸話がある。

 

 また、この一振りの鉄の塊が厳重に保管されていたのは、「この刀を一度握れば、この刀に殺された怨念に見入られ、体の主導権を奪われ。自然、所有者は死に急ぐ」という道場の言い伝えからである。

 

 このお伽噺(とぎばなし)が正しいのならば、この「夕霧」はまさしく『妖刀』と呼ぶに相応しい逸品だろう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらん」

 

 不機嫌そうに、しかし顔はにやけた状態の若葉がそう吐き捨てる。

 味方の救援に向かった日の翌日。鎮守府で誰よりも早く起床した若葉は、まだ日が昇らない暗いうちに会議室で神風についての資料を漁っていた。

 目当てであった夕霧の関連書類を読み、若葉がつぶやく。

 

「妖刀、か。実にくだらない」

 

「道具は所詮、それによって使用者を手助けするツールでしかない。所持者に牙を剥くなど、それは道具として失格だ」

 

 だが残念な事に――、こいつはただの道具なんかじゃあない。何か明確な意思を持っているということは認めよう。そうでなければあの頭痛吐き気に、幻覚、「声」の説明がつかない。

 持論の独り言の後、若葉は資料の束が積まれた机の横に自分が置いた一本の刀を見て、そう考える。

 

「おい......聞いているんだろう、返事はいらん。が、言っておく」

 

「」

 

 赤く鈍く光っているような気がする刀に、若葉が投げかける。

 

「今の言葉を聞いてどう思ったかは知らんが......若葉はこの考えを改めるつもりはない」

 

「」

 

「......もしも。若葉に使われるのが嫌なのなら。『ご主人』以外に触られたくないとでも思ったのなら部屋から出ていくんだな」

 

 「もっとも道具のお前にそんな芸当ができるかな......んふふ......。」 そう言った後に、若葉は視線を窓の外から夕霧に移す。

 

 

 しかし、置いてあったはずの「道具」は、どこにも見当たらなかった。そればかりか、すこし目線を動かせば、入ったときに閉めたはずの会議室の扉が半開きになっている。

 

 

「......ん~......道具のクセに、自己主張が激しすぎるな......んくク......」

 

 とりあえず、だ。夜明けまで時間を潰そう。そう思った若葉は本棚から適当な一冊を引っ張り出して読書を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ナカヤマインダストリィ、代表取締役社長の中山(なかやま) 康一(こういち)だ。先日は済まなかった。相手を選ばず商売をやった我々の責任だ......!」

 

「秘書の中山(なかやま) 雪菜(ゆきな)です。私からも、心からお詫び申し上げます」

 

「あ、頭下げたりしないでください!それに犠牲者は一人も......」

 

 

 

 

「う~ん♪大手社長直々の謝罪ktkr!!」

 

「......何の騒ぎだ?」

 

「あ、ウッチーおはよー!」

 

 朝の八時過ぎごろ。

 珍しく寝坊してしまったウツギが、起きてすぐにカーテンを開けると何やら外に観たことがない大型トラックを見つけて、急いで着替えを済ませて外に出る。そこには自分達の提督と、スーツ姿の貫禄のある恰幅のいい男、男の付き添いと思われる......前にウツギが見た空母の加賀に似ている女の三人が何かを話していた。

 

「何かね~社長さんがきたんスヨ」

 

「......もっと詳しく頼む」

 

 おちゃらけた様子で雑な説明をする漣をウツギが少し睨む。

 

「あ~ん~、なんかさ、ウッチーが前に受けた田中ナントカの任務あったじゃん?」

 

「あったな。神風と高雄の件についてか?」

 

「そーそー。その罠用の爆弾を田中に売っちゃったから謝りに来たった!ってサ」

 

 ......それはそれは。でも、それは会社の過失ではない気がするが。それにこの程度の事でわざわざ会社の頭が出張ってくるなんて。

 いい心掛けだとは思うがそこまでするか、と、ウツギが思っていると、いつの間にか後ろに来ていた社長の秘書が話しかけてきた。

 

「貴女がウツギ様、ですか?」

 

「......合ってますよ」

 

「お待ちしておりました。こちらへ」

 

「あの~漣もご一緒しても?」

 

「いいですよ。それでは私に着いてきてください」

 

 どこに連れていかれるのだろうか。後ろで目を輝かせながらぶつぶつと何かを言っている漣を無視して、ウツギが秘書の女の後について歩く。

 ほどなくして目線の先には、一般車二台分ほどの駐車スペースを占拠している、自分の部屋からも見たトラックが目に入った。

 

「少々お待ちください。すぐに終わりますので」

 

 パンツスーツ姿の女はそう言うと、トラック後部の扉を開けてコンテナの中に入っていった。

 

「お?お?サプライズプレゼントかな?」

 

 この流れだと否定できない。......何故か悔しい。

 ウツギが漣の言葉にそんな感想を持ったとき、言葉通り一分としないうちに女が荷台から出てきた。手には何やら大きめの箱を持っている。

 

「こちらを」

 

「ん......!結構重いですね......中身は何でしょうか」

 

「はい、こちらはお詫びの品として支給させて頂きます」

 

 

 

「わが社の新製品です。今後とも我々ナカヤマインダストリィを宜しくお願い致します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「商標登録名・VSDS-SPR-『Yoichi(ヨイチ)』......カテゴリ・多目的ライフル、オプションは中距離用バレル、狙撃補助センサー、レーザーサイト、二脚銃架etc......」

 

「何をしているんだい?ウツギさん」

 

「時雨か。届いた荷物の確認だ」

 

 艤装保管室、修理可能な装備の整備などを行う作業台の上に、大量の重火器を並べていたウツギに部屋に入ってきた時雨が......前にウツギに言われたので、しゃべり方を敬語から普通の調子にして声をかける。

 「N-K-I」とロゴの印刷された段ボール箱に入っていた説明書に目を通しながら、ウツギは貰ったスナイパーライフルを組み立てる。

 

「前に使ってたのとは全然形が違うね。......ライフルじゃなくて板みたい」

 

「ナカヤマの新製品らしい。前に自分が使っていたライフルの問題点だった攻撃力を底上げして、より実戦向きになっている、とさ」

 

「へぇ、そんな凄いのをくれるなんて。懐が大きいんだね。社長さん」

 

「ん、社長から貰ったと言うのは誰から」

 

「漣から聞いたよ。もう帰っちゃったけどトレーラーから積み荷を降ろすところに立ち会ったって」

 

 「そうか」、とウツギが言って、会話が途切れる。

 ......漣には「さん」を外すようにしたのか。自分が呼ばれるときに「さん」が外れるのはいつになるかな。

 武装の組み立てと動作確認をしながら、時雨とは「上司と部下」のような間柄ではなくあくまで「友人」として付き合いたいと考えるウツギが、時雨の方を視る。彼女はウツギの視線に気づかず、段ボールの中を覗いていた。

 

「ウツギさん、他に入ってるこれとそこの箱は?」

 

「うちの艦娘全員分の追加武装。ご丁寧に名札まで付けてある」

 

「......それは、本当に言ってるのかい?」

 

「嘘を言って......確かに普通じゃあ考えられないことかもな......」

 

 「嘘を言って何の得が自分にある」、と言おうとしたが踏みとどまり、ため息混じりにウツギが言う。

 まさかとは思うがこれも何かの罠じゃ......いや考えすぎ......であってほしいな。それに気の休まる時に嫌な考え事は駄目だな。罠ならその時はその時でなんとかするしかないか。

 あまりにも大盤振る舞いなN社の支援について、改めてウツギが考えていると、館内放送がかかる。

 

『ウツギ、ウツギ。屋内に居るなら執務室まで』

 

「呼ばれたな。自分の分は勝手に見ておいてくれ」

 

「わかった。僕のは......」

 

 

 今日の仕事は何だろうな。そんなことを考えながら部屋を出て、パックの栄養ゼリーを飲みながらウツギは短い廊下を歩いて執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今日もまた戦に身を投じる。

しかし今度の戦はこれまでとは一味違う。

田中を追っていた部隊が消息を絶った。

その生存者探索。そんな依頼が舞い込んでくる。

 

 次回「白昼夢」 カウントダウンが始まった。

 

 




はい、と言うわけで予告を無視して第五章(白目
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。