話の流れが合わないことに気付き、前話の次回予告を書き直しました。
夜中の3時頃。
ツユクサ含めた五人に仕事を任せ、近海警備のローテーションにも入っていなかったため。鎮守府で待機していたウツギは、片腕を無くした状態で連れられてきた雷巡棲鬼の接待をしているところだった。
流石に夜も遅い時間だったので、建物の中は静まり返り、夜間警備の当番以外の殆どの艦娘が眠りに就いていたのだが。ウツギは、治療を終えてからというもの、ずっと俯きがちで、能面のような表情を浮かべていた彼女が心配になり。夜更かしにも慣れていたとあって、個人の時間を割いて世話をしていた所だった。
「...............」
「どうぞ。......食べないと、元気出ませんよ」
「.........いらない」
「じゃあ、せめて汁物だけでも」
「..............................」
そんなに、上司に切られたのが堪えたのか。怪我したところを医務室に運んだ時の響みたいだ......。
そんな事を考えながら。目の前で、のっそりとした動作で、有り合わせで自分が用意したスープを口に含む彼女を、ウツギは眺める。
「.........美味しい」
「それは良かった。まだありま......」
「でも、もういい。ありがとう」
ウツギに表現させれば、なんと言うか、丈夫な紐でも与えれば今にも首をくくって自殺でもしてしまいそうな笑顔を浮かべて、女は皿を自分から遠ざけてそう言う。
............吉と出るか凶と出るか。ちょっと吹っ掛けてみるか。
続かない会話や、食べ物も喉を通らないといった相手に、勝手ながら、少し苛立ちを感じたウツギは、察するに、女が慕っていたと思われる戦艦棲鬼についての話題を振ってみる。
「どれぐらいの付き合いなんですか。戦艦棲鬼さんとは」
「........................」
地雷......踏んじゃったかもナ。答えようとしないか。
だんまりを決め込む相手に、ウツギがそっと食器を下げようとしたその時。重い口を開いて、雷巡棲鬼は話を始める。
「............人で言う同期だ。上司と部下とじゃなく、友人として付き合いがあった」
「...ん...............なるほど」
「あいつが旗揚げしたときからずっと一緒に居たよ。でもとんだカン違いだった。友達だと、思ってたのは俺だけだったみたいだ......」
「私と同じね。貴女も」
不意に聞こえてきた声の方向へ、ウツギと雷巡棲鬼は顔を向ける。そこには、壁に寄りかかって此方に目線を飛ばす加賀が居た。
よくこんな遅くまで起きてたな。そう思ったウツギは、彼女に聞く。
「夜勤じゃないのに起きてたんだ」
「ええ。あいつへの秘密兵器の調整で。終わったから部屋に戻ろうと思ったら、何か話していたから」
「............俺を笑いに来たか空母棲姫」
「覚えていてくれたのね。嬉しいわ......そうよ、って言ったら?」
「............殺すぞ、とでも言われたかったか。残念だったな。そんな事をいちいち言っているほど今は心に余裕がない......いや、まぁ今言ったケド」
本人的にはおちゃらけたつもりのようだが、生命力の抜けきったそんな顔で言われたら、こちらは返す言葉に詰まる。
そう言いたくなるのをぐっと飲み込んで、ウツギは気になった事を続けて加賀に聞く。
「秘密兵器とは?」
「あいつを殺すのに用意した物があるの。私用の戦艦の艤装よ」
「.........戦艦の?」
「ええ。私の姫級の鉄屑を解体して作ったって。それで私がやるの」
姫級の艤装ね。確かにあれに積まれている動力はかなり性能がいい物だとは聞いていたけれど。作り替える技術まで出来てたとは。科学ってすごいな。
加賀の返事に、適当にそんな事を考えてぼうっとしていると。雷巡棲鬼が、先程の哀しみに満ち溢れた顔面を、何かを決意したような表情に切り換えて加賀へと口を開く。
「ひとつ、頼まれてくれないか」
「なにを?」
「............あのお方に......あいつに聞いてほしいんだ。俺を切った理由を。」
「もう知っているんじゃないの。」
「本人の口から聞きたいんだ」
「.........いいわ。でも、本当にいいのかしら。どうせ録な理由なんてないわ」
「それでもいい。あいつが本当に言ったことならいいんだ」
涙で潤んでいるようにも見える瞳でじっと見詰められ、思わず加賀は女から目を反らしながら返答する。
......これだけしつこいって事は、仲が良かったんだろうな。.........自分がもし、漣や天龍から撃たれたらどうなるんだろうか。想像を絶するほど苦しくて悲しいかな。それとも何も思わないかな。今一想像できない。
目の前の女の立場に、自分が立つことになったら、とそんな事を考えながら。ウツギは彼女が残した食べ物を口に含んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「重巡棲姫、仕事、失敗した。もう...人に抵抗なんてやめるべき」
「また言うのか。これで何度目だ港湾」
某所、同日の同時刻。
部下の港湾棲姫からの報告と、それを聞いて声を荒げる中間棲姫を見て、戦艦棲鬼は小さなため息をついた。
人間との徹底交戦を掲げてからというもの、何かと付けて降伏を進めてくる目の前の港湾と、それを叱る中間のいさかいを止めるのが面倒だったのだ。
「いい、中間棲姫。すこし下がってくれ」
「了解......ふん、腰抜けが......」
首から延びている
「やめる訳にはいかないさ。私たちは戦艦水鬼の悲願を達成せねば」
「そうやって言って、みんな死んじゃった。もっと殺すの」
「耳が痛いな。でも今更降伏したところでもう遅い。人の戦国時代みたいに「なぜもっと早く降らなかった」とか言われて皆殺しにされるぞ」
「.....................」
戦艦棲鬼の言葉に、女は大きな手で自分の額から生えている角を弄りながら、納得がいかないような表情になる。が、戦艦棲鬼は気にせず話題を切り替えた。
「仕事の話をしようか。これからの動きだ」
「取ったばかりの基地は壊された。とりあえずは、リークしたこちらの居場所から少し後退するような動きをわざとらしく相手に見せつけるか。それで追撃が来そうなら、様子を見て全隊で突っ込む」
「無謀」
「地の利......いや海の利がこちらにつく点がいくつかある。そこで奇襲すれば上手くいくさ。数じゃこっちが圧倒的に不利だし、局地的に勝つしかない」
「本当にやる気。それこそ間違いなくみんな死ぬ」
「なに。まだ策はあるさ。それに万一、こちらが勝つのが絶望的になれば、せめて味方の利にはなるように仕向ける手段も取ってある」
「教えてくれないんでしょ」
「ははは。また聞かれたくないとこを。情報漏洩はまず......」
「いつもそう。何か考えてるフリしてなんにも教えてくれない。雷巡棲鬼で釣りをやった事も後で言った」
「...............」
雷巡棲鬼ごと艦娘たちを抹殺しようとした作戦を「釣り」と表現して批判する相手に。戦艦棲鬼は眉間にシワを寄せる。数秒の間を挟んでから、戦艦棲鬼は椅子から立ち上がり、部屋を出ようと足を動かす。
「夜風に当たってくる」
「勝手にしろ」
「おう。勝手にさせてもらうよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
港湾と話をした部屋を出て数分後。戦艦棲鬼は基地の港に着くと、艤装の点検や、強奪して根拠地にしていた、この基地の設備を調べていた工兵係の深海棲艦に話し掛けた。
「こんばんは。ちょっと聞いていいかな?」
「あっ、戦艦棲鬼殿。こんな夜分に、何のご用件でしょうか?」
「今から作戦に使う海域の偵察がしたい。分取り品の中に使える船が無いか?」
「また行く気ですか? 何度も言いますが流石にあなた一人では危険です」
「だからこんな夜遅くに出るんだよ。いい子がお寝んねしてるうちにじゃないと悪巧みなんてできん.........で、無いのか?」
「............はぁ。あちらに、先程整備を兼ねて熱を入れた物が有ります」
「ありがとう。君のような物分かりのいい奴は好きだ。.........毎回言っているが、一日経って私が戻らなかったら中間に言っておけ」
「了解です」
「間違っても「許可したのは私です」、なんて言うなよ。死にたくなかったら「勝手に船使って抜け出した」とでも言って」
「わかってますよ。全く.........」
工兵と笑顔でそんなやり取りを交わしてから。戦艦棲鬼は早歩きでそそくさと高速艇の止まっている場所に向かう。船に乗り込むと同時に、彼女の顔からは笑顔は消えた。
............。くそ。体の震えが止まらん......。これから死にに行くのがそんなに怖いのか戦艦棲鬼。.........情けねぇ。何日も、何ヵ月も、何年も前に決めてた事なのにな。
「............許せ。雷巡。中間。港湾。後は誰よりも強くて優しいお前たちに任せる。」
そう呟いてから。戦艦棲鬼は、事前に火が入れられていた船に、自分の装備類を詰め込み、ひっそりと基地を出ていく。
彼女が船を使ってこれからやりにいく事。それは偵察などでは無かったが、既に、以前何度かは船を使うことを許可したことのあった工兵は、そんなことは知るはずもなかった。
彼女がこれからやりにいく本当の行動は、
一人で海軍と戦いに行くことだった。
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犯行予告と共に、夜の海にただ一人現れた戦艦棲鬼。
圧倒的な数の不利をものともしない彼女へ、加賀が接近する。
部下を駒として使ってきた女に真意を問う加賀。
返された言葉は......。
次回、「高価な命」。 みんなの為に、この身を捧ぐ。
今回初めて敵視点を入れてみました。
なんで戦艦棲鬼は自殺に等しい行動を起こしたのでしょうか。
それは次回をお待ちください。