午前4時数分。薄暗い海上は、群れをなす蟻のように集まった深海棲艦と艦娘たちの間に挟まれる怒号と砲声と悲鳴が飛び交っていた。
突撃部隊とは違って後ろに詰めていた大勢の艦娘たちに紛れて、第五鎮守府の部隊......神風と高雄がシエラ隊に一時的にだが入るため、溢れた六人で組まれた、識別用にと久しぶりに全員が青黒ツートンのウインドブレーカーを着たガーベラ隊の面子が、各自連携を取りながら敵軍に攻撃を行っていた。
「'"|}""¥]¥##!!」
「やったァ!もういっちょ!!」
「ただ突っ込んでくるだけか?お前らの指揮官は無能だな!!」
単艦で体から黒煙を巻き上げながら突進してきた戦艦級の深海棲艦に、漣が連装砲とウツギの物と同じライフルを使って牽制。すかさず木曾がよろけた相手に魚雷を撃ち込んで撃破する。
撃てば当たるという程に固まって動く相手にまた攻撃を敢行しようと、漣が腰に着けていたライフルの交換用の弾倉を手に持ちながら、味方に呼び掛ける。
「みんな生きてるー!?」
「ナメんなクマァ!!」
「一人で行くなバカちん!」
「ンだとぉ!?」
「あ、危ないですよ球磨さン!」
おーおーみんな元気いいっすねぇ......まぁ大丈夫っしょこれなら!
目線の先で勇ましい顔をしながら滅茶苦茶に砲を乱射する球磨を援護する天龍と春雨を見て、調子が出てきた漣が照準すら合わせずに敵の居る方向に重火器を撃ち込む。
「お邪魔虫はお呼びじゃないのヨン!」
「""|¥]"]"99**¥_¥zz!!??」
「漣の本気を見るのです!!」
「00-djmp g2mt.@!!!!!」
「オヒョオオォォォ!!汚物は消毒だああぁぁい!!」
はん、汚ねぇ花火だ!......一度言ってみたかったんだよねコレ!!
およそ女性がやってはいけないような表情をしながら、炎上しながら轟沈した敵に奇声を発した漣がそんなことを考える。隣で木曾と時雨が引いていたのは勿論知らない。
『突撃班に通達!すぐ近くに大型の熱源反応を確認!気を付けて下さい!』
「おっ?」
「いよいよ、だね。少し早い気がするけど......」
服のポケットに電源を入れたままにしていた無線機から流れてきた音声に、時雨が呟く。
「大丈夫かな。ツユクサのやつ」
「景気付けに音楽でも流すかい?」
「は?」
足を止めずに砲撃を行いながらに言われた天龍の発言を拾って漣がそう返すと、天龍が攻撃の手を休めずに疑問の声を漏らす。
そんな天龍の顔をニヤつきながら眺めていた漣が、事前に自分の艤装に強力な接着剤で固定してきたスピーカーのスイッチを入れ、大爆音で音楽を流す。
「おおわぁっ!?何だぁ!!?」
「何かが胸で~♪叫んでるのに~♪」
「とめろバカヤロウ!!死にてぇクマ!?」
「嫌よ!」
「なんですかこの変な歌ハ!?」
漣の背負っていた艤装から流れてくる大音響のファンファーレとギターの音に、春雨が瞳を光らせながら文句を言う。
漣が音楽にノリながら返答する。それも音楽に張り合って凄い声量で。
「えぇ~?ハルちゃんジェッダーロボ知らないの?」
「知らないですよそんなノ!!」
えぇー......なんかショックだわ......とそれはともかく、ツユちゃん大丈夫かな。
「気でも狂ったんじゃないの......」という時雨の発言を無視し......正確には砲撃の音に匹敵するレベルのバックミュージックに掻き消されて聞こえなかっただけだが、漣はまた砲戦に意識を集中させる。......心なしかこちらに飛んでくる砲弾が増えたような気がしたが気にしないことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《メインシステム・戦闘モード、起動します》
ツユクサには懐かしく感じる「彼女」の声のアナウンスが、自分の背負っていた艤装のCPUから聞こえてくる。
「おおおオオオォォォ!!!!」
「わわわわっ!!ちょっ!?」
絶対にこの場で殺す。
背負っていた艤装に固定していた「島風」を起動し、ツユクサが海面を蹴って戦艦棲姫の居る方向に跳んでいく。
そのまま彼女は、瞳の色が尾を引く速度で海面すれすれを滑空しながら右腕に装着した砲を発射、敵が眼前に迫った瞬間に着水し、もう一度跳躍して怪物の脳天目掛けて拳を突き出す。
しかし事前に神風が言った通りに戦艦棲姫が発動させた「壁」に阻まれ、突撃して放ったツユクサの拳と砲の接射が、金属板に物を当てたような音をたて、何もない空間に火花が散る。
「シャラくせぇんだよォ!!潰れろォォ!!」
「私も死にたくないからねぇ、許して♪」
「ちぃっ!」
怪物の真上に陣取っていたツユクサが、相手に大口径砲の照準を合わされたために、一先ず飛び退り、余裕を見せた戦艦棲姫が口を開く
「ふふふ~♪攻撃なんて効かな」
「敵はあいつだけじゃないんだぜ」
「............!」
「わぶっ!?痛いじゃないの!」
......と同時にウツギ達が援護で放った砲弾が彼女に着弾する。
......?弾かれなかった?これはどういうことだ......。
不意を突く形になったとはいえ、すんなりと攻撃が通ったことにウツギとアザミが疑問を持つ。がすぐに構えを直して続けて砲撃を行う。
「通っタ.........?」
「......動きが鈍い......?」
「うフふふ......どうでもいいさ......このままやってしまおう」
「適当に後ろで垂れ流してろ」。ウツギにそう言った若葉が薙刀と連装砲を構えてツユクサの居る場所に向かう。
味方は......成る程。ツユクサ......や、自分達のために他の敵を離してくれているのか。......まぁ敵が多すぎてこっちの援護まで手が回っていないという可能性もあるが。
がむしゃらに突っ込む二人と格闘している戦艦棲姫に攻撃をしながら、ウツギが一瞬だけ後ろを向いて状況を把握する。
「あああぁぁぁ!!!」
「そぉんな直線的な動きで当たるわけ」
「クく......当たるんだなぁこれが......」
「痛っ!!」
鬼のような形相で飛び掛かって、懲りずにまた接射をやろうとしたツユクサの攻撃を見えない壁で防御する戦艦棲姫に、何故かまた若葉の砲撃が防がれずに直撃する。
おかしい。なんであいつは壁を出して弾こうとしない。
以前に一度戦ったときと行動パターンが違う戦艦棲姫に、ウツギが妙な違和感を感じる。
......少し確かめてみるか。
何かを思い付いたウツギがアザミに指示を飛ばし、砲をスナイパーライフルに持ち換えながら移動する。
「アザミ、自分がヤツの右に回る。左に行ってくれ」
「......解っタ.........」
......これが正しければあいつは。
ウツギはどことなく笑顔に見える表情を浮かべながら、ライフルの照準を相手に合わせた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふふフ......解ってきた」
「何がッスか!」
両手で数えきれないほどに何も考えずに敵に突っ込み続けていた若葉が、相手が巨体を揺らしながら放ってくる砲弾を避けながら、目元がぼんやりと赤く光っているツユクサに言う。
「まだ確証は無い......頼めるか?」
「何をだよ!」
「若葉が行ったら時間をズラして......「若葉が行ったのと違う方向から突っ込め」。解ったな」
言い終わると同時に若葉が薙刀の切っ先を向けて、直線的な動きで戦艦棲姫に突きを繰り出す。言わずもがな、攻撃はまた透明な壁に阻まれて届かない。
「ねぇ~何回目さ?いい加減覚えたら?」
「ふフふ......そのハッタリ、いつまで続く?」
「ウツギ!!」
若葉が右を向いてそう発言した瞬間。数秒だが釣られて戦艦棲姫も同じ方向を向き、連動して動く艤装も同じ方向に顔(?)を向ける。視線の先には戦艦棲姫にシールドの先を構えたウツギが居た。
ウツギは待っていましたとばかりに、女に向けてハープーンを射出する。
が、それも見えない壁に防がれて、発射された銛は空中で静止してしまった。続けて跳んできたアザミが放った砲弾も、空気に当たって爆発するだけに終わる。
「.........ッ!!」
「そ......んな」
「チィッ...!」
その結果にウツギは唖然とした顔をし、アザミは珍しく歯を食い縛って不愉快そうな表情を浮かべ、若葉が顔を歪めて舌打ちをする。そんな彼女たちの様子を見た戦艦棲姫は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「え~と、これで何回目だろ。無理だって言うの。もうマグレで当たることなんて無いから♪」
「......打つ手は無いのか」
ふふふふ.........困ってる困ってる。まぁ攻撃が何も効かないなんて、そりゃ絶望しても仕方ないよね?
と思っているその隙が命取りだ。
戦艦棲姫は気付いていなかった。若葉とウツギが顔を下に向けてはいるものの、その表情が口角を吊り上げた笑顔だったことに。
「やっと近づけた」
「.........え?」
何度も突撃を敢行したものの、「壁」 に阻まれて相手に取りつけなかったツユクサが、何故か「壁」をすり抜けそのまま戦艦棲姫の艤装の口に全ての砲門を突っ込み、一斉射を行う。
攻撃が当たった場所......戦艦棲姫が座っていた怪物の口が爆発し、おびただしい量の黒煙が立ち込め始める。
やっぱりだ。予想が当たった。あいつは「壁」が出せる方向に制限がある、全面すべてをカバーしきれていない。......どうしてお得意の超スピードで動かないのかはまだ謎だが。
ウツギが考えていた時。そのままツユクサが戦艦棲姫を素手で殴り始める。
「ふん゙ッ!ぐっ......オ゙ォ゙ラァッ!!」
「うぐっ...!?がっ!」
「ッ......!!」
「ひっ、や、やめっ......!?」
肘鉄を顔面に食らわされた戦艦棲姫が鼻血を垂らして倒れ......るのを許さずツユクサが膝で蹴り上げ、強引に女を立たせる。
すると
「ぐっ......このぉ!!」
「ッ......」
最後の抵抗なのか。戦艦棲姫が乗っていた艤装の腕でツユクサを掴んで放り投げた。が、すぐにツユクサは軽い身のこなしで海面を跳ねながら、艤装の半分が吹き飛ばされたせいなのか壁が出せなくなった女をまた力任せに殴る。
「舐めやがってェ!!」
「ごっほッ.........」
「今のアタシはァ!!テメェを殺すことしか考えられねェ!!」
「ぶっ......ぅうぇ.........」
怪物に背中から寄りかかり、戦艦棲姫が顔中を血で濡らした状態で動かなくなる。それを見たツユクサは女から後ずさりをして距離を取ると
「硬いヤツへのトドメの一撃は......」
自分の腕の指をゴキゴキと鳴らしながら拳を握り、腰を深く落とした。
「間合いと......」
そして右腕の砲の向きを後方に寄せ振りかぶり
「踏み込みとッ......!」
「気合いだああああぁぁぁぁァァァ!!!!」
助走をつけて、全力を出した右ストレートが戦艦棲姫の腹を貫通した。
「.........気は済んだのか」
「うん......」
血だらけの戦艦棲姫の前に立っているツユクサにウツギが声をかける。表情はどちらもどことなく暗い。
敵の大将はやった。あとは残党の処理だけか。ウツギがそう思ったとき
死んだと思っていた戦艦棲姫がケタケタと笑い始めた。
「っ......フッフッフッ......」
「くけかかはははへははははひほへはは!!!!」
「ッテメェ!?まだ生きて!!」
「愚かだ」
突然気味悪く笑いだした女に蹴りをやろうとしたツユクサが、相手の発言で寸でのところでそれを止める。
「役目は......果たしました......姫様......」
「...............!!?お前一体何を」
ツユクサが何かを言おうとしたとき、ウツギの耳に通信音声が届く。
『突撃班!!すぐに戻ってください!!』
『二体目の戦艦棲姫が出現しました!!!!』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
偽者だった戦艦棲姫。
そして後方に控えていた艦娘たちとガーベラ隊へ
「本物」が研ぎ澄まされた牙で襲いかかる。
攻撃が効かない相手。どう倒せと言うのだ。
次回「自分のために」 嘘で何が悪いか、目の前を染めて広がる。
二回目の全消しをやったときはスマホ割りたくなりました(