資源再利用艦隊 フィフス・シエラ   作:オラクルMk-II

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お待たせしました。ゲームにうつつを抜かしすぎた......


姉の面影

 

 

 

 

 午前11時。訓練中の事故で負傷したウツギは泊地の医務室で治療を受けていた。

 千切れた腕と断面が綺麗に残っていたため、修復材は極力使わないようにと行われた左腕の縫合(ほうごう)が終わり。局部麻酔を打たれてベッドに横になっていたウツギが、手術を担当した白いジャージの上から白衣を羽織った艦娘から怪我についての緒注意を聞かされる。

 

「終わりました。もう起きていいですよ。今日一日はあまり動かしたりできないと思います......。あ、あとお風呂は明後日まではガマンしてください」

 

「どうも。......これ、ちゃんと繋がっているんですか」

 

 綺麗に真っ二つとは言え、こんな短時間で簡単にくっつくものなのか。

 上着を脱いで黒いランニングシャツ姿だったウツギは、ギプス代わりの雑誌が巻かれて固定された、自分の二の腕にある厳つい縫合跡の上に貼られたガーゼを弱くつねったり撫でたりしながら、ジャージの艦娘に聞いてみる。以前、反対の腕が吹き飛んで入渠で治したことがあったが、千切れた腕を縫合するなんてことは初めてだったので少し心配になったのだ。

 

「繋がってますよ。えーと......正確には今日繋がります」

 

「はぁ......」

 

「傷の断面に修復材を塗布してから縫ったんですけど......艦娘の修復材って、傷を合わせる接着剤みたいな役割も有るんですよ。知ってました?」

 

 「でもこれだけの大怪我を見たのは初めてですけど......」。ジャージの艦娘が苦笑いをしながらそう言ったので、愛想笑いを返しながら、本当に大丈夫だろうかと尚もウツギが傷跡を見ながら不安になる。

 そんなとき、扉越しにツユクサの声が聞こえてきた。手術中も待っていたようだ。

 

『すんませーん、入っていいスか?』

 

「あ、はーい。良いですよ」

 

 珍しく真面目そうな顔のツユクサと、ウツギの腕が犠牲になった原因である響が部屋に入ってくる。響の方はどこか具合が悪そうな顔をしていた。

 

「失礼します。ウツギ、大丈夫ッスか」

 

「なんともないよ」

 

「ごめん。誤操作した子にはキツく言っておいたから」

 

「そんな、大袈裟じゃないですか?」

 

「いや、これはこっちのけじめだから。シャッターも軽くて強度が弱いのに交換することになった」

 

 「そうですか」、と返事をしたものの。内心、やりすぎじゃないのか?とウツギが思う。一般的に見れば腕の切断など大事故だったが、いままで幾度となく死にかけたせいで少しマヒした彼女の感覚では軽いものに思えたからだ。

 

「上着、お返ししますね。あと、こっちが鎮痛剤と止血剤です。もし......無いとは思うんですけど、縫った場所が取れたりしたら、二の腕に止血剤を注射してください。かなり強力な薬なので興味本意で使ったりしないでくださいね」

 

「わかりました......訓練はどうなったんですか?」

 

「そんなもん中止だよ」

 

「中止......ですか」

 

 てっきり血まみれになった道を通行止めにして続行するのでは?と考えていたウツギが顔に表情が出ない程度に驚く。

 

「うちの司令官がうるさいんだ。特にこーいうことがあった......」

 

 響が何かを言おうとしたのを遮り。部屋の扉の先から妙ちくりんな怒号が聞こえてきた。

 

 

『Nooo!!チャンビキの恩人は!?無事なのカイ!?』

 

『提督、ここ医務室ですよ!?お静かに!!』

 

『Youも大声出してるジャンかYo!!』

 

 

「ホラ、言ったそばから」

 

「............」

 

 どんな奴だ。

 外から飛んでくる軽薄そうな声を聞いて。ウツギは眉を潜めツユクサは真顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイアマッ、ナンバワンアドミラァーッ~♪城ッ島(じょうしま)大智(だいち)だYo♪」

 

「一般ピィーポォーは俺の事を伝説の提督......「J(『城』島)D(『大』智)」って呼んでるぜ。シ・ク・ヨ・ロ・Na!」

 

「嘘は良くないよ司令官。「自称」伝説でしょ」

 

「non・non。ビキが知らないだけSa。チャンボクのアツいビートは深海のヤツラだって熱狂するんだゼ?」

 

 

「「...............」」

 

 どう、反応すれば正解だ......?......こんなフザけた男が海軍に居たとは.........そういえば装甲空母姫が会って挨拶を済ませたと言っていた......彼女はどう思ったんだろうか。

 目の前でリズムにノリながらふらふらしている......サングラスにオールバックにしたドレッドヘア、季節外れのアロハシャツという姿の......一見しただけではどう見ても軍属には思えない男を見て。ウツギとツユクサは思考が止まっていた。

 

「っと、無駄話は終わりだ。君がチャンビキの命の恩人だロ?」

 

「......命の恩人なんて。体が勝手に動いただけですよ」

 

 チャンビキ......?.........あぁ、「響ちゃん」か。

 サングラスを外しながらそう言ってきた男の、妙な言葉遣いにたじろぎながらも。ウツギが、堀が深く外国人的な雰囲気が漂う目の前の男に動かせる右手を振りながら返事を言う。

 

「Oh~~、勝手にだって?ますます気に入っちゃうねぇこいつぁ~♪なかなか居ないYo、ウツギチャンみたいな自己犠牲が簡単にできる子はサ」

 

「自己犠牲なんかじゃ無いですよ。......私は、流石に死にはしないだろうなと思ったからやっただけで......」

 

「でも怪我はした」

 

「え?あ、はい」

 

「こりゃケジメだ。悪かった。俺らの不注意でな。訓練なんぞサボっていい、この場所で観光でもしてってくれ」

 

 相手がそう言って手を差し出してきたので、特に嫌でもなかったウツギは握手に応じた。そして次に彼が言ってきた言葉は......

 

「で、この件とは別に頼みたいことがあってだネ......」

 

「嫌です」

 

「ヘェアッ!?」

 

 あ、やってしまった。......どうしよう............。疲れてるのかな?

 大方ろくな事じゃないんだろうな、と内心決め付けて、それが外に出てしまったウツギの額から冷や汗が流れる。するとツユクサが空気を読んですかさずこう切り返す。ウツギは心の中でツユクサに称賛と拍手を送った。

 

「頼みって?なんスか?」

 

「えぇぁ、あの.........軍きっての有名人のサインが欲しいなって......」

 

 .........それだけ? 

 アロハ男が色紙とサインペンを取り出して見せてくる。何か重要な案件だろうと思って考えた予想に反し、意外と大した頼みではなかったことに肩透かしを食らうウツギだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。また付き合ってもらっちゃって」

 

「問題ない」

 

「......ふーん。」

 

 泊地玄関ホールにある喫煙スペースにて。

 響から、またお喋りに付き合ってくれと言われ、二つ返事で了承したウツギは、ツユクサや例のDJ提督と別れてこの場所に来ていた。

 時刻は昼飯時真っ只中ということもあり。喫煙所にあった椅子に座り、数分前に秋津洲が気を利かせて片手で食べられるようにと持ってきたサンドイッチを味わいながら、ウツギが何気ない会話を響と交わす。

 

「今日は何について話すんだ。謝罪はいいぞ。聞きあきたから」

 

「謝らないと気が済まないと言ったら」

 

「......勝手に言えばいい」

 

「じゃあ.........本当にありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 利き腕じゃないとはいえ、片手が不自由なのは不便だな。会話と食事を交互にやりながらそんなことをウツギが考える。ふと彼女が横を向いて響の顔を見たとき。目と目が合う。

 

「.........何か顔に付いてる?」

 

「いや別に」

 

「......すぅ~.........ハァァァ......」

 

 喫煙所に響の口から吐き出された副流煙が蔓延する。性能のいい空気清浄機が何台か設置されていたとはいえ、狭い曇りガラス張り部屋の中にタバコの匂いが充満し、ウツギが少しむせそうになる。

 

「前にさ」

 

 唐突に響が告げ、ウツギが彼女の声に耳を傾ける。

 

「似たようなことがあったんだ」

 

「......似たようなこと?」

 

「聞きたいんでしょ。姉さんのこと」

 

 「暁のことか」。ウツギの呟きに響が無言で頷き、そのまま彼女が煙草を吸いながら続ける。

 

「ちょうど一年前。遠方進軍作戦だとかでこっちに来てた部隊が居てね。敗走するその子達の尻拭いに出たときだったんだけど」

 

「なんて言えばいいんだろう。とにかく色々あって私を庇って死んだ」

 

「..................」

 

 存外、淡々と言ってしまうんだな。......言葉を飾ることに意味はないと言ったところか。

 実の姉の死を、何てことのない思い出話の一つのようにあっさり言う響へ。ウツギが考え事をしながら声をかける。

 

「悲しくなかったのか」

 

「悲しかったさ。あまり思い出したくないけど......今日、思い出す出来事が起きた」

 

「......ごめんなさい」

 

「なんで謝るのさ。助けてくれたのに」

 

「......しかし...」

 

 吸い終わったタバコを、机にあった灰皿に押し付けて火を消し、ゴミ箱に放ってから響が口を開く。

 

「これはさ。神様からの警告なんだ」

 

 

「忘れようとした私への罰なんだよ。きっと」

 

 

 言い終わると、そのままそそくさと響は喫煙所を出て何処かへ行ってしまう。

 

 

 

「...............」

 

「暁。............響を......貴女ならどう励ます。教えてくれ」

 

 本人は果たして気づいていなかったが。響の頬を、一筋の涙が伝っているのを。ウツギはしっかりとその目に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一年前の今頃。全てに絶望してただ風雪にうたれていた。

今日の朝。姉に似た女に救いの手を差し伸べられた。

氷付けの魂が、ゆっくりと溶けていく。

 

 次回「白い水平線」。 あの雲の向こうまで、行けるかな。

 




しんみりした話にしない予定がしんみりした話に......
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