仮面ライダーディスティニー   作:茜丸

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 あけましておめでとうございます。新年初の更新を楽しんで頂けたら光栄です。


2.決戦の日

 

『……ついに、この日がやって来た。この放送を聞く多くの仲間たちよ、どうか少しの間だけ俺の話に耳を傾けてくれ』

 

 天空橋に協力して貰い、ゲームギアを通じて日本中の高校生たちに語り掛ける光牙は、神妙な表情を浮かべて言葉を紡いでいる。人の上に立つ者としての風格を纏う彼は、一つ一つの言葉をはっきりと口にしながら演説を進めた。

 

『俺たちはかつて大罪魔王ガグマと戦い、その強さの前に敗北を喫した。ソサエティ攻略の最前線を担う虹彩学園と薔薇園学園の敗北のニュースは、皆の記憶にも新しいだろう。だが……俺たちは、手痛い損害を負いながらも諦めはしなかった。まだ完全とは言い難いが、それでもこうやってまた戦えるだけの力を得られたことはその不屈の精神が生み出した産物だと思っている』

 

 三校同盟による戦力の補強、及びそれを元にした更なる強化……戦国学園を同盟関係に加えた虹彩と薔薇園の両校は、再びかつての力を取り戻そうとしていた。

 威厳を取り戻し、ソサエティ攻略の絶対的主導校としての地位を確立し、その虹彩学園のリーダーを務める光牙は、己の持つカリスマを活かして全国の生徒に語り掛ける。

 

『……皆も聞いているだろう、今日、この日……俺たちがかつて敗れた大罪魔王ガグマが、同じ魔王であるエックスと共に現実世界に攻撃を仕掛けて来る。奴らの侵略は、とうとうここまでやって来てしまったんだ』

 

 光牙が拳を握り締め、カメラを真っすぐに見ながらそれを振りかざす。強い意志を湛えた瞳を光らせた彼は、演説の口調を強く、大きなものにして叫ぶ様にして語った。

 

『俺たちは負ける訳にはいかない! ここで俺たちが負ければ、世界は魔王たちの手に堕ちてしまうだろう! それだけは絶対に阻止しなくてはならない! この世界を守る為に……!』

 

 力強い口調で戦いへの意気込みを口にした光牙は一度そこで言葉を切ると、深く息を吸ってから再びカメラへと視線を向ける。そして、この演説を聞いている多くの生徒たちの心を射抜く様にして、最後の言葉を口にした。

 

『……この戦いは、世界の命運を決する戦いだ……! 敵がどう攻めて来るかもわからない、戦力も把握しきれてはいない。だが、俺たちが協力すれば必ず勝てる! 総員、最後の最後まで諦めるな! 世界の光を守る為、限界を超えて戦うんだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パルマを通じてのガグマの宣戦布告から一週間……現実世界は、とうとう開戦の日を迎えてしまった。

 無論、その間にも様々な動きがあり、魔王たちの侵略行為への対策は十分に練られていた訳ではあるが、それでも戦力の全てを把握しきれていない魔王たちに対して、完璧な防御態勢が敷かれているとは誰も確信出来てはいない。

 何処を、どうやって、どのように攻めて来るのか? 誰も、何も知らないのだ。分かっている事と言えば、敵は想像もつかない程に強大だと言う事くらいだろう。

 だが、それでも、勇たちは逃げ出す訳にはいかなかった。自分たちの戦いが文字通り世界の運命を握っているのだから。

 

 勇からの報告を受けた学園側は、すぐにこの情報を日本全国のソサエティ攻略校に拡散し、協力体制を整えた。一時的ながらも、魔王と言う強大な敵を前にして協力しようと決めた訳である。

 果たして、その目論見は上手く行ったが……それでも、敵の作戦が分かっていない以上は不安は残る。だが、全国の生徒たちも士気を高めて今日と言う決戦の日を迎えようとしていた。

 それに加え、実質的に日本の学生たちの頂点に立つ光牙の激励の演説である。決戦を前にして、生徒たちの士気は最大級に高まった。後は、この戦いを乗り切るだけだ。

 

 生徒たちは皆、自分の持ち場に就いて戦いの時を待ち続けている。指揮を執る立場にある者は慌ただしく動いているものの、戦いが始まればもっと大変な事になると考えればこの程度は訳無かった。

 全国から情報を集め、異変を察知したら即座に動く……特に、最大戦力となるであろう仮面ライダーたちは、何処で戦いが起きても駆けつけられる様に各地に分かれて出撃体制を整えている。

 そんな仮面ライダーたちの待機場所の一つである虹彩学園では、勇がたった一人でどんよりと曇る空を見上げていた。

 

「何してるんですか、勇さん」

 

「……ああ、マリアか」

 

 そんな勇の背後から近づいたマリアは小首を傾げながら彼に問いかけてその横に並んだ。放送の為に虹彩学園を離れている光牙たちが居ない為、珍しい事にこの場には二人だけだ。

 決戦を前にしている緊張感が学園を包む中、マリアは自分の緊張を解きほぐすかの様にして勇に話を振った。

 

「勇さんは怖く無いんですか? 光牙さんや謙哉さんも居なくて、今はお一人じゃないですし……」

 

「何言ってんだよ、マリアたちが居るだろ? 俺は一人じゃ無いさ。それに、バラバラでも戦う目的は皆一緒だ。皆と一つになれてるから、俺は怖くなんかねえよ」

 

「そう、ですか……」

 

 ドライバーのホルスターに入っているカードのチェックを行う勇は、マリアに視線を向けぬままそう答えた。決して彼女を蔑ろにしている訳では無いが、それ以上にやらねばならぬことがあるのだ。

 そんな勇の事を見つめるマリアは、少し目を伏せて言葉を区切った。次の言葉を紡げないでいる彼女は、口をもごもごとしたまま黙っていたが……。

 

「……一緒に戦えない事を気にする必要は無いんだぞ。お前が置かれてる状況を考えれば、それは当然なんだからな」

 

「……でも、やっぱり心苦しいです。皆さんのお力になれないなんて……」

 

 父親との約束がある為、今回の決戦に参加出来ないマリアは悔しそうな表情を浮かべて呟く。勇は、そんな彼女の事を優しく励ましながら笑顔を見せた。

 

「記憶を失ったままのお前に無理はさせらんねぇよ。……もう一度、万が一の事が有ったら、今度は命が助かる保証も無いからな」

 

「……だからですよ。また、櫂さんみたいに誰かが犠牲になったらって考えると怖いんです……!」

 

「マリア……」

 

 カタカタと体を震わせるマリアは、瞳に浮かべた涙を手の甲で拭う。堰を切った様に溢れる心の中の思いを言葉として紡ぎつつ、彼女は己の本心を吐露した。

 

「また、誰かがゲームオーバーになったら……誰かが居なくなったらって考えると、凄く怖いんです。勇さんや光牙さん、ディーヴァのお三方が消えたりしたらどうしようって……そんな時、私は何も出来ないんだって考えると、凄く怖くて、情けなくて……」

 

 誰かを思い、心配するが故の恐怖を抱くマリアは、肩を震わせながら涙を流し続けている。そんな彼女を見た勇はマリアに向けて手を伸ばすも、空中でその動きがピタリと止まった。

 果たして、無責任な言葉を彼女にかけて良いのだろうか? 確証の無い、あやふやな言葉でマリアを励ましても良いのだろうか? 僅かに抱いた疑念が勇の動きを止め、彼に迷いを抱かせる。

 しかし……目の前で涙にくれるマリアを放って置くことなど、勇には出来なかった。抱いた疑念を振り払い、顔に笑みを浮かべ、勇はマリアの肩を力強く叩くと言った。

 

「大丈夫だって! 誰も居なくなったりなんかしねえよ! 俺たちは、皆無事に帰って来るからさ!」

 

「本当、ですか……?」

 

「ああ! ……約束するよ、絶対に帰って来る。誰一人欠けずにな」

 

 笑顔を見せた勇は、右手の小指を立てるとマリアの眼前へとそれを差し出した。先ほどの言葉を耳にしたマリアは勇のその行動の意図を悟り、自分もまた右手の小指を立てて勇の小指と絡ませる。

 

「指きり、な? 約束だ、皆で帰って来るから」

 

「……はい!」

 

 ようやっと笑顔を取り戻したマリアを見た勇は、自分の行動が間違っていなかったと確信しつつ彼女に笑顔を返す。たとえ不確かな約束だとしても、死ぬ気で現実にしてしまえば良いのだ。

 そうとも、自分たちは誰一人として欠けるつもりは無い。どんなに苦しい戦いだとしても、一人の犠牲も出さずに勝ってみせるのだ。

 

(必ず、生きて帰るんだ。もう、あんな思いをするつもりは無い!)

 

 マリアに見えぬ様、拳をぐっと握り締めた勇は、固い決意を抱くと共に戦いへの思いを更に強めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立派な演説だったわよ、光牙。皆の士気も上がったと思うわ」

 

「ああ……だが、まだ戦いは始まってもいないんだ。気を引き締めていかないと」

 

「そうね」

 

 各校の生徒たちへの演説放送を終えた光牙は、真美と共に現状の把握に注力していた。未だ敵の動きは見えないが、それがかえって不気味に思えてしょうがない。

 だが、今の光牙はそれと同じ位に自分の隣に居る真美の事が不気味に思えていた。一体なぜ、彼女は自分にここまで尽くしてくれるのだろうか?

 

 彼女は光牙の秘密を知っている。マリアを襲い、彼女の記憶喪失に陥らせたのは紛れもなく光牙なのだ。

 そんな光牙のことを、真美は必死に支えてくれている。ある種、狂信的とも言えるその奉仕は、それを受ける光牙にとっても困惑する程のものであった。

 

「……大丈夫よ、光牙。あなたは勇者になる人間だから……だから、この戦いにも必ず勝てるわ」

 

「……ああ」

 

 正直、今の真美が何を考えているかは分からない。だが、彼女の献身は本物だ。それを理解しているからこそ、光牙は彼女を傍に置き続けている。

 ……自分の弱みを握っている存在を目の当たる場所に置いておきたいと言う面もあるにはあるのだが。

 

(……いけないな、今はそれを忘れよう。ガグマたちとの戦いに集中しなくては……)

 

 心の中の不安を打ち消し、目の前にまで迫った戦いに集中し始めた光牙は、懐にしまってあるギアドライバーへと視線を向ける。自分を勇者へと導くそれを見つめ、軽く頷いた時だった。

 

「光牙さん! 建物の正面玄関に敵が!」

 

 勢い良く扉が開き、血相を変えた一人の生徒が飛び込んで来た。敵の出現を伝える彼の言葉に椅子から跳び上がる様にして立ち上がった光牙は、建物の正面玄関へと一気に駆け出す。

 そして……そこに居た見知った顔の敵を視界に捉え、彼に対して静かに語り掛けた。

 

「櫂……!」

 

「……ずいぶんと余裕があるじゃねえか。あんな放送して、居場所を教えるなんてよ」

 

 放送の発信源を辿って建物に現れた憤怒の魔人は、光牙に鋭い視線を向けながらそう吐き捨てた。光牙は、全身から威圧感を放つ櫂に負けぬ様に拳を強く握りしめて叫ぶ様にして叫び返した。

 

「櫂……! お前が本当に敵になってしまったと言うのなら、それを止めるのは俺たちの役目だ! ここで……お前を倒すっ!」

 

 そう言い切った光牙の周囲をA組の生徒たちが取り囲む。櫂の事を知り、かつての仲間の凶行を止めるべく戦いに臨まんとする生徒たちの顔を見た櫂は、飽き飽きとした表情を浮かべて呟いた。

 

「雑魚が……お前たちに何が出来る? 昔っからそうだ、お前たちは俺や光牙が居なきゃ何も出来なかっただろうが」

 

「今の俺たちはお前の知ってる俺たちじゃない。お前を止める為に、必死に訓練を重ねて来た!」

 

「なら……その成果を見せてみろよ! やれるって言うのなら、俺を止めてみやがれってんだ!」

 

 空気を震わせる程の叫びを上げた櫂がギアドライバーを構える。光牙も懐からドライバーを取り出すと、腰に構えてホルスターからカードを取り出す。

 睨み合う両者は、自分たちを見つめる生徒たちの視線を受けながらカードを掴んだ手を動かし、同時に叫んだ。

 

「「変身っっ!!!」」

 

<ブレイバー! ユー アー 主人公!>

 

<アグニ! 業炎! 業炎! GO END!>

 

 眩い光が光牙を包み、燃え盛る火炎が櫂の周囲に渦巻く。それらが消え去った瞬間、それぞれの鎧を身に纏った戦士たちが姿を現しながら対面する敵へと向かって駆け出して行く。

 

「櫂ーーっっ!!」

 

「光牙ぁぁっっ!!」

 

 剣と斧がぶつかり合う衝撃音とお互いの叫び声を響かせ、級友たちは激しい戦いの中へと飛び込んで行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来たか」

 

 エネミー部隊を率い、現実世界を攻撃していた魔人柱『怠惰のパルマ』は、一つの気配を感じて小さく呟いた。既に自分の指揮する部隊は作戦行動に移り、自分はただ一人でこの場で立ち尽くしている。

 いや、ただ立っていた訳では無く、正確には()()()()()と言う方が正しいだろう。彼が感じた気配は、その待ち人の物だった。

 

「待ち侘びたよ……ようやく、お前と決着をつけられる!」

 

「……変身」

 

<ナイト! GO! ファイト! GO! ナイト!>

 

 宿敵の言葉に反応を返す事無く身に着けたドライバーにカードを通した謙哉は、青い騎士の姿へと変身してパルマを見つめた。パルマもまた、自分の倒すべき敵の事を真っすぐに見つめている。

 今日、ここに至るまで、自分たちは何度もぶつかって来た。火花を散らし、誇りをかけ、激しい戦いを繰り広げて来た。だが、それも今日までの話だ。

 

「……終わりにしようか、僕たちの腐れ縁って奴をさ」

 

「ああ……お前を倒して、世界に平和を取り戻す! その為に、僕は……!」

 

 その拳を振るう為、謙哉は掌を硬く握る。魔術を行使する為、パルマは軽く手を開く。

 両者反対の行動を行いながらも、その行動はどちらも戦いに臨む為のものだった。一拍の間が空いた後、二人は同時に互いの名を叫びながら駆け出す。

 

「パルマぁぁぁぁっっ!!」

 

「イージスぅぅぅっっ!!」

 

 世界の運命をかけた戦争の中、青の騎士と怠惰の魔人柱は己の誇りを賭けた決戦に挑む。今、この瞬間、目の前に居る宿敵に勝つべく、二人の戦士は全力を以って戦いに臨むのであった。

 




 今年も仮面ライダーディスティニーを宜しくお願い致します!

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