「にしても、面倒な事を持ち込んできたもんだ......」
「迷惑をかけるな......ふふ......」
「まったくだ」、と。自分達から十分ほど遅れて施設から装甲空母姫と死亡したレ級を抱えて出てきた若葉に、ウツギが言う。
この付属品、どう言い訳したものか。地下施設の出入り口のすぐ近くにいる自分達から離れた場所で、調査隊全滅の報を聞き泣き崩れている男とその男の部下と思われる艦娘たちを見ながらウツギが考える。
「被験者、と言うことにしませんカ。この人。それならどうにかなるかもしれませン」
「いや、無理だろう。自分のカメラはこいつが出てきた時に作動していた。押し通すにせよそんな行使できる権力も自分達は......」
「言い訳の一つ用意できない、か......頼りないねぇ......君たちは......」
弁論は難しいと言う仲間へ毒を吐いて酷評する若葉に、ウツギが質問をする。
「そう言うということは、何かアテがあるのか?」
「簡単な話だろう......こいつの捕虜としての有用性を証明すればいい。それだけで馬鹿で愚かな人間どもは食いつくさ......」
「いくらサザンカさんでもそれは......」
「...............いや、改めて考えてみたが案外どうにかなるかもしれない」
「ウツギさんまで......いくらなんでも言い訳なんて無理があるんじゃ?」
「何の話か全然わかんねッス」と能天気に、近くに置いてあったドラム缶に座って携帯食料を口にしているツユクサを無視して、ウツギがふと頭に浮かんだ考えを時雨に伝える。
「こいつに尋問でもして戦艦棲姫......田中の事が聞ければそれだけで活路が見えてくる。.........ただでさえあいつに関する情報が少ないんだ、引き出せる情報があるならそれは計り知れない価値がある」
「......言うほど大切な情報を、そんな簡単に手放すのかな。僕はそう思えないや......あのお姫様は口が固そうだ」
「万が一、だ」
時雨の、ウツギの言葉に対する見解を遮って、ウツギが尋問が駄目ならば、と続けて持論を述べてみる。
「例え有用な事が引き出せなくても、だよ。見方を変えてみればこう考えることも出来る。「若葉は姫級深海棲艦を鹵獲してきた」とも、な。」
「......?やっぱり意味わかんねぇッス」
「あっ......そうか、そうだよね。姫級を生け捕りなん...て.........もしかしてこれって快挙なんじゃ......!?」
「勝手に話を進めて......誰が従うなんて言ったんだ。艦娘」
仰向けにコンクリート製の地面に転がっていた装甲空母姫が、固まって自分の処遇について話していたシエラ隊に体の向きを変えずに言葉をかける。部隊員の視線が一斉に彼女に向かったのは言うまでもない。
「怪我の具合はどうなんだ。装甲空母姫」
「頭がぼうっとしている......血が足りん」
「そうだろうな。前の若葉並に酷い怪我だった」
応急処置と止血はとりあえずやっておいたものの、消耗が激しいのか小さな声で話す女に、ウツギがしゃがみこみながら声をかける。
「レ級は......どうなった」
「死んだよ。ここに運ばれた時はもう駄目だった。重要器官を、あの妙な槍みたいな砲弾に潰されて即死だ。......やけに幸せそうな死に顔だったがな」
「......そうか」
顔すら動かさないことから、かなり衰弱していると予想がつく状態に陥っている装甲空母姫の質問にウツギが答える。
すると、音をたてず、声も出さずに女が泣き始めた。
「.........もう、疲れた」
「......?どうしたんだいきなり?」
以前「敵討ち」と称して襲いかかってきた時とは程遠い、どこか遠くを見ているような、それでいて何もかも全てを諦めてぐったりとしたような表情で、泣き終わった後にそう言う装甲空母姫に、ウツギが問い掛ける。
「疲れたと言ったんだ......煮るなり焼くなり解剖するなり好きにしてくれ。行くところもない身だ、死んだところで何も無い。......もう疲れた......うんざりするほど」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お咎め無し、ですか」
「ええ、本部は施設内調査と生存者の探索、及び重要参考人の確保をご苦労、と」
夕方、地下施設のある島の廃墟を利用して作られた作戦本部に呼ばれたウツギが、本城から作戦の事後報告を受けて、少し驚いていた。
重要参考人、ね。本部は余程田中の事について知りたいと見える。......しかしアレが素直に協力するとは思えないが......。
ウツギが、あの後すぐにやって来た特殊部隊のような格好の男たちに担架で運ばれていった装甲空母姫のことを思い出す。
「......では、私たちは第五に戻って良いのでしょうか」
「それが......例の食肉加工プラント等の調査と、消えた戦艦棲姫の熱源反応の追跡に立ち会って欲しい、と本部から入電がありまして......」
「............」
本城が持っていたプリントから視線をウツギに移すと、彼女は眉間にシワを寄せながら目をギラギラと紫色に光らせていた。
「っ!?も、申し訳ありません......」
「......!!え、いえ、失礼しました」
しまった。久しぶりに考えていた事が顔に出たか......。
「あんな光景をまた見るなんて嫌でたまらん。」と思って、顔を嫌悪感と怒りが混じった感情で歪めていたウツギが、慌てて本城に謝罪する。
変な空気になったその場を濁すため、ウツギが本城が持っていたコピー紙を手にとって話し始める。
「立ち会って欲しい、と言うことはどこかの部隊の付き添いでしょうか」
「はい、......しかしその部隊員の内訳なのですが......」
「......?何か問題が?」
「神風さんと高雄さんが居るんです」
............。田中、戦艦棲姫を直々に殺しに来た、と言うことか。恐らく二人で上に直談判でもやって無理矢理編制に入ったんだろうな。
剣豪二人の名前を聞いて、ウツギが勝手な憶測を頭に浮かべたとき。突然鎮守府内に、警報が響き渡る。
『緊急警報、緊急警報、鎮守府に大型の熱源反応が接近中!!繰り返す、鎮守府に大型の熱源反応が接近中!!』
「すぐに出ます。貴方は避難を」
「え?ウツギさ......」
気の休まる暇が無いな。ウツギは本城に避難するように伝えると、急いで艤装を取りに、その場を離れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なんだか、僕らの部隊はイベント盛り沢山だね。ウツギさん」
「お祭り騒ぎはもう腹一杯だ。休む時間をくれと言いたいよ」
夕方と夜の合間のような時間の海で、もはや愛機とすら呼べるほど使い続けている暁の艤装に合わせ、銃身を換装したスナイパーライフルを二挺小脇に抱えた重装備で敵の迎撃に備えるウツギが皮肉を言う時雨に答える。
......軽口を叩けるぐらいには気分も良くなったみたいだな。良かった。
ウツギが時雨のボヤきを聞いてそう思ったとき。ツユクサがかけていたゴーグルを手で弄りながら口を開く。
「なんスかね。こうねつげん?はんのーって」
「......何が来るのかは大体予想が付くのが怖い」
「へ?」
「同ジ......」
「ですネ」
「僕も」
「クくく......いいじゃないか。何が来ようが上等だぜ」
皆考えることは同じか。散々ひどい目にあってきたせいでネガティブ方面の勘が冴えるウツギが、一人解っていないが無視して思考を続ける。
ウツギがヘッドセットの電源を入れて、オペレーターを勤める軽巡の艦娘に連絡を取ろうとしたとき。前方からスピーカーか何かで拡声した声が響いてきた。
《ちゅううぅぅぅもおおぉぉく!!》
「来たな......予想通り、あの女か」
「.........」
女の声が聞こえて来た方向を、ウツギがライフルのスコープを双眼鏡がわりにして観測する。はたして、そこには田中 恵...戦艦棲姫が、地下で見たときと同じ格好でメガホンを片手に海に浮かんでいた。横には巨大なよくわからない生物が居るのも確認する。
《第三鎮守府!及び集結部隊へ告ぐううう!!》
《私いいぃぃ!!戦艦棲姫はああぁぁ!!》
《第五横須賀鎮守府・第一艦隊・資源再利用艦混成万能攻撃部隊・フィフス シエラにいいぃぃ!!》
《六対一での実弾を使用した演習を申し込みマああぁぁぁすぅ!!!!》
「「「「は?」」」」
「「ハ?」」
何を言っているんだ。シエラ隊の全員が同じ感想を持った瞬間だった。
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「実弾使用の演習」と称し、決闘を申し込んできた戦艦棲姫。
ざわめく本陣。
そして準備が出来るまで待つ、と言う奴へ
ウツギはとある質問をする。
次回「島風の血」 希望に似た花が、女のように笑うサマに手を伸ばす。
50話来ちまいました。こんなに長く続く予定だったかなぁ(白目