「たーすけてーーウッチーーー」
「.....................」
「きゃーー乱暴されちゃうーーー」
「....................................。」
鎮守府のすぐ近くの海上にて。誰よりも早く現場にやって来たウツギが、若葉に羽交い締めにされ、首もとに刃物を突きつけられている漣を薄目で睨む。
ウツギが、若葉ではなく、あえて漣をめんどくさそうな表情で見つめる理由は明確だった。......そう。何かの演技だと言うことがすぐにわかってしまったのだ。
「............ドッキリか何かか?」
「へ!?な、なんでわかったの!?」
「とんだ大根役者で残念だな......若葉」
お得意の化粧で顔面を白く染め、何の意味があるのか、顔の三ヶ所に目の模様を書き入れていた若葉が、軽く舌打ちして漣を放す。
わざわざ芝居なんぞうって......何が目的なのだろうか。ウツギが考えていた時。ため息と笑い声混じりに若葉が話し始める。
「くくく......ん~...もう少し粘ってくれれば良かったんだがね......」
「ごめんちゃい」
「もういいぞ。下がってろ......ウツギ、なんで呼ばれたのかわからないって顔だナ?」
「そりゃあそうだ。何がしたい」
「簡単に言おうか」
若葉は持っていたナイフ......よく見ればパーティ用のジョークグッズの類いのそれを漣に渡して、後方の海上に停まっていたボートまで彼女に下がらせると、声を張ってウツギにこう言った。
「若葉でも、サザンカでもなく、だ」
「レ級として、お前と喧嘩がしたいんだ......うふふ。引き受けろよ?」
「..................」
なるほど。演習がやりたい、と。そういうことか。
「どうせ誘っても蹴るだろうからな、引きずり出してやったんだ」。若葉の口から出てきた言葉に、確かに、と一人納得しながら。ウツギが帽子を被り直しながら返事をする。
「......わかった」
「ならいい。すぐにやるぞ?」
「弾を交換してくる。実弾使用は禁じられ」
「ウフふハはは......♪。ジョーダンよせよ......優しい優しいお前のことだ、痛かないよーに......って、どーせ最初から塗料弾だろ?」
「............!」
しまった。バレてたか。砲弾の交換を口実に逃走する算段が、ものの数秒で崩れ去ったことに、ウツギが冷や汗をかく。
そしてそう考えていたのも見透かしてか、若葉が続ける。
「それにだ。ウツギ......後ろをよく見てみるんだ......ンフふ♪」
「後ろ?」
言われた通りに、首を動かしてウツギが後ろを見てみる。視線の先には、鎮守府に所属しているほぼ全員が笑顔で、横並びで旗を振っているのが見えた。どうやら逃がすつもりは無いらしい。
.........しょうがない。やるしかないか。
溜め息をつくと同時に、ウツギは空いていた左手にスナイパーライフルを持って、戦闘に備えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハァ、ハァ.........ごほっごっほ...ぐっ.......!」
「ふフ............どうした、もう終わりか」
元気なもんだ。一体何時間やってると思っているんだ......。流れ落ちる汗を飲んでしまい、咳き込みながら、ウツギが心の中で口をこぼす。
演習......というよりは、若葉のわがままで始まった一騎討ちは、開始からすでに8時間程が経過していた。頑なに引き撃ちを続けるウツギを若葉が追従するという形での戦いだったため、決着がなかなかつかなかったからだ。
常軌を逸した超長期戦は、お互いに水を飲み、艤装の燃料補給を挟んでまで続き。朝から始まったのにも関わらず、周囲は日が暮れて薄暗くなっていた。
流石に体力の限界が近づき。この終わらない喧嘩にうんざりしていたウツギが、若葉にこんなことを言ってみる。
「フゥーッ......若葉、もう終わりだ。夜間演習は準備に時間がかかる」
「..................♪」
「若葉聞いてたか」
返事を返さなかった若葉が、右手を上げる。すると、突然周囲が何かで明るく照らされる。「何だ?」。ウツギが空を見上げると、五台ほどのヘリコプターが巡回しており、更に今度は後方を見てみれば、艦娘達が小型クルーザーの上でサーチライトを抱えているのが見えた。その中に球磨にどやされながら、電気を担いでびくびくしているリコリス棲姫を見つけたが無視した。
こんな大掛かりなセット......一体この演習は自分の知らないところで、いつから準備されていたんだ.........。ローターの駆動音を響かせて飛び回るヘリコプターへ、白い目を向けながら。ウツギが疲れきった脳味噌でそんな事を思う。
「大型サーチライト付きのヘリに、これまた電飾付きのボート......いつから用意してたんだ」
「くクくふふ.........是非とも、準備を手伝わせて欲しいって奴が居たのでねぇ.........」
「援助だと......?一体だれが......」
『ふっふっふー......私かも!!』
「......なに?」
無線から流れてきた秋津洲の声に、ウツギが顔をしかめる。飛んでいた中で一番大きいヘリコプターを見ながら、「余計なことをしやがって」と彼女が思ったのは言うまでもない。
『ウツギちゃんたちの、軍への貢献度は計り知れないかも。元帥のおじさまも、その程度のわがままは呑んでやれ。って、言ってたかも!』
「..................」
「フフふフ.........どうだ、ヤル気になったか?......まだ暗くて見えん、と言うなら、潜水艦どもに水中から照らさせるが?」
.........もうヤケだ。終わるまでやってやる。
両手で顔を軽く叩いてから。ウツギが叫ぶ。
「.........っ、上等!!」
「それでこそ!!」
心の底からこの戦いを楽しんでいると思われる、こちらに突っ込んでくる若葉へ。視線を飛ばしながら、ウツギは身構えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三点バースト、弾切れ。背中の砲、弾切れ。銛は外してきた。魚雷、弾切れ。ライフル、若葉に真っ二つ......全部弾切れ。残ったのは錨と斧ぐらいか。
開始から8時間、そして日が落ちてから30分。とうとう引き撃ちのための砲弾が全て無くなって。ウツギは若葉からいくらか距離を取った場所で一旦止まって、腰に手斧が固定されいる事を確認してから、持っていた重火器を全て海に放り投げた。
そんなウツギの様子を見て。若葉が一瞬驚いたような顔をしたかと思えば、またすぐに基地外染みた笑顔に表情を戻して、こう言ってくる。
「ほ~♪......弾が切れたか?」
「そうだ......ともッ」
あっ......ぶない。
口を開きながら、相手がこちらに突っ込んできて振り下ろしてきた薙刀を、寸でのところで、ウツギは両手に持った手斧で食い止める。
その鍔迫り合いに近い状態から、ウツギは十字型の槍先を斧で引っ掻けて吹っ飛ばそうとする......が、そこにばかり気をとられていたため......また疲労で正常な判断が厳しかったこともあって。相手がこちらを蹴り飛ばそうとしてきたことに気付けず、鳩尾を蹴られて数メートルほどウツギがライトアップされた海面を転がる。
「......ゲホッ...ゴッ......!」
「まだまだァ!!」
「ふぅぉぉ.........!?」
以前、装甲空母姫と船の残骸の中で戦ったときのように。寝そべった状態のまま、ウツギは飛びかかって来た若葉が喉元に下ろしてきた刃物を、また斧の溝に噛ませて勢いを殺す。
「楽しいねぇ、ウツギ.........喧嘩とはやはりこうでなくては面白くない.........!!」
「楽っ......しい.........ワケっ!」
仰向けの状態から、今度はウツギが若葉の真似をして、腰に跨がっていた相手の顎を容赦なく膝で蹴り飛ばす。
「モゴァッ!?」と、なんとも形容し難い妙な悲鳴をあげ、若葉が持っていた得物を手から落とし、上半身を仰け反らせて痙攣する。
これで反撃に移れる。ウツギが起き上がろうとすると。
バネ人形のような気持ちの悪い動きで、凄まじい勢いをつけて若葉が頭突きをしてきた。
大量の汗と鼻血を垂らしながら、ウツギが海面に倒れる。
ウツギのその様子を見て。若葉は立ち上がり口から血を吐き出すと、今度は得意気に話し始める。
「プッ......フウゥゥゥゥ.........」
「...............」
「喋る気力もないと?」
「...............」
「はっハはは♪......そうか、若葉の勝ち.........かッ......♪」
喋り終わった途端に、若葉もまた疲労が蓄積していたためか。ゆっくりと、ウツギの隣に盛大に水飛沫を立てて崩れ落ちた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「満足したか」
「あぁ......引き分けか。つまらんなぁ......」
「馬鹿か。お前の勝ちだろうに。疲れすぎて、頭まで狂ったか」
「狂っているのはもとからさ」
「それもそうだな」
「ウフフふ.........なぁ、ウツギ」
「何?」
「いつもありがとう。」
「どうしたいきなり。気持ち悪い」
「ふふ、礼を言っただけでこれとは......手厳しい......ぐっ、ごほッ!!」
「大体、何の礼だ。そこがわからないよ」
「友達になってくれたこと」
「なんだ、たったそれだけか?」
「たったなんてもんじゃ無い......。若葉の本質は臆病者さ。......それこそみっともなく、いきなり小便漏らしそうなほど」
「毎日ビビりまくりだ......ガクガク震える足元から崩れていきそうなぐらい、毎日ビビってる」
「悩んでも、怖くても、死にかけても、泣いて......はいないか。お前となら笑って越えられた―――」
「だから礼を言った......どうかナ?」
「なら、そんな態度取るんじゃない。何度騙されたことか.........わりと、励まされていたのは自分のほうなんだが?」
「くくく......なるほど。お互い、知らずに助け合っていたわけか」
「......ふぅ、帰るぞ。いい加減にな。」
「...ウツギだ。.........疲れすぎて立てない。誰か来てくれ」
「五分後に、ツユクサ達が来る.........あと。若葉」
「どうした」
「............これからも。背中を頼む」
「......フフフッ......ははハはは♪.........任せな」
最終回でした。
まさか初投稿でこんなにロングラン、そして閲覧、評価、感想がつくなんて全然思ってなかったので、作者は嬉しさで泣きそーです。
約半年間、閲覧者の皆様。評価、そして感想を送って頂き。本当に御愛読ありがとうございました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
むせ返る湿気。怒号。毒蛇。闇からの銃弾。楽園などとは程遠い、緑に覆われていても、ここは地獄だ。パラオの島にきわどく涼しい風が吹く。コラボレーション企画、「
資源再利用艦隊 フィフス・シエラ、新章『パラオ攻略戦』。お楽しみに。