大規模作戦決行の日。
シエラ隊メンバーの五人の艦娘が鎮守府の港で艤装の最終チェックを行っていた。
点検箇所の確認をいち早く全て終えたツユクサが、すでに三日前ほどから慣らし運転を終えた「摩耶」の艤装を装備して海上に立ち上がり、体を動かしてストレッチした後、「あっ」と、突然何かを思い出したのか作業中の漣に質問する。
ちなみに今彼女を含む五人は普段の服装ではなく、全員戦場でもすぐに他の艦娘との見分けがつくようにと深尾が人数分用意した
「ウチらが行っちゃったらここスカスカじゃないッスか?危なくない?」
「おぉそう言えばツッチーの言う通りだけどご主人様大丈夫なのかな?」
ツユクサと漣の会話を聞いていた天龍が「お前ら話聞いてたのか?」と呆れたように切り出す。
「提督はちゃんと言ってたぞ。近くの他の鎮守府から今回の作戦に参加しない艦娘を何人か鎮守府の警備に回してもらうってな。ったく話ぐらいちゃんと聞いとけっての」
天龍が恐らく話を聞いていなかったであろう二人に教える。漣が「ナイスよてっちゃん!」と言って天龍からデコピンを食らう。そんなことをしているうちに全員の準備が終わる。
「全員準備終わったな。じゃあ出発する」
こうしてウツギたち「フィフス・シエラ」の面々は目的地へ向かって海上を進んでいった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
海の真ん中にひときわ目立つ巨大な船、その中にウツギたちは居た。今回の作戦のために用意された前線基地の役割を果たす船である。
たった一つの、それも一日で終わる作戦のためにこんなものまで用意するのか。ウツギがそんなことを考えながら、今まで座ったこともない高級そうなソファに腰かけていると、眼鏡をかけた、いかにも事務仕事を得意としそうな雰囲気の艦娘が名簿を持ってこちらにやってきた。
「お手数ですが、所属と艦隊名をお聞きしたいのですが」
「第五横須賀鎮守府所属、艦隊名フィフス・シエラです」
眼鏡の艦娘の表情が一瞬曇る。しかし名簿を書き終えるとまたすぐに営業用の笑顔に戻り、何処かへ歩いていった。表情が一瞬曇ったのは新米のウツギたちの参加に不満があるのか、それともリサイクル艦への拒否反応か、大体そんなところだろうな。等とウツギは勝手に結論付ける。
「どいつもこいつも変な目で見やがって。俺たちゃ見せ物じゃねぇっての」
眼鏡の艦娘が他の場所へ去っていったあと同じくソファに座っていた天龍が愚痴をこぼす。他の艦娘たちの視線を集める原因は言わずもがな、ウツギ、アザミ、ツユクサの容姿である。もっとも当人たちは誰一人として気にしていないが、しかし自分達のせいで漣や天龍に迷惑がかかってしまっているのは間違いないとウツギがソファから立ち上がり天龍に言う。
「すまない。少し間を離すか」
「な~に言ってんのウッキー。漣たちは仲間よん?気にすることないって」
「そうそう。気にしなくて良いっての。漣お前もたまにはいいこと言うんだな」
「たまにはってなにサ!?酷くないてっちゃん!?」
「当たり前のことをいって何が悪いんだ?」
「二人の言う通りッスよウツギ。せっかくこんないい船に乗せて貰ってるんスからもっとリラックスしないと!」
「ツユクサ......お前は危機感と遠慮が無さすぎだ」
申し訳なさそうに切り出したウツギに漣と天龍が大丈夫だと返す。漣の発言に「ウッキーはやめてくれ。猿の鳴き声みたいで嫌だ」とウツギが返答するが、内心彼女は、漣と天龍の言葉を少し嬉しいと感じていた。あとツユクサは天龍に苦言を呈された。
その時船内放送が入り、周りに居た艦娘たちが移動し始めたので、ウツギたちもついていく。今回のシエラ隊と同じく「D地点」で行動する艦娘の作戦のブリーフィングが行われる第三会議室と書かれた部屋にぞろぞろと二十人ほどの艦娘たちが入ってゆく。もちろんそのなかにはウツギたちシエラ隊も含まれている。
ウツギは他の部屋へ入っていく「主力の艦娘」たちと比べて自分たちD地点組の艦娘の数が目に見えて少ないことに気付くが、あまり気にしないことにした。
「時間だな。全員居るか?」
「問題ありません」
広々とした部屋の中には先程こちらの部隊名を聞いてきた眼鏡の艦娘と、妙に背の高く痩せこけた男が居た。周りの艦娘たちは一見したところあまり戦い慣れしているような者は
「じゃー説明するぞ~。お前ら新米どもはここ、このD地点って設定された島で待機~。今横で作戦会議してる偉~い人たちのとこの艦娘の補給がメインの仕事だ~。あぁ気ぃ抜くなよ~、ボケ~っとしてたら抜け出してきた敵さんにコロコロされちまうからな~。あぁあとなんか最近ここの近くで新型の深海棲艦が見つかったって噂があるから気ぃつけてね。以上。」
とんでもなくやる気のないしゃべり方で男が説明を終える。こんなに適当なブリーフィングでいいのか?とウツギが思っているとやはり同じ事を思っていたのか横に居た漣、天龍、ツユクサが眉間にシワを寄せていた。アザミだけ無表情だが多分同じことを考えているだろう。しかし他の艦娘たちはそんなことは気にせずまた無駄話をしながら部屋を出ていく。
ウツギたちも部屋を出ていこうとすると、突然ウツギが誰かに腕を掴まれる。何かと思い振り替えるとあの痩せた男が自分の腕を掴んでいた。
「言うの忘れてた。お前さん一人だけで別の仕事頼みてぇんだけど良いかな」
「......なぜ私なのでしょうか」
「今言ったじゃん。忘れてたから適当に選んだ」
眼鏡の艦娘が「ゴホッ!」とわざとらしく咳き込み、シエラ隊のメンバーが唖然とするなか 漣だけ「大抜擢キタコレ!」などと言っているが ウツギだけ別行動を命じられてしまう。ウツギは心のなかで特大の溜め息をついた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「作戦時間だ。ハッチ開けてくれ」
『どうぞかも!』
ヘリコプターのバラバラバラというローターの音が響く。ウツギは自身の「青葉」の艤装にパラシュートがしっかり取り付けられているのを確認して機内に艤装を固定し、機体から身を乗り出しスナイパーライフルを構える。
「離れた場所でヘリコプターから、対深海棲艦用に作ったライフル銃で敵の密集している所に狙撃、敵を分散させて前線の艦娘の負担を軽減させろ」。痩せた男のいう仕事の内容だ。ヘリコプターなんて敵の攻撃を食らえばすぐに落ちるのでは?と質問したが、心配するな。最新型の大型ヘリだぞ。などと少しズレた返答しか返ってこなかったのを思い出す。
不安に思いながらもウツギはライフルを構えたまま機体を操縦している艦娘「秋津洲」に通信を入れる。
「狙撃なんてやったことがない。当てられる自信は無いぞ」
『目的は敵を散り散りにすることかも!必ずしも当てる必要は無いよ!』
「そうか。通信は切るなよ」
『了解かもー!』
既に作戦は始まっており、ウツギの目線の遠く離れた先では砲撃戦が始まっている。
彼女は試しにとスコープを覗きこんで、艦娘たちから離れていて、かつ深海棲艦の固まっている場所にライフルを撃ち込む。
すると着弾地点には肉眼で観測できるほどの爆風が発生した。
凄まじい威力だ......なぜ今までこの銃は普及していなかったんだ?とウツギが驚きながら今度は双眼鏡を取り出し着弾地点を見てみる。
.........何事も無かったかのように深海棲艦たちが爆風を抜けてくる。前言撤回、どうやら無駄に爆風だけでかい見かけ倒しだったようだ。これじゃあ実用は程遠いな。そんな事をウツギは考えていたが爆風の影響か、敵があちこちに散っていることも同時に確認する。一応目的はこの武器でも果たせるのかと続けて敵の固まっているところへ何度か狙撃を行う。
七発ほど撃ち込み、弾丸の装填をしようとしたとき大きく機体が揺れた。流石に何発も撃って敵も気付いたのか、ヘリコプターに向かって砲弾が飛んでくる。それなりに弾幕を形成しながら飛んでくる砲弾の雨の中で、致命的な被弾をしないように機体を制御する秋津洲の操縦技術と、このヘリコプターの対弾性に感嘆しながら、そろそろ潮時かとウツギが思ったときに通信が入る。
『そろそろ降りてくれないとまずいかも!』
「解ってる。降下するぞ」
艤装のハンガーに何かの役に立つかと弾を装填し直したスナイパーライフルを取り付け、ウツギが降下しようとしたとき、また通信が入る。
『ウツギちゃん、ちゃんと帰ってきてね』
「......?どうした急に?」
『せっかく運んであげた人に死なれちゃ後味が悪いってだけかも!』
「そうか。ありがとう。お前も帰りは気を付けろ」
『当たり前かも!』
そう言ってすぐに、ウツギはヘリコプターから飛び降りた。
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降下したウツギと、別行動をとっていた漣たちがポイントDにて集結する。
そこへ、
敵部隊を迎撃するシエラ隊に不穏な黒い影が迫る。
次回「小柄な死神」 血のにじむ腕に勝利を。
ここおかしいやんけ!!という場所を指摘されると作者は喜んで修正作業を始めます。