資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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最終話(五章の)


友達なら当たり前の

 戦艦水鬼撃破後。彼女が率いていた深海棲艦たちの残党を処理するのに合計で三日間費やされた迎撃戦が終わり、疲れきった体を引き()って。シエラ隊とガーベラ隊は、無事に誰一人欠けることなく鎮守府へと帰ることができていた。

 作戦終わりから数えて二日の朝。帰投したメンバーのうち、ウツギとツユクサが深尾の車を使って勝手に出掛けようとしていた。因みに運転は研究所に居たときに渡に無理矢理免許を取らされたウツギがやることになった。

 遠出するためと飲み物と軽い朝食を持ち込んだ二人が、荷物の確認をしながら適当に会話をする。

 

「飯は......あるな。忘れ物は?」

 

「無いッスよッ......!?っいててて......」

 

「気を付けろ。傷、治ってないんだろ」

 

 戦艦水鬼を倒した後も補給と出撃を繰り返し、修復材が切れてしまったため腕の骨折がそのままになっている、左腕をギプスで吊っているツユクサを心配して、自分も顔の何ヵ所かにガーゼを貼っているウツギがそう言う。

 

 

 車を発進させて三十分ほど経ったとき。スポーツカーなんて運転するのは初めてだな、等とどうでもいい事をウツギが考えていると、助手席のツユクサが話し掛けてくる。

 

「カッコいいッスけど、変だよねコレ」

 

「......?なんのことだ?」

 

「この車ッス。なんか後ろ乗れなくなってるし......」

 

 普通の乗用車と違う、体に合わせた形になっているシートに、計器類の上にポン付けされたメーター三つ、極めつけは本来は四人乗りの車の後部座席に網の目のように張り巡らされた謎の水色の鉄パイプを見ながらツユクサが疑問を口にする。

 

「なんで後ろに鉄骨なんて組んでるんスかね」

 

「さあ?ただ前に深尾が『俺のR32はレース仕様だ!』って自慢してきたことはあったけど」

 

 それと関係しているのだろうか。と、内装以外にも、やけに角ばってゴツゴツした形状の部品で飾ってある......R32という名前らしいこの車についてウツギが考える。

 ふと、信号待ちの時間に自分の足元にあった荷物を見て、ウツギが話題を吹っ掛ける。

 

「......墓参り、か。なんで二人だけって限定なんだ」

 

「恥ずかしくて...」

 

「...?恥ずかしい?」

 

「こんなことするの初めてッスから。他のやつに知られたらからかわれないかな~みたいな」

 

「じゃあなんで私に声をかけた。と言うよりアザミとかならそんなことしないだろ。あと天龍」

 

「免許持ってんのウツギだけじゃないスか」

 

「打算的だな」

 

「悪いッスか?」

 

「別に」

 

 一丁前に、こいつも羞恥心(しゅうちしん)なんて有るんだな。......いつも漣とかとハチャメチャに暴れているものだから無いのかと思っていたけど。やっぱり島風と戦艦水鬼絡みの事の影響か。

 高速道路の料金所で自分の顔色の悪さに驚いたのか、少し顔をひきつらせていた職員に支払いを済ませ、そんなことを考えていたとき。「なんでこの車にETCが無いんだ」とウツギが文句を垂れると、ツユクサが口を開く。

 

「......あいつの部下に背中を撃たれた時なんスけど」

 

「うん?......あぁ、うん」

 

「...夢を見たッス」

 

「夢?」

 

 たまに自分も見る暁との会話のような物の話だろうか。大体の憶測を付けたウツギが一瞬だけ目だけをツユクサに向け、運転のためにまた目線を前に戻して彼女の話を聞く。

 

「その......笑わないッスか?」

 

「何で笑う。続けろ」

 

「.........しーちゃ......島風に合ったッス」

 

 予想が当たったか。ウツギがそう思っていることは知らずにツユクサが続ける。

 

「なんか...リンゴみたいな匂いの花が咲いてて、ちょっと歩いたらなんか光ってる場所があって......で、そこまで歩いたら横に島風が立ってたッス」

 

(リンゴに似た香りの花......カモミールか)

 

「そうしたら......「どこに行くの?」って言われたッス」

 

「何て答えたんだ」

 

「しーちゃんの行くとこならどこでもっ、て。.........久し振りにお喋りしたり競争したりしたいな、なんて......」

 

「...............」

 

「でもしーちゃんはこう言って来たッス。「私任せじゃなくて自分で決めなよ。私と違ってツユクサにはまだ待ってる人が居るんでしょ、だから早く」って」

 

「それで」

 

「ウツギたちの所に行くっつったら目が覚めて......後ろにあいつが居たからぶちのめしたッス!」

 

 ツユクサが言い終わった時には車は森の中を走っていた。ウツギは看板の表示に従って細い路地に車を進める。程なくして少し木々が開けた場所に到着する。

 

「着いたぞ。看板に艦娘団体霊園の文字......間違いない」

 

「ッス。あんがと」

 

「気にするな。どうせ暇だったんだ」

 

 車に積んでいた紙袋をそれぞれ一つずつ持って、二人は車を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「広いッスね」

 

「当たり前だ。戦死した艦娘で研究用に解剖する提供された遺体以外は全部ここに眠ってるんだ。それに艦娘以外の普通の霊園としても使ってるらしい」

 

「ふ~ん。......綺麗だな」

 

 不謹慎だぞ、と言おうと思ったが、実際広々とした霊園の景色は手入れの行き届いた樹林が青々としていて、かなり景観が良く、自身もそう思ってしまったウツギが口をつぐむ。

 数分ほど墓地を彷徨(うろつ)き、やっと目当ての、かなり大きな小豆色(あずきいろ)の磨き抜かれた墓石が使われた、大きさのせいで墓と言うよりも慰霊碑(いれいひ)のような墓を見つけ、二人がその前に立つ。

 

「佐世保鎮守府・艦娘之墓......ね」

 

「これか。しかし大きいな」

 

 墓石の両端に設置された表面が黒く塗ってある花崗岩(かこうがん)の板に、いくつか連なって彫られている艦娘の名前の中に「島風」の二文字の彫刻を確認して、ツユクサは紙袋を地面に置いて中から花束を取り出す。

 

「よっ......と」

 

「何の花を持って来たんだ?」

 

「ガーベラっス。冬の仏華(ぶっか)らしいッスから」

 

「わざわざ調べたのか。珍しい......」

 

「失礼ッスね、それぐらい考えるわ」

 

 橙色(だいだいいろ)、白、桃色、紫といった色が集まった花束を、ツユクサがウツギの発言にそう反論しながら墓に備え付けてあった花瓶に挿す。

 

 そしてそのまま二人は両手を合わせて黙祷(もくとう)をする。

 

 計測すれば二分にも満たない時間だったが、ウツギには、目をつぶっているこの時間がやけに長く感じた。

 

 

「.....................」

 

「......帰るか。」

 

「うん」

 

 二人がもと来た道を戻って駐車場に行こうと身を翻したその瞬間。「やべっ!?」と誰かの声が確かに耳に入る。この声は......

 

「...え?......今の」

 

「!!」

 

「あっ、ちょっと!?」

 

 声が聞こえた方向に向かって、ウツギは空の紙袋を両手に走っていく。後ろでは地面に敷かれた砂利に何かがぶつかる音と「痛ってぇぇ!!」という悲痛な叫びが聞こえてきたが無視して、速度を緩めずにそのまま走る。

 角に合った墓を曲がった場所に居たのは

 

 

「............」

 

「あっ.........て、てへぺろ☆?」

 

「......はぁ......ツけられてたのか」

 

「えへへ......ご主人様たちも居るヨン?」

 

 だろうな。

 大きな墓石の陰で(かたわ)らに松葉杖を置いてしゃがんでいた人物......漣を見つけたウツギが溜め息をついて、少し離れた場所でも隠れていた自分の上司や戦友達の姿を見てそう溢す。

 さて。......勝手に車を使ったことにどう言い訳をしようか。一日前は全員が疲労困憊(ひろうこんぱい)といった様子だったので午前中に戻れば大丈夫だろう、と軽く考えていたウツギが弁論のネタを考えていると、此方に歩いてきた深尾が口を開いた。

 

「どう言い訳しようかって顔してるな」

 

「出てたか?」

 

「いや適当に言っただけだ。安心していい、別に叱りに来たんじゃないんだ。俺の車でバカンスでも行ってたんなら話は別だったがな」

 

「墓参りだからいいと?」

 

「おう」

 

「いいのか。こんなに優しくして......」

 

 ウツギが少しばつが悪そうにそう言うと、深尾は優しそうな笑顔で言い返した。

 

「良いんだ。いつも仕事頑張ってくれてるじゃないか。正直あそこまでハードワークなお前ならバカンスでも許してたかもな」

 

 「少しくらいヤンチャしたって構わないさ」。深尾がそう言ったとき、先程転んで怪我をしている部分を打って痛みにのたうち回っていたツユクサがウツギの後ろに来る。更に今度は深尾の背後に、アザミ、天龍、球磨、木曾、明石、若葉......と続々と集まり、季節も相まって殆ど人が居なかった霊園がほんの少し騒がしくなる。

 

「ウツ」

 

「ストップだ時雨。静かだ。静かに言え。ここは墓場だ」

 

「.........!...ウツギさん、なんでツユクサと二人だけで行ったんだい?」

 

「ツユクサ、出番だ」

 

「えっ!?......いや、その......なんか恥ずかしくて」

 

 「はぁ?」。その場に居た人間の半数ほどがそう言う。ウツギの予想通り、「ツユクサが墓参りなんて変だ」等と笑う者は皆無だった。天龍の「何が恥ずかしいんだよ」という言葉にツユクサが返す。

 

「いや、ガラでもない事やってっから笑われないかな~と思って......」

 

「ふん」

 

「あだっ!何すんだ若葉!」

 

 ギプスで固定されたツユクサの腕を軽く叩いて、若葉が周りにいた漣や田代といった面々を見ながら発言する。

 

「お前も大概バカだな。バカもバカのオオマヌケだこのバカチン」

 

「ンだと!?」

 

「何が笑われるだ。そっちのほうが笑えるぜ。ナァお前ら?......ンフふふ♪」

 

 若葉の発言に、ウツギとツユクサを除いた全員が深く頷き、天龍がツユクサに向けて口を開いた。

 

「誰も笑うわけねーじゃねーかよ。つか笑ったやつはブッ飛ばすわ」

 

「うン......」

 

「そうヨ!だってさ、ツユちゃんと私達ってさ」

 

 

「友達じゃん?」

 

 

「相手に最低限の礼儀ってモンを尽くすのは友達なら当たり前のことっしょ!」

 

 

 漣の発言にツユクサが涙を流し始める。

 

「......ぅ...」

 

「あぁ!?ツっ、ツユクサさん大丈夫すか!傷が開いた!?鎌田先輩!!」

 

「いえ聡さんそれは違うと思いますが......」

 

「っ......ッス。タッシーアタシは大丈夫ッスよ」

 

「やーいやーい漣が泣かせた」

 

「えぇ!?しぐっちそれ酷くない!?」

 

 ツユクサが泣き出したのを切っ掛けに、どっと......まではいかないが場が賑やかになる。それを見ていたアザミが毒を吐き、そんな彼女の隣にウツギが来て喋る。

 

「......どいつも......馬鹿......」

 

「だな......でも悪くないと思う。こういう空気」

 

「............」

 

 いい友達が沢山居るじゃないか。良かった。ツユクサ。

 ウツギの視線の先で、ツユクサは動かせる腕で涙を拭い、こう言った。

 

「みんな」

 

 

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

着任一年目の艦娘全てが強制参加となる特別任務、

「冬季北海道遠征」の参加書類が届く。

極寒の北の大地、白い水平線。

シエラ隊を、厳しい冬の自然が待ち受ける。

 

 次回「RD」。 凍りついた記憶が目覚める瞬間。

 




終わった~。余談ですが五章はもっと長引く予定でした。
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