アル「お前は、本気で他人を殺してやろうと考えた事、そしてホントに殺した事はあるか?」
アルベルトからの質問に、一夏は驚いてしまった。
自分が聞きたかった答えとは全く違う答えが帰ってきたからだ。
一夏「それは・・・、あるわけ無いじゃないですか。確かに、ムカつく事や嫌な人なんかもいたけど、さすがに実行した事は。」
アル「それだ。その感覚が、お前の知りたかった答えだ。」
一夏はアルベルトの言いたい事が、余計わからなくなってしまった。
アル「まぁ、分かりやすく噛み砕いて説明するとな・・・、ここにいる連中は他人を殺す事に躊躇いや罪悪感はあるかもしんねぇが、そんな連中ばかりだ。
おい一夏、人殺しは悪い事だと思うか?」
一夏「そんなの、当たり前じゃないですか!人として駄目ですし、法律で罰せられる事ですよ。」
アル「それがお前達の世界の常識だ。だが、俺達の世界は違う。俺達はお前達の常識から離れた場所で生きている。故にそんな法律だの、人としてだの、そんな一般的な考えでは動いていない。」
一夏「だからって!じゃあ、どうして人を殺せるんですか!」
一夏は大声を出して、興奮を隠せないでいた。
周りからの視線を気にせず、身を乗り出しながらアルベルトに聞いた。
アル「それでしか、それでしか自分の大切な存在を護れないからだ。裏社会では周りが全て敵だと言っても過言ではない。玄関をでたら友達が、家族が、妻が殺られる事も日常だ。
だから護るためには、権力的にも影響力的にも大きくならなければならない。だからどんな汚れ仕事でも引き受けなければ、裏社会では生きていけないんだよ。」
一夏はショックだった。
自分が憧れ、カッコいいとまで思った男の言葉が現実に起きている。
それを知らずに、自分達は生活している。
その事実が一夏には、受け入れられなかった。
一夏「じゃ、じゃあアルさんも汚れ仕事として人を・・・、人を殺めた事があるんですか!」
後悔していた。
帰ってくる答えは分かっていたのに、どうしても自分が聞きたい回答がくるのを、期待していたのだ。
アル「俺の会社は、裏社会トップの会社だぞ?ここにいる連中のスコアあわせても、何倍、何十倍にしても釣りが出るのは確かだ。
だが、その結果で幸太郎や今のお前らを護れているその事実なんだ。全てを受け入れろとは言わん。だが、自分が生きている社会はそんな現実に支えられている事は理解しておけ。」
一夏「罪悪感や後悔は無いんですか」
アル「無いことは無いんだが、俺を慕ってる社員や家族を護るためには必要な事なんだよ。さて、そろそろ迎えの車が来てるはずだ。
おいマスター、釣りはいらねぇ。」
アルベルトは机にお金を置き、席を立った。
~~~店の外~~~
アル「そうだ、この質問を松陽さんにはしない方が良いぞ。あの人の感覚は、裏社会よりも狂ってるからな。」
アルベルトの意味深な言葉は、一夏には分からなかった。
だが、聞いては駄目な事だと言うことは理解できた。
一夏「そう言えばアルさん、貴方は仕事以外で人を殺めた事はあるんですか。」
一夏がそう聞くと、アルベルトはフッと笑いながら振り向いた。
アル「お前はどっちだと思う?まぁ、答えが知りたければIS学園に帰って教えてやるよ。」
そう言って二人は、車に乗り込んだ。
仕方がないの言えば、仕方がないのでしょうか?
やはり裏社会の事は私達には、違う世界なのかも知れませんね。
アルベルトが言った、松陽が狂ってる訳とはどういう意味なのでしょう。