「...............」
「.........うぅ...ひっぐ...」
......これから、どうなるんだろう。とりあえず生き残ることはできたけど......。
新人たちがことごとく殺されていった、地獄の演習......アザミやステラに言わせれば演習などではなく、「どれだけ死にづらいかを確かめる実戦」を越えて。二人は今、待機を命じられ、埃っぽいあまり使われていなさそうな小部屋に居た。
他にも、恐らくは辛うじて敵前逃亡に成功して生き残ったと思われる艦娘と、胸と顔から血を流してぐったりとしている艦娘といった者も居り、ステラは倒れた艦娘を見て顔をしかめ、アザミはすすり泣いている艦娘の背中を撫でていた。
「......みんな...みんな死んだ.........!」
「..................」
「...何が適性検査よ......立派な大量殺人じゃないのよ......ぅぅ......」
「..................」
自分の前で死人のように血まみれで黙って寝ている艦娘を前に、目の回りが赤く腫れるほどずっと泣いていた艦娘の言葉を聞き。アザミは彼女の背中を撫でながら、静かに怒りを燃やしていた。
持ち込んだカメラで戦闘の録画はやった......あとは適当に調べて脱出するだけ。
さて、暴露してここが崩壊するのが楽しみだ。アザミがそんな事を考えていたとき。部屋の扉が開き、背が高く体格のいい男が何人か入ってきた。よく見れば、佐伯が見せてきた動画に映っていた「ヤツ」の姿もあった。
入って来たうちの、富川の部下と思われる人相の悪い男が口を開く。
「「共食い」の結果、帰還者二名、他生存者二名。しかし一人重傷で助からんでしょう。21名中、3名。1/7の確率の生存者は、まぁ最近ではマシなほうでしょう。いかがですか司令?」
「......駆逐と軽巡だけか?」
「ええ。戦艦は集中砲火で蜂の巣、重巡は背中を向けたせいで、それは無惨な姿で死にました」
男達に、アザミとステラが白い目を向ける。が、どうやら二人ともそれが表情に出てしまっていたらしく、察知した男の一人が怒鳴る。
「気おつけェい!!」
「..................」
もとから立っていたステラが嫌々相手に敬礼。座って艦娘の面倒を見ていたアザミは面倒くさそうに立ち上がり、礼をせずに富川に視線を飛ばす。
「貴様!富川司令に礼を」
「いやいい」
「は?」
「いいと言っている。少し彼女と話がしたい」
アザミに向かって怒鳴る部下を制し、富川はその近くに寄って、楽しそうに顔を歪めながら声をかける。
「......君のことは見ていたよ。上からじっくりとな」
「............」
「素晴らしい腕前だ。君のような人材を、ぜひとも欲しいと思っていたところだ。我が隊には駆逐艦が少ないのでね」
「............」
やさしく語りかけてくる痩せた男へ。軽蔑の眼差しを向けながら、アザミは一言も発さずに、ただ、棒のようにその場に動かずに立つ。返事すらしないというのは、普通に考えれば目上の人間に対しては失礼極まりないことだったが、そんなことは全く気にする様子も見せず、富川は尚も笑顔で続ける。
「今日から晴れて君たちは、正式にブルーショルダーの構成員となった。おめでとう」
「「...............」」
「部屋を出てすぐに受付をする場所がある。そこで質問はすべて受け付ける。登録を済ませ、指示を待つといい」
「「..................」」
これで、自分達は犯罪者どもの仲間入りか。これからが楽しみだな。
大声で、嫌味と皮肉たっぷりにそう言いたいのを我慢しながら、アザミとステラは微動だにせず、部屋を去っていく男達の背中をその場からじっと見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すっかり有名人みたいね。私たち」
「...............」
必死だったとはいえ......流石にマズかったか。「溶け込むのに異常な戦闘力を見せつけては警戒されてしまうのでは」、か。面倒なことになるか......。
職員から支給された、右の袖だけが蛍光色の青色で、他は軍服らしい暗い緑色の制服を着たアザミが、同じ服を着てついてくるステラに言われ、周りを見渡し。廊下から見える二階の手すりに寄っ掛かって、こちらを興味深そうに見てくる艦娘たちを確認して、アザミはウツギが言っていた言葉を思い出す。
「じゃあ、私こっちだから」
「...............」
部屋が違うため、廊下の奥に進むステラに軽く手を振って別れてから、アザミは割り当てられた自室に入る。
「.................................」
入った場所からでも見える、これ見よがしに取り付けられた監視カメラが三個、カーテンだけで仕切られたシャワー、鉄格子の嵌まった窓に、薄汚れた教本が三冊だけ入った本棚とこれまた粗末なシングルベッド。
「...............」
何もかもが、自分の予想と違っている。
少ない荷物の詰まったスポーツバッグを床に放り、土足のままベッドに横になりながら、アザミはシミが目立つ灰色の天井に視線を向け、思考に更ける。
ここは鎮守府なんかじゃない。「刑務所」や「収容所」といったほうが正しいんじゃあなかろうか。それに、こう監視されているなら、脱出だけでなくウツギとどう連絡を取るかも考えないと。下手をすれば電波ジャックでこちらの情報を奪取されることも考慮しなければ。
上を向いて考えながら、今この瞬間もあのいけ好かない富川に監視されているという事実に、薄ら寒い物をアザミが感じていたとき。
突然ベッドの下から伸びてきた腕に顔を掴まれ、アザミはベッドから引き摺り下ろされた。
ッ!誰だ......?
見ると、部屋に忍び込んできて自分に襲い掛かってきたのは、演習でこちらを追い掛けてきた三人の一人の磯風だった。そして反撃に移る間もなく、アザミが身を起こした瞬間に今度は嵐と加古に部屋の扉に体を押さえつけられ、磯風に顔と鳩尾に肘を入れられて激しくえずく。
「フンッ!!」
「ッ......!」
しかしアザミも黙っていなかった。
磯風の不意打ちで、三人に自分を気絶したように見せかけると、押さえつけられていた左肩を振り払い、嵐の顎に肘を入れて殴り飛ばす。そしてそのまま前に居た磯風を蹴り飛ばそうとする。が......
「ナメんなぁっ!!」
「...............ぐッ!?」
相手の数が多く、また磯風の不意打ちで体に力が入らないこともあってか、アザミは加古に、廊下の壁に叩きつけられて再度押さえ付けられ。顔を殴られて切った唇から血を流していた嵐に、内蔵が潰れそうな勢いの右ストレートと膝を腹に叩き込まれ、あまりの苦痛に身動きができない状態になってしまう。
「チッ。手間ぁとらせやがって」
「運ぶぞ」
「えーい」
倒れて咳き込むアザミを、両手と足を持って三人が何処かへ運ぼうと歩みを進める。
......来て早々、まさか死ぬことになるのだろうか。
所々が殴られた影響で内出血を起こした顔のアザミが、どこか他人事のように、自分のこれからを考えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「殺しゃあしねぇよ。ただのお喋りさ」
「大事な事を話すときはいっつもここだ。部屋や廊下じゃカメラだらけで筒抜けだからな。覚えておきな」
「...............」
大事なお話、ねえ。......何を聞いてくるのか。
尋問するため、と、ボイラーの点検用通路と思われる場所に連れ込まれたアザミを、三人がニタニタと薄気味悪い笑顔を浮かべながら取り囲む。
そんなならず者の一人。嵐が胸元からバタフライナイフを取り出して素早く刃を出すと、それの先でアザミの頬を撫でながら、彼女へ質問をする。
「名前は?」
「......アザミ」
「前はどこにいた?」
「......第五横須賀鎮守府......第一艦隊...フィフスシエラ.........」
「ほぉ。英雄サンかい。何してここに来た?」
「......答える......必要?」
「聞いてんなぁこっちなんだよ。さっさと答えな」
目の前の嵐の横にいた加古に凄まれ、アザミが顔をしかめる。そんな彼女の、ナイフで薄く切られた頬から血が流れ落ちる。
「......気にくわない奴...殴ってやっタ.........」
「あぁ?その程度かよ」
「もっとやべぇのを待ってたのに、期待はずれだぜ」。そう愚痴を垂れてため息をついて、嵐がナイフを畳んでポケットに仕舞い、磯風が質問の意味について答え始める。
「悪かったな。ここの所長が悪趣味でね」
「所長?」
「ここの司令さ。全員そう呼んでる。運と実力を備えた最強の軍団を作りたいってんで、腕さえよければサイコパスだろうがなんだろうが欲しがるんだ。例えば殺しのプロなんかをな。」
「......自分...殺し屋じゃなイ」
「何やってるの...やめてあげなさいよ」
「ん?」
この声は......?
「お喋り」をしていたアザミが横を向くと、何故か自分と同じように顔にアザを作ったステラが居た。
よろけながら立っていた彼女を見て、三人は舌打ちをすると同時に、ボイラー通路から出ていく。
「なんも。大したことじゃね~よ」
「はん、命の恩人の手当てをしてやんな」
「ッ...あいつら......」
「..................」
へらへらしながら、狭いドアから廊下に出ていく三人を睨んでいる五十鈴姿のステラへ、気になったことをアザミが聞く。
「...なんで...ここニ......?」
「いきなり不意打ち食らってさ。返り討ちにしようかと思ったけど、ぶちのめしたら不自然かと思って」
「怪我ハ」
「治った。能力さまさまだね」
......そう言えば、奴等はここは監視の目が届かないみたいな事を言っていたな。
最後に一つ気になったことを蹴翠提督へアザミが質問する。
「ここ.......カメラ...とか.....無イ...?」
「ん......透視した限りは」
「どうモ」
なるほどな。色々考えるに、ここは使えそうだ。
蹴翠提督へ礼を言い、アザミはスマートフォンの電源を入れた。
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パラオ泊地での生活が始まる。
吸血部隊、返り血部隊などと恐れられる者たちとの共同生活、
そこでアザミとステラは互いにこの場所に探りを入れる。
しかし。その二人へ、富川の目が迫る。
次回「観察」。 その女たちの右肩は、敵の返り血で染まっていた。
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