資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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お待たせしました。


加速する悪夢

 ......全く。自分は趣味の悪そうな奴等と関わることが多いな。例の天龍に、田中に......味方で一応友人だが若葉もかな......。

 キコキコキコ、ガチャコン......と、音を立てる「肉」が流れているレーンを背後に、過呼吸気味で、顔を白くしてえずいている時雨を介抱しながら、ウツギが考え事をする。

 

「......聴いてるか。電」

 

『......ぅ............ぅぅ.........』

 

「やっぱり、ね」

 

 自分の艤装のカメラの電源を一旦落として、ウツギが電と連絡を取ろうとしたが、無線の機械は具合の悪そうな唸り声を拾うばかりだ。無線の奥の声の主とはまともな会話が望めそうな状況ではなさそうだった。

 鉄の臭いが充満する部屋に見つけた、恐らく先に進む通路へと続く扉に手をかけ、ドアの先にあった廊下のような空間に時雨とツユクサを置いて。ウツギはこの光景を観ても平気だった三人と、嫌々ながら部屋を調べる。

 

「気は進まないが......何か無いか観て回ろう」

 

「気が進まない?どうしてかな?」

 

「......自分はお前と違ってデリケートなんだ」

 

「嘘だな......デリケートならこの景色を見た瞬間地面を吐瀉物(としゃぶつ) で濡らすと思うが?......んふふ......♪」

 

 揚げ足とりのような若葉の言葉を無視して、ウツギは他に扉などが無いか部屋を調べる。

 「いや......にしても絶景だねこれは......なかなか観れない貴重な空間」。とのたまう若葉に、確かにもう二度と「絶」対にみたくない「景」色だ。などという感想をウツギが思ったとき。春雨が声をかけてきた。

 

「ウツギさん、これハ?」

 

「なんだ?......地図?」

 

 春雨から手渡された一枚の黄ばんだ大きな紙切れをウツギが広げてみる。

 

「...ここの構造図......。貰っておこう、役に立ちそうだしな」

 

「収穫は有りましたネ。......早く出ましょウ」

 

「だな」

 

「ちょっと待てよ」

 

 流石に気分が悪くなってきたウツギが春雨とアザミを連れて部屋を出ようとすると、ずっとベルトコンベアを凝視していた若葉が呼び止める。

 何の用事だ、早くしろ。そう言いたいのを我慢して不機嫌そうなしかめっ面で、ウツギが若葉を見る。

 

「何だ。その光景が観たいなら一人で勝手に......」

 

「違う、そうじゃない。この流れ......ちと気になることがある」

 

 若葉の言葉に、ウツギは観たくもない血まみれの三列レーンに視線を向ける。

 ......当分肉類は体が受け付けなくなりそうだ。場違いな変な考えを浮かべた時、若葉が口を開いた。

 

「さっきからこいつを眺めていて思ったんだ......」

 

「「頭」だけ一向に流れてこないんだよ。何故だ?」

 

「知るか。さっさと出るぞ」

 

「ンフフフ......つれないねぇ......まぁいいや。そろそろ飽きてきたところだ」

 

 ............。見習いたくはないが。こういう時ばかりはこいつのような精神力が欲しくなる。時雨とツユクサを待たせている、出るか。

 胃液が昇ってきた喉をとんとん叩きながら、ウツギはそそくさと部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

『電さんが体調不良を訴えたため、私、本城が代わりを勤めさせて頂きます』

 

「了解。......味方の反応はまだ探知できませんか」

 

『はい、残念ながら......そのまま前進してください』

 

 勘弁してくれ。もうここに潜って三十分近いぞ。そんな愚痴をぐっと飲み込み、ウツギが重たい空気のなか、相変わらず蒼い顔をしている時雨を励ましながら、生存者を探す。

 

「......気分は?大丈夫か時雨」

 

「うん」

 

「そうか。無理はしないでくれよ。この先も何があるか......」

 

 いつもの、若葉とはまた違った余裕そうなはにかみ笑顔はどこに行ったのか。顔面蒼白の、頬がこけたようにも見えるやつれた無表情で、機械的に質問に応答する時雨を、ウツギが心配そうに見つめる。

 気持ちを切り替えよう、と、長い渡り廊下の途中にあった何枚かの扉を六人で手分けして開けて中を確認しているとき。ウツギはふと視界の(すみ)に、春雨が変な表情で固まっているのが見えた。

 

「......どうした春さ......手術室だと......?」

 

 春雨の隣に立ったウツギが部屋の扉の札を見て呟く。

 

 まさか。

 

 春雨が部屋に入るのに続く形でウツギも「手術室」に入る。

 

 彼女の予想は当たった。

 

 

「ここは......」

 

「......何か見覚えがあると思ったんでス」

 

 

 

「深海棲艦化実験の施術(せじゅつ)のための施設だったんですネ。ここハ」

 

 

 

 青い液体と赤い液体で白いシーツが染められたベッドと、駆逐艦級と思われる深海棲艦が入っている、黄色い液体が充満した水槽を見て、春雨が物憂(ものう)げな表情で呟く。

 床も壁も血塗れだというのにも関わらず、アルコール消毒液のような匂いが漂う部屋で、ウツギが春雨に問いかける。

 

「見覚えがある。と言ったな。上から入ってきたときにはそう思わなかったのか?」

 

「この手術台と水槽、あの長い廊下だけ覚えているんでス。......施術を受けたときは意識が朦朧(もうろう)としてて......はイ」

 

 春雨の返答を聞いたウツギが、少し間を置いて続ける。

 

「春雨。すこし思い付いたことがあるんだ」

 

「......?なんでしょウ?」

 

「明石さんから前に聞いたんだ。手術には「段階」が三つあると。具体的には、「深海棲艦の細胞が適合せずにそのまま死亡する者」、「適合しても艤装が使えなくなる者」、そして「成功して凄まじい戦闘力を得る者」。」

 

「............」

 

「そしてこの施設は......多分だが例の天龍が管理してたんだろう。場所からして、な。そしてあいつは金や利益にガメつい奴だと言うのは知ってる」

 

「で。そこから発展して奴は「無駄が嫌い」という性格でもあったんじゃないかと思ったんだ」

 

「あの......話が見えて来ないんですガ......」

 

「......そろそろ締めるか。つまりだよ、自分が言いたいのは――」

 

 

 

「ここはただの施術施設なんかじゃない、手術で死んだ奴の死体を「もっとも効率よく処分して再利用する施設」じゃないのか?」

 

「あ......」

 

 

 

「考えたくないが。こんなフザけた話は。......いくらなんでも趣味が悪すぎる」

 

「多分成功した奴は例の軍病院に、薬でも打って眠らせて送りつけていたんだろう。そして、残った「失敗作」は死体処理も兼ねて缶詰に加工する......」

 

「艦娘への食費も浮くし、気に入らない奴も殺せる。それに砲撃戦で死ぬ艦娘が遺体も残らず吹っ飛ぶことだって珍しいことじゃない。こんな施設を管理するほどの権力があるなら書類の偽造なんて簡単なんだろう」

 

「そして背後には例の「田中 恵」。大規模な鎮守府のアドバイザーなんて職をやってて、それに一企業とのコネだって持っていた女だ。きっと権力もそれなりにあったはずだ」

 

 一通り話し終えたウツギに、春雨が瞳から紫色の鈍い光を放ちながら視線を飛ばす。

 怒っているのか......。でも自分達にはどうしようもない。そうドライに物事を捉えるウツギが、春雨の手を握って口を開く。

 

「......余計な事だったかも知れない、すまない。仕事に戻ろう、今も助けを求めている奴等がいるかもしれない」

 

 その言葉に、春雨は静かに頷いて部屋を出る。

 

 田中。一体お前はこんな事をして何がやりたい?ウツギも密かに会ったこともない女への怒りを感じながら、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「ここで最後だな」

 

『味方の反応はありません......全滅、でしょうか』

 

「まだ解りません。ここを探してから結論を出しましょう」

 

『そうですね。失礼しました』

 

 地下実験施設に侵入してからもう一時間。時折若葉が飛ばす気が狂っているとしか思えない軽口が心地よく感じるほどの重たい空気を引っ提げ、シエラ隊がウツギが持っていた地図に記された行き止まりに辿り着く。

 既に若葉以外の五人は、この施設を作った人間の狂気としか思えない数々の光景に神経を()り減らし、妙な息苦しさを感じていた時。ツユクサが表面上平静を装って口を開く。

 

「にしてもなんなんスかねこのでっかいプール。まさか深海棲艦の()()?」

 

「冗談に聞こえないや......ははは......」

 

「あ!ご、ごめん......」

 

 疲れた笑顔で力なく笑う時雨にツユクサが自分の失言を謝る。

 この最後の部屋はスポーツの屋内競技場のように異常に広い、そしてほぼ部屋の全てがプールで占められていると言う妙な構造をしていた。

 にしてもツユクサの軽口は本当に洒落(しゃれ)にならない......こんなに色々揃ったトラップハウスならそれぐらい完備していそうだ......。マイナス思考気味になっていたウツギが水が張ってあるプールの上を滑る。

 黄緑色の水に潜水して中を探索していた春雨が、浮上してきて五人に告げる。

 

「何もありませんでしタ」

 

「死体すら無いのか?」

 

「はい、何もない......水の色は変ですがただのプールですネ」

 

 調査隊は一体何処へ?それに、依頼のメールにあった「生物のような、機械のようでもある」敵は見当たらないが......。

 ウツギが不審に思ったとき、本城から連絡が入る。

 

『ただ今をもって、調査隊は全滅と判断されました。お疲れ様でした、帰投してください』

 

「......了解。戻るか」

 

 「後味が悪いッスね」、「またあそこを通るのか......」。ぶちぶちと愚痴を垂れるツユクサや時雨に、流石に今日ばかりは同情しながら地上へ戻るために、ウツギが身を翻す。

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、凄まじい轟音が背後から響いてきた。

 

 

 

「また会った!!待ったかいがあったものよ!!」

 

「ッ!?、冗談じゃない!!」

 

 また面倒が沸いて出てきやがった。ウツギの機嫌の悪さとストレスが最高潮に達する。

 

 何故なら、天井をぶち破りながら出てきたのは、あの装甲空母姫と、それが率いる四体の深海棲艦だったのだから。

 

「さぁ、艦娘どもよ」

 

 

 

 

 

 

「三度目は無いと思え!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

さあてみなさんお立ち寄り。

ここは狂気の実験施設。血が跳び、悲鳴が上がり、狂気が蔓延する。

そんな地獄の一角で、

砲撃の嵐が巻き起こる。

 

 次回「瀕死の騎士」 なぜ、どうして......?

 

 




説明回は書いていて楽しかったり。
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