「何をしに現れた」
「ん?聞こえなかったのか......」
「お前たち......装甲空母姫とかいう奴等の側に若葉が付く、と言ったんだ......」
艦娘であるにも関わらず、敵対陣営の自分達に味方をすると言っている若葉に、ル級が不信感を露にする。そもそもなぜこちらに付くのかすら解らないと思ったル級が若葉に聞く。
「解らない......どうして深海棲艦の味方をする」
「そこのデカブツ」
若葉が眼前に鎮座する巨大な怪物と戦艦棲姫を指差し、口を開く。
「と、そこの女に用が有るんだよ......」
「忘れたとは言わせませんよ......戦艦棲姫・サ・マ?うフフ......♪」
まるで戦艦棲姫に会ったことがあるような物言いをする若葉に、ル級が「何を言っているんだこいつは?」と怪しい顔をする。
すると、刀と砲を交互に持って戦闘の準備をする若葉へ、戦艦棲姫が友人と談笑するように親しげに切り出す。
「ん~、ごめ~ん。覚えてないんだけど」
「......言うと思ってたさ。貴女ならば。「Rの三号」と言ったらどうかな?」
「あ!わかったわかった!!貴女レ級ちゃん!!え~と......確か今は「サザンカ」だっけ?」
「何だと......?」
若葉の事を「レ級」とよぶ戦艦棲姫に、会話の意味が理解できなかった装甲空母姫たちが変な顔をする。
「ご名答......若葉はレ級を使って作られた廃品利用がその一人......」
「俺はよく覚えているよ......建造されて喋ることもままならない俺を前線にすっ飛ばしたことをね......」
「しかし。......まぁどうでもいいんだそんなことは......若葉は暴れられればそれでいい♪」
一般的に見れば「可愛らしい」と評価されるような笑顔で、思い切り刀を振りかぶって若葉が怪物に斬りかかる。
怪物は微動だにせずそのままされるがままに若葉の攻撃を受ける。もっとも異常に固い表皮に阻まれて、刀は弾かれるのだが。
「固いねぇ......刃零れしてしまうなぁ......」
「だぁめだぁめ。そんなんじゃ効かないったら」
何度も刀を自分の艤装に叩きつけられるものの、全く傷ひとつつかないことに余裕綽々といった態度をとる戦棲姫に、傍観していたル級とタ級が斬りかかる。
「隙だらけだ!!」
「あ、ゴメン。構ってちゃんだったの君たち?」
ル級が投げてきた独狐を軽く素手で弾き飛ばす戦艦棲姫へ
「そこだぁっ!!」
「ん?」
背後からタ級が飛び上がりながら女の脳天に剣を突き刺そうとする。
ずぐり。と骨ごと肉を突く独特の感触がタ級の手に伝わってくる。
やった!!倒した!!
「痛いじゃないの」
「は?」
なんで......頭を割って脳を突き刺したのに......?。動揺するタ級のそんな思考は、途中で中断されることになった。
何故なら彼女もまたネ級と同じ末路をたどったからだ。
ごきり、がりがり、ぐちゅり、等と言う耳を塞ぎたくなる嫌な音が響く。タ級はネ級と違い、上半身を怪物に念入りに咀嚼されて即死した。
「タ級!!」
目の前で次々と部下が殺されていくのに黙っていられなかった装甲空母姫が、残った左腕に持った剣を頼りに、戦艦棲姫へといきり立って襲いかかる。
「このぉぉぉぉ!!」
「姫様、そのお怪我では!」
レ級の制止を降りきって、装甲空母姫は戦艦棲姫の元へと跳んでいった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「若葉を無視して......ナメたマネしてくれるな......くふふ......」
散発的に砲撃と魚雷による攻撃を織り混ぜながら艤装......怪物に斬りかかっていた若葉は、自分を無視してタ級を食べに行った目の前の獲物の行動に、腹が立っていた。
「ん~......刀は駄目か。なら次はこれにしようか......」
若葉は素早く刀を鞘に収めると、そのまま相手に向かって突っ込みながら腰から手斧を取り出して、怪物の肩のような部分に降り下ろす。
「......!!」
両手で目一杯の力を込めて降り下ろした斧は、火花を散らしながら怪物の肩に当たる。もっとも若葉は斧から発された「ぴしり」という嫌な音を自分の耳が拾ったことに眉を潜め、不機嫌そうな表情になる。
「つかえんなぁ......いや、これが固すぎなのかな?」
飛び退りながら、へらへらしながら若葉は一度使っただけで呆気なくヒビが入った斧を酷評しながら、適当に放り投げる。
「無駄無駄。何やっても無理だって」
「それはそれは......ますますどうやれば壊れるか試してみたくなるねぇ......」
ル級、レ級、装甲空母姫の猛攻を涼しい顔でいなしながら横やりを入れてくる戦艦棲姫に、若葉がそう返事をする。
「無駄だってのにしつこいな......そう思わない?」
「何をォォ!!」
「あぁ~もう聞いちゃいないねこれはァ~」
血眼になりながら片腕の剣をぶんぶん振り回して突っかかってくる装甲空母姫を、めんどくさそうに白衣の女は異常に頑丈な自分の両手で弾いていなす。
「ラチがあかないな~あ、こうしようか」
何かを思い付いた戦艦棲姫が、傍らの艤装によじ登り、怪物の頭に当たるような部位に座る。
「艤装に乗った......?一体何を」
「しゃアぁぁぁッッ!!」
意味がある行動なのかを吟味するル級の発言を遮って、若葉が奇声を発しながら艤装の上の標的に刀の切っ先を向けてすっ飛んでいく。
馬鹿は高いところが好きと言うのは本当だったのか。わざわざ狙いやすい場所に来るとは阿呆だ。
若葉が濁った笑顔で刀を振り上げて跳躍する。
「死ー」
「はいアウト♪」
......?何が起きた......?
全身にかかる重力が倍になったような感覚と、一瞬で自分の視界が切り替わったことに、若葉が珍しく動揺する。
「避けろ艦娘!!」
......何を?
と思ったが、若葉が咄嗟に背負った艤装から盾を取り出して構えると、そのまま盾が吹き飛び、背後で大爆発が起きた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
速すぎる。なんだあの動きは。
ル級の感想はその一言に尽きた。
若葉が斬りかかった時、戦艦棲姫の乗った艤装は、その鈍重そうな外見から想像できないほどの速度で若葉の後ろに回り込む。そしてその大木のような腕で彼女を投げ飛ばし、すかさず砲撃を叩き込んで、自分達から距離を離した。
「いや、今のは少し良かった......また経験したことのない体験をさせて貰った......ふふふ......♪」
死にかけたのに笑っているのか......狂人が......。ル級にそんなように思われているとは勿論知らずに、若葉が続ける。
「お前が初めてだよ......若葉に盾を使わせたのは......」
「はいもういっちょ」
喋っている途中に行われた砲撃を難なく交わして、若葉がル級達の隣に来る。
「ダメじゃないか......人の話をさえぎっちゃぁ......」
「いやもう面倒臭くて。速く終わらせたいからさぁ」
「んーむ、そうか......それは失礼......うふふ......」
と、余裕を演じてみたが。どうする。あのガチガチな装甲を抜くのはちと骨が折れる......。会話をしながら、内心焦る若葉が考えるその時だった。隣に居た装甲空母姫がよろけてその場にしゃがむ。
「っ......ぅぅ......!?」
「姫!!どうなされました!?」
「失血の量か......」
女の、無くなった肩から滴り落ちる血を見て、若葉がそう発言する。そして若葉が視線を戦艦棲姫へと戻すと、
若葉には 射角では解らない筈なのに、何故かはっきりと装甲空母姫を戦艦棲姫が狙っているのが見えた。
一発砲撃の音が響く。
「避け」
おい、避けろ。と言ったところで動けるような状態ではなかった装甲空母姫を体当たりで弾き飛ばした
レ級の腹に、特大の串のような砲弾が突き刺さる。
「がっ......あ゙っ......あぁァ゙ァ゙.........!!」
「れ、レ級......!どうして......どうして私を庇った!!」
「ちっ」
また兵隊が減った。もうこれじゃああいつには勝てん。装甲空母姫とレ級のやり取りを聞きながら、若葉が思考に更ける。すると、一瞬レ級を見てすぐに視線を戻したル級が声をかけてくる。
「艦娘」
「なんだ」
「......頼まれてくれないか」
「モノによるな」
「姫を連れて逃げてくれ」
「......そんなお人好しに見えるのかな?」
「見える」
「.........」
若葉が、嗚咽を漏らして泣きながら物言わぬ死体を抱いている装甲空母姫を、彼女が抱いていたレ級ごと脇に担ぐ。
「きっ、貴様何を」
「黙れ」
機関の出力を最大にして、若葉はウツギ達が出ていった通路へと、プールを駆けていく。
「あら、逃がすと」
「ヨソ見は許さん。私が相手になってやる......!」
「......本当に相手になんてなるのかな?」
「やってみなければ解らないだろう」
背中を向ける若葉に砲撃を行おうとした戦艦棲姫に、ル級が捨て身の覚悟で斬りかかる。
「離せッ......離せと言っているんだ艦娘!!ル級が!!」
「くっ......ンふふふ......あいつの覚悟を無駄にしたくないなら......大人しくするんだな......」
無事に出口にたどり着いた若葉が、駆け足で通路を行く。そして、ふと後ろを向く。
戦艦棲姫が操作したのか、閉まっていくシャッターの、奥の景色ではル級と戦艦棲姫が対峙している。
若葉は、ル級がこっちを向いて、口を動かしているのが見えた。
また、どういうわけか、距離が離れすぎて聞こえるはずのないル級の声が聞こえた気がした。
「後は頼んだぞ。サザンカ、とか言う奴。」
ありがとう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
無事に全員脱出した第五鎮守府所属、シエラ隊。
しかし、地下施設にて遭遇した田中 恵......戦艦棲姫を示す熱源反応が、
若葉の脱出と同時に消滅してしまう。
そして事態は意外な進展を遂げる。
次回「冷える心」 絶対に、カタキは討つんだ。そう誓う。
久々の連日投稿ですた。