ウツギ「食べるか?」
ツユクサ「なんスかそれ?」
ウツギ「食用ミルワームだ」
ツユクサ「絶対にいらないッス!!」
大規模作戦が艦娘側の勝利に終わった日から二日後。シエラ隊の面々は船で手当てを受けたあと、ウツギとツユクサは破損した艤装を詰め込んだコンテナを背負い、駆逐艦の艤装で第五鎮守府に帰投していた。
二人は今、鎮守府の艤装保管室でシエラ隊が二日間鎮守府を空けていた間に配属された工作艦の艦娘「明石」に「青葉」と「摩耶」の艤装の修理が可能かどうかを聞いていた。三人の周りには深尾や他の部隊メンバーも居る。
「うえぇ~悲惨......。何されたらこんな壊れかたするんですか......」
「直りそうか、明石さん?」
「大丈夫ッスか?」
「ちょっと厳しいですねぇ~......って言うか船で何か言われなかったんですか?」
明石がドライバーと普段日常では目にしないような大きいペンチで無理矢理壊れた艤装を分解しようと四苦八苦する。作業を続けたまま、彼女が二人の艤装の破損具合に顔をしかめながら聞いてきたのでウツギが答える。
「......それが」
「修復材じゃ直せないって言われたッス」
言葉に詰まるウツギの代わりにツユクサが答えると、その返事を聞いた明石が持っていたドライバーを放り投げて溜め息をついた。
「それ、遠回しに無理だって言われてますよ。ここよりあの船設備整ってますから」
「なるほど。確かに、あの船は前線基地の代わりまでできるからな。こんな新設されたばかりの弱小鎮守府より良い設備があって当然か」
「あ、いや...提督そんな意味じゃなくて......」
「いや、良いんだ。当たり前なことだしな。それより使えそうな部品なんかは残っているのか?」
今度は深尾が強引に分解された艤装の部品を手に取ると、それを弄りながら明石に質問する。
「これだけ滅茶苦茶にされてたら......言いづらいですけど両手で数えられるぐらい残ってたら万歳するレベルですね......。正直こんな状態で海に浮けること自体が奇跡に近いです」
「そうか...解った」
深尾は手で弄んでいた、あり得ない方向へ折れ曲がった連装砲の砲身をもともと置いてあった場所へ戻す。そんな深尾を見ていたウツギが口を開く。
「提督、すまない。自分の不注意で艤装がめちゃくちゃだ。始末書でも雑用でもなんでも言ってくれ」
「ん?なんだ、いきなり?」
「なんだ?って.....。この艤装は上が送ってきた物で、自分の物じゃない。然るべき罰が私には......」
「プッ...あっはっはっはっはっはっは!」
ウツギはいきなり笑いだした深尾に驚く。そして何が可笑しいのかがわからず、首をかしげる。
「はっはっはは......ふぅ、相変わらず真面目だなお前は。逆だよ逆、上はお前とツユクサ......いや、お前らシエラ隊を褒めてたぞ」
「はぁ?「あいつ」に手も足も出ないどころか全滅しかけたのにか?」
深尾の発言を聞いて天龍が「あり得ない」と言う。ウツギも何故自分達のような無様に敵に蹂躙された艦娘の集まりのどこが上に気に入られたのか検討がつかなかった。「なんでお偉いさんがお前たちを褒めるのかがわからんって顔してるな」と、深尾がこちらの心を読んで続ける。
「っと。これ、何なのかお前たちも知ってるよな」
深尾が近くに置いてあった漣の艤装から何かを取り外す。
「何って、艦載カメラですよねご主人様?」
「そう、お前の言う通り艦載カメラだ。演習の反省や、新人に実戦の流れを教えるためとかに、手練れの艦娘なんかが自分の海戦の様子の録画に使ったりする機器だ。お偉いさん方がな、お前たちが船で怪我治してるときに......ウツギとツユクサ、あと天龍のはぶっ壊れてたから観れなかったらしいが、周りで観てたお前とアザミ、島で腰抜かしてた艦娘達の録画映像を見て顔を真っ青にしたそうだよ。そして「よく生きて帰ってきてくれた。この資料のおかげて新たな脅威に対して対策が練れる」ってね」
「そう言うことか......自分達はちょうどいいサンドバッグ役になったわけだ」
ウツギは理由を知ってため息をつく。深尾も「まぁこれを知って嬉しいと思うやつは少数派だろうな」とひきつった笑みを浮かべて言う。
「あとは今回出てきた見たことないヤツだが、上が正式に「戦艦レ級」って付けたそうだ。そしてそれとはまた別に名前をもうひとつ。どうやら他の艦娘も少しだけ交戦したらしくてな、航空機を持ち、魚雷が撃てて、近接攻撃までお手の物と来たあいつのことを「完璧かつ、たった一人の艦隊、
「あぁ~駄目だっ!もう無理です」
深尾が長々と説明しているとき、黙々と分解作業をやっていた明石が汗をぬぐって工具箱にペンチを投げ入れてそう言う。
「まだ半分もバラせてなくないか?」
「無茶言わないでくださいよ!もうこれ以上は無理です!」
深尾が持って帰ってきたままの状態とほとんど変わっていない艤装を見て疑問を口にすると、明石が顔を真っ赤にして怒鳴ったので深尾が気圧される。
「う......!そ、そうか、無知なクセに口出ししてすまん」
「あっ...!あぁいや......その......すいませんでした!!」
「いやいいんだ。俺が何も知らないのに変なことを言ったのが悪い」
怒鳴ったことを謝る明石と、その明石にも謝る提督のやりとりを無視して、ウツギはぐちゃぐちゃに壊れた「青葉」の艤装をじっと見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、ウツギが今日の秘書艦を任されていたツユクサの代わりに執務室に来いと深尾から言われていたので部屋の前にやって来る。
部屋に入り、挨拶を済ませたウツギはすぐに深尾が座っている席の隣の机の椅子に座ると、慣れた手つきで書類を捌いていく。仕事を続けたまま、ウツギは気になっていたことを深尾に聞いた。
「今日の秘書はツユクサだったはずだ。なんで自分を呼んだんだ」
「あいつは仕事ができないからだ。以上」
まったく抑揚の無い棒読みで深尾が返答する。何かを察したウツギは「そうか」とだけ言って、仕事に集中した。もっとも頭のなかにはぐちぐちと文句を垂れながら書類に悪戦苦闘するツユクサの様子が浮かんだが。
そんな邪念は気にせず、ウツギは処理する書類を半分ほど終わらせた頃、隣の深尾がパソコンの画面をみて「なんだこれ?」と言うのが聞こえた。またなにか面倒事だろうか。
「なんだ?また何か厄介な事にでも巻き込まれそうなのか?」
「......悪いがその可能性が高そうだ」
そう答えた深尾が横を向いてウツギを見るとあからさまに嫌そうな顔をしていたので一瞬びくりとする。が、すぐに心を落ち着かせた深尾が放送で、ウツギ以外の艦娘を全員執務室に呼ぶ。
「また面倒な事に付き合わされるのか......」
「......何かごめんな」
「いやいい。戦うのが自分達の本当の仕事だしな。それで何が送られてきたんだ?」
眉間に少しシワを寄せたままウツギが深尾に聞いた。
「救援要請のビデオメールだよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
執務室に集められたシエラ隊と明石が目の前のパソコンの画面を覗き込んでいる。全員居ることを確認した深尾が、「じゃあ、再生するぞ」と言って、ビデオメールの再生ボタンを押した。
# # # #
『緊急通信!!こちら高速艇アレックスだぜ。エリア27区の無人島の近くで攻撃を受けている!!誰か助けに来てくれ!!』
『木曾、なぁに焦ってるクマ~もっとリラックスするクマ~』
『いや撃たれてるって!?』
『撃たれてるなんて物騒なもんじゃないクマよ~きっと歓迎の花火のどでかいやつクマ』
ドゴーン!!
『うわぁおぉ!?そんなわけあるかぁ!!この砲弾の雨が花火だってか!?姉貴頭おかしいんでねぇの!?』
『なぁに、当たっても最悪どーせ死ぬだけクマ~』
『死んだらおしまいじゃん!!っ!?うわぁぁぁヤバイ!!ミサイル!ミサイル飛んできてる!!』
『ヴォォォオオオ!?こんなとこで死にたくないクマァぁぁぁ!!』
『球磨姉さっきと言ってること違うじゃねぇかぁぁぁぁ!!』
『『き、緊急脱出ぅぅ!!』』
# # # #
動画を見た全員が真顔になる。部屋が完全に静まり返ってから十秒ほどたってからツユクサが口を開いた。
「なんか非常事態の割には楽しそうだったッスね」
ツユクサのもっともな発言に深尾が頭を抱える。すぐ隣に居たウツギは深尾の「なんで俺のとこにはこんなのばっかり...」という愚痴が聞こえたが無視した。
「......エリア27はここからそう遠くない。助けに行ってやれ......あぁ、明石も連れていってな。怪我してるかも知れない二人を手当てしてやれ......」
「了解」
深尾が頭を抱えたまま、シエラ隊に出撃命令を出す。ウツギはなるべく何も考えないようにして、出撃するため部隊員を引き連れて部屋から出ていった。
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SOSを発信した艦娘の救援のため、ウツギ達はエリア27へ。
そこで会った艦娘の、ある「依頼」によって、
彼女たちはまた新たな戦地へ赴くことになる。
次回「汚濁」 腐敗、ここに極まれり。